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特集 10月1日スタート インボイス制度の登録・事前準備チェックポイント


令和5年10月1日からインボイス制度がスタートする。すでに9割の課税事業者が登録を済ませているが、登録の要否はどう判断すればいいか、スタートまでにどんな事前準備が必要かを改めて整理した。取材・文 向山 勇

インボイスとは
売手が買手のために正確な適用税率や消費税額等を伝える手段

10月以降は仕入税額控除にインボイス等の保存が必要に
令和5年10月1日から、消費税のインボイス(適格請求書)制度がスタートする。インボイスは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝える手段。現在、多くの商品やサービスには10%の消費税が課税されているが、食品などには8%の税率が適用されている。インボイス制度の下では、「適格請求書発行事業者」が発行するインボイスによって、適用されている税率や税額を確認できるため、正確な消費税の申告が可能になる。
また、納税する消費税額は、「売上げに係る消費税額」から「仕入れに係る消費税額」を控除して算出する。この「仕入れに係る消費税額」の控除を「仕入税額控除」という。現行制度で「仕入税額控除」を受けるには、「帳簿」と「区分記載請求書」の保存が必要となっている。
インボイス制度の下で仕入税額控除を受けるためには、帳簿のほか売手から交付を受けた「インボイス」等の保存が必要となる(図表1. 区分記載請求書とインボイスの記載事項)。このため、商品やサービスの提供先が課税事業者の場合、インボイスの発行を求められる可能性がある。とはいえ、インボイスという書類を一から作成する必要はない。従来の「区分記載請求書」の記載事項に「登録番号」、「適用税率」、「税率ごとに区分した消費税額」を追加することで対応可能だ(図表2. インボイス登録件数の推移(令和5年4月末日付))。
一方で商品やサービスの販売先が一般消費者や免税事業者の場合は、インボイスの交付を求められることはない。「適格請求書発行事業者」への登録は任意であるため、事業の実態に合わせて検討したい。
制度が開始する10月1日に登録を受けたい場合、9月30日まで登録申請が可能。すでに334万(令和5年4月末時点)の事業者が登録申請を済ませている(図表3. インボイスと免税事業者の取引)。課税事業者の9割が申請を行っている計算となる。
インボイス制度導入に伴い、支援措置も講じられている。一つは免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者向けのもので、売上税額の2割を納税額とすることができる。もう一つは中小事業者向けで会計ソフトに補助金が設けられているほか、少額の取引にはインボイス不要などの措置が講じられている(P4参照)。

登録要否のチェックポイント
インボイス発行事業者への登録は任意。
免税事業者の登録には軽減装置も小規模事業者向けの負担軽減措置がある
インボイス発行事業者となるかは事業者の任意となっている。売上先がインボイスを必要とするか、申告に係る事務負担がどの程度あるのかといった点を踏まえて検討する必要がある。たとえば、BtoC取引や簡易課税事業者との取引には影響が生じない(図表3)。また、発注者の中には、これまでどおり取引を行う旨を表明している事業者もいるため、取引先の意向等も踏まえながら登録の要否を検討するといいだろう。
また、免税事業者がインボイス発行事業者を選択した場合に負担を軽減するため、納税額を売上税額の2割に軽減する激変緩和措置が3年間講じられる(図表4. 小規模事業者に対する納税額にかかる負担軽減措置(イメージ))。これにより、業種にかかわらず、売上・収入を把握するだけで消費税の申告が可能となることから、簡易課税と比較しても事務負担は大幅に軽減されることとなる。
免税事業者がインボイス発行事業者となった場合、消費税を加味した価格の設定、取引金額の見直しを検討することも考えられる。
インボイス発行事業者の登録を受ける場合には、事業者は、登録申請書を提出する必要がある。制度開始(10月1日)からインボイス発行事業者となるためには、9月30日までに申請すればよいが、申請から登録通知が届くまでには、一定の処理期間がかかる点には注意が必要。
一方で制度開始後に登録申請を行うことも可能。免税事業者が制度開始後に登録を受ける場合、令和11年9月30日の属する課税期間までの間は、登録希望日(申請日から15日を経過する日以後の日)から登録を受けることが可能な経過措置が設けられている(図表5. 免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置)。
また、中小・小規模事業者向けの負担軽減措置として、インボイス制度への対応を見据えたデジタル化や販路開拓等の取組において、以下の補助金が活用できる(詳しくはリーフレットを参照)。

