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2023年日本議長国下におけるG7財務大臣・中央銀行総裁会議の成果


国際局国際機構課 課長 木原 大策/G7財務大臣・中央銀行総裁会議政策企画事務局 大臣官房企画官 村口 和人/課長補佐 吉越 文/係長 仕道 聖加


1.はじめに

2023年12月19日、日本議長下で最後となるG7財務大臣・中央銀行総裁会議をヴァーチャル形式で開催した。鈴木財務大臣からG7メンバーに対して述べられた1年間にわたる協力への感謝の言葉をもって、財務トラックにおいて日本が議長として開催するすべてのイベントは幕を閉じた。本年は、大臣・総裁級会合を全6回(対面5回、ヴァーチャル1回)開催し、これらにおける議論を取りまとめた5つのG7共同声明(財務・保健合同会議での共同声明も含む)を発出し、また、議長として、多様な価値観を踏まえた経済対策に関する1年間の議論をまとめた「ウェルフェアを追求する経済政策に関するPresidency Note」を発出するなど、様々なグローバルな課題について議論を行い、対外的にもメッセージを出してきた。
以下、本稿では、2023年の日本議長下におけるG7財務大臣・中央銀行総裁会議の成果を総括する。
写真1: G7財務大臣・中銀総裁会議の会場(新潟)


2.日本議長下における財務トラックの成果

2.1.厳しさを増す国際情勢への対応

日本議長下におけるG7財務トラックでは、ウクライナへの支援を優先事項として1年間継続して取り上げてきた。ウクライナのマルチェンコ財務大臣には、今年開催したすべての大臣・総裁級会合に参加いただき、議論を行った。ロシアのウクライナに対する侵略戦争の開始から1年を迎えた2023年2月には、ロシアに対する強い非難とウクライナに対する揺るぎない支援を表明する共同声明を発出している。また、G7として2023年中の約400億ドルの財政支援を表明し、これを背景に国際通貨基金(IMF)でも総額156億ドルの支援プログラムが合意された。IMFの支援プログラムの下、ウクライナ政府によるガバナンス強化等の改革も進展している。更に、2024年もG7として300億ドル超の貢献を表明するなど、ウクライナの財政ニーズの充足にコミットしていくことで一致している。この他、ウクライナに対する侵略戦争を受けた対ロシア制裁については、資産凍結をはじめとした制裁措置の継続・対象拡大に加え、制裁の迂回政策やプライスキャップ制度の遵守強化を含め、制裁の実効性を強化する取組を推進した。また、ロシアがウクライナの長期的な再建の費用を支払うようにする観点から、各国の法制度や国際法と整合的な形で、凍結されたロシア国家資産の活用についてのあらゆる可能な方策を探求した。
写真2: 鈴木財務大臣とウクライナのマルチェンコ財務大臣の面会
写真3: G7財務大臣・中銀総裁会議の様子


2.2.世界経済の強靭化・グローバル課題の解決

(1)気候変動、持続可能性

気候変動に対応し、経済・社会の持続可能性を確保することはグローバルな喫緊の課題であり、G7としても様々なアプローチを通じて対応を進めてきた。まず、低・中所得国がクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーンにおいてより大きな役割を果たせるよう協力するパートナーシップであるRISE(強靭で包摂的なサプライチェーンの強化)を、日本主導の下、非G7を含む有志国・世銀とともに創設した。創設に伴い、10月にモロッコ(マラケシュ)で開催された世銀・IMF総会の機会に、日本、世銀のほか、ドナー国の韓国、カナダ、イタリアや、被支援国となりうるチリ、インドが参加する立上げイベントを開催した。なお、ドナー国からはこれまで計5,000万ドル超の資金貢献が表明され、12月にはインドで情報共有プラットフォームを開催するなど、既に活動を開始している。
また、各国の状況に則した最適な緩和策の採用に資するIFCMA(炭素緩和アプローチに関する包摂的フォーラム)や途上国のエネルギー移行を支援するJETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)などを通じても、気候変動対策を推進した。なお、インドネシア向けのJETPでは、日本が米国と共に共同議長を務めている。
さらに、サステナビリティ開示について、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による2つの基準(全般的要求事項及び気候関連開示に係る基準)の最終化が支持されるとともに、人的資本を含むISSBの将来の作業に期待を示した。
また、トランジション・ファイナンスは経済全体の脱炭素化を推進する上で重要な役割を有していることから、トランジション・ファイナンス促進のための方策について議論を深めた。自然災害リスクファイナンスの促進については、プロテクションギャップ縮小のためには民間・公的セクターの協調の強化が重要であるとの認識を共有し、これを踏まえてIAIS(保険監督者国際機構)が、OECDと連携して、自然災害リスクファイナンスに係る報告書を策定・公表した。
写真4: RISE(強靭で包摂的なサプライチェーンの強化)の立上げイベント

