国際的な資金フローに関する研究会
第2回会合
2011年11月1日(火) 13:00〜15:00
於: 財務省4階 西456「第1会議室」
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| 議事要旨 |
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| ◆テーマ | : | 「対外インバランスと評価効果の非対称性−「富の移転」に関する日米比較−」 |
| 発表者 | : | 岩本 武和 京都大学大学院経済学研究科教授 |
| | 発表資料[419kb,PDF] |
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| ◆テーマ | : | 「マクロ経済安定化という視点からみたバーゼルV等最近の金融規制の評価」 |
| 発表者 | : | 大山 剛 有限責任監査法人トーマツ金融インダストリーグループパートナー |
| | 発表資料[509kb,PDF] |
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議事要旨
(1) 発表 「対外インバランスと評価効果の非対称性−「富の移転」に関する日米比較−」
岩本 武和 京都大学大学院経済学研究科教授
| 【グローバルインバランスと金融危機】 |
| ○ | 1990年代後半のドル高政策により米国の経常赤字が拡大し、米国に資金が集まる流れができた。2000年代に入るとITバブル崩壊等を受けて短期金利の引下げが行われてドルが下落するなか、住宅バブルが発生した。これに対して短期金利が引き上げられたが、長期金利が上昇しない「長期金利の謎」という現象が生じ、資産価格のソフトランディングができずに金融危機に陥った。 |
| ○ | こうした経緯を辿った説明として、アジア危機後の過少投資、「Global Saving Glut(世界的過剰貯蓄)」による実質金利の低下(バーナンキ)、アジアにおける競争的な為替政策(Bretton Woods II仮説)などが主張されているが、「過剰流動性」が問題であるとする反論などもあり必ずしも定説はない。 |
| 【グロスの対外資産・対外負債の肥大化】 |
| ○ | 1990年代から金融市場がグローバルに統合された結果、クロスボーダーの資産取引が拡大しており、対外資産及び対外負債が両建てで拡大している。 |
| ○ | 米国では、1995年頃には対外資産及び対外負債はともにGDP比50%程度で推移していたが、2009年にはGDP比150%程度となり約3倍に伸びている。一方、日本は米国に比べて対外純資産は大きいが、グロスで見た対外資産及び対外負債はかなり小さい。 |
| ○ | 日本は対外資産に比べて対外負債が伸びていないため、対外資産と対外負債の大きさに基づいて算出した金融グローバル化指標によれば、日本の金融市場は米国に比べて統合されていないことになってしまう。 |
| 【キャピタルゲイン(評価効果)とインカムゲイン】 |
| ○ | 経常収支と対外純資産の関係が曖昧になっている。米国では2000年に入って経常赤字が拡大しているが、対外純資産は安定ないし改善している。これはキャピタルゲインによる「評価効果」によって生じる現象であり、米国は2002〜2007年に為替レートを含めたキャピタルゲインで4兆ドルを稼いだと見積もられる。他方、日本は、経常収支が黒字であり対外純資産もプラスだがキャピタルゲインはそれほど稼いでいない。 |
| ○ | 2000年以降、米国は安定的にキャピタルゲインを稼ぐとともにインカムゲイン(所得収支)も稼いでいる。日本ではキャピタルゲインはマイナスであり、インカムゲインで稼ぐ構図となっている。 |
| 【米国の「法外な特権」について】 |
| ○ | 米国はネットの対外債務国だが、グロスの対外資産から受け取る収益がグロスの対外債務によって生じる外国への支払いより大きいという「法外な特権(exorbitant privilege)」を有している。 |
| ○ | 米国については、対外総資産から受け取る利子率が対外総負債に対して支払う利子率を上回っており、かつ、対外総負債が十分に大きいため、一種の金利効果がプラスとなることから所得収支がプラスになることに寄与している。米国は、金利効果と評価効果(キャピタルゲイン)という追加的な効果によって、対外的な予算制約が緩和されている。 |
| ○ | 「法外な特権」の根拠は、米国が短期借り・長期貸しをする「世界の銀行家」の地位から、債券売越し・株式買越しをする「世界のベンチャーキャピタリスト」の地位に変化していることにあるとされる。 |
| ○ | 米国は対外資産の多くを外貨建てで持つ一方、対外債務のほとんどはドル建てである。このため債務には為替リスクが無く、ドル安になればキャピタルゲインが生じる。但し、金融危機に際しては、経常収支は改善したがキャピタルゲインは大幅に縮小した。 |