1. 小規模事業者持続化補助金
免税事業者がインボイス発行事業者となる場合、補助上限額が一律で50万円上乗せされる「インボイス特例」が設けられている。

2. IT導入補助金
中小・小規模事業者向けに会計ソフト等の導入支援を行うIT導入補助金が設けられている。

インボイス制度への事前準備の基本項目チェックシート

登録編
売上先がインボイスを必要とするか検討
●消費者や免税事業者、簡易課税制度を選択している又は2割特例※1により申告する課税事業者である売上先は、インボイスを必要としない
●上記以外の課税事業者である売上先は、仕入税額控除のために貴社が交付するインボイスの保存が必要※2だが、制度開始から6年間は、免税事業者からインボイスの交付を受けられずとも、仕入税額の一定割合(80%・50%)を控除できる。
●売上先の数が少ない場合は、売上先に直接相談することも考えられる。
※1 納付税額を売上税額の2割とする特例。
※2 一定規模以下の事業者においては、課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満の取引は、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる(少額特例)ため、インボイスの保存は必要ありません。
登録を受けた場合・受けなかった場合について検討
●登録を受けた場合、売上先がインボイスを求めたときは、記載事項を満たしたインボイスを交付する必要がある。
●現在免税事業者の方であっても、登録を受けると、課税事業者として申告が必要となる。2割特例や簡易課税制度を適用することで、仕入税額の計算や仕入税額控除のための請求書等の管理等に関する事務負担を軽減できる。
●登録を受けている間は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となっても免税事業者となることはなく、課税事業者として申告が必要となる。
●登録を受けなかった場合、インボイスを交付できないが、売上先は、制度開始から6年間は仕入税額の一定割合(80%・50%)が控除できる経過措置が適用できる。なお、この期間の終了後は、貴社からの仕入について仕入税額控除ができなくなる。また、登録を受けない場合でも、インボイスに該当しない請求書等は交付できる。
登録を受ける場合は、登録申請書を提出する
●登録を受ける場合は、登録申請手続を行う必要がある。e-Taxによる登録申請手続を。
●個人事業者における屋号や主たる事務所等の所在地など、一定の事項を申出により併せて公表できる。

インボイスチェックポイント/買手編
仕入先の登録意向を確認し何をインボイスにするか認識を統一
免税事業者からの仕入れには経過措置がある
買手は、仕入先がインボイス発行事業者の登録を受けるか事前に確認し、何をインボイスとするかについて認識を統一しておいたほうが良いだろう。
また、仕入税額控除の適用を受けるためには、今後インボイスの保存が必要となるので、免税事業者や消費者などインボイス発行事業者以外から行った課税仕入れは、原則として仕入税額控除の適用を受けることができない。ただし、インボイス制度開始から一定期間は、インボイス発行事業者以外からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられている(図表5)。
取引先の免税事業者に対し、インボイス発行事業者となるよう要請する場合や取引価格等について再交渉する場合は、十分に協議を行う必要がある。インボイス制度を契機とした免税事業者等との取引において留意すべき事項については、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(公正取引委員会サイト)で紹介されている。
なお、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者となった事業者については、一定期間、納付税額を売上げに係る消費税額の2割とすることができる措置が設けられている(2割特例)。この2割特例の適用を受ける場合のほか、簡易課税制度の適用を受ける場合には、仕入税額控除の適用を受けるためにインボイスの保存は不要。
さらに、基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下である事業者が行う課税仕入れについて、その支払対価の額が1万円未満である場合には、インボイス制度開始から6年間、インボイスの保存は不要。一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除ができる。

インボイス制度への事前準備の基本項目チェックシート

買手編
2割特例や簡易課税制度を適用するかを確認
●2割特例や簡易課税制度を適用する場合、仕入税額控除のためにインボイスの保存は不要(よって、以下の項目は検討不要)。
自社の仕入れ・経費についてインボイスが必要な取引か検討
●継続的でないような一度きりの取引、少額な取引についても原則としてインボイスの保存が仕入税額控除の要件となる。
●3万円未満の公共交通機関や従業員に支払う日当や出張旅費、通勤手当などインボイスの保存が不要となる特例もある。
●一定規模以下の事業者は、1万円未満の取引について帳簿のみの保存で仕入税額控除が受けられるため、インボイスの保存が不要(ただし、経過措置終了後である令和11年10月1日以降の取引は、インボイスが必要)。
継続的な取引については、仕入先から受け取る請求書等が記載事項を満たしているか確認(必要に応じて仕入先とも相談)
●仕入先がインボイス発行事業者の登録を受けるかどうか事前に確認する。
●何がインボイスとなるかについて、仕入先との間で認識を統一しておくことが重要。
●必要に応じて価格の見直し等を相談。また、価格の見直し等の相談を受けることもある。
受け取った請求書等をどのように保存・管理するか検討
●請求書を、登録番号のありなしで区分して管理できるようにすることが重要。
●免税事業者からの課税仕入れに係る経過措置(80%・50%控除)の適用を受けるには、区分記載請求書の保存が必要。
●電子帳簿保存法のスキャナ・スマホ保存も検討する。
帳簿への記載方法や仕入税額の計算方法を検討
●インボイス制度の開始後も帳簿の記載事項は変わらない。
●インボイス保存不要な特例や免税事業者からの課税仕入れに係る経過措置の適用を受ける場合、その旨の記載が必要。
●仕入税額の計算方法は、積上計算と割戻計算がある(売上税額を積上計算すると仕入税額も積上計算が必要)。

