財務総合政策研究所

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貿易・国際収支の構造的変化と日本経済に関する研究会
第4回会合
2013年2月19日(火) 15:00〜17:15
於: 財務省4階 西456「第一会議室」

第4回会合

◆報告 「我が国企業のものづくりと価値づくりにおける問題点」
報告者 延岡 健太郎   一橋大学イノベーション研究センター教授・センター長
報告資料[845kb,PDF]
     
◆報告 「EPAの経済効果分析」
報告者 川崎 研一   内閣官房内閣参事官
報告資料@[6.77mb,PDF]      報告資料A[177kb,PDF]
     
◆報告 「韓国のFTAの影響」
報告者 奥田 聡   亜細亜大学アジア研究所教授
報告資料[763kb,PDF]
     

議事要旨

(1)報告 「我が国企業のものづくりと価値づくりにおける問題点」

延岡 健太郎 一橋大学イノベーション研究センター教授・センター長

我が国企業の現状と今後を考えていく上で、企業経営において「価値づくり」を行うことが重要である。価値づくりの「価値」は付加価値のことで、安く作って高く売る、高くても顧客に購入される商品・サービスを創出することを指す。
10-15年前であれば、「ものづくり」の良さ(品質、価格、コスト、納期等)が価値を決定していた。だが、近年では価値づくり、つまり、ものづくりに「独自性」と「顧客価値」を加えたものが必要であり、後二者(独自性と顧客価値)の重要性が高まっている。
企業や政府は、ものづくりさえ改善すれば経済は良くなる、という考えを改め、価値づくりの重要性を理解する必要がある。付加価値を増大させることは、従業員には雇用の維持・賃金の上昇、株主には株価上昇や配当の増加、国には税収の増加をもたらし、顧客にも満足できる商品を提供することが可能となる。
企業の付加価値率(売上高に占める付加価値額の割合)は減少が続いており、我が国を代表する産業である電機産業の営業利益や総資産営業利益率をみると、過去20年あまり低迷が続いている。電機産業が苦境に立たされた要因は、他の産業に比べて事業内容も技術も複雑なため、事業の選択や集中ができず、価値づくりに向けた戦略的経営が困難なためと考えられる。国内の大手電機メーカーは全て総合電機メーカーになっており、特定の製商品に特化して各分野で凌ぎを削っている世界のメーカーに勝つのは難しい。
企業には各社独自の戦略や取り組みがなく、どの会社も業績が景気・為替・金利など外部環境によって左右されている。また、全ての大手企業が成長すると見込まれる限られた分野での競争を繰り返して消耗している。価値づくりにとっては横並びこそが最大のリスクであって、その企業にしかできない技術力を蓄積することに加えて、顧客価値を創出することが極めて重要である。
顧客価値には、機能・スペックといった技術に裏付けされた客観的な評価軸で定まる「機能的価値」と、使いやすい、気持ちいい、顧客企業にとって利益になるといった、個別の顧客による主観的・状況依存的な評価軸で定まる「意味的価値」の2つがある。消費財であればステイタス性や芸術性など顧客にとって主観的な重要性を持つ価値を、生産財においては、顧客も気付いていない、顧客自身の利益を増加させる提案を行うことを指す。日本企業は、機能的価値を高めることへのこだわりが強いが、意味的価値の向上の重要性を認識する必要がある。