| 【日本の課題】 |
| ○ | 日本は経常収支が黒字であることから対外純資産が増えて所得収支の黒字も拡大するという「単線的」構造だが、米国や英国のように、対外資産と対外負債を両建てで伸ばし、収益率格差によって所得収支の黒字を増やすという「複線的」構造を目指すべきとの指摘がある。 |
| ○ | 日本では所得収支の黒字は拡大しているが、キャピタルゲインは小さい。また、日米のキャピタルゲインの動きは非対称的である。キャピタルゲインは「富の移転」であり、日本から米国への富の移転が生じているのかもしれない。 |
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(2) 質疑応答・自由討議
| ○ | グローバルインバランスに関しては、どの国が富を持っているかより、その富を上手く使って人々の生活が本当の意味で豊かになるような使い方をすることの方が大事になってきているのではないか。 |
| ○ | 経常赤字国の中には金融監督や金融政策を適切に行い、深刻な危機に陥らなかった国もある。グローバルインバランスへの対応は各国の政策担当者の責任であり、金融危機をグローバルインバランスの責任にするのは責任転嫁ではないか。 |
| ○ | グローバルインバランスは金融危機が発生する蓋然性(probability or frequency)を測定する指標としては優れていないかもしれないが、グローバルインバランスが存在する状況で危機が生じると非常に大きなダメージがあるという意味で、危機が一旦発生した場合の危機の深刻さ(severity)を示す指標としては優れているのではないか。 |
| ○ | 米国はドルが国際通貨であるため、対外投資ポジションの負債側でメリットを得ている。日本が単独で負債側の資金調達コストを下げて収益を高めるのは困難であり、そうするためには通貨や資金調達におけるアジアとの協力・協調が重要である。 |
| ○ | 対外収益比率(対外資産から受け取る収益率/対外債務に対して支払う収益率)がレバレッジ比率(対外債務/対外資産)を上回っている限り対外純収益はプラスとなり「法外な特権」が持続するが、いずれマイナスに転換することもありうる。 |
| ○ | 日本の所得収支は配当収入が少ない。少子高齢化に伴って貯蓄率の低下が見込まれる状況下、国内における投資を維持するためにも、海外からの配当還流を促進する政策が必要である。 |
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(3) 発表 「マクロ経済安定化という視点からみたバーゼルV等最近の金融規制の評価」
大山 剛 有限責任監査法人トーマツ金融インダストリーグループパートナー
| 【バーゼルVの概要】 |
| ○ | バーゼルVは、システム上重要な金融機関(Systemically Important Financial Institutions; Sifis)の特定化や追加的資本の議論が2011年央に固まり、2013〜19年に段階的に実施される運びとなっている。 |
| ○ | 普通株等Tier1最低水準は4.5%であり、バーゼルVではこれが最も重要な数字である。但し、その上に2.5%の資本保全バッファーを積む必要があり、実質的な最低ラインは7.0%とも言える。Sifisについては、さらに1.0〜2.5%が求められ、自己資本は最大で9.5%(カウンターシクリカル・バッファーまで考慮すれば、更に高まることも有り得る)とされるなど、銀行にとって厳しいルールになっている。求める資本を増やし、その純度を高めるのがバーゼルVの特徴である。 |
| ○ | バーゼルVでは同T、Uと違い、個別の金融機関ではなく、金融システム全体が不安的になる確率(システミック・リスク)を減らすというマクロ的な観点から自己資本の水準が決められた。また、流動性の分野でもグローバルなルールを導入しようとしている。 |
| ○ | 自己資本の階層構造を見ると、1階は最低所要自己資本4.5%で、2階と3階はマクロ的な視点から景気の波を増幅するのを和らげるためのもので、2階は資本保全バッファー、3階は各国のバブルの度合いに応じて積まれるカウンターシクリカル・バッファーである。 |
| ○ | 4階と5階はシステミック・リスクに対するバッファーであり、個別金融機関が破綻したときにどのくらい影響があるのかという視点から賦課されるものである。4階のSifisに対するキャピタルサーチャージ(追加的資本賦課)は、システミック・リスクを測定して特定の金融機関にチャージすることで外部不経済を内部化する点で画期的である。5階は自らの破綻処理に伴い顕現化するシステミック・リスクの削減措置(所謂「living will(生前遺言)」とも称されるもの)後も残る残余リスクを相殺するための追加的資本賦課だが、事前に金融機関に自らの破綻処理を決めさせるのは難しい面がある。 |
