ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
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品を明確に念頭においた上で大規模な投資が必要である。これらを含めた一つの考え方として、「眼のある機械」の頭脳の部分に該当する「学習ずみのモデル」にハードウェアをあわせて出荷する設備を備えた「学習工場」を提案する。学習工場では最終製品に応じた頭脳を生産するミッションを担う。投資の大半は人材への投資だが、これを設備投資の一種ととらえて優秀な人材を雇用する。こうした学習工場への投資を工場建設規模で行えば、諸外国におけるイノベーションと太刀打ちすることも十分可能だろう。4企業のパフォーマンスを改善させる情報通信技術(ICT)投資と補完的な人的・組織投資を中小企業も進めるべき〔金榮愨委員〕近年の研究成果から、経済成長における無形資産の役割が注目されている。1990年以降、経済の付加価値を生み出す資産は有形から無形(ICT、研究開発、人的資本等)に変わったが、日本は米国と比べるといまだに有形資産投資の方が無形資産投資の2倍となっている上に(図表4)、日本の無形資産投資は研究開発に偏っている。ICT投資は企業のパフォーマンスを改善させるにも関わらず、企業は2000年代以降、ICTコストを減らしている。その背景には、ICTサービスが割高であることや、ICTに伴う補完的な投資(人的資本や組織資本)が必要であること、ICTに対する理解が不足していることなどが考えられる。その結果、ICTを活用するのは大企業が中心となり、中小規模企業の割合が大きい日本でICT投資が遅れている状況となっている。日本企業、特に中小企業がICTを含む無形資産投資をさらに促進させていくためには、ICTベンダーの育成や専門家の供給増加、人的資本や組織資本への投資促進などで、投資を阻害する要因を解決していかなければならない。5新規開業企業のイノベーションを促進するためには、ネットワーク形成やコンサルティング等の「ソフトな支援」が特に有効〔岡室博之委員〕企業の新規開業は、競争を活発にし、雇用を生み出し、地域を活性化し、イノベーションと経済成長をもたらすものとして期待を集めている。しかし日本は、新規開業率が4%台と長期的に低迷しており、欧米諸国は日本の2~3倍以上もある現状からみると、起業活動の促進は日本の課題となっている(図表5)。日本の起業希望者は国際的にも低い水準であることに加え、日本はそもそも起業を希望する人が少ない。長期的な視点から、起業をより魅力的かつ実現可能なキャリアの選択肢とする努力が必要である。さらに、新規開業企業を含む中小企業の研究開発活動をみると、日本は諸外国と比べ相対的に低調である。新規開業企業の研究開発においては、創業者の人的資本が最も重要である。新規開業企業のイノベーションを促進するためには、産学官連携を含む共同研究開発への取り組みが重要であり、それに的をしぼった政策支援が効果的である。共同研究開発への補助金等の「ハードな支援」よりも、ネットワーク形成やコンサルティング等の「ソフトな支援」が特に有効である。図表4 日米の有形・無形資産投資/GDP〈日本〉19850%2%4%6%8%10%12%14%16%19901995200020052010有形資産投資無形資産投資〈米国〉19801985199019952000無形資産投資有形資産投資8%9%10%11%12%13%14%15%16%17%18%(出所)Fukao et al.(2009), JIP2015を基に金委員作成。56ファイナンス 2017.4SPOT

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