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国際的な資金フローに関する研究会
第7回会合
2012年2月9日(木) 14:00〜16:15
於: 財務省4階 西456「第1会議室」
第7回
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| ◆テーマ | : | 「アジア域内の資本フローの特徴・アジア域内の貿易建値通貨選択について」 |
| 発表者 | : | 清水 順子 専修大学商学部准教授 |
| | 発表資料[2.8mb,PDF] |
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| ◆テーマ | : | 「機関投資家の実状と運用行動(米国を中心に)」 |
| 発表者 | : | 関 雄太 竃村資本市場研究所研究部長 |
| | 発表資料[1.3mb,PDF] |
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議事要旨
(1) 発表 「アジア域内の資本フローの特徴・アジア域内の貿易建値通貨選択について」
清水 順子 専修大学商学部准教授
| 【アジアにおける資本フローの現状】 |
| ○ | アジアでは、2008年の下期を除き、経常収支と貿易収支の双子の黒字構造に変化はなく、外貨準備も年々増加している。 |
| ○ | アジアへの資本流入は2007年下半期にピークとなった後、リーマン・ショックが起こり、証券投資及びその他投資で資本の引上げが生じたため資本収支はマイナスに転じた。しかし、2009年後半以降、直接投資、証券投資とも資本流入は回復。但し、2011年には、世界的にリスク回避傾向が強まったため、証券投資は減少している。なお、直接投資は金融危機の前後においても堅調であった。 |
| 【資本フローの変化に伴う現象】 |
| ○ | 総じて見ると、世界金融危機がアジア通貨の対ドル相場に与えた影響は軽微であった。その背景としては、経常収支の黒字構造が続いていること、外貨準備が増加していること、対外債務が減少傾向にあることが指摘できる。 |
| ○ | アジア通貨バスケット(AMU)の乖離指標でみると、アジア通貨全体では対ドルで穏やかな増価傾向が続いているが、個々の通貨のアジア通貨の中でのポジションは金融危機の前後で大きく変化している。リーマン・ショック前に割安で推移していた円は、直近ではアジア域内において最も強い(割高な)通貨となっている。 |
| ○ | アジアの主要国では、このところ短期の対外債務が増加し、外貨準備保有高の倍率が低下している国もある。資本フローの不安定さ(volatility)が高まっている可能性があり、注視が必要である。 |
| ○ | アジアでは、為替相場の安定を目的として為替介入を実施している国が多い。外国為替市場や国内金融システムの整備により為替政策の柔軟性を高めることが課題である。 |
| ○ | 通貨の変動と外貨準備の状況から通貨に対する増価・減価圧力を測定するEMPI(Exchange Market Pressure Index; 為替市場圧力指数)によれば、リーマン・ショック前後にアジア通貨に対する減価圧力が高まっていたことなどが伺われる。また、上記EMPIや株価の変動、債券のスプレッドなどから金融市場におけるストレスを見るFSI(Financial Stress Index; 金融ストレス指数)によれば、リーマン・ショック直後の2008年10月に向けてアジアの金融市場の不安定さが増したことが見てとれる。 |
| 【アジア域内の貿易建値通貨選択】 |
| ○ | 日本企業の貿易建値通貨は、大規模企業では米ドルが多く、小規模企業では円建てが多い。但し、日本では、生産拠点の海外移転などにより為替相場の変動に影響されない生産体制の構築を進める中で取引コストが少ない米ドルを貿易建値通貨として選ぶという大規模企業の行動が、日本企業全体として米ドル建てが多いという貿易建値通貨の選択を特徴づけている。 |
| ○ | アジア域内の貿易取引で米ドルを使用する限り、日本とアジア諸国の両サイドで為替リスクは排除できない。アジア域内の貿易取引が増加するなか、アジア通貨の使用拡大を見据え、アジア通貨の為替取引コスト削減のためのアジア地域の為替市場の整備などを進めることが今後の課題である。 |
| 【円の産業別実効為替相場の動向】 |
| ○ | 産業別の実質実効為替相場を見ると産業毎にその水準にかなり差が見られる。円高で厳しい状況にあるとされる電気機器は、他の業種に比べると実質実効ベースではさほど円高になっておらず、それほど競争力を失っていないように見えるが、輸送機器は実質実効ベースでも円高になっており、競争力を失っている。 |
| ○ | 産業別の実効為替レートを見ることにより、円高の影響が厳しい産業に対して円高対策を実施するなど政策面に適用することも必要である。 |
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(2) 質疑応答・自由討議
| ○ | 今後、アジア諸国の経済が成長し、アジア通貨が増価していく中で、アジア通貨と円の位置関係が変化していく可能性がある。そうした中で、円がアジア域外通貨に対しては脆弱な通貨にならず、かつアジア域内では成長率の差を反映して徐々に円安が進むというように、大きなバンドの中でアジア通貨と円の為替レートの安定を考える必要がある。 |
| ○ | 我が国の1998年の外国為替の自由化により、為替リスク管理を自ら行っている大企業はマリー拡大による為替リスクヘッジのため、円でなく輸出先で入手した通貨の使用をより増加させる一方、為替リスク管理を自ら行っていない中小企業は、引き続き円による取引を続けているという事情がある。 |
| ○ | 対外債務に関する脆弱性(vulnerability)について重要なことは債務が自国通貨建てか外貨建てかということである。自国通貨建ての債務なら外貨準備は関係ない。日本の国債は円建てであり、外貨建てで債務を負っている国と単純に比較して論じるのは不合理である。 |
