ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
66/78

連 載|超有識者場外ヒアリング▶神田参事官(以下、神田) 本日はご多忙にもかかわらず、お時間を頂き、誠に有難うございます。梶田先生には、先日も、柏キャンパスで宇宙線研究所等について拝聴させて頂きましたが、今回は、幅広い読者に対し、宇宙物理学から科学一般まで、様々なお話を御共有頂ければ幸いです。科学者のあるべき姿勢▶神田 まずは科学者の姿勢についてですが、御高著『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』でも、理論と実験のフィードバックループのダイナミズムと共に、実験の役割に対する先生の誇りと責任感、緊張感に感銘を受けました。科学というものは、その時々のパラダイムに整合性のある論理で世界像を構築しておきながら、実は重要なところが欠缺していたり、新たな事象に対応できなくなり、時には同世代人の殆どが理解できない乱暴な仮説を導入し、これが緻密な実験による検証を経て、パラダイム自身が進化していくと感じます。学界においては、ともすれば、教育よりも研究、あるいは実験よりも理論、というような雰囲気があるといわれますが、先生は理論と実験の相互作用のダイナミズムを非常に大事にされており、先生のノーベル賞受賞においては、この理論と実験の相互作用のダイナミズムの中で、勇敢でありながら我慢強く地道な実験が正当な評価を獲得したことに喝采しました。まず、先生が実験を選ばれた理由について教えてください。また、実験の世界からすれば凡そ実現可能性の低い理論が先行したり、あるいはその逆の事態が生じたりと、理論と実験は時に乖離してしまうこともあるかと思いますが、理論と実験の相互作用を機能させるためにどのような学界での工夫が必要でしょうか。▷梶田所長(以下、梶田) まず実験を選んだ理由について、これは大学院に進学する際に決める梶田 隆章先生(写真右)1959年、埼玉県生まれ。東京大学理学部附属素粒子物理国際研究センター助手、東京大学宇宙線研究所助手、助教授、教授を経て現職。岐阜県飛騨市の神岡鉱山の地下に設置された実験装置「カミオカンデ」と「スーパーカミオカンデ」を使った実験に参加。「ニュートリノ質量の存在を示すニュートリノ振動の発見」により2015年にノーベル物理学賞を受賞。1999年に仁科記念賞、2010年に戸塚洋二賞、2012年に日本学士院賞、2015年に文化勲章、文化功労者を受賞。現在は、大型低温重力波望遠鏡KAGRAのリーダーも務める。2017年3月、東京大学に新設された卓越教授の称号を授与される。神田 眞人 Kanda Masato 金融庁参事官東京大学法学部卒業、オックスフォード大学経済学修士(M.Phil)。世界銀行審議役、財務省主計局主査(運輸、郵政担当を歴任)、国際局為替市場課補佐、大臣官房秘書課企画官、世界銀行理事代理、主計局給与共済課長、主計官(文部科学、経済産業、環境、司法・警察、財務担当を歴任)、国際局開発政策課長、同総務課長等を経て現職。OECDコーポレートガバナンス委員会議長等を兼務。主著に「国際金融のフロンティア」、「超有識者達の洞察と視座」、「強い文教、強い科学技術に向けて」、「世界銀行超活用法序説」等。東京大学宇宙線研究所 所長(ノーベル物理学賞)Kajita Takaaki62ファイナンス 2017.4超有識者 場外ヒアリング科学技術編61

元のページ  ../index.html#66

このブックを見る