財務総合政策研究所

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貿易・国際収支の構造的変化と日本経済に関する研究会
第5回会合
2013年3月6日(水) 10:00〜12:15
於: 財務省4階 西456「第一会議室」

第5回会合

◆報告 「経常収支赤字化が意味するもの」
報告者 小峰 隆夫   法政大学大学院政策創造研究科教授
報告資料[513kb,PDF]
     
◆報告 「生産性、グローバル・バリュー・チェーンと経常収支・為替レート」
報告者 深尾 京司   一橋大学経済研究所教授
報告資料[662kb,PDF]
     
◆報告 「貿易・経常収支と国力−英米の例を参考にして−」
報告者 飯田 敬輔   東京大学大学院法学政治学研究科教授
報告資料[1.50mb,PDF]

議事要旨

(1)報告 「経常収支赤字化が意味するもの」

小峰 隆夫 法政大学大学院政策創造研究科教授

経済的には財とサービスを区別する意味はなく、貿易収支とサービス収支を区別する意味はない。一方、経常収支は、GDPの外需にほぼ等しいこと、ISバランス上国内貯蓄と国内投資の差に等しいこと、フローの経常収支がストックの対外資産の増減をもたらすことなどの経済的意味が大きく、経常収支を中心に議論するべき。
経常収支黒字が減少したのは、貿易収支が赤字に転じ、その赤字幅が拡大したことが原因。その要因を貿易統計から分析すると、世界経済の低迷などによる輸出数量の減少、エネルギーを中心とした輸入数量の増加、輸出価格に比較して輸入価格が相対的に高い上昇率を示していること(交易条件の悪化)が挙げられる。
経常収支の今後の展望としては、震災前においても、国際収支の発展段階論や人口の高齢化により、いずれは経常収支赤字国になるといった見方が常識的だった。これに対し、震災後は、原子力代替エネルギーの輸入増、エネルギー価格の高止まり、国内産業の空洞化などにより、経常収支が赤字化する時期が早まったといった見方が出てきている。2012年12月に発表された日本経済研究センターの中期経済予測でも、2020年以降、経常収支および基礎的財政収支の「双子の赤字」を抱える経済になると予測している。
経常収支の赤字化をどのようにとらえるべきか、については、そもそも経済政策の目標は国民福祉を向上させることであるが、経常収支は経済成長や物価、雇用と異なり、国民福祉の向上につながるものではない。よって、経常収支は政策目標にはなりえず、黒字、赤字といった水準もそれ自体は問題にはならない。国民福祉の向上につながるのは、経常収支関連でいえば、貿易の増大であり、輸出と輸入が両建てで拡大していくことで国際分業が進められ、分業の利益を取り入れて経済が効率化することである。
経常収支の赤字化が、日本の「稼ぐ力」の衰え、日本経済の成長力の衰え、製造業の競争力の衰え、製造業の空洞化を示しているといった見方があるが、そのような現象を捉えるには、経常収支ではなく、「稼ぐ力」については経常収支の受取、成長力については生産性などの指標、競争力については個々の製造業のパフォーマンス、空洞化については製造業の立地などのデータをみるほうがふさわしい。経常収支は、これらの事象を示す指標としては説明力に乏しい。
経常収支の変化の背景に隠された問題点は、交易条件の悪化が貿易収支の赤字化をもたらすとともに、実質GNI(国民総所得)のマイナス要因となっていることにある。交易条件の悪化は、円高やエネルギー価格の上昇などの輸入価格の変化に対して、付加価値を削り、輸出価格を抑制したことでもたらされた。日本は産業全体の「付加価値形成力」を高め、輸出価格を上げていき、環境変化に対応していくことが必要である。
経常収支と財政赤字の関係については、経常収支が黒字であれば財政が安心というわけでは必ずしもなく、経常収支が赤字化すると、国債のファイナンスが突然海外依存型に変わるわけでもない。また、財政のために経常収支の赤字化を防ぐのは目的と手段が倒錯しており、経常収支が赤字化しても問題とならないような財政状態にすることが重要である。
経常収支をめぐる議論をみていると、経常収支の黒字はプラス、赤字はマイナスというような価値判断をもって受け止められている。常識的には経常収支はいずれは赤字化に向かうということであれば、それを冷静に受け止められるよう、国民の受け止めを修正していく必要がある。

