| ◆報告 | : | 「所得収支構造の変化と影響」 |
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| 報告者 | : | 野口 雄裕 みずほ総合研究所株式会社市場調査部シニアエコノミスト |
| 報告資料[11.0mb,PDF] | ||
| ◆報告 | : | 「国際的な生産ネットワークの発展:その頑強性と国内オペレーション」 |
| 報告者 | : | 安藤 光代 慶應義塾大学商学部准教授 |
| 報告資料[8.1mb,PDF] |
野口 雄裕 みずほ総合研究所株式会社市場調査部シニアエコノミスト
| ・ | 我が国の所得収支は、近年、堅調に増加してきている。所得収支のうち構成比が一番大きい債券利子は、2007年をピークに減少している。一方で、直近2011年においては直接投資収益や株式配当金が増加してきている。対外資産負債残高および収益率から見ると、所得収支の増加要因は、直接投資残高が増加しており、その収益性が高いことが挙げられる。減少要因は債券の収益率、すなわち金利が低下していることである。負債面からは、債券の負債残高が伸び、支払率は低下していることが所得収支の押し上げ要因といえる。 |
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| ・ | 債券投資についてみると、日本からの投資先は欧米が中心で、上位10か国で約8割を占める。その中でも米国は3割と最も大きいことから、米国債の金利変動の影響を受けやすいといえる。一方、日本に対する債券投資は上位10か国で約2割とかなり分散している。債券利子の受取の減少は主に米国、ドイツなど海外主要国の債券利回りの低下によるもので、米国の金融緩和の長期化、各主要国のイールドスプレッドのマイナス幅拡大にみられる投資家の安全資産選好をみると、今後も債券利回りは低位での推移が続くとみている。 |
| ・ | 直接投資についてみると、直接投資残高は北米が最も多いが、2000年以降アジアが急激に伸びてきており、アジア内では中国、タイ、フィリピンの伸び率が高い。業種別では、2006年から2008年にかけて非製造業が伸びたが、直近2011年は製造業が急増し、内訳では大型M&Aのあった医薬品のほか、輸送機械や電気機械が増加している。直接投資拡大の背景には、円高により海外生産のコストメリットが相対的に増大していること、海外現地法人の利益率が国内企業を上回っていることがあげられる。地域別の収益率は、アジアが高水準であり、特に中国のプレゼンスは高く、直接投資収益の増加に寄与しているといえる。 |
| ・ | 株式投資についてみると、2010年のデータでは米国企業が残高全体の4割を占め、米国企業の業績回復が配当金の増加につながっているとみられる。 |
| ・ | 日本を巡る資金フローの変化を2005年と2011年の比較でみると、債券投資が、日本から海外への投資は減少している一方、海外から日本への投資では大幅に増加しているのが特徴的である。欧州債務問題による安全資産選好の高まりにより、海外投資家は、低金利だが、ボラティリティが低いことから、シャープ・レシオ(収益率/ボラティリティ)、すなわち変動率を加味した収益性も考慮して日本国債への投資判断を行っている。外貨準備資産における通貨比率でみても、ドルやユーロは低下傾向だが、円は緩やかに増加傾向であり、こうした動きも日本に資金が流れてくる背景の一つである。 |
| ・ | 所得収支の見通しをシミュレーションすると、経常黒字が維持される限り、所得収支は増加していくというのがメインシナリオである。リスクシナリオとして原油価格の上昇(シナリオ@)、LNG輸入の増加(シナリオA)を織り込んでも、所得収支黒字が貿易収支赤字を上回ることで経常収支黒字を維持し、対外純資産が増加することで所得収支も増加することから経常収支赤字は想定されないとみている。しかし、極端な円高進行(シナリオB)を加えると、経常収支は2019年に赤字化すると試算される。 |
