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報道発表

平成24年5月18日

財務省

「グローバル化に対応した人材の育成・活用に関する研究会―諸外国の事例及び我が国への示唆―」(財務総合政策研究所)が報告書を取りまとめました。

グローバル化が進み、市場の拡大や需要の多様化が進む一方、新興国との競合や技術進歩の速度が高まることによって、企業経営や産業構造の変化が否応なしに求められるなか、私達が仕事をする上で必要とする知識・能力・技術の高度化、専門化、多様化が求められています。

「グローバル化に対応した人材の育成・活用に関する研究会―諸外国の事例及び我が国への示唆―」では、経済・社会の構造変化に対応し、今後の日本経済の持続的成長を担う人材を、社会全体でどのように育成し、どのように活用すべきかという課題について、諸外国における取り組みから我が国への示唆を得るために、樋口美雄・慶應義塾大学商学部教授/財務省財務総合政策研究所特別研究官を座長とする研究会において、検討を行ってきました。

今般、これまでの検討を踏まえ、研究会の成果として研究会メンバーの執筆により報告書を取りまとめました。1. 報告書の各章の標題と執筆者名、2. 報告書の主なポイント、3. 研究会メンバーは、別紙の通りです。

なお、本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省或いは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

【連絡先】

財務省財務総合政策研究所研究部

主任研究官 加藤

研究員   梅崎

研究員   塚本

研究員   蜂須賀

研究員   吉川

電話: 03-3581-4111(財務省代表)

(内線) 5315, 5348 , 5974


(別紙)

1.報告書の各章の標題と執筆者名

(役職名は2012年4月現在)

(本「報道発表」における関連ページ)

 

序章

グローバル化に対応した人材の育成・活用に係る諸外国の事例及び我が国への示唆

                                 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 3ページ(要旨)

 

樋口 美雄 研究会座長・慶應義塾大学商学部教授/財務省財務総合政策研究所特別研究官

加藤 千鶴 財務省財務総合政策研究所主任研究官

1.高等教育のあり方

第1章

EU人的資本計画の動向―基準共有と高度人材育成・獲得のメカニズム―

                 ・・・・・・・・・・・・・・ 7ページ(発表要旨)

 

松塚 ゆかり 一橋大学大学教育研究開発センター教授

第2章

フランスにおける高等教育の質の保証を通じた人材育成・活用

                 ・・・・・・・・・・・・・・・ 8ページ(要旨)  

 

加藤 千鶴  財務省財務総合政策研究所主任研究官

梅ア 知恵  財務省財務総合政策研究所研究員

塚本 朋久  財務省財務総合政策研究所研究員

蜂須賀 圭史 財務省財務総合政策研究所研究員

吉川 浩史  財務省財務総合政策研究所研究員

第3章

韓国における「グローバル化に対応した人材」の育成政策とその枠組み:教育政策の    考察を中心に            ・・・・・・・・・・・・・ 9ページ(発表要旨)

 

有田 伸   東京大学社会科学研究所准教授

2.職業教育・訓練のあり方

第4章

職業教育・専門教育の国際比較の視点からみた日本の人材育成の現状と課題

                    ・・・・・・・・・・ 10ページ(発表要旨) 

 

寺田 盛紀  名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授

第5章

グローバル化の下での我が国の人材育成の課題―非グローバル人材に着目して―

                    ・・・・・・・・・ 11ページ(発表要旨)  

 

小杉 礼子 独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所人材育成部門統括研究員

 

第6章

グローバル人材の育成―製造業を中心とした基盤整備について―

                    ・・・・・・・・・ 12ページ(発表要旨) 

 

八幡 成美  法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻教授

第7章

グローバリゼーションの進展下における、広範な中間層に重点をおいた人材の育成・活用

                    ・・・・・・・・・ 13ページ(発表要旨) 

 

岩田 克彦  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校
       専門基礎学科教授/国立社会保障・人口問題研究所特別研究官

3.人材の育成と活用に関する課題

第8章

イギリスから見た日本の人材育成の課題・・・・・・・・・・・・・14ページ(発表要旨)

 

苅谷 剛彦  オックスフォード大学社会学科教授/同大学ニッサン日本問題研究所教授

第9章

グローバル化に対応した人材活用―参加型社会オランダ―・・・・・・15ページ(要旨) 

 

権丈 英子  亜細亜大学大学院経済学研究科教授

【参考資料】

特別講演資料

「サムスンのグローバル時代に適応したものづくりと人づくりについて」

吉川 良三 前サムスン電子株式会社常務
      現東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員

(注)報告書の内容は、断りのある場合を除き、執筆時点の2012年2月時点のものである。

2.報告書の主なポイント

研究会では、経済・社会の構造変化に対応し、今後の日本経済の持続的成長を担う人材の育成・活用のあり方を考えるために、高等教育、職業教育・訓練、女性の労働参加など、人材の育成と活用の充実に向けた、諸外国の特長的な政策対応を概観し、これらを踏まえて、日本における制度や慣行などの課題及び見直しのための方策を検討しました。

報告書では、マル1高等教育のあり方、マル1職業教育・訓練のあり方、マル1人材の育成と活用に関する課題とに分けて、諸外国の事例を踏まえた日本における人材の育成・活用のあり方を考察しています。