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(2) 報告 「EPAの経済効果分析」

川崎 研一 内閣官房内閣参事官

EPA の経済効果分析については、平成22年10月に内閣官房がとりまとめた「EPAに関する各種試算」に、GTAPモデル(1992年に設立されたGlobal Trade Analysis Projectにより構築された応用一般均衡モデル)を使った分析の結果として公表されている。その後、平成23年5月には、RIETI(独立行政法人経済産業研究所)のコラムに、日本がTPP(9か国)に参加した場合には日本の実質GDPが0.54%増加するという試算を公表している。これらの試算に関して良く質問を受ける点について、以下4点述べていく。
まず、TPPに参加した場合、実質GDPが0.48%〜0.65%(金額で2.4兆円〜3.2兆円)増加すると試算していることについて、この経済効果は10年間の累積効果であると受け止められることが多い。しかし、この試算は、10年程度が経過した時点において、貿易を自由化した場合としない場合の差分を示しているものである。したがって、当該期間が経過した後、貿易の自由化による経済効果は永続的に続くことが期待される。
第二に、貿易自由化により、輸入が増加して生産がマイナスとなる産業があるのに、どうして経済全体がプラスになるのかという指摘がある。確かに個別の産業をみると、主に農林水産業で輸入が増加し、当該産業にはマイナスの影響があるかもしれないが、主に製造業には輸出増加、消費者には輸入価格の下落による実質所得・消費が増加するというメリットもある。そのため、輸出と輸入、消費をトータルで考えた場合に、経済効果がプラスになる。
第三に、関税撤廃の経済効果は小さいのではないかという議論がある。しかし、この試算は関税削減・関税撤廃という部分についての効果だけであり、非関税措置の削減や、サービスや投資分野の自由化を含めると、関税撤廃の効果と比べても全体では何倍にも大きくなる可能性がある。
第四に、外交通商戦略の中では、TPPよりもRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の方が有益ではないかという議論がある。だが、アジア太平洋全体のFTAAPに向けて、どちらかではなく、非関税、サービス・投資の障壁削減を含めた高いレベルの効果が見込まれるTPPと、成長著しい広大なアジア市場を取り込んで一定の効果が見込まれるRCEP、この2つの枠組みをうまく組み合わせていくことが重要である。
私のRIETIのコラムでの試算では、TPP、RCEP、FTAAPの順で経済効果が高くなっているが、2012年のPECCの年次報告に掲載されたブランダイス大学のペトリ教授の試算では、全てにおいて私の試算より経済効果が大きく、また、TPPとRCEPの効果が逆転している。ペトリ教授の試算の数値が私の試算より大きい理由は、関税の撤廃だけではなく、非関税措置の削減、サービス・投資の自由化といった様々なEPAの総合的な経済効果を含めて試算しているためである。また、ペトリ教授は、TPPでは100%に近い関税削減など各分野で高いレベルの自由化が実現されるが、RCEPでは関税撤廃率が低くなるなど、過去の事例を参考にした細かい想定に基づく試算を行っているため、想定に差をつけていない私の試算よりもTPPの効果が大きくなっている。しかし、第四の指摘でも述べたように、TPPとRCEPどちらかではなく、両方の良いところを組み合わせ、アジア太平洋全体でレベルの高い、広がりを持ったEPAを目指す方が経済効果は大きくなる。

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(3) 報告 「韓国のFTAの影響」

奥田 聡 亜細亜大学アジア研究所教授

韓国では、李明博大統領による強力なリーダーシップのもとでFTAが推進されており、米国やEUなどの大国を相手としていること、交渉が短期間に遂行されていることから、日本でも韓国のFTA政策が注目されている。
韓国のFTA推進の理由は大きく3つ存在する。1つは輸出促進であり、輸出がGDPの約5割を占める韓国には、輸出なくして経済成長はない。自国の輸出先や進出先という意味の経済領土を拡大させると同時に、価格競争力を強みに輸出立国となった韓国にとってFTAは不可欠である。2つ目は、韓国から国外に進出した企業には、韓国内から購入する資材等のコストダウン効果がある。3つ目は、先進国向け輸出の価格引き下げ余力の向上がある。これらに対して、輸入品の価格低下などで消費者が裨益するかどうかについては、ほとんど議論されていない。
FTAを推進する反面、国内で生じる被害については、企画財政部のFTA国内対策本部が担当し、国内調整に当たっている。特に重要な農業対策については、2004年に提出された「農産品自由化対策119兆ウォン投融資計画」で、FTA補償の大枠が設定されて、個別のFTA締結ごとに、きめ細かな対策が実施されている。競争力向上や体質改善に重点が置かれているが、戸別補償などの対応も盛り込まれている。
国内世論はFTAに対して概ね好意的であり、大手企業が優遇されているのではという声がないわけではないが、輸出抜きに経済発展はないという国民的な合意が得られている。ただし、素早い交渉がなされる反面で、利害関係者の調整が不十分なまま交渉を進めてしまい、国内調整に苦労することもある。
米国とのFTAは、批准まで時間がかかったが、韓国側が果敢な譲歩を行いつつも、コメは除外するなどの成果も得て、交渉自体は10ヶ月で妥結した。発効から9ヶ月ということもあり、今のところ締結の影響はみえにくい。EUとのFTAは、国内の反発が少なく、開放率が高い実利的な内容となっている。発効後1年の効果を検証してみると、韓国の対EU輸入が関税撤廃項目で約25%増加している一方で、対日輸入が0.8%減少しており、一部品目では日本製品からの乗り換えとも見える動きがある。
韓国は、中国とのFTAには最近まで慎重な姿勢を取っており、昨年5月から交渉が開始されたところ。韓中FTAが発効した場合の日本の影響は、約80億ドルの輸出減少(対韓国市場が10億ドル、対中国市場が70億ドル)と推計される。中国市場における日韓の競合が熾烈であることに加えて、関税率の高さと貿易額の大きさから、中国市場で失う輸出が大きくなると考えられる。
韓国のFTAに見られる、政権のリーダーシップの重要性や、補償の大枠を早期に示して市場開放による被害者の不安を払拭する国内対策の実施などは、日本への示唆となるだろう。日本の対策として、韓中FTAによる輸出80億ドルの喪失を防ぐべく、日中韓FTAなどの推進が必要である。