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(2) 報告 「生産性、グローバル・バリュー・チェーンと経常収支・為替レート」

深尾 京司 一橋大学経済研究所教授

実質為替レートでみると、円はさほど円高ではないにもかかわらず、財・サービス収支の低迷が続いてきた。原因としては、中国、EU等の景気減速や日中摩擦、原子力発電の停止に伴う割高なエネルギー輸入の拡大、Jカーブ効果といった一時的とみられる要因に加えて、構造的な財・サービス輸出入関数のシフトといった長期的な要因の可能性が指摘できる。
日本のように資本移動が活発な国では、貿易摩擦がなく、また為替レートの調整メカニズムが阻害されなければ、輸出入関数のシフトは長期的には実質為替レートの減価によって相殺され、経常収支は完全雇用貯蓄・投資バランスで規定される筋合いにある。GDP比3%の巨大なGDPギャップが存在する以上、経常収支拡大の余地は十分にあり、更なる円安が予想される。しかし、実質為替レート減価(日本の交易条件の更なる悪化)は、日本の経済厚生を低下させるため、構造的な財・サービスの輸出入関数のシフトによる円安は、長期的には望ましいことではない。よって、輸出入関数のシフトが起きているか否か、起きているとすればそれはなぜかを分析することが重要となる。今回は以下の二つの視点から分析を行う。
第一に、生産性からの分析では、製造業(主に中小企業)において全要素生産性上昇が低迷したことが、日本企業の円高への耐性を弱めた可能性が高いと言える。全要素生産性上昇の低迷により、平均費用で見た米国と比較した日本の製造業の国際競争力は、1991年と比べて10%程度下落した。一方、ドル換算した日米製造業労働コストは、日本が10%以上割安になった。日本は、賃金を抑えることで競争力を一部回復している状況である。
製造業の全要素生産性低迷の背景には、大きな負の退出効果(生産性が比較的高い工場が閉鎖される)がある。これはおそらく、生産性の高い企業を中心とした生産の海外移転に一部起因する。TPPを含め、大企業の国内回帰を促進するような政策が必要と考えられる。
第二に、グローバル・バリュー・チェーンの変化から見た分析によると、1995年以降における日本の輸出拡大の中心は、電機、金属、化学、輸送機械等の中間財輸出であった。最終財・サービスの輸出が増えたのは、ほぼ輸送機械のみであった。特に対中国貿易では、電機、金属、化学等の中間財輸出の拡大と、電機、繊維、食品等の最終財輸入の拡大が顕著だった。一方、対米国貿易では、2005年頃より、中間財・サービス、最終財・サービスともに純輸出が急減した。
日本の中間財・サービス輸出の変化について、グローバル・バリュー・チェーン分析の手法とWIO(国際産業連関表)データベースを用いて、レオンティエフの考え方に従い、日本の各産業の総生産が、世界の最終需要と中間投入行列で規定される状況を想定し、各国各産業の生産の変化を、@世界の最終需要の変化で生じた部分と、A世界の中間投入構造の変化で生じた部分に要因分解を行うと、電機、金属、輸送機械、化学を中心に@が大きなプラスであり、日本はもともと1995年において、その後世界需要が大きく拡大するような、国・財生産に大量に投入される財・サービスを輸出していたことがわかる。
一方、Aはこれらの産業で大きなマイナス値であり、@の効果を一部相殺している。中間投入構造の変化は、日本からの中間財・サービス輸出を大きく減らすように働いた。日本の輸出は、グローバル・バリュー・チェーンの拡大と呼ばれている、世界的な生産工程分業の深化と中間財・サービス貿易拡大という構造変化のプラスの効果を享受できなかったと言うことができる。
その要因としては、中間財生産の海外移転や、途上国における日系企業を含めた現地調達の拡大、中国やASEAN諸国の部材供給国としての台頭、日本の製造業生産性低迷による競争力の喪失等が考えられる。生産の海外移転や海外における日本からの調達低迷は、日本がFTA、EPAの分野で大きく出遅れたことにも起因していよう。

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(3) 報告 「貿易・経常収支と国力−英米の例を参考にして−」