次ページ以降では、これらの内容のポイントを記しています。

 

 

【報告書の主な項目】

(本「報道発表」における説明ページ)

 

序章 グローバル化に対応した人材の育成・活用に係る諸外国の事例及び我が国への示唆

グローバル化が進む中で、市場の拡大や需要の多様化が進む一方、新興国との競合や技術進歩の速度が高まることによって、企業経営や産業構造の変化が否応なしに求められている。こうした経済・社会の構造変化に対応する多様な人材の育成と活用のあり方について、諸外国における政策対応から得られる示唆を、人材の育成、企業の採用、人材の活用に関するそれぞれの方策の観点から整理する。

(1) 人材の育成に係る方策

人材の育成について、マル1初等・中等・高等教育段階での学校での育成、マル1在職者の組織内での育成、マル1学校や組織のいずれにも属していない者の育成に分けて考える。

マル1初等・中等・高等教育段階の学校では、職業に関連する実践的な教育・訓練が教育課程に盛り込まれることにより、職業教育・訓練の機会が一層拡充されることが必要である。アメリカのように、各々の職業に要する技能、その水準、修得すべき学修内容を設定し、公開した上で、各段階の教育機関が連携して、職業に関連する専門的な技能を学卒時までに一貫して体得できる、分断のない職業教育・訓練課程を提供することが要請される。能力・学力が比較的高位の水準にある者に対する高度且つ専門性のある教育・訓練ととともに、比較的中低位の水準にある者に対して行われる、生産・製造・サービス等に係る専門性・多様性を加味した教育・訓練についても充実が求められる。アメリカのように、学校と地域企業との協働により学校教育課程と職業教育・訓練課程とを連関させた教育・訓練内容を設定することは、学卒時に、関連した職を得ることに寄与するであろう。学校での職業教育・訓練と企業での実習とを並行して経験できるドイツの「デュアル・システム」に相当する仕組みの策定は、現実的な対応策である。

また、学卒後においても、随時再教育・再訓練を受けることが可能となり、これを許容する柔軟な就労環境が整備されることは、生徒・学生のみならず既卒の在職者の能力を高めるとともに、一時離職者、無業者、特に正社員経験の僅少な若年層の就労可能性を改善する。一方、学校には、児童・生徒・学生の各々の能力・学力の程度や資質に基づく適性の一層の見極めと、就職に繋がる企業・職業に関する十分な情報の入手・提供が求められる。情報は、就職先として大企業偏重傾向の社会意識の中、特に中小企業に関する広範な情報が集約され、これが提供されることが重要である。また、グローバル化の下で、能力・学力の水準や職務で求められる度合いに応じた語学力の体得は、より多くの労働者にとり一層重要となる。

マル1在職者の組織内での育成としては、企業活動の国際的展開に要する教育・訓練が、OJT、Off-JTを通じ既に実践されてはいるものの、正規・非正規の雇用契約の形態を問わない教育・訓練の機会や、経営者層・中間管理者層・一般社員層等職階別の教育・訓練機会の充実が求められる。また、求められる技能が明示されること、これに基づき各人材に対する適正な評価がなされること、適正評価、能力、希望する就労形態に基づき人材の移動が相応に叶うような環境が整備されることが求められる。

マル1学校・組織のいずれにも属していない者の育成については、求職者(既卒無業者、中年齢層失職者・主婦等の一時離職者、高齢層等)に対する再雇用のための職業に関する教育・訓練の提供の一層の充実が求められる。提供場所として、職業教育・訓練機関の他、教育機関や地域の企業の活用が求められる。更に、就職に繋がる実践的な教育・訓練が教授されるために、地域の企業から職務内容に関する情報の提供を受けることも一案である。また、フランスの取り組みにあるように、職業能力や職業観の十分でない者が、企業に暫定的に「訓練生」として受け入れられ、一定の企業内訓練後に正式に雇用される仕組みは有効であり、韓国のように、組織に正式採用前の中間的な雇用機会を提供する場として機能してもらうことを促す措置も有用であろう。そのため、労働者の技能の種類・水準を可視化する「ジョブ・カード制度」の一層の活用が求められる。当該制度は、企業にとっても、個々の人材に対する訓練・職務内容の確定に奏効する。また、新卒者向けの職業教育・訓練の充実と、正社員経験の僅少な者が、職業教育・訓練機関における教育・訓練と企業実習とを並行して経験できる、ドイツのような仕組みも有効であろう。こうした育成策が、就職先との適合支援や、フランスのような教育・訓練期間中の身分保証とともに推進されることが求められる。こうした職業教育・訓練を担う指導者として、例えば、地域の経験者や高齢者等に活躍してもらうことは非常に有用と考えられる。

(2) 人材の採用に係る方策

多様な人材が能力を発揮する機会を得るためには、例えば、総合職・一般職、正規雇用・非正規雇用などだけではない、望まれる多様な就労形態を想定した弾力的な人材の採用手法が採られることが望ましい。例えば、経営者層・中間管理者層・一般社員層等の異なる職階に対する昇進希望の有無を踏まえた採用や、当初は非正規雇用であっても、相応の能力の蓄積と発揮が認められた後には正規雇用となることを想定した採用の枠組みなど、先駆的な企業で試みられている様々な手法の活用が考えられる。

