| ◆研究会 | の | 問題意識 |
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| 報告者 | : | 大西 靖 財務省財務総合政策研究所研究部長 |
| 報告資料[275kb,PDF] | ||
| ◆報告 | : | 「進展する貿易・経常収支構造の変化と日本型・投資立国モデル」 |
| 報告者 | : | 山田 久 株式会社日本総合研究所調査部長/チーフエコノミスト |
| 報告資料[514kb,PDF] | ||
| ◆報告 | : | 「ホンダの海外展開の考え方と単独収益上の課題」 |
| 報告者 | : | 村岡 直人 本田技研工業株式会社 渉外部担当部長 |
| 報告資料[1.78mb,PDF] | ||
大西 靖 財務省財務総合政策研究所研究部長
| ・ | 2011年の貿易収支は、1980年以来31年ぶりの赤字となった。この要因には、大震災やタイの洪水等によるサプライ・チェーンの問題による輸出の減少、LNG等鉱物性燃料の価格、数量の増大による輸入の増加といった一時的な要因もあるが、構造的なものとして中間財や最終財の輸出の伸び悩み傾向も見てとれる。今年においても赤字傾向が継続・拡大している。 |
|---|---|
| ・ | 経常収支は、2000年には貿易黒字が約12.4兆円、所得収支がその半分の約6.5兆円、サービス収支が約▲4.9兆円の赤字で、合計約13兆円の経常収支黒字(GDP比約2.6%)だったが、2011年は、所得収支が約14兆円、貿易赤字が約▲3.4兆円、サービス収支が約▲1.8兆円の赤字で、合計約9.6兆円の経常収支黒字(GDP比較約2%)となっている。所得収支黒字は徐々に拡大し、2005年からは貿易黒字を上回る水準となっている。今年においては、貿易赤字の拡大から経常黒字は昨年の半分のペースである。 |
| ・ | 米国、英国では、ともに大幅な貿易赤字であるが、サービス収支、所得収支の黒字により、経常赤字幅は緩和されている。対外資産・負債残高はその両方を拡大している。 |
| ・ | ISバランス論からみた経常収支では、民間部門、特に企業部門の貯蓄超過が継続し、一般政府の赤字を上回る水準となっており、結果として経常黒字が維持されている。今後の動向として、高齢化に伴う家計貯蓄率の動向、企業部門の大幅な貯蓄超過が継続するかが注目点である。 |
| ・ | 我が国は、概ねクローサーの国際収支の発展段階説に沿って推移していると言われている。2010年まではIVの「未成熟な債権国」だったが、昨年からVの「成熟した債権国」として、貿易・サービス収支が赤字になったと見ていいのか。いずれは経常収支が赤字化するという第VIの段階「債権取崩国」になると見るべきか否かについてご議論いただきたい。 |
| ・ | 海外直接投資が輸出入に与える影響は見方により様々である。2010年以降国内投資に対して、海外直接投資が増加している。海外生産比率、海外売上高比率ともに増加傾向であるが、将来予測部分では海外生産比率の増加率の方が高く、空洞化が進んでいくように見受けられる。 |
| ・ | 日本企業の国際競争力に関して、為替レートの推移をみると、2008年より始まった現在の円高は、名目では90年〜95年や97年〜2000年と同程度の円高であり、実質では90年代初めと比べると激しい円高ではない。この20年というタームで見ると円の実質の価値が変わっていない。対世界よりも競争相手国の通貨が重要との視点から、円の対人民元・対韓国ウォンレートの推移を見てみると、対ウォンで名目・実質とも大きく動いているが、2000年を基準としてみると、名目ではウォンに対して円高、人民元に対してはほとんど変わらず、実質では両通貨に対して円は安くなっている。また、日本の交易条件の変化をみると趨勢として大きく悪化している。業種別に投入・産出価格比を見てみると、電子部品で価格の下落傾向が非常に顕著である。 |