(2)国際保健

国際保健は新型コロナウイルス感染症の拡大以前から日本がその重要性を強く提唱してきた政策課題であり、日本議長下のG7でも積極的な議論を行った。5月には、オンラインでG7財務大臣・保健大臣合同会合を開催した。財務・保健における緊密な連携が重要であること等について議論し「財務・保健の連携強化及びPPRファイナンスに関するG7共通理解」を公表した。また、合同会合では、将来のパンデミックの予防(Prevention)、備え(Preparedness)、対応(Response)のうち、特に「対応」のためのファイナンス強化に関する議論を主導した。

(3)経済のデジタル化

経済のデジタル化は、様々な恩恵をもたらしているが、同時に新しい課題も生じており、これらに対応するためにG7でも様々な議論を行ってきた。
まず、国際課税については、「二つの柱」の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けた議論をOECDと協調して主導し、G7として途上国への実施支援の更なる提供にもコミットした。
また、中央銀行デジタル通貨(CBDC)について、世界中で検討・取組が急速に進展する中で、その導入がもたらしうる機会とリスクに途上国が適切に対処できるよう、「CBDCハンドブック」の作成を後押しした。「CBDCハンドブック」は、日本が主導し、CBDCの導入を検討する途上国向けにIMFが知見や経験を集約したものであり、10月に第一弾となる計5章が公表された。今後、全約20章が公表される予定である。
暗号資産については、金融安定理事会(FSB)勧告等と整合的な形で規制監督の枠組みを実施することにコミットした。また、個人間で行われる取引(P2P取引)から生じるものも含め、マネロン等のリスクに関する作業を金融活動作業部会(FATF)に要請した。

2.3.途上国との協力・国際金融機関の強化

(1)債務問題

近年、低所得国を中心に、開発途上国の公的セクター(政府や政府系機関等)による海外からの借入が増加し、債務持続可能性への懸念が高まりつつある。これらの問題は、新型コロナウイルスを受けた財政支出の増加等により更に深刻化している。これに対応する観点から、G7として、低所得国向けに債務救済を行うための「共通枠組」の実施を強化するG20の取組をサポートし、ザンビアやガーナ等における債務措置の議論の進展にコミットしてきた。また、中所得国であり「共通枠組」の対象外であるスリランカについて、広範な債権国間の協調体制を確立するため、17か国のパリクラブ債権国と非パリクラブ債権国が一堂に会して債務再編交渉を行う債権国会合を創設した。債権国会合において、日本は、インド、フランスとともに共同議長国として議論を主導し、非パリクラブ国からもインドのほか、オブザーバーとして中国、サウジアラビア、イラン等が参加し議論を進めてきた結果、11月にはスリランカ政府と債務再編条件についての基本合意に至っている。
また、日本が主導し、世銀の保有する債務データと、債権国から共有された債権データとの突合に取り組んだ。G7のみならずパリクラブの同志国の参加を通じて、65億ドルのギャップを把握し、債務の透明性と正確性の向上に貢献することができた。
写真5: スリランカ債権国会合の発足に係るメディアイベント

