国際的な資金フローに関する研究会
第1回会合
2011年10月6日(木) 16:00〜18:15
於: 財務省4階 南434「国際会議室」
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| 議事要旨 |
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| ◆テーマ | : | 「過剰流動性下で縮小するリスクマネー」 |
| 発表者 | : | 市川 眞一 クレディ・スイス証券チーフ・マーケット・ストラテジスト |
| | 発表資料[779kb,PDF] |
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| ◆テーマ | : | 「2011年度下期見通し〜9月危機説を乗り越え、次のステップへ?〜」 |
| 発表者 | : | 中空 麻奈 BNPパリバ証券クレジット調査部長 |
| | 発表資料[2.05mb,PDF] |
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議事要旨
(1) 発表 「過剰流動性下で縮小するリスクマネー」
市川 眞一 クレディ・スイス証券チーフ・マーケット・ストラテジスト
| 【過剰流動性下におけるリスクマネーの縮小】 |
| ○ | 世界的に株を売る動きが加速しており、国際商品市況も調整局面に入っている。一方で、アメリカ、ドイツ、日本の10年国債の利回りを見ると債券に大量に資金が集中していることが分かる。流動性は大量に供給されているものの、リスクをとる動きに繋がっていないところが世界経済の最大の問題である。 |
| 【アメリカの景気動向と見通し】 |
| ○ | OECDの景気先行指数とアメリカの製造業景況感指数の動きは非常に良く似ており、世界経済の動向を決めているのはアメリカ経済であると言える。世界経済のドライバー役とされる中国も貿易・サービス収支は黒字であり、米国の需要に支えられている。日本も2009年に大幅なマイナス成長になったのは、サブプライムローン等の金融的な問題ではなく、アメリカの実質需要が低下することで日本の需要が落ちるという経過を辿っている。 |
| ○ | アメリカの長期国債の格下げの理由は、経済のファンダメンタルズではなく、財政再建策を巡る大統領と議会との対立により、政策決定等の安定性、効率性、予見可能性がなくなったという政治リスクであった。政治リスクは米国経済の最大のリスクの一つと言える。 |
| ○ | 実質金利がほぼゼロとなっており、FRBのQE2(量的緩和の第2弾)等により流動性が供給されているのにもかかわらず、コンフィデンスが実体経済以上に悪化しているため消費や投資は回復せず、信用乗数は低下を続けており、貸し出しも伸びていない。こうした状況で金融政策が単独で動くのは難しく、財政を出動し、それに金融政策が乗る形で一定の有効需要をつくりだす必要がある。 |
| ○ | 「拡大再生産型」だったアメリカ経済が「縮小均衡」に陥ったことが、アメリカの企業や消費者のコンフィデンスを悪化させている要因であり、彼らに将来に向けて期待感を持たせることができないとコンフィデンスの回復は難しい。 |
| ○ | 大統領選挙までの2年間の景気が大統領の再選に影響を与えるため、景気対策や財政赤字削減策(4,670億ドルの予算削減)を巡り、議会(共和党)と大統領の対立が生じ、とるべき政策が取れない状況となっている。近く決着が図られる見込みだが、その帰趨により2012年に向けての世界景気や資金の流れが決まってくる可能性がある。 |
| 【日本の構造的なデフレ】 |
| ○ | 政府、企業、家計という国内の主要3主体でみると、家計だけではなく、企業も資金余剰となっている。家計が消費をせず、企業も投資をしない状況が続くなか、政府が財政を出してバランスをしている。デフレからの脱却のためには、企業が投資できる環境を作らなければならない。 |
| ○ | 国内銀行の銀行勘定に占める公債の保有残高の割合は22%に達している。貸出は利ざやが限られるうえ、自己資本規制上リスクとしてカウントしなければならないが、国債にはオペーレションコストはかからず、自己資本規制上のリスクもないため銀行にとって公債の保有は合理的な行動である。民間部門の資金需要が伸びないために生じている現象であり、デフレの背景ともなっている。 |
| 【資源型のインフレファクターと中国経済】 |
