国際的な資金フローに関する研究会
第4回会合
2011年12月15日(木) 14:00〜16:15
於: 財務省4階 西456「第1会議室」
第4回
| ◆テーマ | : | 「資金のミスアロケーション促進の仕組みとしての【ユーロ】」 |
| 発表者 | : | 竹森 俊平 慶應義塾大学経済学部教授 |
| | 発表資料[1,4mb,PDF] |
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| ◆テーマ | : | 「三菱東京UFJ銀行のアジア戦略と各国の金融市場について」 |
| 発表者 | : | 宮地 正人 (株)三菱東京UFJ銀行執行役員アジア・中国部長 |
| | 発表資料[138kb,PDF] |
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議事要旨
(1) 発表 「資金のミスアロケーション促進の仕組みとしての【ユーロ】」
竹森 俊平 慶應義塾大学経済学部教授
| 【国際的な資金フローの動向と見通し】 |
| ○ | 金融危機は短期的な問題と考えられているが、その効果は長期にわたることもある。大恐慌の場合は、恐慌当時のレバレッジの水準(対GDP比)に戻るのに70年を要した。 |
| ○ | 米国は1997年のアジア危機以来「信用創造の中心」となっていたが、現在は世界的にデレバレッジが起こる過程で、信用創造に向かうべき資金が米連銀の超過準備として積み上がる状況となっている。 |
| ○ | 金融危機を受けて欧州の銀行が自己資本比率を改善させる過程で貸出を減らす動きが生じており、その影響で新興国にもクレジットクランチが広がる可能性がある。 |
| 【金融セクター・金融市場の質の向上について】 |
| ○ | ユーロ危機はペリフェリー(周辺)の危機と言われる。その背景には、コア(中心)というべき大企業が潤沢な資金を持つことで金融機関離れが生じ、存在意義の薄れた金融機関がしっかりした企業の少ないギリシャやポルトガル、低所得者といったペリフェリー(周辺)のマーケットを開発しなければ利益を確保できなくなったことがある。 |
| 【マクロプルーデンス規制について】 |
| ○ | マクロプルーデンスの考え方に依れば、デレバレッジ期(バブル崩壊期)には自己資本比率の最低水準を下げても良いことになる。しかし、バランスシートが悪化して銀行の信用が低下しているときにそれが実行できるかは疑問である。 |
| ○ | 銀行の自己資本の充実にあたっては、分母である貸出(資産)の圧縮を避けるため、自己資本比率ではなく、資本金額を規制対象とすることも考えられる。 |
| 【国際通貨システムについて】 |
| ○ | 為替レートを極端に安定化させようとすることは、国際資本投資の危険の過小評価につながり、世界的な金融危機の原因となる。また、為替レートが縛られていると、経済危機に遭ったときの脱出が著しく困難になる。 |
| 【ユーロ危機の背景及びユーロ危機への対応について】 |
| ○ | ユーロ圏では、共通通貨の下、北の低インフレ国(低金利国)の投資家が北で調達した資金を南の高インフレ国(高金利国)に投資してより低い実質金利を享受するという一種の裁定(アービトラージ)行動が起こったことで北から南に資金が流入してバブルが生じた。そのバブルが崩壊すると、北の銀行では多額の不良債権が、南の政府と民間では多額の債務が生じることとなった。 |
| ○ | 今回の世界経済危機と大恐慌を比較すると、発生した事象のタイミングはよく似ており、どちらも「質への逃避」が生じている。ただ、大恐慌時には深刻なデフレが生じたが、今回の危機ではデフレは未だ生じていない。 |
| ○ | ギリシャの債務カットが「クレディット・イベント」とされなかったのは疑問な処置だ。デフォルトでECBが損失を被っても欧州安定基金(EFSF)が補償する取り決めがあったし、リーマンブラザーズの破綻でCDSを売っていたAIGが破綻したときとは異なり、現在のCDSの取引は取引所を介したものが多く、規制により担保もついていた。その担保もリーマンショックの時のように複雑な証券ではなく、単なる国債であり時価評価は難しくなかった。だからクレディット・イベントにすることもできた。 |
| ○ | 明らかな「クレディット・イベント」に際してCDSが実行されないと、CDSの資産としての価値が毀損されるばかりか、ユーロ圏国債そのものの危険が増し、投売りという連鎖危機を招く惧れがある。さらには政策当局に対する信頼が失われ、延いてはEFSFいう支援機構が崩壊するとの指摘もある。 |
| ○ | 12月9日の包括対策に関しては、財政放漫国の財政監視や自動的制裁を内容とするEU憲章の改正が実現しないこととなったことで、放漫国への財政移転に消極的なドイツが十分な資金を拠出しないだろうとの見方や、欧州中央銀行(ECB)による国債買入も控えめなものになるだろうとの見方が広がり、マーケットの期待は裏切られる形となった。 |
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(2) 質疑応答・自由討議
| ○ | 欧州中央銀行(ECB)は、国債のデフォルトの可能性が高まれば、ドイツの反対などにかかわらず何らかの手を打つだろう。不胎化のために発行されるECB債は実質的には今議論されているユーロ共同債と言えるが、これを長期債として発行して国債購入を増やせばよいと指摘する識者もいるように、ECBは様々な手段を持っていると考える。 |