(2)国際金融機関の強化

気候変動等の国境を越える課題への対応のため、世界銀行等の国際開発金融機関(MDBs)の機能強化に向けた改革(MDB改革)の議論も主導した。既存資本の最大限の活用に加え、G7は革新的な金融手法による資金動員にも貢献し、世界銀行で350億ドルを超える貸出余力の増加(そのうち日本は約60億ドルの貢献)の実現を見込んでいる。
また、複合的な危機に対応するためには、グローバルな金融セーフティネットの中心であるIMFを通じた支援も重要である。IMFが配分する特別引出権(SDR)を活用した低中所得国支援については、日本が世界に先駆けて貢献率を引き上げたことで、世界全体で1,000億ドルの目標を達成した。また、IMFが低所得国を支援する貧困削減・成長トラスト(PRGT)の資金動員目標を達成し、10月にモロッコ(マラケシュ)で開催されたイベントにおいては、IMF専務理事より日本への謝辞が述べられた。その他、IMFクォータ(出資割当額)の50%増資を伴う第16次クォータ一般見直し(12月にIMF総務会で承認)や、IMF理事会におけるサブサハラ・アフリカからの理事の追加など、IMFの資金規模・機能・ガバナンス改革に貢献した。
写真6: 鈴木財務大臣と世界銀行のバンガ総裁の面会
写真7: 鈴木財務大臣とIMFのゲオルギエバ専務理事の面会

(3)対外直接投資(FDI)

FDIが新興途上国にもたらす雇用創出や現地の技能開発・技術支援、脱炭素化等のメリットに加え、FDIの経済安全保障上のリスク等を包括的に考慮することの重要性をG7で確認した。この問題意識を踏まえ、OECDは、新興途上国が「より多くの、より良い、安全なFDI」を受け入れるための支援戦略を策定した。支援戦略に基づき、OECDは、(1)持続可能性等のFDIの質の側面や、経済安全保障リスクへの配慮の側面等、包括的な観点からの支援を実施し、(2)東南アジア・アフリカ等への支援を深化・拡大させ、(3)地域における対話・取組の促進を実施していく予定である。

(4)新興途上国・アフリカ諸国との連携

気候変動・開発等のグローバルな課題に対処するためには、新興途上国を含めたグローバルな解決策が必要であり、G7としてパートナー国との関係を深化させていくことが重要である。この観点から、5月に新潟で開催したG7財務大臣・中央銀行総裁会議では、ブラジル(2024年G20議長国)、コモロ(アフリカ連合議長国(当時))、インド(G20議長国(当時))、インドネシア(2022年G20議長国)、韓国、シンガポールを招待したアウトリーチ会合を開催し、新興途上国が抱える課題等について対話を行った。
また、10月にモロッコ(マラケシュ)で開催された世銀・IMF総会の機会に、G7-アフリカラウンドテーブルを開催し、G7各国、G20議長国(インド、ブラジル)のほか、アフリカ諸国(コモロ、ガーナ、モロッコ、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、ザンビア)等を招待した。当会合においては、気候変動や食料不安等のグローバルな課題から特に打撃を受けているアフリカ諸国へ資金を呼び込むため、民間資金と公的資金の役割や、ビジネス環境を改善する改革について議論を行い、G7として、今後もアフリカ諸国と金融・経済面で更に協働していくことに合意した。
写真8: アウトリーチ会合(G7新潟)の様子