飯田 敬輔 東京大学大学院法学政治学研究科教授

国力は、政治学の中心的な概念である「力(power)」を、国と国との間の力として捉えることで、「他国の行動および心理に対するコントロール」と定義できる。国力には、ある特定の国に対する力を示す「関係上の力」と基軸通貨国のようなシステム全体における力を示す「構造的力」といった捉え方や、軍事力あるいは経済力に依拠したアメとムチによる力を示す「ハードパワー」とパブリックディプロマシーや広報外交で用いられるような当該国が持つ魅力に依拠した他国への影響を示す「ソフトパワー」といった捉え方がある。国力の構成要素として、力の資源と行使の意思がある。国力の資源の例として、地理、天然資源、工業力、軍備、人口、国民性、国民の士気、外交の質、政府の質、非対称的相互依存が挙げられる。
日本の国力について、軍事力をみると、防衛費は2011年時点で世界第4位であり、突出して強大ではないにしても特に弱いわけでもない。外交上最も重要なODAは、1990年代の第1位から2010年時点で第5位と凋落傾向がみられる。天然資源については、有事には他国からの供給ルートが絶たれるため、決定的弱点となる一方、天然資源をめぐる政府の腐敗を回避できるという点で、脆弱とも恵まれているともどちらともいえる。日本の持つ高い技術力については、経済的にはもちろん、外交的にも潜在的にはソフトパワーの源泉であるが、技術は民間部門が保持しており、外交力には転換しにくい。
貿易・経常収支が国力に与える影響は、貴金属を蓄えることで戦費調達が容易になるという重商主義的な考え方を想起させるが、国家間戦争がまれになった現代的な問題としてみると、経常収支、あるいは貿易収支赤字国は通貨危機に襲われる可能性が高いということが指摘できる。特にIMFの救済を受けると、コンディショナリティの受入などが非常に大きなコストになる。アジア諸国がアジア通貨危機以来、外貨準備を積み増していることにはこうした背景があると推測される。
通貨危機の際にどのようなことが起きたかを過去の例でみると、まず、英国の例では、第2次世界大戦までに経常収支が危機的状況に陥ったが、1941年3月に米国で武器貸与法が成立し、米国からかなりの物資の供与を受けたことで、さしたる譲歩はなく国際収支危機が緩和されている。この背景には、連合国側について参戦したいという米国の思惑に合致していたため、英国が好条件で支援を受けることができたということがある。1976年にはIMFから融資を受け、コンディショナリティとして大幅な財政赤字削減を約束したが、財政再建は危機前から提唱されており、コンディショナリティはむしろ財政再建実施の口実となった。
米国の例では、ベトナム戦争拡大以降、国際収支が次第に悪化し、金の流出も増加した。それに対処するため、ニクソンショックにより事前通告なしにドルの金交換の停止、10%の輸入課徴金を賦課したが、他国の米国市場への依存や基軸通貨としての強みを背景として、ほぼ一方的に他国からの譲歩を勝ち得ている。1985年のプラザ合意の際も、米国の行った譲歩は共同介入への参加のみであった。
経常収支が黒字国であることは、通貨危機におそわれにくいという意味では国力の源泉と言える。一方、米英の危機時の交渉から見ると、赤字国はそれほど多大な譲歩は迫られておらず、その理由としては信頼できる友好国がいたことが大きい。経常収支は中長期的におおむね均衡していることが望ましいが、赤字国になった場合には協力的な友好国の存在が重要であり、日本が今後そういう国を持ち続けられるかどうかが鍵となる。

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(4) 総括としての自由討議

為替レートが上昇した時、日本は円高に応じて円建ての輸出価格がほぼ連動して下がるのに対し、ドイツやフランスは自国通貨建ての輸出価格がほとんど一定であるという違いが見られる。日本の製造業は、製品の機能を向上させるとともに、ブランド、嗜好等のニーズを取り込み、価格を下げないようにすることが重要ではないか。
⇒円高になった時、どれだけ外貨建ての輸出価格の引上げに転嫁できるかというパススルーの問題については、日本にしか作れないような製品であれば価格に転嫁できたが、競争力の衰えにより価格転嫁力が相当低くなっているのではないかと考えられる。
⇒パススルーの議論は、為替が動くと価格がどう変動するかという点が論点になるが、交易条件や日本の競争力を考える際は、より中長期的に、日本がどういう産業構造を持っているか、物価の下落に対して為替がどのように変動したかといった点が重要になる。
⇒交易条件の利得の寄与度がマイナスであるのは、主要な輸出産業である電機産業などの生産性の上昇が早く、生産物の価格低下が早いことも関連しているのではないか。

