財務総合政策研究所

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国際的な資金フローに関する研究会
第5回会合
2011年12月21日(水) 13:00〜15:15
於: 財務省4階 西456「第1会議室」

第5回

◆テーマ 「国際的な資金フローの現状」
発表者 上田 淳二   財務総合政策研究所財政経済計量分析室長
吉川 聡   財務総合政策研究所総括主任研究官
発表資料[2.75mb,PDF]
発表資料[181kb,PDF]
     
◆テーマ 「対外不均衡と国際資金フロー:グローバル・インバランス論を超えて」
発表者 松林 洋一   神戸大学大学院経済学研究科教授
発表資料[925kb,PDF]
     

議事要旨

(1) 発表 「国際的な資金フローの現状」

上田 淳二 財務総合政策研究所財政経済計量分析室長
吉川 聡 財務総合政策研究所総括主任研究官

【各国のネットの対外資産・負債】
過去20年間の各国の対外純資産・純負債の動きを見ると、経常収支の黒字国(日本、スイスなど)は黒字国、赤字国(米国、英国など)は赤字国である状況が続き、純資産・純負債が概ね同一方向に拡大する傾向がある。但し、金融危機・通貨危機を経験した一部の国(カナダなど)では純負債を縮小する動きが見られる。
総じて言えば、先進国では、家計の資金余剰と企業の資金不足が縮小する傾向が見られるが、それらの縮小の速度が一致していない中で、結果的に財政収支・対外収支のインバランスが生じる傾向がある。
【各国のグロスの対外資産・負債】
各国のグロスの対外資産・負債の規模は、純資産・純負債の規模より大きく増加しており、クロスボーダーの資金量が飛躍的に拡大している。特に2000年代以降は、ユーロ圏と英国において、銀行部門でのクロスボーダーの対外資産・負債の残高と長期債の発行残高の増加が顕著になっている。
先進国間の資金フローの規模は金融危機で一旦落ち込んだが、再び拡大する傾向が見られ、2007年の水準程度まで戻っている。ただ、金融規制のデレバレッジへの影響や信用リスク懸念などにより今後どのような動きになるかは注意が必要である。
【長期投資家の動向】
IMFの分析によれば、資産運用のトレンドとしては、ホームバイアスが緩やかながら減少し、国外の投資先への多様化が進んでいるようである。また、運用主体では、年金基金や保険会社の割合が長期的に低下する一方、ソブリン・ウエルス・ファンドや外貨準備などの公的な運用主体のシェアが徐々に高まり、重要性も増している。
対外投資は成長期待やリスクに対する評価に対して敏感に動いており、表面上の金利差のみに反応して動いているわけではない。また、金融危機後は流動性リスクやソブリンリスクへの意識が強まる一方、新興国への投資が徐々に拡大している。
【金融の安定性に関する評価】
IMFの分析によれば、金融危機からの回復の過程で投資先が限られる中、投資家の高利回りを求める動き(search for yield)が強まっている。先進国で低金利政策が続く中、資金は新興国に流れ易くなっており、過度なレバレッジや資金の集中などにより、いくつかの市場で脆弱性が増大し、長期的な金融の安定性にとってリスクとなっている。
当面の課題は、先進国においては、政府及び民間(米国の家計、欧州の銀行)のバランスシートの修復、グローバルな金融規制の見直しの早急な実施である。新興国では、強固な金融フレームワークを構築し、拡大局面でも金融の不均衡の積み上がりを抑制することが求められる。
【G20主要国における不均衡の概況】
G20の「相互評価プロセス(MAP)」における分析では、中国、日本、ドイツ、フランス、インド、米国、英国の7カ国が継続した大規模な不均衡を有する国として挙げられている。それぞれの国の不均衡の原因などについて、中国は社会的セーフティネットの未整備等、日本は低成長の継続や高齢化等、ドイツは投資の伸び悩み等、フランスは輸出競争力の低下等、インドは貧困を背景とする多額の社会的支出等、米国は減税による歳入減少や社会保障給付の増大等、英国は消費依存の経済体質等が指摘されている。

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(2) 発表 「対外不均衡と国際資金フロー:グローバル・インバランス論を超えて」

松林 洋一 神戸大学大学院経済学研究科教授

【世界の対外不均衡の推移】
2000年代に対外不均衡が拡大、多極化する状況において、グローバル・インバランスは、「米国における経常収支赤字の大幅な拡大と、中国、日本、その他東アジア諸国及び中近東諸国などにおける経常収支黒字の大幅な拡大」と定義することができる。
【対外不均衡の考察】
国内外のマクロ諸変数の動きが集積した高度に集計化されたマクロ変数である対外不均衡については、多面的なフレームワーク、複眼的なアングルからの考察が必要である。
不均衡を巡る議論や分析のフレームワークは、貯蓄・投資サイドのものから金融資産・負債サイドのものにシフトしてきている。また、考察のアングルとしては、経常収支を「構造的経常収支」「循環的経常収支」「その他経常収支」(注)の3つの部分に分けて分析することが考えられる。

