ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
5/78

巻頭言22世紀を担う こども達へ木が青々と茂り、キラキラと輝く川が流れる森。山の上から見える点のような人間社会。幼少期に自然の中で過ごした時間は今でも覚えています。自然の中に身を置くと、何か懐かしい感覚になりホッとします。こどもの頃に養うこういった感覚は生涯残り、人生の軸をなすエッセンスにもなると感じています。少子高齢化や人口減少が進む日本で、地域を舞台に次世代の育成を行うことが未来につながるのではないでしょうか?今日は科学の進歩により暮らしがとても便利になりました。しかし本当の豊かさはむしろ失われている気がしています。日本人が大事にしてきた自然と共に生きる価値観こそが「豊かさ」なのではないでしょうか。最近その価値観が少しずつ取り戻され、むしろ最先端になりつつもあります。そして、その豊かさは地域に残っており、私はそれをこども達に伝えていく活動をしています。22世紀を生きるこども達に必要な教育とはなんでしょうか?個の力をより高めるためには?それには体験を通じた経験から、自ら感じて得られる学びが必要です。自然の中での活動は普段の生活や社会にはない未知の領域に足を踏み入れます。コンフォートゾーンを出るともいいますが、そこでは判断力を求められ、与えられた役割に責任を持ち、仲間を思い・頼り行動する。それらの経験が自立した、チャレンジ精神に溢れ、海外とのつながりを生みだす人材形成につながってゆきます。大切な経験は地域にこそある。地域の暮らしや人から自然と共生する、持続可能な社会をつくるきっかけが得られるのではないでしょうか。そのようなことを思い描き、宮城県石巻市雄勝町を舞台に活動しています。2011年の震災により町の8割が壊滅するも、森と海がつながる豊かな自然は残っています。築94年、卒業生らによって守られていた木造校舎を建築家の隈研吾氏をはじめとするプロや5000人ものボランティアの方々と宿泊施設として再生させました。震災後にこの廃校を見つけたのは、研修として住民のヒヤリングをした新入省の行政官でした。人口が約1/4となり、過疎化と高齢化が一気に進んだ町。再生は難しいと言われる町で、再生ではない新しい町を目指すために地域資源を可視化し、交流人口を育むことを狙いにしています。人を介した体験とすることでその資源価値は高まり、2015年から国内はおろか海外からもこどもが集まっています。私は18年間アメリカで生活し、教育も受けてきました。アメリカから学ぶ事が多い人生でしたが、世界へ教えられることが日本にもあると思っています。これまでの欧米から学んできた時代から、世界が日本に学ぶ時代の可能性を感じています。地域らしさで人を受け入れ、学びを届ける。そのような場に世界中から人が集まる。そんな地域が日本中にうまれたら?日本人らしい価値観を持つことが世界をリードする人材を輩出することになり、新しい日本のブランドとして世界が注目することにもなります。22世紀を担うこども達のために地域から光を発し続けることが大事なのではないでしょうか。MORIUMIUS フィールドディレクター油井 元太郎ファイナンス 2017.41財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る