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特集 令和6年度税制改正(国税)等について


主税局総務課 税制企画室長 阿部 敦壽


令和6年度税制改正、扶養控除等の見直し及び防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については、令和5年12月14日に「令和6年度税制改正大綱」が与党にて決定され、同年12月22日に「令和6年度税制改正の大綱」(以下、政府大綱)が閣議決定された。
本稿においては、政府大綱を中心に説明したい。なお、文中意見等にわたる部分は、筆者の個人的見解である。

1.令和6年度税制改正の基本的考え方等

国際的な産業構造の転換を加速させたコロナ禍や、世界の分断を深めているロシアのウクライナ侵略・中東情勢の緊迫化といった大きな時代の転換点にある中で、日本経済は四半世紀続いたデフレからの脱却に向けて、30年ぶりの高水準の賃上げ、過去最大の民間投資など、明らかに動き始めた。デフレ脱却・構造転換に向けた千載一遇のチャンスを逃さぬよう、この動きを止めることなく、より多くの方が享受できるようさらに拡げていく必要がある。
以上の現状認識を踏まえ、令和6年度税制改正においては、賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を上回る持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から、所得税・個人住民税の定額減税の実施や、賃上げ促進税制の強化等を行う。また、資本蓄積の推進や生産性の向上により、供給力を強化するため、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制を創設し、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化のための措置を講ずる。加えて、グローバル化を踏まえてプラットフォーム課税の導入等を行うとともに、地域経済や中堅・中小企業の活性化等の観点から、事業承継税制の特例措置に係る計画提出期限の延長等を行う。具体的な改正内容等は、2.~6.のとおりである。
また、扶養控除等の見直しについては7.に、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については8.に、政府大綱で決定した内容を記述する。

2.構造的な賃上げの実現

(1)所得税・個人住民税の定額減税

デフレに後戻りさせないための措置の一環として、令和6年の所得税・個人住民税の定額減税を実施し、賃金上昇と相まって、国民所得の伸びが物価上昇を上回る状況をつくり、デフレマインドの払拭と好循環の実現につなげていく。具体的には、納税者及び配偶者を含めた扶養家族1人につき、令和6年分の所得税3万円、令和6年度分の個人住民税1万円の減税を行うこととし、令和6年6月以降の源泉徴収・特別徴収等、実務上できる限り速やかに実施することとする。ただし、合計所得金額1,805万円超(給与収入のみの場合、給与収入2,000万円超に相当)の高額所得者については対象外とする。(資料1)

(2)賃上げ促進税制の強化

物価高に負けない構造的・持続的な賃上げの動きをより多くの国民に拡げ、効果を深めるため、以下のように賃上げ促進税制を強化し、適用期限を3年間延長する。(資料2)
・ 大企業に対しては、継続雇用者の給与等支給額の3%以上増加との現行の賃上げ率の要件は維持しつつ、さらに高い賃上げ率の要件を創設し、従来の4%に加え、5%、さらには7%の賃上げを促していく。
・ 従来の大企業のうち、常時使用従業員数2,000人以下の企業を新たに「中堅企業」と位置付けた上で、従来の賃上げ率の要件を維持しつつ、控除率を見直し、より高い賃上げを行いやすい環境を整備する。
・ 中小企業においては、本税制をより使いやすいものとしていくため、従来の賃上げ要件・控除率を維持しつつ、新たに繰越控除制度を創設し、賃上げ促進税制の税額控除の額について、当期の税額から控除できなかった額を5年間という前例のない期間にわたって繰り越すことを可能とする。
・ 「人への投資」の観点から、教育訓練費を増加させた場合の上乗せ要件を緩和し、活用を促進することとする。
・ 子育てと仕事の両立支援や女性活躍の推進の取組みを後押しする観点から、こうした取組みに積極的な企業に対する厚生労働省による認定制度(「くるみん」、「えるぼし」)を活用し、控除率を5%上乗せする。
以上により、賃上げ促進税制の最大控除率は、大企業・中堅企業については現行の30%から35%に、中小企業については現行の40%から45%に引き上がる。