| ・ | 米国の対外純資産負債残高、所得収支の動きをみると、対外純資産はマイナスだが、資産で直接投資、株式の比率が大きく、収益率が高い一方で、負債はコストが低い債券比率が高いため、所得収支はプラスである。米国の直接投資の収益率が高いのは、企業のグローバル展開が進み、海外での売上げを拡大していることによる。英国は対外資産負債とも金融のウェートが高いのが特徴であり、最近の所得収支の減少は、リーマンショックの影響とも考えられる。 |
| ・ | 経常収支と為替について、日米英の推移をみると、実効レートの上昇に伴い経常収支(対名目GDP比)は悪化している。新興国については、経常赤字国では総じて通貨安の傾向がみられる。一方、経常収支と長期金利についてみると、日米では経常収支動向にかかわらず、一貫して金利は低下しており、南欧諸国では経常赤字に伴い、金利も上昇している。金利は国債の信認の影響を受けること、日米欧の事業法人・家計の余剰資金が国債に流れやすくなっていることも金利を下げる要因と考えられることに留意する必要がある。 |
| ・ | 我が国は経常黒字に伴い、対外資産が増え、所得収支も増加している。米英のように対外負債を増やすことは長期金利高騰のリスクがあり困難と考えられる。但し、国債保有者が国内金融機関に偏重していることから、相場の動きに対して一斉に同様の反応をする可能性があり、海外投資家比率を拡大させることも選択肢ではないか。海外投資家比率の拡大が長期金利の急騰を和らげる効果も考えられる。 |
| ・ | 我が国の所得収支の安定的な確保に向けて、資産面では、収益性の高い直接投資を拡大させることが重要。これには、中国のみに依存せずにエリアを分散するという観点とともに、企業の直接投資の支援策を拡充することも必要である。証券投資収益は期待しにくい現況であるものの、運用効率の引き上げ、デュレーションの長期化などの運用の多様化が考えられる。負債面では、負債コストを引き下げるために、債券調達基盤を安定化するシステムも必要ではないか。 |
安藤 光代 慶應義塾大学商学部准教授
| ・ | 企業は近年、東アジアなどを中心とした国際的な生産・流通ネットワークを拡張させている。先進国企業からみた場合、多国籍企業による低所得国への直接投資(FDI)により、本国における空洞化が起きる懸念が指摘される。海外で生産ネットワークを拡大している企業が国内のオペレーションを縮小するかどうかは、FDIを通じた生産コストの削減による競争力の強化の有無やFDIの性質(国内のオペレーションが海外でのオペレーションと補完的か、代替的かなど)に依存しており、国や時期によっても状況は様々である。今回は、最近の日本における輸出動向、輸出額の変化からみた生産ネットワークの性質、東アジアでのオペレーションの拡大と国内のオペレーションの関係について見ていく。 |
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| ・ | 近年の日本の輸出動向をみると、全製品において、世界金融危機時に負の影響が出ており、その後V字回復している。東日本大震災時にも少し落ち込みがみられるが、その後大きく回復している。特に機械部品の対東アジア輸出においては急速な回復がみられる。機械完成品(特に自動車)は、世界金融危機時は同様の動きだが、東日本大震災時も大きく落ち込み、その後急速に回復している。 |
| ・ | 日本の輸出先かつ品目別の項目数をみると、世界金融危機時に大きく減少した後、2007年頃の水準には戻っておらず、日本企業が世界金融危機を契機に海外の活動拠点や輸出拠点を再編成させたことが示唆される。 |
| ・ | 生産ネットワークの性質をとらえるため、輸出の変化率を数量・価格効果といった「intensive margins」と参入・退出効果といった「extensive margins」に要因分解して分析を行った。このうち退出効果に着目すると、ショックによる下降期、その後の回復期いずれにおいても、機械完成品と比較して、機械部品の退出効果は小さく、とりわけ対東アジアにおいて小さい。このことから、機械部品・中間財取引は取引関係がなくなりにくい、つまり頑健性があり、安定的であることがわかる。 |