| ・ | 貿易・国際収支構造の変化が日本経済に及ぼす影響については、今年の初めから多方面で分析がなされているが、概ね以下の5つに整理できるのではないか。本研究会で必ずしも1つに収斂するものではないが、議論を深めていただきたい。 @経常収支の赤字化は円安を招き、輸出の回復等により日本経済には影響を及ぼさない。 A経常収支の赤字化は、日本の人口構成の変化等を踏まえると経済学的にも合理的なものであり、 特に懸念するには値しない。日本経済の成熟化に伴う自然な現象ではないか。 B経常収支が赤字化した場合、海外に資源等を依存している日本においては、円安の所得移転効果が 大きく、また、金利上昇等も起こることから、インフレ・不況等を引き起こすのではないか。 C経常収支の赤字化というのは、政府部門の赤字を国内でファイナンスするのが困難になるという ことで、財政危機のリスクを高めているのではないか。 D経常収支の赤字化というのは、これまでの成長モデルが大きく崩れていること、我が国の国際競争力 の低下を示しており、ひいては、国民生活水準の大幅な低下が示唆され、日本経済の建て直しが必要 であるということを示しているのではないか。 |
山田 久 株式会社日本総合研究所調査部長/チーフエコノミスト
| ・ | 貿易収支の赤字化、さらには経常収支が赤字化した場合の影響は、極めて大きいと認識しており、特に財政ファイナンスに大きな問題が発生すると危惧している。長期金利の決定要因推計をみると、経常収支のGDP比が最も強いことがわかる。高い債務残高を抱える中で金利が上昇することは財政に与える影響は大きいが、財政再建をあまりに急ぐと経済に対してマイナスの影響も懸念されるため、経常黒字の確保が財政危機に直面するリスクを回避するために重要である。 |
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| ・ | 去年からの貿易収支の赤字化は、輸出が大きく水準を落とす一方、輸入が高水準を維持しているためである。輸出が水準を落としたのは、@電気機械分野の資本財、および、A乗用車(輸送機械分野の消費財)が主因。一方、輸入の増加は原発の停止による鉱物性燃料の輸入増加が主因である。 |
| ・ | 海外生産の輸出への影響を確認するため、実質輸出数量関数の推計を行ったところ、90年代の後半から2000年代の前半にかけては輸出誘発効果が、2000年代の後半以降は輸出代替効果が確認された。2008年以降に輸出水準が低下した背景には、海外生産が輸出に対してマイナスに作用し始めたことがあると考えられ、日本が「成熟化した債権国」の段階に入り始めているのではないかということを示唆する状況になっている。 |
| ・ | 輸出比率(輸出額/売上高)は、製造業全体で2008年以降頭打ち傾向にあり、日本のリーディング・インダストリーである電気機械・輸送機械分野でその輸出成長力に限界が見え始めている。輸入への影響をみると、電気機械では逆輸入比率・輸入浸透度がともに上昇しているが、輸送機械ではそうした傾向はない。電気機械と輸送機械では少し状況が異なっており、電気機械は国内生産基盤の優位性が落ちてきているが、輸送機械は、輸出比率は頭打ちながらも国内基盤はなお強固であると見ている。一般機械については、輸出比率は上昇し輸入浸透度は低下傾向にあり、国内製造基盤はむしろ強化されてきており、輸出を一定程度増加させる可能性が展望できるのではないか。 |
| ・ | わが国の海外生産は輸出代替効果が強く働く段階に入っており、貿易収支にマイナスに影響しはじめている。しかし、海外生産には所得収支やサービス収支を増やすことで、経常収支ベースの黒字を維持させる効果もある。実際、特許権使用料や直接投資収益の受取が2000年代後半以降、大幅に水準を上げている。とりわけ、輸送機械で海外利益の受取が大きく増加しており、「国内生産・輸出拡大モデル」から、米国のような「海外生産・収益還流モデル」へと事業モデルを転換する兆しがうかがわれる。 |
| ・ | 米国では、「海外生産・収益還流モデル」が確立されており、膨大な貿易赤字の一方で、特許権使用料や直接投資収益の受取額が日本をはるかに上回っており、増加傾向が加速している。その背景には、海外事業の収益性の高さがあり、研究開発やマネジメント面での現地化により、企業がグローバルに運営できる体制が整備されていることが指摘できる。 |
