財務総合政策研究所

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国際的な資金フローに関する研究会
第8回会合
2012年2月23日(木) 14:00〜16:15
於: 財務省4階 西456「第1会議室」

第8回

◆テーマ 「通貨体制の選択と経済安定」
発表者 嘉治 佐保子   慶應義塾大学経済学部教授
発表資料[856kb,PDF]
     
◆テーマ 「バーゼルIIIの実施及びG-SIFIに関する新たな枠組みについて」
発表者 氷見野 良三   金融庁総務企画局参事官
発表資料[762kb,PDF]
     

議事要旨

(1) 発表 「通貨体制の選択と経済安定」

嘉治 佐保子 慶應義塾大学経済学部教授

【単一通貨と欧州経済の安定】
アジアをはじめ世界の各地域は通貨同盟に懐疑的になっているが、すべての通貨体制にはコストとベネフィットがあり、通貨体制の選択は、コストとベネフィットの組み合わせの選択に等しい。制度改革(governance overhaul)を進めようとする欧州にとって単一通貨は合理的な選択であり、今後は必要な改革を進める手段として「内政干渉」をより多く使うことになる。
ユーロ導入の目的の一つは合理化・構造改革の促進であり、これにより経済指標が望ましい方向に収斂して共通通貨域内の非対称性が減少するはずであった。しかし、非対象性は期待どおりに低下せず、為替レートの調整を必要とする状態が継続したため、共通通貨が危機を迎えた。
欧州では、2000年以降、リスボン戦略(The Lisbon Strategy)に基づき合理化や構造改革の努力が行われたが、改革は思うように進展しなかった。取組みの中では加盟国のsense of ownership(当事者意識)を持たせる構造なども設けられたが、国民(有権者)のsense of ownershipを増加させなければ改革の実現は困難であることが証明される結果となった。
生産性や労働コスト等の経済指標の推移を見ると、特にギリシャ、ポルトガル、イタリアではリスボン戦略が効果を発揮せず、生産性・競争力が低いという問題が残ったことがわかる。これに対してドイツは社会保障制度の合理化等による労働力市場の改革(ハルツ改革)等を経て生産性・競争力を向上させている。他方、スペイン、アイルランドでは、安易な景気拡大により不動産バブルが生じるという問題が起こった。
【経済安定のために必要な改革は何か】
欧州では、ユーロの有無にかかわらず、生産性・競争力が低い等の問題を解決しなければ問題の本質的な解決はできない。解決のためには、民主主義の下で、いかにして「経済全体を良くするが投票者に不人気な政策」を実行するかが課題だが、欧州は未だこの問いに有効な答えを出せずにいる。
たとえば、安定成長協定(Stability and Growth Pact)はその答えを出す試みの一つだが、実効性を持たせることができなかった。またユーロ導入によりユーロ圏の金利がドイツの低い金利に向けて収斂し国だけでなく民間も借り入れを増やしたが、この資金を競争力を高めるための投資に使わなかった。このことは、ガバナンスが弱いときに国家のみでなく民間の負債も同じように危険であることを示している。
欧州の政策担当者たちは、制度改革(governance overhaul)という言葉を盛んに口にするようになっており、ヘルマン・ヴァンロンプイ欧州理事会議長の下でまとめられたレポートは、@安定成長協定を通じて財政規律を強化する、A加盟国間の競争率格差を減少させる、B金融危機の対応を有効なものにする、C経済ガバナンスと協調を改善する、を課題であるとしている。
【必要な改革を進める手段】
危機後の経済回復政策は、構造改革の推進が景気回復を抑制するなど、様々な矛盾を孕んでおり、危機を経験した後でさえ、政治的に困難な構造改革は実現しがたい。しかし、そうした矛盾は改革の推進に活用できるのであり、矛盾を露呈する危機は改革のチャンスとも言える。
ユーロは構造改革を推進するという目的を達成できずに危機を迎えたという意味では失敗だが、ユーロ危機の結果、加盟国が一緒になって必要な制度改革、構造改革を進めていくことができればユーロは成功だったと言える。加盟国の相互依存度は高く、為替レートの変動は経済活動にとって望ましいものではないこともあり、統合以外に欧州の平和的安定の道はない。
危険なのは公的債務・財政赤字だけでなく、民間の債務・赤字も同様である。民主主義の下、ガバナンスの制度設計を誤ると特定の利益団体の声がより大きく政治に反映され、その結果生じる危機により全体が被害を受ける。だからこそ、制度改革(governance overhaul)が必要である。金融産業の政治的影響力が大きい米国でも制度改革は必要である。
高成長国の多いアジアでも、やがて成長率が低下して改革の必要性が高まったときに、痛みの伴う改革を進める手段として何を選ぶかは非常に重要である。自国だけでできないことが外国との取り決めでできる場合があり、その一つは固定相場制・共通通貨であり、EPAなどの協定もその一つである。
自国民が選ばない政策を実行するためには、程度の差はあれ内政干渉を受け入れざるを得ない。どの程度強力な経済統合に参加しなければ改革が実行できないかを慎重に判断する必要があり、国家主権より統合をより多く選ぶとしたら、地域、国、超国家組織のそれぞれのレベルでどのようなガバナンスが必要で可能かを吟味しなければならない。