企業が付加価値形成力を高めるにはどうすればよいのか。例えば企業の給料を上げればよいという意見についてはどのように考えるか。
⇒確かに賃金は付加価値の一部であるが、現状のまま賃金を上昇させても、単位コストの上昇、経営の行き詰まりが発生し、逆に付加価値を下落させる可能性もある。高い値段をつけても売れるような製品、サービスの開発促進を行えば、付加価値形成力も高まり、ひいては賃金の引き上げも可能となるのではないか。

経常収支はシグナルにすぎず、経常収支の赤字化の背景がより重要との御説明があったが、財政状況が悪い国にとっては、やはり経常収支は重要な指標として見られおり、マーケットも注目しているのではないか。

近年、マーケットが合理的に決まらず、それぞれの時代に人々がどう思っているかというムードやファッションで非合理的に動く傾向がみられる。その意味では、経常収支の赤字が非合理的な影響をもたらし、国債市場に影響を及ぼす可能性はあるかもしれない。

財政再建には歳出削減や増税が必要だが、これらは景気へのインパクトも大きいため、LNGの輸入価格を下げる、投資収益を増やすといった経常収支の黒字を残すことを意識した政策を考えることも重要ではないか。
⇒経常収支そのものに対する政策は必ずしも必要ではなく、経常収支の変化をもたらしている背景にある問題点を解決していくべきである。全体としての財・サービスの生産能力を高める成長戦略がうまくいけば、企業が国内でも海外でも稼げるようになり、経常収支が今のような勢いで赤字化することも避けられるのではないか。また、経常黒字を残すべきかどうかという議論は、固定レートか変動レートかという通貨制度の違いにも影響を受けるし、金融の健全性が維持されていれば、経常赤字が危機的な状況につながることも避けることができる。

日本の経常収支のシナリオについて、極端な円高が進行したり、原油価格が大きく高騰したりしない限り、経常赤字にならないというシミュレーションもある。2020年に赤字化するというシナリオではどのような想定をおいているか。
⇒日本経済研究センターのものは、為替レートは購買力平価で決定されるモデルであり、基調的に円高が進み、2025年に70円となる想定である。原油価格も同様で、2025年では193.2ドルに上昇する想定である。最近の円安は考慮されていないので、担当者は、見直す必要性があるかもしれないとしている。

対米貿易がリーマンショック前からかなり減少しているとあったが、中国や東南アジアを介して日本からアメリカに輸出されている部分は考慮されているのか。別途分析することは可能か。仲介部分はどのくらいあるのか。

対米貿易は2004、2005年が非常に増加していたため、そこを外せば元に戻ったとも考えられるかもしれない。
⇒今回の分析では考慮していないが、面白い視点であるので、WIOデータを用いた分析ができるかどうかを考えてみたい。

企業の生産性低下の背景にある負の退出効果、企業の新陳代謝の停滞について、大企業の海外シフトと中小企業の非効率性の両方の問題があるが、どちらの問題が大きいかについては分析できるのか。
⇒OECDのWPIA(産業分析のためのワーキングパーティー)で、各国がミクロデータを持ち寄って新陳代謝の国際比較をするプロジェクトが進んでいる途上であり、今後、データが揃えば分析ができる可能性がある。

日本の中間財・サービス輸出構造の変化をみると、世界の最終需要はプラスに寄与しているが、リーマンショック以降、成長フロンティアが新興国へシフトしている中、日本の主要な輸出産業である自動車や電機産業の最終需要が伸びる構造は難しくなっているのではないか。直近の変化までみて構造変化を捉える分析はできないのか。
⇒WIOのデータは2009年までしか公表されていないため、現時点では分析ができないが、そのような構造変化が生じている可能性はあると考えられる。

今後日本がEPA、FTAを締結すれば、生産の海外移転、海外における日本からの調達低迷といった生産構造の変化は取り戻すことができるのか。
⇒日本に戻ってくるように円安が進むのではないかと考えられる。フランスでは製造業再生のための省庁を設立し、米国も大統領が主導して製造業回帰を目指すなど、生産拠点を自国に再び戻す活動は様々な先進国で広がっており、日本もそうしたことを考えてもよいのではないか。
⇒例えば化学産業に関しては、海外生産による価格メリットが享受できる部分は海外生産をし、国際的競争力があり差別化できる部分は国内に残している。残っている部分のインパクトが大きくないため、海外展開が進んでいるように見えるが、コアな部分についてはまだ国内に存在しているのではないか。