企業の採用活動の早期化と長期化が、高等教育充実の足かせとなっている事態については、改善が必要であろう。新規学卒者一括採用は、社会人未経験者が採用される機会となっており、企業と学生の間の利害の一致による面もあるが、入学・授業開始時期を秋季とすることを検討する大学や、外国の大学の学期開始時期に沿うよう、年間を4つの学期に分けて単位の短期取得を可能とする大学の動きを踏まえて、企業の採用情報の提供方法の改善とあわせて、採用時期を弾力的なものにすることも求められる。これは、多様な人材に活躍の機会を与え、無業状態の短期化に寄与する上、企業にとっても、人材を適所に配することを通じ、生産性向上の可能性を高める。

人材の能力・技術と仕事のマッチングをはかるために、労働者の技能の種類・水準を可視化する仕組みを採用の際にも活用することは、再職業教育・訓練により雇用に足る人材に育成される既卒無業者、中年齢層失職者・主婦等の一時離職者、高齢層等求職者の再就労を促進することになると考えられる。

(3) 人材の活用に係る方策

個々の人材の有する能力・技術が、何らかの形で客観的に明示されることは、多様な分野において人材の流動性を高め、活躍する場を広げることに資する。そのためには、能力・技術の種類・水準を可視化する基準の策定が必要とされる。こうした観点から、例えば、欧州では、マル1国際通用性を加味した学位の枠組み、マル1職業に関連する資格枠組み、マル1学位と職業に関連する資格との連関の枠組み、マル1学修内容の蓄積を可能とする互換性のある単位の枠組みのような基準が設けられており、こうした取り組みを参考にすることは有用であろう。個々の人材は、こうした枠組みを活用することによって、自身の短期・中長期のキャリア形成が可能となる。

また、人材の効果的活用のためには、労働時間や労働場所に関して、柔軟な設定が可能となる環境が整備されることも必要である。個々人は、人生の各段階において、おかれている様々な状況の下で、労働時間や労働場所等の変更を余儀なくされることがあり得る。多様な人材が様々な活躍の機会を得るためには、個々人の事情を踏まえて、就労形態の変更をある程度柔軟に行うことが可能となるような就労体系が確立されることが望まれる。オランダにおける正規雇用者と非正規雇用者の均等待遇を前提とする時短勤務の積極的な活用や、例えば、上位職階への昇進希望者が比較的長時間の職務を担う一方、それを希望しない者は「ワーク・ライフ・バランス」を重視した職務を担うといった多様な就労形態が許容される仕組みを構築していくことが考えられる。こうした弾力的な労働環境の構築は、企業等の組織にとっても、人材を適所に配することを通じ、労働力の効果的活用を図ることができる。

企業等の組織が付加価値を発現し続けるには、必要とされる人材を適切に配置し、活用するとともに、士気(モチベーション)を維持・向上させる必要がある。士気を低下させることなく、人材の適正な配置を行うためには、合理性ある報酬の体系を布くとともに、職務遂行能力を踏まえた人材配置を行うことが重要である。実績に対して職位を与えることは、必ずしも職務遂行能力に見合った人材配置につながらない可能性がある。実績に見合った報酬体系と、職務遂行能力に見合った人材配置は、グローバル化の進展の中で、多様な人材を効果的に活用していく上で非常に重要である。既存の枠組みを弾力的に見直し、個々の人材が勤労意欲を維持しつつ相応の活躍の機会を得られるように、経済・社会の環境変化に対応する適正且つ柔軟な人事・評価体制を構築していくことが不可欠である。


次ページ以降では、これらが検討された研究会における発表内容や、これに基づく報告書各章の内容を要約して紹介する。

 

1.高等教育のあり方

人材のキャリア形成には、目標とする技能の水準の明確化とその保証が不可欠である。欧州は学位・資格の明確化の必要から基準を策定し、日本も「キャリア段位」の設定や大学と専門学校での教育課程の連携を指向している。松塚ゆかり一橋大学大学教育開発センター教授は、欧州の学位・資格基準の共通化等各国の政策協調による人材育成・活用の取り組みについて発表した(第1章「EU人的資本計画の動向―基準共有と高度人材育成・獲得のメカニズム―」参照)。その概要は、以下の通りである。

欧州は人材育成・活用に係る政策協調を推進している。1950年代以降の諸施策に加え、1999年の「ボローニャ宣言」を実践するプロセスにおいて、域内高等教育機関の連携を進めており、欧州を最も競争力のある知識基盤社会とすることを目指している。現在、これを具現化した施策の進捗が各国の定期報告とEU評価により行われている。