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(2) 質疑応答・自由討議

ユーロを巡っては、名目為替レートだけでなく、物価も調整できていないため、実質為替レートの調整が非常に難しいこと、のちにソブリンリスクの原因に転じる国債保有について楽観的な見方がされていたこと、欧州中央銀行(ECB)の責任など、固定相場制以外の問題が大きいため危機を深刻なものにしている面もある。
ギリシャの観光業に競争力があるとしてもストや暴動が起きている間は経済を支える産業として観光業に頼ることは難しい。危機時においてもいつも通り製造して輸出できるものを持っているのは強みであり、日本もそうした部分を大切にしていく必要がある。
欧州域内における不均衡の調整変数としては、通貨以外では、ユニットレーバーコストの他に労働移動がある。2011年前半のギリシャからドイツへの労働移動が前年比80%増、スペインからは同50%増となっており、人の移動が増えている。ドイツでは建設とサービス業の4割が人材が不足していると答えており、一時的かもしれないが人が移動する理由が多くなっている。
不足を訴える企業も少なくなく、人が移動する理由は十分にある。
非対称性について、通貨レートで調整しないとすれば何で調整するのか、調整変数が問題となる。一つには労働コストの低下や労働移動の頻度を高めることが鍵となる。ただ、生産性の格差、労働コストの差も拡大しておりむしろ逆行している。労働の流動性がある程度進んでも、それは日本国内で過疎地が発生することと同じである。
労働移動に関しては、ハイエンドの人材が競争力の高い国に移動することでさらに競争力の格差が拡大して政治的な問題が生じるリスクがある。ギリシャやポルトガルにそれを乗り越えてでも改革を進めていく覚悟があるかは疑わしく、通貨調整の世界に戻る(ユーロから脱退する)方が楽ではないか。
相互に通貨の安定を目指す国々は運命共同体である。そうした体制に入るには相当の覚悟が必要であり、どのようなガバナンスや通貨体制にするか熟慮してから入る必要がある。あるいは、通貨体制を先に考えるのではなく、例えばどこまでの内政干渉なら許容できるかから逆算して、維持できる通貨安定の程度(通貨体制)を決めるということも考えられる。
ユーロ圏が分解せずにやっていくには、最低限、財政政策の協調的な調整が必要である。財政統合にまで行き着くのは困難としても、ユニットレーバーコストなど構造面の調整は難しく、少なくともカウンターシクリカル(景気変動抑制的)な財政協調が必要である。
金融政策、財政政策、構造改革の3つのツールがあり、加盟国がこのうちの構造改革を実施して似たような国になれば非対称性はなくなり、通貨や財政、経常赤字などの問題はなくなる。無駄や硬直性を減らして似たような国になるべく、構造改革というツールを新たに導入すると考えれば分かり易いのではないか。

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(3) 発表 「バーゼルIIIの実施及びG-SIFIに関する新たな枠組みについて」