EPAやFTAの締結、あるいは関税の撤廃をした後の貿易の変化を見ると、中間財の輸入が増えて国内生産と代替することにより、最終財でみる場合と中間財を考慮した場合で、付加価値比率が異なることがある。今回紹介された分析は輸出、製造業が中心だが、輸入サイドで最終財、中間財の生産の変化をみることや、第一次産業やエネルギー輸入も対象とした分析はできるのか。
⇒WIOのようなデータを用いて分析することが可能かもしれないので、検討してみたい。

経常収支は均衡していることが望ましいとあるが、経常収支が赤字になっても問題ないと考えられるのか。
⇒赤字の規模によって、問題は変わってくるし、赤字の継続が短期的なものか、中長期的に続くものなのかでも評価は大分変わるのではないか。

韓国は15年前にIMFの救済を受けた際に、厳しい条件を課された経験があるため、貿易収支・経常収支の黒字にこだわっている。日本は、1960年代以降、対外借入能力について問題となることがなかったが、借入に制約が出てきた場合は経常収支に対する見方が変わるかもしれない。
⇒赤字の記憶があるかどうかでは、受け止め方が異なることはあるかもしれない。赤字を非合理的に恐れる必要はないが、危機が生じた場合赤字国は主張を飲まされる立場となる可能性があり、黒字国とは立場が異なることを認識していく必要がある。

ギリシャのようなソブリン危機は日本でも起こるか。他国に日本国債を保有してもらうことは、危機を防ぐ手段となるか。
⇒日本とギリシャは状況が異なる。ギリシャはユーロを離脱できず、仮に離脱して通貨を切り下げるとすると、対外債務のほとんどがユーロ建てなので膨大なキャピタルロスも発生する。一方、日本は膨大な対外債権国である。なお、日本の国際貸借の通貨建内訳がどのようなものか、日本の居住者がどれくらい為替リスクを負っているかを意識した議論は必要であるし、対外純資産がかなり減少した場合には深刻にとらえる必要が出てくるかもしれない。
⇒リスク分散の観点からは、多くの国に日本国債を保有してもらうことが望ましいのではないか。

実質実効為替レートではあまり円高ではないにもかかわらず、輸出企業はそれを実感することができず、輸出の採算を取るのが難しくなっている理由はどのようなものか。
⇒過去15年の間、海外での企業の生産能力の上昇、生産コストの低下、技術移転が進んだため、実質実効為替レートは円安であっても、相対的に海外生産の方が競争力が高まったではないか。また、円の対韓国ウォン、対中国元レートなど、日本企業の競合相手の通貨安政策とも関係があるのではないか。

財政状態と経常収支に関係があるかについては、固定相場制と変動相場制で異なる。ユーロ圏では、過剰な資本流入があること自体が、国内の産業構造や財政に対しても問題となりえる。日本は変動相場制であり、状況は違うのかもしれないが、通貨制度と経常収支の問題も含め、議論を深める必要がある。

GNIとGDPの違いも重要であり、成長の果実をマクロ的にこのどちらで見るかでかなり異なってくる。GDPは国内価格で評価した付加価値の総額であるのに対し、GNIは経常収支のバランスを前提とした上での国内の総消費額であり、国内のGDP、所得収支、交易条件効果の3つに分解できる。日本の所得収支の収益性や、交易条件の悪化は重要な論点である。

経常収支のグロスとネットについては、分けて考える必要がある。輸出・輸入はGDPの14%・15%の大きさで、その差(ネット)が経常収支を表す。しかし、実際にはGNI、GDPの70、80%ある国内消費、国内投資、場合によっては財政収支といった国内の部分の方が非常に大きく、重要となる。また、輸出・輸入もネットでみるのではなく、各々グロスで増加させていくことが重要になる。

経常収支の問題というのは時代のコンテクストの中で議論することが必要であり、15年間デフレが続いている経済環境の中で、例えば、実質成長率や実質金利といったマクロ環境がどのように変化して、それにより結果的に日本の貿易収支や経常収支にどう影響が及ぶかを考えていくことが求められるだろう。

(以上)

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