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国際的な資金フローに関する研究会
第3回会合
2011年11月29日(火) 13:00〜15:15
於: 財務省4階 西456「第1会議室」
第3回
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| ◆テーマ | : | 「米国の経済財政運営について」 |
| 発表者 | : | 安井 明彦 みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長 |
| | 発表資料[515kb,PDF] |
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| ◆テーマ | : | 「最近の国際金融情勢について」 |
| 発表者 | : | 中尾 武彦 財務省財務官 |
| | 発表資料[1146kb,PDF] |
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議事要旨
(1) 発表 「米国の経済財政運営について」
安井 明彦 みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長
| 【景気の不透明要因となる政策運営】 |
| ○ | 米国経済は金融危機からのヒーリング過程にある。実体経済は底堅いが、潜在成長率から見ればまだ弱い。民間のバランスシート調整には1年半程度は要すると見られ、欧州のソブリン危機、新興国の景気動向、米国の政策などから生じる外部的なショックに弱い状態にある。 |
| ○ | 米国経済が脆弱な中で、政策運営が大きな不透明要因になっている。なかでも、政治的な決断、政治的な妥協、政治的な決定がなければ緊縮財政がどんどん進んでしまう状況(「不作為の緊縮財政」)にあり、景気対応と財政再建の兼ね合いが焦点になっている。 |
| 【難しい舵取りを迫られる財政運営】 |
| ○ | 「不作為の緊縮財政」が進む理由としては、財政管理法(10 年間で2.1 兆ドルの赤字削減)により2013年1月から自動的に歳出が削減されることだけでなく、同法にかかわらずブッシュ減税などが失効すること、2013年1月に医療改革の一環として医療保険に関する増税が行われることなどがある。 |
| ○ | 足もとの景気にとっては、財政再建が政治対立で進まないことではなく、政治対立により財政再建が急速に進むことのほうがリスクである。足もとの財政悪化は金融危機の結果生じている現象であり、景気が戻っていない状況で財政赤字にだけ着目して財政赤字を減らそうとすると、景気を悪化させる惧れがある。 |
| ○ | 財政再建は政府のあり方の選択の問題である。二大政党は財政再建をしなければならないという方向性では一致しているが、実現の方法については、歳出削減重視の共和党と歳入増加容認の民主党で対立がある。政府のあり方は党派対立の中心的な論点であり、 2012年の大統領選挙でも焦点となる。 |
| ○ | 医療費の増大や金融危機による債務残高の急上昇を受けて踏み込んだ財政再建が必要である。選択肢は限らており、やるべきことは再度の医療改革と税制改革である。 |
| ○ | 医療改革について、二大政党は医療費の抑制では一致しているが、そのための政府の役割について、民主党は公的保険を通じて政府主導で実施すべきとしているが、共和党は市場原理を使って医療費の伸びを抑えるべきとしている。税制改革については、ブッシュ減税の延長と税制の簡素化による増収では一致しているが、民主党は格差是正のために税率構造が累進的な税制を指向している一方で、共和党は税率構造がフラットな税制を主張しており、累進性の問題で対立がある。 |
| 【不安定な政治情勢】 |
| ○ | 世論の分裂と政府不信という2つの現象が並行して進行している。そうしたなか、2012年の大統領及び議会の選挙において圧倒的に勝つ党はないと見られ、また、二大政党とも党内がまとまっていないため、選挙後においても、党と党の妥協、もしくは党の中の妥協が前提となる状況が続くだろう。 |
| ○ | 「公正(フェアネス)」を求める世論の動きが政策に影響を与えていくだろう。政府の関与による公正の実現を求める民主党寄りの人々と、政府の介入を防ぐことで公正の実現を考える共和党寄りの人々ではやり方は異なるものの、ルールを守った人々が報われる政策を行って欲しいというのが今の世論であり、「公正」というキーワードは変わらない。 |
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(2) 質疑応答・自由討議
| ○ | 米国の住宅市場の調整は終わってきている。ただ、確実に差押さえになる可能性のある住宅が残っており、これらの整理に時間がかかるだろう。ただ、差押え物件以外の住宅価格は上昇の動きがあり、住宅市場が良くなってきている部分もある。 |
| ○ | 欧州危機の影響について、米国経済に占める輸出のシェアは大きくなく、欧州の景気がどこまで悪化するかにもよるが、貿易を通じた影響はそれほど大きくないだろう。金融面では、米銀の欧州に対するエクスポージャーは大きくないと言われているが、金融市場が混乱した場合の影響はエクスポージャーの大きさだけでは測れず、懸念は大きい。 |
| ○ | オバマ政権の医療改革に関する憲法判断は大統領選挙前の2012年6〜7月に出される見込みである。仮に違憲となった場合は改革が機能しなくなるとの見方が多く、財政赤字の削減効果は小さくなるだろう。ただ、訴訟の帰趨にかかわらず、もう一度、医療改革をやる必要がある。 |