氷見野 良三 金融庁総務企画局参事官

【金融危機後の金融規制改革を巡る国際交渉】
我が国は今回の金融危機の直接の原因ではなかったが、危機の経済への影響は大きかった。リーマンショックのような問題の再発防止は国益にも適う。規制改革論議に積極的に参加し、世界及び日本にとってよりよい改革が行われるよう取り組んできた。
具体的には、我が国は、@金融システムの強化を図る一方で実体経済への影響にも十分配慮し、両方のバランスをとること、A資本規制の強化のみに偏ることなく、検査、監督、破綻処理制度など多様な施策を包括的に実施していくことが重要であるとの主張を行ってきた。
金融危機後の国際交渉は、G20首脳会合と金融安定理事会(FSB)のガバナンスの下、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)、証券監督者国際機構(IOSCO)、保険監督者国際機構(IAIS)が、それぞれ銀行、証券、保険の国際規制を検討するという枠組みにより進められている。近年、我が国は、IOSCOの政策決定の最高機関の議長職を務めるなど、主導的に取りまとめの役割を果たして世界に貢献すると同時に、積極的に提案を行い、我が国の主張も適切に反映されるよう努めている。
【バーゼルVの概要】
資本規制では、資本水準の引上げ、資本の質の向上、リスク捕捉の強化が行われた。また、補完的に、過度なレバレッジ拡大の抑制に資する指標としてのレバレッジ比率や、バブルに対応するためのプロシクリカリティ(景気循環増幅効果)の緩和措置などが導入されることになった。
流動性規制では、今回の危機において資産の投売りと資産価格の下落、流動性の枯渇のスパイラルが生じたことを踏まえ、危機時に資金繰りで詰まらぬよう、流動性についての最低基準などが導入されることとなった。
【G-SIFIに対する規制】
今回の危機では、リーマンブラザーズ1社の破綻で世界経済に大きな混乱が生じたことから、グローバルにシステム上重要な銀行(G-SIFI)については特に厳しい規制を課すことになった。G-SIFIは、「グローバルな活動」「規模」「相互関連性」「代替可能性」「複雑性」の5つのリスク要因に対応した指標で判定される。日本の3メガバンクを含む29行がG-SIFIに選定されている。
G-SIFIについては、重要度の大きさにより4グループに区分し、自己資本を1〜2.5%上乗せすることとなった。
資本規制以外の措置も含めると、まず、しっかり監督を行うこととし、その上で生じた思いがけない損失は十分な資本でカバーできるようにしておくが、それでも対応できない場合に備えて破綻処理の枠組みを整備し、円滑な処理が行われる体制を整えておくというのが全体のパッケージである。
経済に無理なく、貸し渋りが生じないよう、バーゼルVは2013年から、G-SIFIの上乗せ規制は2016年から2019年までかけて段階的に実施することとされている。ただ、危機に見舞われている欧州は、前倒しして2012年6月までにバーゼルVベースで9%を達成することをめざしている。
【金融規制の今後の課題】
G20ロスカボスサミットに向けての主要課題は、国内金融システム上重要な銀行、グルーバルな金融システム上重要な保険会社、店頭デリバティブ市場の改革、シャドーバンキングを巡る問題、合意された改革の実施状況のモニタリングなどである。
金融危機が繰り返し起こるなか、危機回避のために適切な規制を行うことは重要だが、それだけで危機が防げるわけではなく、G20では、規制改革と並んで不均衡是正のフレームワーク作りも進んでいる。マクロの不均衡抑止とミクロの規制改革が相まって金融危機の回避を目指すことが必要である。

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(4) 質疑応答・自由討議

金融危機は必ずまた起こるのであり、今回が最後だという前提で制度設計をするのは誤りではないか。本当に必要なときに必要な対応を取れるようにしておくことが大切。
BIS規制は十分な資本を持つことを求めている。資本は収益を前提としており、銀行はBIS規制により収益を前提に経営することが求められる面があるのではないか。
日本の銀行の収益性(ROA)が低い理由は、分子のリターンが低いことだけでなく、分母のアセットが大きいこともある。日本の金融資産に占める預金の割合は非常に大きく、銀行は預金を通じて低金利で資金の調達ができるため、それを低利で運用しても利鞘が稼げるという事情がある。ただ、その運用先は国債などであり、全体として低リスク低リターン志向となっている構造が日本の生産性を低めている面もあるのではないか。
WTOの教訓として、全世界で取り組もうとしても、発展段階の異なる様々な国が交渉に参加することで意見集約ができなくなるという事態が生じることがある。意見の一致できる範囲で適切な仕組みを作ることも大切だと考える。
アジアでは日本以外は高成長の国が多く、それらの国々は新たな規制の負担を経済成長の中で吸収することができる。そうした状況下、我が国は、金融規制を巡る交渉においてアジア諸国との協調も進めつつ、是々非々で幅広い連携も目指すべきではないか。
国債のリスクウェートの見直しの議論の前に、まず、民主主義のプロセスが機能して財政規律がもたらされることを追求するのが先決ではないか。

(以上)

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