2.4.多様な価値観を踏まえた経済対策:経済政策におけるウェルフェアの追求

デジタル化や気候変動といった構造的な変化の中、格差の拡大や持続可能性の欠如から、経済規模の拡大が必ずしも真の幸福につながっていないとの指摘がある。こうした中、経済政策がウェルフェアの向上に資するものとなっているかを再検証することが、民主主義や市場経済の信認を維持するためにも重要である。その際、GDPは、政策当局者にとって最も有用な指標の一つであり続けるものの、無料のデジタルサービスが反映されない等、その性質上様々な課題・限界があり、GDPのみで人々の多様な価値観を反映したウェルフェアを包括的に測定することは困難である。こうした問題意識から、日本議長下でのG7では、5月に開催した財務大臣・中央銀行総裁会議のサイドイベントにスティグリッツ教授を招聘するなど、有識者も交えた議論等を行い、政策立案者が多元的な指標を通じてウェルフェアを包括的に把握すると共に、それらの指標を政策立案に反映させていくことが重要であることなどの認識を共有した。また、12月には、1年間のG7における議論を取りまとめ、Presidency Note(議長ノート)を公表した。ノートでは、多様な価値を反映したウェルフェアを測定する上で有益な、GDPの限界への対応、GDP以外の多様な指標活用の重要性、将来世代への配慮、幅広いエンゲージメント、継続的な改善、の5つのアプローチを提示した。加えて、多様な指標を実際に政策立案に反映させていく上では、他国の取組から学ぶことも重要であることから、G7メンバーによる取組も紹介している。今後もこれらを踏まえつつ、ウェルフェアを追求する経済政策に向けた努力を継続することが重要であり、来年のイタリアによるG7議長下でも議論が継続される予定である。


3.G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議の開催(2023年5月11~13日)

財務トラックにおいては、2023年5月11~13日において、G7の財務大臣及び中央銀行総裁、国際機関の長及びパートナー国6か国を新潟に迎え、会議を開催した。ウクライナのマルチェンコ財務大臣を招待し、ヴァーチャル形式での参加が実現した。新潟会合の詳細や開催までの道筋は「ファイナンス」令和五年七月号に寄稿しているため、是非参照されたい。新潟では3日間にわたり幅広い分野の議論を行うとともに、サイドイベントや、多様な価値を踏まえた経済対策のあり方を議論するためのランチセミナー、新潟の食文化を取り入れた夕食会等の開催や、地元の名物である花火の打上げなど、会議の円滑な運営と新潟の魅力の発信に努め、率直で活発な財務大臣・中銀総裁間の議論を実現することができた。
写真9: G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議における各国出席者
写真10: 夕食会(G7新潟)の様子
写真11: 新潟の地元花火師が制作した花火の打上げ


4.結語

2022年7月にG7財務大臣・中央銀行総裁会議政策企画事務局が始動し、2023年の議長国に向けた財務トラックの優先課題の検討が始まった。2023年に入ってからは議長国としての本格的な会議運営が始まり、新潟以外にも、インド・ベンガル―ル(2月)、ガンディーナガル(7月)、アメリカ・ワシントンD.C(4月)、モロッコ・マラケシュ(10月)でのG20やIMF・世銀総会の機会にG7財務大臣・中央銀行総裁会議を開催し、共同声明の発出等、首脳会合へとつながる議論の成果を着実に積み上げてきた。発出した声明には全て、財務トラックの共通デザインである青海波(せいがいは)が現れる。青海波は未来永劫続く幸せと人々の平安な暮らしへの願いが込められた文様であり、不確実性が増している世界経済の安定、ひいては人々の平安な暮らしの実現に貢献したいとの考えにより、取り入れられたものである。
財務大臣・中央銀行総裁会議以外にも、事務方での会議を度々開催し、目まぐるしく変化する世界情勢における課題の対処に努めてきた。G7財務大臣・中央銀行総裁会議の関係者は、国際局や財務官室等の財務本省にとどまらず、新潟での会合の際に協力を得た関東財務局、税関等や、海外での会合開催時にロジ面を中心に協力いただいた在外公館等のスタッフ等、挙げ始めれば枚挙にいとまがない。こうした関係者が一丸となって会議運営に尽力してきたことも功を成し、12月の日本議長下で最後のG7財務大臣・中央銀行総裁会議の際には、G7各国より日本のリーダーシップとホスピタリティへの感謝の声が数多く聞かれたのが印象的であった。日本のG7議長国としての役割は2023年12月をもって終了したが、お世話になった皆様に改めて感謝の意を表するとともに、G7議長をイタリアへ引き継いだ後も、引き続き日本が国際社会における議論に貢献していけるよう、日々の業務に邁進していきたい。

図1. 2023年日本議長下におけるG7財務大臣・中央銀行総裁会議の成果
図2. 青海波