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(4) 自由討議

日本企業の意識のどのような点に問題があるのか。日本企業もアップルなどの成功例を研究して、経営学も学んでいるだろうが、どうして日本企業は価値づくりの経営が出来ないとお考えか。
⇒企業は、「価値づくり」を目指すべきであるのに、それができていないことに問題があり、政策も企業が独自の価値を追求すべきであることを示さなくてはならない。企業がうまくいかない理由は簡単には言えないが、個人がリスクを取ることをおそれ、独自の取り組みによって大きく失敗することを回避するため、横並びから抜け出すことができず、他社との差別化ができないことが理由ではと考えている。

企業の中でも、価値づくりとものづくりは性質が異なり、担っている部署や組織を別にすることも一つの方法ではないかと考える。例えば、研究所では、組織はフラットで勤務形態もフレックスタイム制にするなど、比較的新しいものが生まれやすい環境を整え、発案された価値ある製品を、製造部門でどれだけコストを低く、環境負荷を少なく作るということが考えられるのではないか。
⇒企業の目的は価値づくりで、その一番の武器がものづくりだと考えると、役割分担をするとしても、それを会社として最後にそれぞれをまとめることが重要で、現状はそれができていない企業が多いのではないか。

例えば、日本のTPPへの参加の最適な形やタイミングについて、モデルからインプリケーションは得られるのか。
⇒参加の形態については、なるべく例外がない方が輸出も輸入も増えてマクロの経済効果は大きくなると考えられる。理論的には最適関税率の議論があり、100%関税を撤廃すると、交易条件の悪化によって効果がマイナスとなることがあるが、長い研究のなかでも稀にちょっとマイナスという位なので、モデルから実証的に分析した場合に、関税はなるべく沢山撤廃したほうが双方に利益があるという結果になっている。タイミングについては、モデルでは時間軸のない比較静学なので動学的分析は難しいものの、EUの企業にヒアリングしたところ、生産に使う部品であれば、先にFTAが締結された国からの輸入にシフトして生産ラインを入れ替えてしまうと、後からFTAを締結して価格が安くなっても再度の入れ替えは行わない可能性があり、その意味では時間軸は重要となる。また、先にルールができあがった後に参加することの難しさもある。

TPPの経済効果について、米国側で実施されている試算は存在するか。
⇒米国では、著名な学者の分析事例はあるが、手続上、議会で条約を批准する際に経済効果分析が提出されることとなっており、政府の公式の経済効果分析は現時点では示されていない。

国内では、FTAが雇用に及ぼす影響についての関心が高いが、日本の影響はどうみるか。また、韓国では雇用への影響についてどういう議論があったのか。
⇒日本に関する試算では、モデル上は雇用が一定という前提で試算している。個別の産業への影響は、多くの試算がなされているが、その中でマクロ的な信頼度の高いものをベースに議論することが適切と考える。韓国でもFTAが雇用に及ぼす影響についての関心は高い。韓米FTAの政府間交渉当時の資料には、農業のGDP減少とともに職がどれくらい減るのかといった試算がなされていた。

日本のGDPへの効果が、FTAAPでは1.36%のプラスだが、世界全体で自由化した場合は1.25%ということは、貿易創出効果と貿易転換効果の両方が入っているものだと推測される。そうなると、TPPができた段階で更にアメリカとEUによるFTAが成立した場には、数字が変わってくると思うが、このような試算は存在するか。
⇒試算は存在しないが、貿易創出効果と貿易転換効果の相対的な大きさが問題となるので、日本がTPPに参加したときに一部の国へどの程度マイナスの影響が及ぶかといった試算から、ある程度は結果を読むことができると思われる。加えて、他国が先行してしまうと日本が失う部分も想定されるので、遅れることのリスクも大きいことに留意が必要である。

韓国FTAのGDPや国際収支に与える影響をどのように分析しているか。韓国と米国との交渉を踏まえて、日本への留意点や示唆はあるか。
⇒韓国が米国との交渉を妥結した段階での試算では、10年後にGDPを約6%押し上げるというものが存在し、他にも多くの試算がなされている。韓国の対米交渉から得られる示唆としては、米国が交渉の前提として4つの条件を示したのに対し、とてものめないと思ったがそれを受け入れ、その結果韓国側が優位に交渉を進めることができたことがある。相手側の要求にある程度対応した上で、こちら側の要求を堂々と主張したという点には大いに注目できる。

韓国のEPAが進むと、日本がアメリカ市場・EU市場を失うのではないかという議論がある。しかし、韓米・韓EUのEPAの締結によって、日本はアメリカ市場・EU市場を失うというより、韓国市場でアメリカ・EUからシェアを奪われるのではないか。その意味でも他国から遅れることのリスクを意識する必要がある。

(以上)

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