| ○ | 「公正(フェアネス)」の概念は微妙であり、マイケル・ジャクソンが大金持ちでも不満はないが、自分たちとそれほど違わない人たちとの差には不満が強い。来年の選挙が終われば問題が解決するということではないだろう。 |
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(3) 発表 「最近の国際金融情勢について」
中尾 武彦 財務省財務官
| 【最近の国際経済情勢】 |
| ○ | 世界経済には欧州の危機や米国の財政問題など不確定要因が存在する。ユーロ圏については、大きな混乱がある場合は2012年の成長率が大きなマイナスになるとの見方もある。他方で、アジアは安定した成長を続けている。 |
| ○ | 2007年以降、対ドルで円高が進んでいる。人民元は対ドルで徐々に切り上がってきている。韓国ウォンは、円が上昇する一方で安くなっている。ユーロ域内では為替リスクがないが、国債の対独スプレッドが広がっている。イタリアやスペイン等の国債の対独スプレッドが広がり、流動性を供給するためにECB が徐々に国債を買い支えている。 |
| 【ユーロ圏における金融安定化に向けた最近の動き】 |
| ○ | 本年6月、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)のユーロ加盟国による保証額が 4,400億ユーロから7,800億ユーロに引き上げが決まり、その後の各国内の手続きを経て実質的な融資枠は4,400億ユーロとなった。EFSF債のAAA格付けを維持するためには、トリプルA諸国のみで発行額が保証されていなければならない。また、恒久的な措置として、欧州安定メカニズム(ESM)を発足させ、2013年半ばからEFSFの業務を引き継がせることが決まっている。 |
| ○ | 最近の動きとして、本年10月に、ギリシャに対する追加支援、EFSFのレバレッジ、銀行の資本増強等が決まった。ギリシャ支援では、民間投資家がギリシャ国債の50%ヘアカットをボランタリーに行うことが盛り込まれた。EFSFのレバレッジでは、特別目的事業体を創設し、EFSFと官民の金融機関・投資家の資金を結合させて国債を購入することとなった。銀行の資本増強では、満期保有のものを含めて国債を時価評価したうえで狭義の中核的自己資本(Core Tier 1)比率9%を達成することになった。しかし、いずれも実現には相当の困難が予想される。 |
| ○ | 今後の危機への対応としては、欧州中央銀行(ECB)による積極的な国債の購入や、各国が外貨準備をIMF に貸し付けることによってIMF の資金を増やし、IMF からヨーロッパへの予防的な支援をすることも検討されている。 |
| 【欧州危機の教訓など】 |
| ○ | 楽観的な見通しが広がると過大なレバレッジやリスクテイクを伴う金融活動が行われて資産価格の上昇や経常赤字の拡大などが起こり、持続不可能になると資金の逆流が始まるというのが危機の基本的な構造であり、どの危機でも同じことが起こっている。 |
| ○ | 日本は税収を上げるか社会保障を効率化するかのどちらかしかなく、景気が悪いからといって先延ばしすると、かえってコンフィデンスを低下させ、国内需要にも悪影響が生じる可能性がある。こうした認識は世界的にも強まっており、国際機関も含めて財政の景気刺激効果より財政の安定した運用によるコンフィデンスへの効果を重視する流れになっている。 |
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(4) 質疑応答・自由討議
| ○ | 国債が売り込まれると、金利が上がって持続可能性(sustainability)の試算が悪化し、それを受けてさらに国債が売られることで問題が一層悪化するという自己実現的な面がある(self-enforcing)。通貨アタックの場合は、通貨が下がることで競争力が上がる効果もあるが、国債へのアタックで国債の金利が上がって良いことは一つもない。 |
| ○ | リスクを数値化する流れのなか、リスクレスなものをベースラインとしてリスクを測る動きが進んだ。長期物でベースラインとして適当なものは国債しかなく、国債がリスクレスという形で強調され過ぎていたところに、国債のリスクが認識されてベースラインがずれ、その結果すべてがずれてしまうという状況が生じている。 |
| ○ | 世界的にリスク回避指向が強まり安全資産の需要が増える一方、先進国のソブリン債が必ずしも安全資産ではないことがわかるなど安全資産の供給は減っている。安全資産に対する超過需要は日米欧の中央銀行の当座預金などに向かっており、中央銀行が量的緩和を行っても、金融政策のトランスミッションがうまく働かない状況にある。こうしたなか、今は安全資産と見られている円資産の位置づけがどうなっていくかいうことである。 |
| ○ | ドイツ国債の札割れ、フランス国債の格下げ懸念、というリスクに直面し、ヨーロッパ全体の格付が下がるリスクがあるため、むやみに銀行に対する保証をつけると国債の格付けが下がることになる。ドイツがいう財政統合とは財政規律の強化のことをいうのであって財政移転を含んでいないが、市場の中にはドイツが一定の財政移転を容認しないと本当の解決にはつながらないとの期待もある。 |
(以上)
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