更に、経済力の強化は人的資本の強化により実現されるとして、高等教育の強化を掲げ、高等教育に係る政策協調を、マル1教育の質の保証、マル1人材の流動化、マル1雇用機会の拡大を中心に進めている。高等教育の質の保証は、1999年の質保証機関の設立を嚆矢とする。2005年には質の評価のための各国共用の基準が設けられた。2008年には学修課程の種別・水準と職業資格を対応させた資格枠組みを策定し、各国に対して、これに依拠する枠組みの策定を慫慂した。加えて、学位と専攻を明記する書式や学修成果の分析基準も標準化した。人材の流動化のためには、単位取得に必要な学修量・年数・履修内容について各国間で調整した。当該措置により単位の互換性は向上し、履修の重複・不足の解消と超国家での学位蓄積が可能となり、人材の流動化を促した。雇用機会の拡大のためには、企業と教育機関が協働して大学教育における到達目標を設定した。就学段階での履修内容と産業界が要請する技能との適合は、就学から就労への移行を円滑化し、雇用機会の拡大に寄与した。

但し、マル1経済力の強い国には学生が流入する傾向にある、マル1高等教育の付加価値の低い国からは学生が流出する傾向にあるとの分析結果は、人材の移動により「知」や技術が偏在し、知的基盤の二極化と経済格差拡大の可能性を示唆する。EUは、各国の機能分化とそれらの統合により、EU全体での経済力向上を目指している。

日本の高等教育については、マル1質保証や単位・学位標準化等、他国と比較可能な体制の構築、マル1専門性・高度性ある人材の国内外の移動がリスクの軽減に寄与することに鑑みた、高等教育の付加価値の明確化や教育と産業の連携の強化、マル1高齢化に伴う就労の長期化を見据えた、学校・職業教育での技能蓄積を加味した育成体制の構築が求められる。


労働市場で活用可能な高度な能力開発が、とりわけ高等教育段階で行われることは重要である。第2章「フランスにおける高等教育の質の保証を通じた人材育成・活用」では、高等教育の質の保証を通じた付加価値向上による人材育成を目的として大学改革を進めるフランスを取り上げ、改革の概観とその評価から、日本への示唆を考察している。その概要は以下の通りである。

フランスの大学改革は、若年失業や学位未取得の顕在化を背景に、学位取得の拡大や国際化に対応した雇用に資する能力形成を目的とし、マル1大学の自治の拡大、マル1大学運営・教員の評価の強化による教育の質の保証、マル1欧州枠組みと整合的な学位・単位の設定、マル1大学の配置の見直しを中心に進められている。

具体的には、各大学の教育活動、研究活動の機動性の向上、学術研究の蓄積を企図し、教育課程や教授法の策定、教員の採用等の大学運営に係る意思決定について大学の裁量を拡大した。一方、評価機関の再編により、大学運営・教員に対する評価を強化した。各大学は、独自性ある実践的な教育・研究活動の実施が期待されることとなった。改革では、更に、学位・単位の枠組みを学生・教員の流動化に寄与する欧州共通枠組みと整合する互換可能なものへ変更された。学位については、博士課程の5年間の当初2年を修士課程として、修士号の学位取得を可能とした。学位の授与も、欧州共用の書式により授与されることとなった。単位についても、国内外の他大学への転籍後の累積換算が可能な分野を拡大した。また、教育活動及び学術研究の効率化と高等教育へのアクセスの均衡を目指し、近接する大学・研究機関や類似の研究分野を統合・再編した。

当該改革と並行し、学卒後も未就職な者向けに、マル1企業への見習いとしての受け入れの慫慂(受け入れ人数に拠る課税率の減免)、マル1職業教育・訓練機関での教育・訓練と企業実習とを並行した職業教育・訓練体制の構築、マル1職業教育・訓練期間中の身分を保証する身分証の発行といった措置も採られている。

同国内では、大学改革は、教育の質の維持や多種の職業教育・訓練による技能の伸長、雇用可能性の向上に奏効しているとして評価されている。特に、教育・研究活動を効果的なものとすることを目的とするマル1大学の機動的裁量を可能とする自治の拡大、マル1大学運営・教員に対する評価の強化と、学部・研究分野の統廃合を含む、評価に対する改善を大学に促す仕組み、マル1互換可能な学位・単位の設定は、高等教育の人材育成に対する貢献の向上を期待させる。企業への学卒後未就職者の受け入れ義務や、職業教育・訓練期間中の身分保証も注目される。高等教育の質の保証を通じた人材育成の実効性を高める試みと、中等教育修了後就職希望者の活用機会を促す具体的な試みは、日本での育成・活用策に示唆を与える有用な取り組みであろう。

 

グローバル化に伴う知識基盤の拡大、技術進歩、需要の多様化といった環境変化に対応するには、高度な技能・専門的技能・多種の技能を持つ多様な人材が育成される必要がある。有田伸東京大学社会科学研究所准教授は、優秀な人材に対する英才教育と環境変化に対応する多様な人材に対する語学教育を進める韓国の取り組みと、それを踏まえた日本の課題について発表を行った(第3章「韓国における『グローバル化に対応した人材』の育成政策とその枠組み:教育政策の考察を中心に」参照)。その概要は以下の通りである。