| ・ | 輸出の落ち込み・復活確率におけるロジット分析では、機械完成品と比べ、機械部品は貿易関係を継続する確率が高く、一旦貿易が止まったとしても回復する確率が高い。また東アジア諸国の中でも、域内の生産ネットワークに深く関与している国ほど、貿易関係を継続する傾向があり、貿易がなくなったとしても回復させる確率が高いことが示された。このことから、生産ネットワークや集積の存在が貿易の回復を牽引することがわかる。その背景としては、ネットワーク内で一つでも部品の供給が滞ると全体の生産が止まってしまうため、参加企業が協力してネットワークを復旧するべく努力するインセンティブがあることや、ネットワークの中でいったん取引関係ができると、その変更に伴う取引費用を避けるために取引関係を維持しようとするインセンティブが働くことが考えられる。 |
| ・ | 国際的な生産ネットワーク拡張と国内オペレーションの変化との関係について、企業データを用いてロジット/OLS分析を行い、以下4点の結果を得た。 |
| ・ | @東アジアでのオペレーションを拡張している製造業企業(以下、拡張企業)は、そうでない企業と比べて、国内雇用を増加する確率が高く、雇用の増加率も高い傾向にある。特に2002年から2006年においてその傾向が強く、世界金融危機時にも同じ傾向がみられる。企業レベルでは、拡張企業は雇用喪失を部分的に相殺し、場合によっては雇用創出に貢献しており、その傾向は近年において顕著であり、世界金融危機時も同じ傾向がみられることが示された。 |
| ・ | A拡張企業は相対的に国内事業所数や国内子会社数を増加する確率が高い傾向であることが分かった。 |
| ・ | B拡張企業は、そうでない企業と比べて東アジアとの貿易関係(輸出・輸入)を相対的に強化する傾向があり、特に機械産業企業でより顕著だった。日本企業による生産のフラグメンテーションの拡張や、東アジアでの生産ネットワークの更なる発展に寄与していることが示唆される。 |
| ・ | C拡張企業は、本社機能サービスは強化する傾向にあり、その傾向が徐々に強まりつつある一方で、製造活動については、平常時には強化しているが相対的に縮小傾向にあり、国内オペレーションのシフト、製造活動という意味では空洞化の可能性がある。また、生産ネットワークには頑健性があるものの、逆に言えばいったん生産ネットワークから外れてしまうと元に戻すのは困難であり、国内のビジネス環境を整えていくことがより重要となる。 |
| ・ | 東アジアの生産ネットワークでは、最終需要がどうなっているかどうかに関わらず、部品生産はあまり変化しないということは、結局国境を越えてはジャスト・イン・タイムになっていないということなのか。 |
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| ・ | 最終的に所得収支あるいは経常収支がどうなるかについては、国内貯蓄が大きな影響を与えると考えられるが、今後国内貯蓄はどうなると考えられるか。 |
| ・ | 技術輸出に関連した直接投資による収益について、日本の経常収支動向への影響といった長期的視点で見た場合、どう評価すべきか。 |
| ・ | 所得収支を決める上での一番大きな1つの問題である内外の収益率、利子率は均等化するのか、それとも均等化しないと考えるか。今後金利動向を考える上で国際的な裁定がどのように働くのか。 |
| ・ | 関税撤廃や貿易自由化が進み、固定コストが低下した時、輸出市場に参入できる企業が増えて経済の拡大効果が期待できるという分析があるが、発表で示されているように部品貿易が安定的とすれば、固定コストが低下しても経済に対するダイナミックな効果は期待しにくいのか。 |
| ・ | 国内雇用を増加できるような業績の良い企業であるから、海外展開を進めているという言い方もできるが、海外での生産ネットワークの拡大と国内雇用の増加の因果関係はどのようになっているのか。 |
| ・ | 分析によると、機械完成品は部品と比べてネットワークが強くないとされていたが、自動車はむしろネットワークがかなり強く、最終需要が止まると直ちに貿易が止まるという印象を持っている。 |
| ・ | 国債金利が大幅に低下した後、急上昇するリスクにずっと直面しているが、国債金利高騰ショックというのは今後どういう形で起こる可能性があるか。 |
(以上)