| ○ | イタリアについては、ECBがイタリア国債を購入して国債の金利が上昇しないようにする必要がある。2年で状況が安定するのを待つとして、その間にユーロ安になれば、イタリアなら輸出の拡大により経済を回復できる可能性がある。 |
| ○ | ユーロ(EU)からの離脱(ユーロ圏の分解)は、手続きに長時間を要することに加え、その間に資金(預金)の流出入や債権価値の下落などの問題が生じるため、経済が強い国にせよ弱い国にせよ好ましい政策ではない。 |
| ○ | ギリシャの債務カットをクレディット・イベントにしなかった理由として、そうすることにより正真正銘のデフォルトになると、ECBが国債を担保にしたギリシャへの貸出をストップせざるを得なかったからという議論もある。この場合、ギリシャの全ての銀行が流動性の枯渇で倒れ、国内からユーロが消えるといった事態に至る。 |
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(3) 発表 「三菱東京UFJ銀行のアジア戦略と各国の金融市場について」
宮地 正人 (株)三菱東京UFJ銀行執行役員アジア・中国部長
| 【世界経済におけるアジアの位置づけ】 |
| ○ | アジアにおける資金、モノの流れは、直接投資、世界貿易のシェアの変化を見ても、この10年間で飛躍的に拡大している。域外のみならず域内のビジネスが膨らんでいることがアジアの強みであり、2050年には世界のGDPに占めるアジアの割合が50%を超えるとの推計もある。 |
| 【アジア経済・金融市場】 |
| ○ | 対日貿易と本邦ODAへの依存度をもとにアジア主要国を分類すると、自国経済の中で日本との経済的関係の比率が占める割合の大きいインドネシア、タイ、マレーシアといった日本依存型経済圏、更なる経済的発達により欧米・中国との関係も深まり、また資本市場も一定限度成長し銀行業務が高度化している台湾、豪州、韓国、中国、香港、シンガポールといった自立型経済圏、そして、それ以外のインド、ミャンマーといった周縁国がある。 |
| ○ | 人口動態の面で高成長の持続が期待できるのはインドやインドネシアである。シンジケートローンやデット・キャピタル・マーケット(DCM)の今後の発展の伸びしろが大きいのは、インドネシアを中心に日本依存型経済圏。 |
| 【外国銀行の動向】 |
| ○ | HSBC(香港上海銀行)などの主要な外国銀行はリテール業務や投資にも力を入れており地場密着型の金融ビジネスを展開しているのに対し、邦銀はホールセール業務が中心になっている。 |
| ○ | 主要な外国銀行のうち自己資本比率がバーゼルVコモンエクイティ比率7%にサーチャージを加えた水準に達している銀行はほとんどない。こうした状況において、特にユーロ危機の影響を受けている欧州の銀行では、増資が困難なため資産を売却して自己資本比率を高める動きが広がっている。 |
| 【主要地域の状況】 |
| ○ | 商流・制度の観点からも中国、香港、台湾をグレーターチャイナとして一体化して捉えていかなければ金融ビジネスのニーズに応えられない状況になっている。 |
| ○ | 中国では、政府が主体となって、決済通貨としての利便性を高めることにより人民元の国際化を進める動きが進んでいる。 |
| ○ | オフショア人民元債券(Dim Sum Bond; 点心債)の市場が拡大している。これを購入しているのはアジアの投資家であり、アジアにおいてもセカンダリーの投資家が育ってきている。また、中国政府は国内の債券市場の整備にも力を入れる方針である。 |
| ○ | アジアの金融市場は黎明期にあり、まさに市場ができ、プレーヤーが生まれつつある状況にあるが、アジアでは欧米とは違う金融ビジネスが行われることになるだろう。 |
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(4) 質疑応答・自由討議
| ○ | アジア各国における地場企業の資金需要は1960〜70年代の日本のように非常に旺盛な状況となっている。 |
| ○ | 収益性はエクイティマーケットの方が高いが、まずはしっかりしたボンドマーケットを育てる必要がある。まず国債市場があり、次いで社債マーケット、さらにエクイティマーケットという形で三層構造が出来上がり、投資家の幅がグローバルにも国内にも厚いというのが資本市場の理想である。 |
| ○ | 欧州危機の影響により欧州の銀行を中心に貸し手が減少し、アジアでもスプレッド(マージン)が拡大している。 |
| ○ | 欧米で発展した証券化のシステムがアジアに根づかない理由としては、金融に関する仕組みが基軸通貨である米ドルを中心に発達してきたこと、アジアでは欧米のような様々なリスク・リターンを認識する投資家層の厚みがないことが挙げられる。 |
| ○ | 銀行の経営状態や金融システムの健全性を何らかのベンチマークで見ていくことは重要だが、バリュー・アット・リスクの考え方を入れたとしても、自己資本のみに注目するのでは突然起こり得る急激な変化に対応しきれないのではないかと考える。 |
(以上)
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