| ・ | 米国の経験からは、海外生産が増加して貿易収支の赤字幅が拡大していく中で、鉱工業部門のエネルギー消費量が減少していることも指摘できる。海外の生産移転は所得収支の黒字で国内に還元し、国内は知的集約部門に特化し、国内の生産が減少しエネルギー消費が減っていくというのは、エネルギーの輸入増加を将来抑制していく上での一つの示唆となる。 |
| ・ | 経常収支の中期的シミュレーションを行ったところ、産業構造が現状のトレンドで変化(海外生産の輸出代替効果が上昇)し、原油価格が横ばいとすると、経常収支は2021年以降赤字化する。加えて原油価格が年率5%で上昇する場合、経常収支は2020年以降赤字になる。しかし、産業構造転換により、海外生産の輸出代替効果に歯止めをかけ、省エネ化により原油価上昇影響が減殺されれば、貿易収支は赤字化しても経常収支の黒字は維持可能である。このような形を目指して、産業政策や構造改革を実施していく必要があるのではないか。 |
| ・ | わが国の強みであるものづくりをコアとしつつ、人材育成やノウハウの提供に対して対価をとることや、海外で上げた収益の国内還元により収益をあげていく日本型の「製造業主導の投資立国」モデルを目指すべきではないか。政策課題としては、1)TPPを梃子としたアジア・太平洋自由貿易圏の創出、2)グローバル本社機能誘致策、3)化石燃料輸入抑制策、に注力する必要がある。 |
村岡 直人 本田技研工業株式会社 渉外部担当部長
| ・ | ホンダは「Mobility」をキーワードに、二輪車、四輪車、小型エンジンを搭載した発電機といった汎用製品、最近ではジェット機、ASIMO等多岐に渡って開発・生産・販売しているグローバル企業である。年間の販売台数は、二輪車が1,530万台、四輪車が301万台、汎用製品が580万台で、いずれも8割以上、全体の金額で約85%が海外での販売で、世界性が特徴の企業である。また、研究開発費が約5,200億円であり、連結の売上の5%程度を毎年研究開発に投入するなど、研究開発に非常に力を入れている。 |
|---|---|
| ・ | 1948年に本田宗一郎が創業した会社であり、創業当時から社是に「世界的視野」を掲げるなど、世界中の顧客の満足を会社の目的としており、2011年の顧客は2,550万人に達する。二輪車・四輪車ともに海外での生産台数が増加しており、海外生産比率は二輪車で99%、四輪車で76%と高い水準である。 |
| ・ | 海外展開の考え方には、以下5点がある。1点目は「需要のあるところで生産する」である。日本からの輸出に依存せず、現地生産を基本とすることで、ロジスティックスを短くして、迅速な商品の供給を行い、雇用の創出や部品の調達を通じて現地経済に貢献するとともに、為替変動リスクや経済摩擦等を出来る限り回避する狙いがある。 |
| ・ | 2点目は、「二輪から四輪へ」と呼んでいるが、二輪車の生産から開始し、経験を積んでから四輪車の生産を開始する方式を採っている。理由としては、二輪で経験を積んで四輪に活かすこと、四輪の人材育成に活かすこと、二輪の工場は初期投資が小さく、仮に失敗したとしてもリスクが少ないこと、二輪で収益を上げて現地通貨を積み上げてから四輪の工場を造ることで、為替リスクや金利リスクが軽減できることがある。 |
| ・ | 3点目は、「小さく生んで、大きく育てる」という考え方である。四輪工場を建設する際も、最小限の規模で立上げ、徐々に、販売の拡大に応じて、生産能力を大きくしていく。過剰投資、借入、過剰在庫を避け、リスクを小さくでき、フィロソフィーであるお客様の満足に沿った生産レベルで行うことができる。小規模生産であると人が作業しなくてはならない工程が増えることから、経験・ノウハウの蓄積が可能となるといったメリットもある。徐々に生産を拡大させることによる非効率性や、現地から事業撤退の懸念をもたれやすいといった難しい面もあるが、このように慎重に事業を拡大している。 |
| ・ | 4点目は「部品現地調達の推進」である。現地経済への貢献や迅速な商品供給、為替リスクの回避のために、部品においても完成機生産と同様に、現地調達を行う。また、スケールメリットも考慮した集中生産による輸出入で補完している。 |
