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コラム 経済トレンド116

日本における健康食品の成長性

大臣官房総合政策課 調査員 河野  愛/田矢  祐樹
本稿では、健康食品市場の成長性について考察する。


健康食品市場の現状(1)

健康食品の実態は、健康食品という言葉が意味する製品が暖昧なために、正確に把握することは難しい。健康食品は、一般には「健康に何らかの良い効果が期待できる食品全般」を指す。国の制度により機能等の表示を許可している「保健機能食品」とそれ以外の「いわゆる健康食品」に大別される(図表1. 健康食品とは)。
2015年の機能性表示食品制度開始以降、機能性食品市場は、話題性の高いヒット商品の発売や特定保健用食品や一般食品・飲料から機能性表示食品への切り替えにより成長している(図表2. 機能性表示食品市場規模 推移・予測)。
新型コロナウイルス感染症拡大の中で、健康・免疫や、コロナ禍での新生活様式において生まれたストレス・睡眠問題や、運動不足による肥満への対策需要が高まった。コロナ禍では生活者のセルフヘルスケアへの意識変化がみられ(図表3. コロナにより、健康について「以前より/新たに気にするようになったこと」がある人)、健康に関心がある生活者において「コロナ以降支出が増えたもの」上位は、「一般的な食品・飲料(トクホや機能性表示含む)」、「健康食品・サプリメント(トクホや機能性表示含む)」となっている(図表4. コロナ禍以降の支出(上位項目抜粋))。
(出所)国立健康・栄養研究所「健康食品の実態とその安全性・有効性」、矢野経済研究所「2023年版 健康食品の市場実態と展望~市場調査編~」、インテージ「『健康食品・サプリメント+ヘルスケアフーズ+セルフヘルスケア市場実態把握レポート2022年度版』」


健康食品市場の現状(2)

消費者庁の許可を取得するための効果検証に、相応の費用と期間が掛かる特保を手掛ける事業者には、大手メーカーが多くみられる。一方、開発コストが相対的に低い機能性表示食品、栄養機能食品では、製品企画や広告宣伝に特化し、製造を外部に委託する企業が多く参入している(図表5. 健康食品のサプライチェーン)。
近時、健康食品・飲料などの特定のジャンルにおいてはECでの購入が一般的な選択肢になりつつある(図表6. 健康食品・飲料購入額における 購買チャネルの割合)。通販健康食品市場は2022年に6,077億円、2024年に6,220億円にまで拡大するとの予測もある(図表7. 通販健康食品の市場予測)。
成長市場とはいえ、人口減少の一途を辿る見通しが強い日本では、2040年頃をピークに減少推移に転じる可能性も危惧される。最近ではアフィリエイト広告などに対する規制強化や競合激化による獲得効率の低下もあり、日本メーカーの海外展開が進み始めている(図表8. 日本メーカーの海外展開)。
消費者にとって健康食品の効能を観察することは難しいため、食品に関する有効性、安全性について信頼できる情報提供の仕組みは生産者と消費者間の情報の非対称性を緩和する重要な役割を果たしている。海外展開については、コーデックス※の理解に加え、各国の規制に則り、その国で通用するエビデンスを揃える必要があると考えられる。※コーデックス…世界的に通用する食品規格
(出所)三井住友銀行「健康食品業界の動向~「健康」をキーワードに成長する市場の戦略方向性」、TPCマーケティングリサーチ「健康食品の通販事業戦略について調査」、富士経済「健康食品における海外展開実態調査」、健康産業流通新聞、TPCビブリオテック「2020年 ヘルスケア企業のグローバル戦略調査」


外国人消費者の動向及び日本企業の海外展開

世界の健康食品市場は、アジアを中心に目覚ましい成長を遂げている。世界のビタミン・栄養補助食品マーケットの売上は、2028年には約2,390億ドルまで成長すると予想されている(図表9. 世界のビタミン・栄養補助食品マーケットの売上高)。
訪日予定者が、自分用に購入したいもので、「サプリ・健康食品」は生活雑貨部門の上位項目である(図表10. 訪日予定者の生活雑貨部門のお土産ランキング)。旅行中に買った商品を、帰国後にリピート購入する消費行動がみられ、訪日客の60%以上は再購買している。アジア地域をはじめ海外でのMade in Japanブランドの人気やインバウンド需要の拡大が、日本企業の海外進出を後押ししている(図表11. 医薬品・健康食品 中国消費者が購入したいと思う製品の原産国)。
日本は食品の健康表示制度として、製品ごとに審査する特定保健用食品制度を1991年に世界で初めて施行し、2001年には規格基準型の栄養機能食品を制度化した。実用的に運用しているのは日本だけであり、日本のトクホ商品や栄養機能食品は、科学的にも法的にも合理性が高く、国際的に十分通用すると考えられている。
海外進出メーカーが増加する中で、海外専用の商品やブランドの展開に注力し、展開地域のユーザー獲得を目指す企業も見受けられる。実際に海外向けのサプリメント市場規模は、2018年から2024年の間に約1.8倍にまで成長すると予測されている(図表12. 海外向けのサプリメント市場)。
(出所)TPCマーケティングリサーチ「健康食品の通販事業戦略について調査」、ユーロモニター「Global Vitamins and Dietary Supplements2022」、訪日ラボ、TPCビブリオテック「2020年 ヘルスケア企業のグローバル戦略調査」、インテージ「中国/台湾/韓国/タイ 訪日予定客調査」、JETRO「中国の消費者の日本製品等意識調査」、みずほリサーチ&テクノロジーズ「訪日外国人の再購入に関する調査」、内閣府「「健康食品の表示の検討」~海外の制度と今後の展望・提言~」

健康食品市場の展望

中期では、日本の高齢化進展と平均寿命と健康寿命の年齢ギャップ(図表13. 日本平均寿命と健康寿命のギャップ)が生じる中で、健康に対する関心が高まり、健康食品のような医薬品に頼らない予防医療へのニーズが高まることが市場成長要因となる。一方で、長期では人口減少による市場縮小が予見されることから、市場成長が見込まれる海外市場への展開が、成長には必要不可欠である。
情報の非対称性が高い同市場においては、海外市場においても、科学的根拠に基づいた機能性を国に申請を行っている保健機能食品、Made in Japan品質(図表14. Made in JAPANイメージ トップ3)は優位になると考える。機能性表示食品制度を満たす機能性、安全性、製造管理などをまとめて国に申請していることは、日本のブランド力と併せて付加価値を与えることができる。
「データとAIでレコメンドされるパーソナライズ健康食品」への取り組み(図表15. パーソナライズ健康食品イメージ図、図表16. パーソナライズ健康食品への取組み)が始まっている。消費者の検査・診断に基づいて健康食品が提供され、効果がアプリ等のツールで見える化されることで、予防医療としての付加価値と信頼性の向上を図ることができるもので、情報の非対称性を解消し、高い付加価値及び差別化を実現するための手法となり得る。
今後、健康食品市場では国内外問わず、適切な情報提供により消費者からの信頼を高め、消費者ニーズに合致した商品を提供することが出来る体制を整えていくことが求められる。
(出所)内閣府「令和5年版高齢社会白書」、電通「ジャパンブランド調査2019から考える、今の日本・これからの日本」、みずほ銀行「市場創出・拡大が期待されるヘルスサイエンス領域に対する食品企業の戦略」、渡邊憲和「健康食品マーケティング3.0 機能性・エビデンス全盛時代を勝ち抜く戦略」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。