ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
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財務総合政策研究所では、柳川範之教授(東京大学大学院経済学研究科)を座長に、「企業の投資戦略研究会-イノベーションに向けて-」を開催した。本研究会は、企業が投資に積極的ではない背景を分析した上で、最近のイノベーションの動きとそれに伴う将来の産業構造の変化等を見据え、今後、日本企業が一層成長していく上で積極的かつ戦略的な投資を推進するための示唆を得ることを目的とした。座長以外の委員は、田中賢治室長(日本政策投資銀行産業調査部経済調査室)、松尾豊特任准教授(東京大学大学院工学系研究科)、金榮愨准教授(専修大学経済学部)、岡室博之教授(一橋大学大学院経済学研究科)、戸堂康之教授(早稲田大学政治経済学術院)、宮崎俊哉主席研究員(株式会社三菱総合研究所地域創生事業本部観光立国実現支援チームリーダー)である。本研究会では、人工知能(AI)や情報技術の発展によって人的資産や無形資産への投資の重要度が高まっていることや、企業の成長にはネットワーク形成の拡大が重要であるとの提言がなされた。本稿では、企業の投資戦略に関する各委員の研究成果について、財務総研でまとめたポイントを報告する。1投資の構造変化が生じた今、イノベーションインフラの活用で企業の生産性向上の実現と急成長企業の創出へ〔柳川範之座長〕投資を巡って世界的に本質的な変化が生じている。これまでは企業の高い生産性の向上には大きな設備投資を必要とした。しかし、最近のAIの発展等をはじめとする技術革新により、巨額な設備投資を行わなくても、革新的アイディアが生産性の向上をもたらし生産コストが半分になる場合、投資額は大きくないが、投資のインパクトは大きくなる。よって近年は、アイディアを生み出す人的資本への投資の重要性が高まっている。また、同様に重要性が高まっている無形資産(特許、人間同士の結びつき、ノウハウ等)への投資に関しては、技術や環境に合わせて絶えず新しい無形資産に投資していく体制をいかにつくるかが重要である。AIの発展は産業構造や就業構造を急速に変えていくと予想され、スピード感を持って積極的な投資を行うことが必要となる。また、自動運転技術の進展のように、これまで自動車産「企業の投資戦略研究会 -イノベーションに向けて-」 研究成果の報告財務総合政策研究所総務研究部Spot01(左から:金委員、岡室委員、田中委員、柳川座長、宮崎委員、戸堂委員、松尾委員)52ファイナンス 2017.4SPOT

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