インボイスチェックポイント/売手編
登録事業者にはインボイス交付義務と写しを保存する義務がある
インボイスの交付方法は事業に合わせて柔軟に
インボイス発行事業者には、取引の相手方(課税事業者に限る)の求めに応じて、インボイスを交付する義務(データでの提供が可能)及び交付したインボイスの写し※を保存する義務が課される。
インボイス発行事業者となった場合には、取引ごとにどのような書類を交付しているか確認し、どのように見直せばインボイスの記載要件を満たせるかについて検討する必要がある。また、必要に応じ、取引先に対して登録番号を通知し、インボイスとした書類やその交付方法等の認識を統一することも必要。
なお、インボイスについては、必ずしも1枚の書類で対応する必要はない。請求書と納品書など、相互に関連する複数の書類でインボイスとすることも可能だ。また、仕入れ先が支払通知書や仕入明細書として書類を作る場合、売手は改めてインボイスを交付する必要はない。
※交付したインボイスの写しとは、交付した書類そのものを複写したものに限らず、そのインボイスの記載事項が確認できる程度の記載がされているものもこれに含まれるので、例えば、請求書を作成した際のデータや簡易インボイス(適格簡易請求書)に係るレジのジャーナル、明細表などの保存があれば足りる。

インボイス制度特設サイトで情報を提供
国税庁のホームページ内のインボイス制度特設サイトでは、下記の情報を提供している。

1.インボイスコールセンター
インボイス制度に関する一般的※なご質問やご相談
0120-205-553(9:00~17:00 土日祝除く)
※個別相談(関係書類等により具体的な事実等を確認する必要のある相談)を希望される方は所轄の税務署への電話(音声ガイダンス「2」を選択)により、面接日時等をご予約ください。

2.インボイス制度に関する税務相談チャットボット

3.説明会の開催案内

4.インボイス制度に関する取扱通達やQ&A

5.インボイス制度について解説した動画
(国税庁動画チャンネル)

6.インボイス制度に関する各省庁等の相談窓口一覧表

インボイス制度への事前準備の基本項目チェックシート

売手編
取引ごとにどのような書類を交付しているか確認
●雑収入等も含め、売上先が事業者である取引についてインボイスの交付が求められる取引かどうか併せて確認する。
●インボイスは、請求書、領収書など名称は問わない。また、電子データでの提供や、手書きでの交付も可能。
●都度「納品書」の交付か、月締め「請求書」の交付か、レシート・手書き領収書の交付があるかなど確認。
交付している書類等につきどう見直せばインボイスとなるか検討
●インボイスは、登録番号、適用税率、消費税額等の記載が必要となる。
●消費税額に1円未満の端数が生じた場合「1のインボイス当たり税率ごとに1回」端数処理を行うことになる。
●相互に関連する複数の書類で記載事項を満たすことも可能。
●売上先が作成する「仕入明細書」「支払通知書」などにより支払いを受けている場合、売上先は、これらの書類により仕入税額控除を適用することもできる。この場合、貴社は売上先にあらためてインボイスの交付は不要。
●何をインボイスにするか、どう交付するか、システム改修等も含めて考える。
売上先に登録を受けた旨やインボイスの交付方法等を共有
●登録を受けた旨や何をインボイスとするか、交付方法等について、貴社と売上先で認識を共有することが円滑な準備にとって重要。貴社も準備を行っていると伝えれば、継続的な取引関係のある売上先の安心につながるとも考えられる。
インボイスの写しの保存方法や売上税額の計算方法を検討
●写しの保存は、コピーに限られない。電子データや一覧表形式、ジャーナル、複写式の控えなども認められる。
●売上税額の計算方法は、割戻計算と積上計算がある(売上税額を積上計算すると仕入税額も積上計算が必要)。
必要に応じて価格の見直しも検討
●それまで免税事業者だった方は、商品やサービスの価格について消費税を加味して見直しを。

図表.インボイス制度の概要(令和5年10月1日~)