| ○ | バーゼルVでは、資本規制以外に、金融機関のリスク・アピタイトの制御に向けた仕組みの導入のほか、シャドーバンキングや格付機関を規制の対象にしようとの動きがある。 |
| 【バーゼルVの特徴・評価】 |
| ○ | 政策順序の優先順位としては、@マクロ不均衡の問題、A金融システムのインセンティブ体系の問題への対応、B十分な資本の確保、C個別金融機関のリスク管理の強化となるべきだが、バーゼルVでは@やAの議論はほとんどなく、BやCの議論が中心となっている。 |
| ○ | マクロプルーデンス政策についての対応は十分とは言えないが、バーゼルVにはバブル対策のためのカウンターシクリカル・バッファーの導入など画期的なアイデアが盛り込まれており、具体的なツールに関する議論も行われつつある。ただ、どの機関がどのようにマクロプルーデンス政策を実施するかは大きな課題である。 |
| ○ | 金融危機への当局の対応能力の欠如については、預金保険の改善などにより各国ごとの対応は進んでいる。バーゼルVでは、クロスボーダーの破綻処理などについて議論が行われているが、自国の利益を優先する動きが目立ち、国際的な協調の機運は低下しているようにみえる。 |
| ○ | 銀行監督体制については、金融危機を招いた監督当局の問題についての検証や議論があまり行われていない。こうした議論を対外的に目に見える形で十分に行わずに銀行の規制を強めることは、監督当局のモラルハザードにつながる恐れがある。 |
| ○ | Sifisの破綻に関し、政治的にも金融機関への税金投入を避けたい米国や英国の議論はベイルアウト(救済措置)を排除する方向だが、仮にグローバルなシステミック・リスクが残る中でSifisの破綻を許容すれば、結果的に世界中にシステミック・リスク顕現化の被害をばら撒き、金融危機の再発を招くことになる。これは見方によっては、米英当局が、他国にもたらす被害という負の外部経済を意に介さないという意味での、モラルハザードに陥っていることを意味する。 |
| ○ | システミック・リスクの評価に関しては、自己資本の水準などの静的側面だけでなく、危機が生じた際に金融機関がどのように対応できるのかという動態的側面を監督当局が評価することには意味があると考えるが、評価の難しさもあって、こうした議論は行われていない。 |
| ○ | 国によって状況が異なるなか、同じ規制を全世界で導入するという考え方はインセンティブ体系としては問題があり、ある国にとって不必要に高い水準の自己資本を積ませる結果、マクロ経済に大きなダメージを与える可能性もある。 |
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(4) 質疑応答・自由討議
| ○ | マクロプルーデンス政策については、独立性を持った中央銀行が担当することも一つの考え方だが、金融政策同様にアカウンタビリティが求められ、外部の評価に耐え得る体制が必要になる。 |
| ○ | 金融危機が強いデフレインパクトを持つため、各国の中央銀行は、ゼロ金利制約に直面し、民間債券の直接購入といった形で非伝統的な金融政策(信用緩和政策)を実施している。こうした非伝統的な金融政策は、マクロプルーデンス政策や財政政策の側面も併せ持っている。その意味で、金融政策とマクロプルーデンス政策の調整の重要性が増していると言える。 |
| ○ | 現にクロスボーダーで機能している金融システムがあり、それが資金フローを自在にコントロールしている状況下、誰がマクロプルーデンス政策を担うかは悩ましい問題である。各国間では収拾がつかない問題であり、国際的な仕組みや手段が必要になってきている。 |
| ○ | バーゼルVを巡る議論へのユーロ危機の影響として、ソブリン債の扱いはセンシティブな問題である。当局の利害が絡むソブリンリスクの評価に当局の視点のみではなく、どうやって第三者的な評価の視点を持ち込むかは難しい問題である。 |
| ○ | 資本と流動性の関係について、バーゼルVでは両方を別個に積むことを求められる方向だが、流動性が十分であれば新たな資本調達は不要(逆に言えば、欧銀のように流動性が不十分な先は、日米銀のように流動性が十分な先対比で、より多くの資本が必要となる)との考えもあり、両者の代替性を織り込んだルールの議論も必要と考えられる。 |
| ○ | 東南アジアや中国は、アジア通貨危機を経験して質量とも十分な資本を有していることもあり、欧米の銀行と同じ条件で競える場が設けられるとして、バーゼルVの導入を歓迎しているのではないか。また、バーゼルVをしっかり実施することで、自分たちのレピュテーションを高めることが出来ると見ている。 |
(以上)
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