(注)「構造的経常収支」・・・生産要素の完全雇用を仮定し、家計・企業の時間を通じた合理的

                                    行動を想定した場合に発生する経常収支の水準
      「循環的経常収支」・・・経済の短期的要因(国内外の景気変動、為替レートの短期的変動

                                    など) によって発生する経常収支の水準
      「その他経常収支」・・・構造的要因・循環的要因によって説明できない経常収支の水準

計量手法を用いた分析によると、2000年代に入り、経常収支の赤字国(米国)、黒字国(中国・中近東)とも構造的な赤字・黒字が増加しており、双方でほぼ同時期に構造的な要因が顕著になった可能性が高い。また、その他の要因も双方でほぼ同時期に顕著になったと考えられる。その他の要因の背景には、米国では住宅価格、中国では不動産価格、中近東では原油価格、それぞれの高騰があると見られる。
「構造的経常収支」の動きはその国の供給サイドの環境や国際通貨制度に左右されるため政策的な考慮の余地は限られるが、1990年代後半以降米国で徐々に赤字が増加した「その他経常収支」は、早期警戒指標として監視の対象とすることも考えられる。
【国際資金フローの考察】
欧州全体では経常収支は均衡しており、ネットでは資金の流れは見えてこないが、グロスで見るとユーロ圏のドル建て資産・負債の残高は2007〜08年にはともに5兆ドルの規模となっていた。これは欧州の銀行がドル建て資金を調達し、英国のシティからシャドーバンキングを介して米国のサブプライム関連証券(ABS等)に運用していたことを物語っている。対米投資は英国からのものが圧倒的に大きく、米国の住宅価格は英国からの資本の流出入に敏感に反応していたと見られる。
欧州では、@域内の対外不均衡を背景とする北欧(おもにドイツ)から南欧への資金の流れと、A欧州をハブとする米国から来て米国へ戻る資金の流れの2つの資金の流れがあったと見られる。2番目の資金フローは米国の住宅価格とリンクしており、世界金融危機と深い部分で繋がっていた可能性がある。
国際資金フローのダイナミズムをとらえる際には、インバランスというネットのサイドのみからの考察では不十分であり、対外資金の流入・流出というグロスのサイドからの考察が重要である。

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(3) 質疑応答・自由討議

貯蓄に絡む構造的な要因から中国において経常黒字が拡大していることも重要な問題であり、経常収支の分析にあたっては、「構造的経常収支」「循環的経常収支」「その他経常収支」のいずれにも注目する必要がある。
意思決定などを通じてリスクがどのように動いていったかを把握するにはグロスで資金の出入りなどを見る必要はあるが、最終的にどこにリスクが行ったかはネットを見なくてはわからない。その意味でネットは重要であると考える。
ファイナンス的な理論からいうと、ショートポジションを比較的に簡単に取れるような市場ではバブルは起こりにくい。サブプライムの教訓は比較的流動性が低くてショートポジションが取りにくいようなマーケットでバブルが発生しやすいということである。
グローバル・インバランスは、経常赤字国の国際競争力が弱いなどの根本的な問題から生じている面もあり、根本的な問題を解決しないかぎり収支を均衡させることはできない。 重要なことは、経常収支を均衡させることではなく、資金が向かった先の国で、結果的にバブル崩壊や資金逃避を招かない金融商品や投資環境を整備することである。新興国が豊かになれば富を蓄積する資産を求めるが、それが供給されないと資産市場は超過需要となり、他方でワルラス法則により財市場は超過供給となりデフレ傾向を生む。デフレの弊害を避けるには、たとえバブル的な資産であっても供給し、資産市場の不均衡を回避すべきだという理論家の見解がある。
ユーロを巡って大きな問題が生じていることを考えれば、グローバル・インバランスに関しては、米国と中国のインバランスに焦点が当てられ過ぎ、ユーロ域内のインバランスが過小評価されていたと言えるのではないか。
ユーロ圏内の銀行だけでなく、英国の銀行もユーロ圏へのエクスポージャーが大きく、ユーロ圏の事態が深刻化すれば、これらの銀行等による資産圧縮に伴ってアジアから急速に資金引上げが生じ、アジア経済にも大きな影響が出ることが懸念される。
国際的な資金を巡っては、資金の出し手となる国や地域(例えば中東)と資金の経由地(例えばロンドン)とは一致しないが、こうした傾向はさらに強まってきている。資金の経由地としてはロンドンのほかにシンガポールも注目される。
世界の投資の傾向は、トレンドをフォロー(順張り)し、価格が上がっているもの、下がっているもののトレンドを加速させるという方向になっている。その結果、トレンドをフォローする安定的な投資主体と見られる年金などの長期投資家が市場のボラティリティを増大させている事実がある。逆に言うと、短期的な投機を規制することが市場を均衡に導くとも言えない。

(以上)

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