| ○ | 景気停滞の一方でインフレ率は高まっている。この背景には、中国をはじめとする新興国需要の拡大による資源需給の逼迫によりコモディティ価格が上昇していることがある。原油については、1980年代から2000年代初頭にかけて価格が1バレル20〜30ドルと比較的安かったため設備投資が行われず生産能力の引上げが十分に行われていない。 |
| ○ | 中国の一人当たりの年間エネルギー消費量は日本の1960年代の水準にある。今後、一人当たりの年間エネルギー消費量が自動車の更なる普及により日本レベルになれば、人口が多い中国のエネルギー消費量(すでに日本の4.5倍)は急速に拡大することなる。中国ではエネルギー状況が、成長制約要因になりかねず、世界は巨大な資源型インフレファクターを抱えていることになる。 |
| ○ | 1単位のGDPを生み出すのに必要なエネルギー量から見ると人民元は2倍に切り上がることになる。中国は交易条件に配慮して商品市況の上昇に合わせるように人民元の切上げを行ってきており、世界的に景気が拡大に向かえば資源価格の上昇とともに通貨の切上げが必要になり、経済構造、政治構造の転換に踏み出さなくてはならない可能性がある。 |
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(2) 発表 「2011年度下期見通し〜9月危機説を乗り越え、次のステップへ?〜」
中空 麻奈 BNPパリバ証券クレジット調査部長
| 【ソブリンスプレッドの拡大とGIIPS諸国の概況】 |
| ○ | 去年5月と今年5月のGIIPS諸国のソブリンスプレッドを比較すると、スプレッドが拡大するとともに、足元において3つのグループ(@ギリシャ、Aポルトガル・アイルランド、Bスペイン・イタリア)に分かれていることが分かる。 |
| ○ | ギリシャは、自発的な債務のロールオーバーなど「秩序あるデフォルト」を定義に含めればデフォルトが確実と見られる。 |
| ○ | ポルトガルは、ギリシャがデフォルトすれば危機が波及することを見越して2回目の金融支援を受ける姿勢を示している。他方で、アイルランドはスプレッドが縮小しており状況はやや異なる。これは、アイルランドの問題はソブリンリスクではなく金融機関のリスクであるため、救済スキームが明確であり、既に債務リストラが始まっていること、また、財政再建に向けて歳入ベースが確保されていることなどによる。 |
| ○ | スペイン、イタリアについては、デフォルトは回避されると見られるが、益出しを狙うヘッジファンドの動きによってはスプレッドが拡大する可能性はある。 |
| 【ギリシャについて】 |
| ○ | ギリシャでは財政再建が進んでおらず、預金の減少など資金が海外に流出する動きも見られる。年金支払、債券償還、利払いのためのキャッシュフローが回らない惧れも生じており、いつデフォルトしてもおかしくない。そうしたなか、2011年6月にはEU・IMFから支援を受けるために中期財政戦略が策定され、2011年7月にはユーロ圏首脳会合において追加支援プログラムの大枠が合意されている。 |
| ○ | ギリシャ支援策では、投資家に対して国債のロールオーバーの案が示されており、債権者の90%以上が合意すれば、ギリシャについては「秩序あるデフォルト」が行われることになる。 |
| ○ | ギリシャ支援を巡っては、フィンランドが担保を要求するなどの動きがある。経済力が異なり、それぞれに問題を抱えているユーロ圏諸国が全会一致で団結するのは容易ではない。 |
| 【ポルトガルについて】 |
| ○ | ポルトガルは、ギリシャがデフォルトすれば2回目の金融支援を受けることにしており、支援を受けることになれば財政再建に向けて時間を稼ぐことができる。しかし、ギリシャが秩序あるデフォルトに向かわなければ似た状況にあるポルトガルに危機が波及する可能性が高い。 |
| 【スペインについて】 |
| ○ | スペインでは若年層の失業率が45%を超えており、歳入が増えない一方で歳出が増える状況にあり、財政再建がうまくいかない。不動産バブルが崩壊したスペインでは、金融システム不安の解消も課題である。また、2011年11月に総選挙を控えており、自国回帰主義の政策を掲げる野党が政権を取ればユーロ圏諸国の結束がさらに乱れる惧れもある。 |
| 【イタリアについて】 |
| ○ | イタリアは国債の格付けが引き下げられ、ゼネストが起こるなど、ギリシャの状況に近づきつつある。イタリアは累積債務が大きい点で日本と共通している。債務残高は日本の方が多いが、金利が高い分、利払いはイタリアの方が多い。 |
