ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
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業とは無縁の業界にいた企業が参入する可能性を踏まえると、他産業企業の買収や他産業との連携・提携といった、方向転換や産業の枠を超えた投資を行う重要性が高まっている。現在はオープンに使える技術やシステム等のインフラが多く存在している。ITやAIは新しいインフラの構築を発展させるエンジンであり、経済全体への波及効果が高いため、わが国はこの分野に注力をしていくべきである。国内でも優れたインフラへの投資を高め、それを利用する新規ビジネスを増やしていくことが肝要である。今後、幅広い産業に役立つサービスを安価に提供し、幅広い企業を引き付けて、別のところで大きな収益を上げるビジネスモデルの展開が考えられる。例えば、既存の大企業が専門的なインフラを提供し、コアの強みをオープン化しつつ、コスト回収することが現実的に考えられるだろう。近年、インフラを活用して急成長を遂げている企業があるが、かつてITバブルの頃と様相が違うのは、ネット上のビジネスだけではなく、製造現場等、現実の経済活動に大きな影響と成長をもたらしている点である。ITの革新により、企業を立ち上げるためのセットアップコストが劇的に少なくなり、イノベーションを巡る構造が大きく変化した。アイディアを具体化し、イノベーションを引き起こすことが今までよりもはるかに容易になってきている。特に、①クラウド・コンピューティングによりセットアップコストが低下したこと、②クラウド・ソーシング、クラウド・ワーキングにより人材・生産設備を抱える必要性がなくなったこと、③クラウド・ファンディング等、多様な資金調達が容易になったこと、④ネットを通じて国際市場を意識し販路を急速に拡大できること、といった「イノベーションインフラ」が今後イノベーションを促進し、生産性を飛躍的に上昇させていく。「イノベーションインフラ」の充実により、新規参入が容易になるばかりでなく、環境の変化に応じた方針の転換が柔軟にでき、退出も比較的容易であり、規模の拡大縮小も可能となる。イノベーションインフラを充実させれば、天才的な経営者がいなくとも業績を急拡大させる大きなチャンスがある。新しい急成長企業の中には、イノベーションインフラを充実させ、改善に役立つ製品やサービスを提供する企業がかなり存在し、それをビジネスの柱に位置付けている。経済に与える本質的な影響を考えると、企業のサービスがイノベーションインフラを改善し、結果として多くの優れた企業を生み出すことができるということは、インパクトが大きく重要である。起業する際のセットアップコストの低下や、退出コストや方向転換コストの低下は、多様なやる気のある人材が起業や開発に集まることを可能にしている。また、成功した起業家が、メンターとしてアドバイスをしたり起業家同士を結び付ける役割を果たしている。こうした人材ネットワークの形成は日本ではまだ手薄であり、急成長企業を創出する上で検討すべき重要なポイントである。日本でプラスの波及効果が高いイノベーションインフラを整えることは、日本で意義のあるスタートアップを増やし、急成長企業を創出する上で重要である。今後は、労働市場改革を断行し、本来大きなチャンスがあるはずの分野に多様な人材が参入できるよう、環境を整える必要がある。さらに、イノベーションインフラのようなソフト面でのインフラも積極的に整備し、急成長企業をできるだけ日本から創出していくことが求められる。2有形固定資産以外の無形資産投資や人的投資は上昇傾向だが、さらに投資を伸ばせる〔田中賢治委員〕企業収益が拡大しているにもかかわらず、設備投資の拡大につながらないのは、企業が今の利益水準の持続性に確信が持てないためである。その背景として、将来の成長期待の低さが指摘できるほか、2008年のリーマンショック以降、企業経営に影響を及ぼすショックが途切れなく発生するといった不確実性の高まりも、企業が設備投資を少なからず制約する要因となっている。この「設備投資」は企業が機械や建物等の有形固定資産の取得を指しているが、企業はそれ以外にもソフトウェア等の無形固定資産への投資的支出を行っている。これらへの投資も、将来にわたって収益をファイナンス 2017.453「企業の投資戦略研究会-イノベーションに向けて-」研究成果の報告 SPOT

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