(3)中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充

多くの国民の生活基盤である地域経済において、経済活動の大黒柱である中小企業の生産性の向上や経営基盤の強化を促し、中堅企業へと成長を後押ししていくことが重要となるとの認識の下、成長意欲のある中堅・中小企業が複数回のM&Aを実施する場合には、積立率を現行の70%から最大100%に拡充し、据置期間を現行の5年から10年に延長する。(資料3)

3.生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進

(1)戦略分野国内生産促進税制の創設

GX、DX、経済安全保障という戦略分野において、民間として事業採算性に乗りにくいが、国として特段に戦略的な長期投資が不可欠となる投資を選定し、それらを対象として生産・販売量に比例して法人税額を控除する戦略分野国内生産促進税制を創設する。具体的な対象物資は、電気自動車等、グリーンスチール(注1)、グリーンケミカル(注2)、SAF(持続可能な航空燃料)、半導体とし、物資毎に単価を設定する。措置期間を通じた控除上限は既設の建屋等を含む生産設備全体の額とするほか、各年度の控除上限を当期の法人税額の40%(半導体については当期の法人税額の20%)とする。本税制の対象の大宗を占めるGX分野に該当する物資に係る措置については、GX経済移行債を活用して財源を確保することとしており、こうした特殊性を踏まえ、令和8年度末までに受けた事業計画認定から10年間という極めて長期の措置とした上で、4年間(半導体は3年間)の税額控除の繰越期間を設ける。なお、本税制の効果を高めるための措置として、適用に当たっては、一定の賃上げ・設備投資を行っていることを要件とする。(資料4)
(注1)生産プロセスを従来の高炉・転炉から電炉などへ転換することにより、生産時のCO2排出量を大幅に削減した鉄鋼製品
(注2)原料を従来の化石原料であるナフサからグリーン原料(バイオ原料、廃プラスチック等)へ転換することにより生産される化学品

(2)イノベーションボックス税制の創設

利益の源泉たるイノベーションについても国際競争が進んでおり、民間による無形資産投資を後押しすることが喫緊の課題となっていることから、国内で自ら行う研究開発の成果として生まれた知的財産から生じる所得に対して優遇するイノベーションボックス税制を創設する。具体的には、企業が国内で自ら研究開発を行った特許権又はAI分野のソフトウェアに係る著作権について、当該知的財産の国内への譲渡所得又は国内外からのライセンス所得に対して、所得の30%の所得控除を認める制度を設けることとし、措置期間は令和7年4月1日から7年間とする。G7ではフランス、イギリスに次ぐ3番目に創設された税制であり、海外に遜色ない制度で無形資産投資を後押ししていく。(資料5)

(3)スタートアップ・エコシステムの抜本的強化

スタートアップはイノベーションを生み出す主体として、生産性向上を通じて、日本経済の潜在成長率を高める重要な存在である一方で、全体として資金や人材面で課題を抱えており、そうした課題への対応を後押ししていく必要がある。その際、課題や措置の必要性等がスタートアップのステージ毎に異なる点に留意し、ステージ毎のきめ細やかでメリハリの利いた対応を行うことが重要であり、特に資金調達に係る措置については、各ステージのリスクに応じた優遇措置とする必要がある。こうした考え方の下、昨年度の税制改正に引き続き、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化のための税制措置を講ずる。(資料6)
・ ストックオプション税制について、スタートアップが付与したものに対する年間権利行使価額の限度額を最大で現行の3倍となる3,600万円に引き上げるとともに、従来の証券会社等による株式管理スキームに加えて発行会社自身による株式管理スキームを創設し、さらに社外高度人材への付与要件の緩和・認定手続の軽減を行う等により制度の拡充を図る。
・ オープンイノベーション促進税制は、株式取得の一定額の所得控除を認める極めて異例の措置であるが、現在、「スタートアップ育成5か年計画(令和4年11月28日決定)」が始まったばかりの時期であることに鑑み、現在のままの形で、本税制の適用期限を2年延長する。
・ スタートアップ創出促進の観点から、令和5年度税制改正により創設された親法人の持分を一部残すスピンオフを適格株式分配とする制度について、認定計画の公表時期を見直すとともに、計画の認定要件の見直しを行った上、適用期限を4年延長する。
・ 発行者以外の第三者が継続的に保有する暗号資産については、一定の要件の下、期末時価評価課税の対象外とする(スタートアップ以外も同様)。