韓国では元来、学校教育に対する社会的な期待が高く、大学進学・外国留学希望者が急増している。同国は、過度な受験競争の解消と教育機会均等のため中学・高校への進学機会を平準化する政策を実施し、学力差に依拠しない教育機会の提供を目指してきた。一方、「産業文明の挑戦に適切に対応できなかった」との反省から、1990年代半ば以降、グローバル化・情報化に対応し得る人材の育成を目的に、教育に係る枠組みを大幅に再編している。1995年「5.31教育改革方案」に、初等教育での英語の必修を盛り込み、2000年代には大学で英語の授業の拡充、2005年に「英語教育活性化5カ年総合対策」を策定し、初等教育段階からの長期視点に立脚した英語力の形成を目指した。更に、教育機会の平準化により生じた学力低下への対処や「技術立国」を主導する人材の育成の必要から、優秀な人材を対象とした英才教育も充実すべきとの社会意識が醸成され、2000年「英才教育振興法」にて英才学校が設置される等、英才教育のための体制が整備された。

同国がグローバル化に対応する人材の育成に進取的に取り組み、社会にもこれに呼応する意識が醸成されたことは、企業活動の国際化、国内企業の外国資本への売却機会の増加、通貨危機を経験したことによるリスクに対する危機感の高まりから、個々の労働力にとって外的評価に足る技能習得の重要度が増したことや、留学経験が就職時に有利に作用すること等に起因する。但し、マル1留学先での就職という頭脳流出の問題、マル1英語教育・英才教育の一方で留学経験者と非経験者、高学力の学生と高学力外の学生との格差の問題、マル1通貨危機後の非自発的失業者の増加といった問題は、依然、継続している。

人材育成の一翼を担う学校教育段階から人材活用を担う職業生活への移行にかけての、学生の採用・選考形態を日本と韓国で比較すると、日本の採用形態の中心ともいえる新卒一括採用は韓国でも行われているものの、韓国はインターンを経た採用や職種別採用の増大が特徴として挙げられる。更に、企業が英語力、卒業学校名を採用の選考基準とする点は日本と類似するものの、韓国は、人柄というような抽象的素養よりも学業成績や専門性、技能の水準を選考基準の中核に置く傾向にある。こうした特性は、グローバル化や情報化に伴う知識基盤の進展、技術進歩、需要の多様化に対応する多種の人材の育成を目指す日本の学校教育の在り方、採用慣行に係る課題を是正するための示唆となろう。」

2.職業教育・訓練のあり方

寺田盛紀名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授は、人材を育成する手段としての職業教育・訓練に着目し、各国の職業教育・訓練体制を比較するとともに、これを踏まえ、日本の職業教育・訓練体制の課題について発表した(第4章「職業教育・専門教育の国際比較の視点からみた日本の人材育成の現状と課題」参照)。その概要は以下の通りである。

日本では、経済・社会の変容に対応する専門的な職業教育・訓練を提供する体制が未だ十分に整備されていない。アメリカでは、高等教育機関と中等教育機関とが連携して、職業に関する専門的な知識・技能を、中等教育段階から高等教育段階にかけ一貫して体得可能な、分断のない職業教育・訓練課程が提供されている。アメリカ労働省は、各職業に要する技能の種類・水準、修得すべき学修内容を設定し公表している。こうした情報は雇用機会の拡大に寄与する可能性がある。ドイツにおいても、職業教育・訓練を行う「専門大学」が、職業に関する高度且つ実践的な課程を提供して、専門性を示す学位を授与している。中等教育段階においても、学校内・企業内実習の機会が充実し、一方、企業も職業教育・訓練後の実務能力を試験し、商工会議所は当該試験により取得可能な資格の管理を行っている。このようにドイツでは、就労への移行の円滑化を促すために、教育機関と企業とが協力する仕組みが構築されている。一方、日本においては、学校教育は教養教育が中心であり、就労に要される知識・技能の習得は、その多くがOJTやOff-JTで行われている。こうした仕組みの下では、学修内容と就労に要される知識・技能との間に連関性は生成されず、就労への移行は円滑に行われない可能性がある。

中等・高等教育段階で就労に要される技能を体得するには、産業界のニーズが把握され、これと整合的な職業教育・訓練が提供されることが重要であるが、大学生に対する意識調査を見ると、「人生で最も大切なこと」は「職業」よりも「家庭」、「余暇」等であり、高校生に対する調査では、自己実現意欲、リーダー志向がアメリカや中国、韓国等と比べ低い。当該結果は、日本企業が採用時、学修内容や専門性を重視しない傾向にあるとの指摘とも関連する、職業教育・訓練体制の不備が、若年層の意識に影響を与えている可能性を示唆する。

職業教育・訓練体制の充実に向けた方策としては、就職予定者に教授される職業教育・訓練は、受験中心というよりも職業に関連する専門性を加味した多様なものとすることが考えられる。加えて、「職業人」としての素養の醸成も不可欠であることから、留学・インターンシップの経験は有用であり、とりわけ国外でのインターンシップの機会を充実することが重要である。

 

小杉礼子独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所人材育成部門統括研究員は、グローバル化の進展や景気変動の悪影響を受け易い、学卒時未就職者を含む高度人材外の人材について、相応に職を得ることができるよう育成するために必要な施策について発表した(第5章「グローバル化の下での我が国の人材育成の課題―非グローバル人材に着目して―」参照)。その概要は以下の通りである。