| ・ | 5点目は「研究開発の推進」である。生産・調達はグローバルで行うが、研究開発・設計のコア拠点は日本に置いている。常に最先端の技術・仕組みを持つために進化することが求められている。グローバル経営の組織形態としては、マトリックス運営体制を採用している。縦軸として、世界を6分類して地域本部を設置し、幹部は現地に駐在して各地域本部ごとに生産販売を主導する。横軸として、各事業本部や機能本部がグローバル横断的に最適化、効率化を追求し調整している。 |
| ・ | グローバル経営の課題は、日本で研究開発を行い、部品調達も含めて生産は基本的に海外で行うという方針の中で、日本での研究開発コストをいかに海外生産拠点から回収するかという点がある。ロイヤリティーでの回収が基本となるが、現地の立場からするとロイヤリティーを払う程利益が減少し、利益が減少すれば合弁先企業に入る配当や現地政府に入る税金が減少するので、研究開発費を回収したいと考える本社と合弁先との交渉になる。これに対して、進出先の政府が乗り出してくることや、進出先でロイヤリティーの損金算入が認められず、本国と進出先で二重課税になってしまうというという問題も発生しうる。 |
| ・ | ロイヤリティーの回収の困難さは、企業の単独収益の減少につながり、日本の拠点が生き残 るうえで、極めて大きな課題である。今後、各地の市場に対応した商品の開発のため、開発も含めて現地化へシフトする可能性がある。これは、さらに、海外からのロイヤリティーの回収が厳しくなることを示す。日本は海外生産・投資回収型へ移行しつつあり、国際収支上は所得収支の増加が進みつつあるという指摘があったが、当社はその成熟段階にあり、いかにロイヤリティーを還流させて国内の開発活動に回していくかという課題にすでに直面している。 |
| ・ | 経常収支の中期的シミュレーションにおいては、為替レートが内生的に決まる想定が必要ではないのか。 |
|---|---|
| ・ | 経常収支の中期的シミュレーションにおいては、輸出価格を上げ、交易条件を改善させることで異なる結果も見えてくると思われる。実際の輸出企業においては、どのような基準で価格設定が行われているのか。 |
| ・ | 一国の経常収支や財政収支が悪化していくときに、投資家がどのような行動をするのか、国債金利がどのように動くのかは、興味深い問題。日本に関しては、政府に対する信認や投資家の構造といった問題もあり、単純に割り切れない部分もあると思われるので、今後議論を深めていく必要がある。 |
| ・ | 財政収支と経常収支の関係については、財政収支が政策目標であって、経常収支は前提ではないか。政策目標としての経常収支をどれぐらいのウェイトで考えるのかというのは、主客を取り違えた議論ではないか。 |
| ・ | 経常収支が悪化すると金利が上昇するとか、財政再建を急激に進めると成長率が落ちるという指摘があったが、一般均衡の視点からみると、経常収支が構造的に減少する場合とは、貯蓄が減少するか投資が増加するかであり、需要は不足しない。したがって成長をそこねることもないのではないか。経常収支が減るときに財政再建を進めても経済成長率には影響しないのではないか。 |
| ・ | 資源以外にも必需的な輸入財があることや、現在は加工貿易というよりも、製品の輸出・輸入を行っているため、資源を輸入財の中で別建てで考えることに意味はあるのか。 |
| ・ | 自動車産業においても一部の部品の生産をアジアで集中して行っている理由は何か。タイの洪水、中国リスク等ある中で、アジア内での生産拠点や、販売先をどのようにする考えか。 |
| ・ | 韓国製品との競合が厳しい国・地域はどこか。また、韓国は、今後、自動車がEV化されれば、家電製品と同様に世界市場においても成功できると言っているが、日本としてどのように対応すべきか。 |
| ・ | 日米の現地法人の利益率が大きく異なる決定的要因は何か。 |
| ・ | 海外で生産している場合にも、生産に使う機械装置が日本製である、半導体や素材が日本製であるなど、付加価値ベースでみると日本の貢献があるという話を聞いたことがある。生産現場の感覚として、日本からの輸出や付加価値はどのような状況か。 |
| ・ | 国によって金融環境や物価上昇率が異なる中で、グローバルで見た投資収益率は基本的に同じと考えるか。各国ごとに期待する投資収益率は異なってもよいか。 |
(以上)