ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
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報の習得がイノベーションに結びつく。例えば、各国の主要企業のサプライチェーンネットワーク可視化すると(図表6)、アメリカやイギリス、ドイツの企業はつながりが強いことを示す中心に位置しているが、日本は韓国や中国の企業と若干交じるくらいで周辺にいる。さらに、世界の企業の資本所有ネットワーク(図表7)、特許を介した共同研究ネットワーク(図表8)を分析しても、国内で密なつながりは持っているが、世界の企業と十分につながれていない。企業が効率的に知識を吸収してイノベーションを起こしていくためには、日本企業は系列に代表される国内の強い絆に加え、海外企業という「よそ者」との多様なつながり(サプライチェーンの国際化、M&Aや共同研究等)を構築するための投資が必要である。7インバウンド需要を創出するためには、観光(誘客)・食(の開発)・モノ(に対する消費)を一体的に向上させるような投資が重要〔宮崎俊哉委員〕訪日外国人客(インバウンド客)の急速な伸びをさらに加速させ、インバウンド市場をより顕在化し、地域で効果的に経済効果を得るためには、消費の受け皿である観光産業の強化(観光の産業化)が必要である。観光産業におけるインバウンド対応投資は、いわゆる有形固定資産の設備投資にとどまらず、マーケティング等を担う専門人材の育成・確保といった人的投資や観光産業での労働の価値(社会的ステイタス)を向上させる労働環境改善といった組織投資など、産業構造を変えるためのソフトを含む中長期的な視点で行うことが重要である。さらにインバウンド需要を創出するためには、観光(誘客)・食(の開発)・モノ(に対する消費)を一体的に向上させるような投資が重要である。インバウンド(消費)だけにとどまらず、アウトバウンド(輸出)と一体のものと捉えて地域単位で幅広い業種が参画すれば、地域へのインバウンド需要の還元が拡大する(図表9)。そのためには、司令塔を立て、事業者間の連携を進め、必要となる人材を育てるとともに、地域の食やモノの開発に向けた投資が必要となる。以上、研究会委員からの報告内容の概要を紹介した。研究会の報告書は、財務総研のHPに全文が掲載されており、各委員の論文のほか、今回紹介できなかった講演録なども含まれている。本報告書には日本経済が拡大していくための今後の投資戦略が盛り込まれている。是非、一読いただきたい。HP:http://www.mof.go.jp/pri/research/conference/investment.htmHPキーワード検索:「財務総研、企業の投資戦略、研究会」本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。図表8 世界企業の共同研究ネットワーク(2011-13年)世界企業の共同研究ネットワーク(2011-13年)(出所)戸堂(2017)、元のデータはビューロ・バン・ダイク社のOrbisによる。図表9 インバウンドとアウトバウンドを一体で対応出所)宮崎委員作成。インバウンド[体験・ショーケース]=アウトバウンド[越境EC]“三位一体” 観光・食・モノブランドインバウンド[消費]=アウトバウンド[輸出]ドイツ(2000社)58ファイナンス 2017.4「企業の投資戦略研究会-イノベーションに向けて-」研究成果の報告 SPOT

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