学卒就職が中心の日本では、学卒時就職者は企業で育成されるが、学卒時未就職者は職業教育の機会を得られない。ドイツのように、「訓練生」としての受け入れ後に正規雇用となる非正規雇用を吸収する仕組みのない中、非正規雇用の増大や、職業教育割合が小さい大卒者の増加を踏まえると、学卒時未就職者を含む高度人材外の者に対する職業教育が必要である。大卒者調査では、「大学で得た知識・技能の活用度」が日本は欧州と比べ低く、特に日本の大学生の約半数を占める人文・社会科学系の卒業者が、「活用度」が低く未就職割合も高い。また、中退者が非典型雇用継続割合が高いとの結果も得られている。即ち、職業との関連性の希薄な教育を受けた者は、企業の育成機会に恵まれず、非典型雇用が長期に及ぶ傾向にあるといえる。こうした傾向は、高卒者に対する高等学校の就職斡旋機会の縮減や、大卒時未就職者割合が、国公立大や入学難易度の比較的高い私大で2005年から2010年に低下した一方、比較的低い私大で上昇しており、両者の差異が拡大しているとの分析に現れている。このような私大では、基礎学力に乏しい学生の増加、大学の就職斡旋機会の縮減の中での学生の孤立、就活断念者の増大が見られる。就職支援に注力する大学では内定率が高まる傾向もあり、入学難易度の比較的低い私大では、基礎学力の形成と産学連携による企業情報の強化とともに、就職専任者の配置による就職支援の強化が実践されることが必要である。

未就職者を雇用に繋げるためには、「訓練生」後に正規雇用者となれる仕組みが有効である。企業への資金が助成される「有期実習型訓練」や、学卒者対象の「実践型人材養成システム」、正規雇用経験の僅少な者を対象とした「日本版デュアルシステム」も有効であり、個々の人材の能力・技術の第三者による保証となる「ジョブ・カード制度」の一層の活用も求められる。

学卒時の就職促進を前提に、マル1学校・ハローワーク・企業の連携の下、就職斡旋の強化、マル1能力評価基準の策定、マル1雇用型訓練内容の策定支援を通じた企業への「訓練生」受け入れ慫慂、マル1能力開発の職業教育・訓練枠組みの強化、マル1所謂「ニート」に対しては、韓国の自立支援企業が中間的雇用を提供するような、中間的就労も許容される自立促進の仕組みの設定が必要である。

 

八幡成美法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻教授は、日本の製造業の優位性が、中長期的視点を重視し、チーム力で競争力を生み出す漸進的イノベーションにあるとの認識の下、製造業における人材育成・活用のあり方を考察するとともに、主要産業における人材育成・活用の参考としてアメリカにおける取り組み事例を紹介した(第6章「グローバル人材の育成―製造業を中心とした基盤整備について―」参照)。その概要は以下の通りである。

日本の製造業において、製造の各段階である基礎研究、製品開発、生産、販売の作業が円滑に流れる背景には、マル1経営層、生産技術者、現場監督者、高度熟練技能を有する現場作業者、営業担当者の各職務を担う人材が各段階で分断されることなく協働して工程が進むこと、マル1協働の枠組みが企業内・企業間で構築されていることがある。グローバル化に対応するには、各職務の一層の連携が不可欠である。連携強化に向け要請される技能とは、経営層は語学力、交渉力、事業創造力、マネジメント力であり、生産技術者は、外国での生産拡大に鑑み、国際経験を通じた多様な価値観を受容する倫理観の会得や現地文化の理解と需要把握、現場監督者には現地人材の指導・教育力が要請される。高度熟練技能は日本の競争力の優位性の中心を成すことから、高度熟練技能を有する人材の育成に当たっては、長期雇用を前提とする中長期的視点を持つことが欠かせない。

こうした専門性・高度性を要する職務を担う人材を育成するに当たり、アメリカでは産学官の連携が進んでいる。ジョージア州では、企業が学会に頻繁に参加し、競争的研究資金のPRや、新製品のデモンストレーションを行っている。このほか、マル1地域の「コミュニティ・カレッジ」を中心とする、若年層を含む非自発的失業者に対する職業教育・訓練の実施、マル1州政府主催の労働者能力評価の実施と企業による評価結果の活用、マル1州への進出企業に対する税優遇、マル1「テクニカル・カレッジ」における特殊性の高い実践技術の習得を目指す教育・訓練課程の提供、マル1従業員教育に対する州政府の企業支援が行われている。また同州では、当初非正規雇用として採用され、1〜3年の就労後正規雇用となることが一般的であることから、「テクニカル・カレッジ」では、職業教育・訓練が正規・非正規の差異なく提供されるとともに、個別企業の要望に沿う課程も設定され、提携大学との単位互換の下、履修課程に係る単位の蓄積と職業に関連する資格の取得が可能である。

日本においても、競争力となり得る産業の人材育成のため、産学官の連携を一層推進させ、失業者を含む就職希望者に対する職業教育・訓練の枠組みの整備を強力に進めることが不可欠である。こうした取り組みは、失業者の再雇用、在職者の再教育、高齢者の再活用にも奏効する。

 