| ○ | 資本移動については流動性の問題も重要である。リーマン・ショックではアジア通貨危機とは違う流動性の問題が生じ、日本では円高にもかかわらず米ドルの流動性が枯渇した。為替が強いから流動性の問題が生じないというわけではない。 |
| ○ | 電気産業では実質実効レートが上昇しておらず問題がないようにも見えるが、値下げ競争に巻き込まれて値上げができず苦しんでいるのが実態であることも考えられる。 |
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(3) 発表 「機関投資家の実状と運用行動(米国を中心に)」
関 雄太 竃村資本市場研究所研究部長
| 【長期投資家・資産運用の構造変化】 |
| ○ | 先進国において投資家の機関化が進展している。但し、年金基金や保険の比重が低下する一方、米国などで個人金融資産を背景とした投資信託(ミューチャルファンド)の比重が高まっている。 |
| ○ | 新たなパワーブローカーとして、ソブリン・ウェルス・ファンド、中央銀行・外貨準備運用、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ・ファンドが成長している。これら投資家の特徴は、長期のリスクを取ること、資産量・影響力が増していること、運用戦略などに不透明な部分があることである。 |
| ○ | 資産運用のトレンドについては、先進国の少子高齢化、特に米国のベビーブーマー層の退職が資産運用の考え方を変えつつあること、金融規制や金融危機が資産運用に影響を与えていることが指摘できる。 |
| ○ | 米国の株式保有構造を見ると、1990年に5割を超えていた家計部門の保有比率は2010年には36.7%まで低下している。他方で、投資信託の株式保有比率は大幅に上昇している。 |
| ○ | 機関投資家の運用資産では、米国株式の比率が低下する一方、外国の債券・株式、不動産、未公開株式、その他のオルタナティブ資産など、伝統的な証券以外の比率が高まる傾向がある。 |
| ○ | 米国の個人金融資産は約47兆ドル(日本の約3倍)。2000年代における個人金融資産のフローを見ると、家計部門は2008年までは借入が多く、毎年2,000〜3,000億ドルの資金を金融市場から吸い上げていたが、住宅バブル崩壊後は借入が減少し、退職を控えたベビーブーマー層が貯蓄を始めたことなどもあって、逆に4,000〜5,000億ドルの資金を金融市場に流し込む存在となった。 |
| 【米国の企業年金の動向】 |
| ○ | 年金基金については確定給付型年金基金(Defined Benefit Plan; DB)から確定拠出型年金基金(Defined Contribution Plan; DC)への制度的な移行が進んでいる。残高では2000年を過ぎた頃からDCの資産残高がDBのそれを上回っており、フローでは過去20年近くDCに大きな資金の流入がある一方、DBにおいては払い出しの方が多くなってきている。 |
| ○ | 企業においてDCの一つである401Kプランが本格的に提供されるようになった1980年代前半から米国の資本市場が大きく変わったと見る金融関係者が多く、企業のROE重視の経営が始まったことと、金融面でDCが登場したことが米国の資本市場や企業金融の構造変化を起こしたと言える。 |
| 【米国の投資信託の動向】 |
| ○ | 確定給付型年金(DB)から確定拠出型年金(DC)への制度的な移行が進むなか、加入者(個人投資家)の運用指図に従って多くの資金が投資信託に向かっている。加えて、退職期を迎えている7,400〜7,500万人に上るベビーブーマー層の多くが退職金を投資信託で運用することも投資信託の資産量拡大に寄与している。 |
| ○ | 投資信託は現在12兆ドル近い残高となっている。投資信託は、2003年以降、株式ファンドを中心に拡大してきたが、金融危機後は株式ファンドの人気がやや落ち、債券ファンドの人気が高まっている。 |
| ○ | 米国では、2009年に入りゼロ金利となったことでMMFから資金が流出し、債券ファンドなどの長期の投資信託に資金が流れた。この結果、事業法人の資金繰りが保たれ、米国の企業金融が維持された。 |
| ○ | 米国投資信託において、株式・債券の中でもインデックスファンドの運用の比率が高まっている。特に、ETF(Exchange Trade Funds :株価指数連動型投資信託受益証券)等の資産サイズが非常に大きくなっている。資産運用業界あるいは資産運用会社がインデックスやクオンツモデルに頼るようになってきている。 |
| 【新興パワー・ブローカーの主要プレイヤー】 |
| ○ | ヘッジファンドは、リーマン・ショック直後には資産規模が縮小したが、2010年以降は息を吹き返している。現在は個々に様々な運用戦略をとるシングル・ヘッジファンドの勢力が強まっている。 |
| ○ | ソブリン・ウェルス・ファンドは、リーマン・ショック後、海外投資を控え、国内投資にシフトしていたが、欧州危機などに直面しつつも資産は再び成長トレンドにあり、海外投資を再開する兆しもある。 |
| ○ | 資産運用会社がパワフルな運用主体として台頭しつつあり、金融財政政策を考える上での市場との対話においても注目されるべき有力な存在である。 |
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(4) 質疑応答・自由討議
| ○ | 米国では金利規制のあった1970〜80年代に投資信託の一つであるMMFが拡大し、銀行による金融仲介の縮小(disintermediation)の主役として注目された。貯蓄から投資への動きにおいて、米国ではMMFを含む投資信託が重要な役割を果たしたと言える。また、確定拠出年金基金への制度移行の過程で加入者が知らず知らずのうちに投資信託に投資したことで貯蓄から投資への動きが進んだ面もある。 |
| ○ | ドット・フランク法は金融機関のリスク移転などの機能を抑制することになるが、現時点では、投資信託、プライベート・エクイティ・ファンド、ソブリン・ウェルス・ファンドなどの投資行動まで抑圧しようとはしておらず、ベンチャー企業支援などのリスク・キャピタルの出し手としてこれらの投資主体への期待が高まっている。 |
(以上)
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