4.経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し

(1)子育て支援に関する政策税制

子育て世帯は、安全・快適な住宅の確保や、こどもを扶養する者に万が一のことがあった際のリスクへの備えなど、様々なニーズを抱えており、子育て支援を進めるためには、税制においてこうしたニーズを踏まえた措置を講じていく必要がある。そうした観点から、扶養控除等の見直しと併せて行う子育て支援税制として、以下の事項について令和7年度税制改正において検討し、結論を得る。ただし、住宅ローン控除及び住宅リフォーム税制については、現下の急激な住宅価格の上昇等の状況を踏まえ、令和6年限りの措置として先行的に対応する。(資料7)
・ 住宅ローン控除について、子育て世帯及び若者夫婦世帯における借入限度額を、新築等の認定住宅について500万円、新築等のZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅について1,000万円上乗せする。また、新築住宅の床面積要件について、合計所得金額1,000万円以下の者に限り、40m2に緩和する。
・ 住宅リフォーム税制について、子育て世代の居住環境の改善の観点から、子育て世帯及び若者夫婦世帯が行う一定の子育て対応改修工事を対象に加える。
・ 生命保険料控除について、23歳未満の扶養親族を有する場合には、一般枠(遺族保障)の現行の適用限度額(4万円)に対して2万円を上乗せする。

(2)暗号資産等報告枠組み

分散型台帳技術を使用する暗号資産等を利用した国際的な脱税及び租税回避を防止する観点から、令和4年、OECDにおいて策定された暗号資産等の取引や移転に関する自動的情報交換の報告枠組み(CARF:Crypto-Asset Reporting Framework)に基づき、非居住者の暗号資産に係る取引情報等を租税条約等に基づき各国税務当局と自動的に交換するため、国内の暗号資産取引業者等に対し非居住者の暗号資産に係る取引情報等を税務当局に報告することを義務付ける制度を整備する。暗号資産交換業者等の準備期間を考慮し、令和8年1月1日から適用を開始した上で、令和9年から情報交換を開始する。(資料8)

(3)プラットフォーム課税

デジタルサービス市場の拡大によりプラットフォームを介して多くの国外事業者が国内市場に参入している中で、国外事業者の納めるべき消費税の捕捉や調査・徴収が課題となっていることに対し、国内外の事業者間の競争条件の公平性や適正な課税を確保するため、諸外国と同様に、事業者に代わってプラットフォーム事業者に納税義務を課す制度(プラットフォーム課税)を導入する。導入に当たっては、国内の事業者に影響が出ないよう国外事業者が提供するデジタルサービスを対象とし、また、対象となるプラットフォーム事業者は、高い税務コンプライアンスや事務処理能力が求められること等を考慮して、国外事業者が自身のプラットフォームを介して行うデジタルサービスの取引高が50億円を超えるプラットフォーム事業者とし、令和7年4月1日から適用する。(資料9)


5.地域・中小企業の活性化等

(1)交際費等から除外される飲食費に係る見直し

損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準について、会議費の実態を踏まえ、現行の1人当たり5千円以下から1万円以下に引き上げる。(資料10)

(2)法人版事業承継税制における特例承継計画の提出期限の延長

法人版事業承継税制は、平成30年1月から令和9年12月までの10年間の特例措置として、令和6年3月末までに特例承継計画の提出がなされた事業承継について抜本的拡充を行ったものである。コロナの影響が長期化したことを踏まえ、特例承継計画の提出期限を令和8年3月末まで2年延長する。(資料11)


6.円滑・適正な納税のための環境整備

(1)税務手続のデジタル化・キャッシュレス化による利便性の向上

事業経営や取引・財務に関する情報処理、決済の分野でのデジタル化が急速に進展する中で、納税者が簡便かつ適正に申告・納付を行うことができるよう、電子申告等の手続の簡素化や処分通知等の電子交付の拡充、法定調書の電子提出を一層進めていくための措置等を講ずる。(資料12)