岩田克彦独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校専門基礎学科教授/国立社会保障・人口問題研究所特別研究官は、グローバル化の下で、安心かつ効率的なセーフティネットと積極的な教育・訓練の実施により、経済の変動や労働市場のニーズに対応した企業内外での活発な労働移動を実現することにより、広範な中間層において、仕事や企業を変えても雇用を確保し、キャリアを続けていくことのできる仕組みが必要であることを論じている(第7章「グローバリゼーションの進展下における、広範な中間層に重点をおいた人材の育成・活用」参照)。その概要は以下の通りである。

多くの日本企業はこれまで、人材を、正規・長期雇用を前提として、主に企業内での職業教育・訓練により育成してきた。企業は、経済環境の変化に対して、従業員の弾力的な配置転換、残業量の増減、新卒採用者数の調整、パート等の活用という労働力の柔軟性(フレキシビリティー)で対処し、一方、正規・長期の雇用形態にある被雇用者や、こうした者が世帯所得の中核を成す世帯は、雇用の安定という保障(セキュリティー)を得てきた。労働力の柔軟性と雇用保障は、諸外国において「フレキシキュリティー」として目指されており、日本のこれまでの構造は「日本型フレキシキュリティー」とも換言できる。但し、日本のそれは正規・長期雇用を前提とするものであった。現下、非正規雇用者や、非正規雇用者が所得の中核を成す世帯の増加から、これまでの構造は変容してきている。こうした変容に適応しつつ、柔軟な就労と雇用の安定を目指す「新たな日本型フレキシキュリティー」の実現のための枠組みの策定が求められる。

具体的には、職業能力を明確化し客観的評価を可能とする「キャリア段位」の具現化が急務であろう。労働者が有する技能の種類・水準の明確化は、個々の労働者にとり目標設定にも寄与する。欧州の職業に関連する資格枠組みのように、職業に応じた技能・水準が明示されることが必要である。これらを連関させることで多種の技能・資格が国内外で互換性のあるものとなり、学校教育と職業教育・訓練との同時学修、履修内容の蓄積が可能となる。これは雇用機会を拡大することにも繋がるであろう。欧州では、職業に関連する資格枠組みと高等教育に関連する資格枠組みとの統合も進む。技能・資格・学位に係る枠組み策定のための企業、職業教育・訓練機関、学校の一層の連携が求められる。

また、高齢化に伴う就労生活の長期化に鑑み、教育・訓練の享受が生涯にわたり可能な体制が布かれることも求められている。就学時・学卒後如何に関わらず、再教育・訓練の仕組みが生涯学習に係る指針のもと整備されることが必要である。このためには、学校、企業、職業教育・訓練機関が協働し、職業教育・訓練課程が、重複と不足の検証の基に策定されるべきである。これにより、学校教育と企業実習、職業教育・訓練とを並行して受けることが可能となる。こうした仕組みは、一時離職者、無業者、在職者のいずれにとっても職業能力の形成・蓄積・向上に資するとともに、とりわけ正規雇用経験の僅少な者にとり、社会規範や勤労観の醸成に寄与する。一方、学校でも、進学希望者に対する学術教育、就職希望者に対する職業教育・訓練を弾力的に提供すること、また、進学・就職の進路変更に機動的に対応し得る教育体制の整備が求められる。

同時に、マル1求職者支援・失業等給付等セーフティネットの一層の充実、マル1職業教育・訓練の指導員の育成と指導資格に係る免許の整備も必要であろう。

3. 人材の育成と活用に関する課題

苅谷剛彦オックスフォード大学社会学科教授/同大学ニッサン日本問題研究所教授は、イギリスにおける人材育成及び雇用の状況について、学歴や資格が比較的中高位で社会的に有利とされる層から不利とされる層まで三つに分けて考察するとともに、日本における人材育成に関する課題、高等教育に関する枠組みの提案などを行っている(第8章「イギリスから見た日本の人材育成の課題」参照)。その概要は以下の通りである。

イギリスでは資格の有無・水準によって、雇用される可能性が相当に左右される。また、若年層において、安定した雇用を得るまでの移行期間が長期化している背景には、教育機会の拡大がある。産業社会の進展が高度な技能を有する人材の必要性を高め、高度な教育・訓練が求められるようになり、高等教育への需要が拡大している。しかし、こうした中で、マル1教育の機会均等による量的拡大、マル1教育の質の維持、マル1財政的均衡を同時に機能させることは容易ではない。これに対し同国では、公的負担削減の必要から大学の授業料を有償化するとともに、機会均等のために在学中はこれを国が拠出し、将来の収入額に応じて学生が返済する仕組みとした。一方、大学には授業料が低額であるほど低率な国庫返納が課され、3つの課題の同時達成を促す政策対応が進められた。中高位の人材の育成については、グローバルな競争が進展している。学生はグローバルな人材市場で有利な地位を得ようとグローバルに認められる大学及び専門教育を提供する大学院の学位獲得を目指し、大学はこれに応える教育の提供に努めている。