| 【フランスについて】 |
| ○ | フランスは財政赤字対比のGDP比率が▲7.0%とイタリアやスペインに近く、国債の格付けが下がるリスクが高まっている。格付けが下がると、EFSF(欧州金融安定ファシリティ)の構造に影響が出る。なお、アメリカの金融機関はフランス向けのエクスポージャーが大きく、フランスのリスクが高まるとアメリカにリスクが波及する。 |
| 【銀行への影響・実体経済への影響】 |
| ○ | 2011年以降、短期金融市場のクレジットスプレッドが拡大しており、資金調達が困難となる銀行が出てきている。リーマンショック時に比べれば未だ落ち着いた状況にあるが、主要国の主金融機関のCDSスプレッドは同様に拡大しており、金融危機が起きていると見ていい状況にある。 |
| ○ | マーケットは、個別銀行について、GIIPS向けのエクスポージャーの大きさ(資本対比でコントロール出来るか)と流動性が取れているかに注目している。ドイツの銀行の中にはGIIPS向けのエクスポージャーの大きいところも散見され、スペインやイタリアの銀行は資金調達が厳しくなっている。 | |
| ○ | マーケットは、秩序だったギリシャのデフォルト、予防的な公的資本の注入、EFSFの枠組みの拡充により多少落ち着くだろう。ただ、抜本的な解決のためには、EFSFの金額を大きくした上で、債権者にヘアカットを要請できるESM(欧州安定メカニズム)に移行する必要がある。 |
| ○ | 欧州は、ギリシャに「秩序だったデフォルト」をさせつつ、2013年7月まで時間稼ぎすることを考えていると見られ、ESMへの早期移行の可能性も探っていると思われる。欧州の取組みは、方向は合っているものの進捗が遅いため、動きの速いマーケットとのギャップをいかに埋めていくかが課題である。 |
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(3) 質疑・応答
| ○ | 中央銀行の役割に関し、金融政策だけでインフレ率を高めに誘導して過剰債務の問題を解決するのは難しく、財政と金融が一体化して動くとともに国際協調も必要なのではないか。 |
| ○ | 日本の場合、金融セクターに問題がある状況で財政が出動しても政府債務が累積しただけであった。金融に加えて財政を出すのも一つの考えだが効果が波及しないという問題もある。 |
| ○ | FRBのQE2の効果としてのドル安は米国の輸出増加にそれほど影響を与えないのではないか。米国はTPPの推進などにも力を入れているが、米国経済を支えるほどに輸出を伸ばすのは難しいのではないか。 |
| ○ | 米国で内需が回復しないのは、住宅市場が傷つき住宅価格が下落していることがある。住宅以外の資産も傷ついており、消費が回復しないのも不思議ではない。 |
| ○ | 足もとにおいて、ドルに対する構造的なリスクを市場が懸念し始めている可能性がある。世界中から物を買うという前提でドルが基軸通貨となっている状況において、米国経済が縮小均衡に向かうとすれば、ドルを持つ意味が薄れることになるが、そうした流れが生じつつあるようにも思われる。 |
| ○ | 円高対策に関し、将来、円安になると考えるなら、海外に投資することは合理的であり、円高対策としても対外投資の活性化は重要な手段である。日本が円高を活用して米国の有力企業の買収に動くといった状況になれば米国としてもドル防衛に動かざるを得なくなるのではないか。 |
| ○ | 今後、日本の貿易・サービス収支の黒字は縮小していく。日本は資源を輸入する必要があり、少なくともその輸入に必要な稼ぎは必要である。そのためには、所得収支で稼げる体制をつくるとともに、輸出で稼げる部分を残しておかなければならない。 |
| ○ | 欧州は危機を食い止めるため、ギリシャ国債のデフォルト回避ではなく、その先の問題である銀行システム保全を防衛ラインとすべき。ここに来てドイツが金融機関への資本注入を行う姿勢を見せているが、正しい方向である。政策当局は金融機関への資本注入が必要なことは分かっていても、民主主義の中では国民感情に反してそれを実行できないという問題がある。 |
| ○ | ドルの調達が気懸りな欧州の銀行は、ドル資産を売却するかたわらで、ドル調達の必要があまりないように振舞っている。ただ、ユーロを調達できる限り、スワップによりドルだけでなく、円やスイスフランの調達は可能である。 |
(以上)
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