(2)課税・徴収関係の整備・適正化

誠実に納税を行う納税者の税に対する公平感を損なうことがないよう、近年見られる新たな事例に対応していくため、納税者が申告後に税額の減額を求めることができる更正の請求において、隠蔽・仮装が行われているものの、現行制度上、重加算税が課されない事例が把握されていることを踏まえ、重加算税制度の整備を行い、令和7年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用する。また、法人の代表者等が不正申告を行い、法人の財産を散逸させて納税義務を免れる事例等が把握されていることを踏まえ、不正申告を行った法人の代表者等に対する徴収手続の整備等を講じ、令和7年1月1日以後適用する。(資料13)

(3)外国人旅行者向け免税制度の見直し

観光立国の実現に向けて、外国人旅行者向け免税制度の活用を推進していくことが肝要である一方で、足下では多額・多量の免税購入物品が国外に持ち出されず国内での横流しが疑われる事例等が多発している。こうした不正を排除しつつ、免税店が不正の排除のために負担を負うことのない制度とするため、出国時に税関において持ち出しが確認された場合に免税販売が成立する制度とする。実務的には、免税店が販売時に外国人旅行者から消費税相当額を預かり、出国時に持ち出しが確認された場合に、旅行者にその消費税相当額を返金する仕組みとなる。新制度の検討に当たっては、外国人旅行者の利便性の向上や免税店の事務負担の軽減に十分配慮しつつ、空港等での混雑防止の確保を前提として、令和7年度税制改正において、制度の詳細について結論を得る。(資料14)


7.扶養控除等の見直し

児童手当については、所得制限が撤廃されるとともに、支給期間について高校生年代まで延長されることとなる。
これを踏まえ、16歳から18歳までの扶養控除について、15歳以下の取扱いとのバランスを踏まえつつ、高校生年代は子育て世帯において教育費等の支出がかさむ時期であることに鑑み、現行の一般部分(国税38万円、地方税33万円)に代えて、かつて高校実質無償化に伴い廃止された特定扶養親族に対する控除の上乗せ部分(国税25万円、地方税12万円)を復元し、高校生年代に支給される児童手当と合わせ、全ての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充しつつ、所得階層間の支援の平準化を図ることを目指す。
さらに、扶養控除の見直しにより、課税総所得金額や税額等が変化することで、所得税又は個人住民税におけるこれらの金額等を活用している社会保障制度や教育等の給付や負担の水準に関して不利益が生じないよう、当該制度等の所管府省において適切な措置を講じるとともに、独自に事業を実施している地方公共団体においても適切な措置が講じられるようにする必要がある。
具体的には、各府省庁において、今回の扶養控除の見直しにより影響を受ける所管制度等を網羅的に把握し、課税総所得金額や税額等が変化することによる各制度上の不利益が生じないよう適切な対応を行うとともに、各地方公共団体において独自に実施している事業についても同様に適切な対応を行うよう周知するなど所要の対応を行う必要がある。
扶養控除の見直しについては、令和7年度税制改正において、これらの状況等を確認することを前提に、令和6年10月からの児童手当の支給期間の延長が満年度化した後の令和8年分以降の所得税と令和9年度分以降の個人住民税の適用について結論を得る。
ひとり親控除について、とりわけ困難な境遇に置かれているひとり親の自立支援を進める観点から、対象となるひとり親の所得要件について、現行の合計所得金額500万円以下を1,000万円以下に引き上げる。
また、ひとり親の子育てにかかる負担の状況を踏まえ、ひとり親控除の所得税の控除額について、現行の35万円を38万円に引き上げる。合わせて、個人住民税の控除額について、現行の30万円を33万円に引き上げる。
こうした見直しについて、令和8年分以降の所得税と令和9年度分以降の個人住民税の適用について扶養控除の見直しと合わせて結論を得る。

8.防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については、令和5年度税制改正大綱に則って取り組む。なお、たばこ税については、加熱式たばこと紙巻たばことの間で税負担の不公平が生じている。同種・同等のものには同様の負担を求める消費課税の基本的考え方に沿って税負担差を解消することとし、この課税の適正化による増収を防衛財源に活用する。その上で、国税のたばこ税率を引き上げることとし、課税の適正化による増収と合わせ、3円/1本相当の財源を確保することとする。
あわせて、令和5年度税制改正大綱及び上記の基本的方向性により検討を加え、その結果に基づいて適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる趣旨を令和6年度の税制改正に関する法律の附則において明らかにするものとする。