一方、日本では、大卒以上の人口に占める外国人移入者割合がOECD諸国中低水準にある。また、技能とは無関係に入学した大学の入学難易度に基づき、相対的な期待訓練可能性によって採用が決定される閉鎖的な人材市場が形成されている。大学生の学習量を見ても、「1週間で授業以外の自主的な学習をする時間」が3時間未満の学生が81%に上るとの調査結果がある。教育の付加価値を見極めるためには、教育課程修了後の評価が欠かせないが、日本では、大学教育修了前に就職先が決定する上、専門教育を享受したことを付加価値とする修士号の学位も評価されない。また、企業は学修内容や専門性を相応に評価せず、授業料は親等が支払うことから、学生の成績向上の必要性や意欲は希薄化し、大学も学生・授業料の獲得依存度が高く、成績評価が拙劣になる悪循環の構造にある。

現下、秋季に入学・授業開始を検討する大学が見られるが、高等教育の付加価値向上のためには、こうした仕組みを含め、大学4年間の後に1年半或いは2年半の修士課程を設置し、当該課程を春季に修了し就職するというような経路を設定して、現在の学部入試を中心とする仕組みから大学院入試を中心とする仕組みへ移行することも一案である。

 

権丈英子亜細亜大学大学院経済学研究科教授は、第9章「グローバル化に対応した人材活用―参加型社会オランダ―」において、1970年にグローバル化の度合い(経済・社会・政治面からグローバル化の度合いをみた「KOFグローバル化指数」による。)が現在の日本と同水準であったオランダについて、1970年代以降のグローバル化の進展の中、労働者の働き方の柔軟性を高め、労働力の活躍機会を拡充して人材活用を進めてきた取り組みを考察している。その概要は以下の通りである。

社会が一定量の労働力を活用する際、限られた人が長時間労働を行う「分業型社会」と、多くの人が比較的長時間労働を行わない「参加型社会」の2つの態様が考え得る。後者は前者に比べ、所謂「ワーク・ライフ・バランス」を実現する蓋然性が高い。労働時間と就業率を国際比較すると、オランダは1人当たり労働時間が短く就業率は男女とも高水準にあり、「参加型社会」である。

「参加型社会」の基盤はパートタイムの労働である。パートタイムの労働者割合が同国は他国に比べ高水準であり、「パートタイム社会」と表されることがある。同国は1980年代以降、フルタイムの正規雇用ではない働き方を可能とし柔軟な就労を許容した。その上で、こうした「柔軟な労働力」の積極的活用と「柔軟な労働力」を提供する労働者の待遇の改善に努めた。1990年代には、労働時間の長短による差別を法規制し、2000年の「労働時間調整法」においては、労働者自身が労働時間を変更できる権利を持つまでに至った。

こうした施策により、同国の近年の女性の就業率は、仕事と育児等の家事との両立のための支援を同国に先行して進めてきたスウェーデン等と同程度に高水準なものとなった(オランダ69.4%, スウェーデン70.3%)。同国には、依然として、男女の働き方の差異を認める社会意識も存在するが、そうした中で、労働時間の弾力化を図り、就労形態の自由度を高める取り組みが進められてきた。当該措置により、同国では、フルタイムの労働だけではなく、パートタイムの労働も標準的な働き方となり、労働者は自身の生活設計に適応する就労形態を選択することが可能となった。こうした措置の効果は女性の就業率の顕著な上昇に現れている。

グローバル化の進展や人口構造の変化に対応し、同国は、「ワーク・ライフ・バランス」の拡充に進取的に取り組んできた。働き方の柔軟性を高め、個々の人材が人生の段階に応じ就労形態を選択することが可能な労働環境を構築し、人材の活躍機会を拡大させて、より多くの労働力に長期の就労を可能とする「参加型社会」を実現している。

3. 「グローバル化に対応した人材の育成・活用に関する研究会―諸外国の事例及び我が国への示唆―」メンバー等

(役職名は2012年4月現在)

研究会座長

樋口 美雄

慶應義塾大学商学部教授/財務省財務総合政策研究所特別研究官

  

研究会メンバー(50音順)

有田 伸

東京大学社会科学研究所准教授

岩田 克彦

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校

 

専門基礎学科教授/国立社会保障・人口問題研究所特別研究官

苅谷 剛彦

オックスフォード大学社会学科教授/同大学ニッサン日本問題研究所教授

権丈 英子

亜細亜大学大学院経済学研究科教授

小杉 礼子

独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所人材育成部門統括研究員

寺田 盛紀

名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授

松塚 ゆかり

一橋大学大学教育研究開発センター教授

八幡 成美

法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻教授

  

特別講演者

吉川 良三

前サムスン電子株式会社常務

 

現東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員

  

財務省財務総合政策研究所

貝塚 啓明

財務省財務総合政策研究所顧問

稲垣 光隆

財務省財務総合政策研究所長

田中 修

財務省財務総合政策研究所次長

岩瀬 忠篤

財務省財務総合政策研究所次長

成田 康郎

財務省財務総合政策研究所研究部長

上田 淳二

財務省財務総合政策研究所研究部財政経済計量分析室長

加藤 千鶴

財務省財務総合政策研究所主任研究官

梅ア 知恵

財務省財務総合政策研究所研究員

塚本 朋久

財務省財務総合政策研究所研究員

蜂須賀 圭史

財務省財務総合政策研究所研究員

吉川 浩史

財務省財務総合政策研究所研究員

 

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