財務総合政策研究所

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グローバル化に対応した人材育成・活用に関する研究会
―諸外国の事例及び我が国への示唆―
第3回会合
2011年12月22日(木) 14:00〜16:15
於: 財務省4階 西456「第1会議室」

議事要旨
 
◆発表 「イギリスから見た日本の人材育成の課題」
発表者 苅谷剛彦   オックスフォード大学社会学科教授/同大学ニッサン日本問題研究所教授
発表資料[424kb,PDF]
     
◆発表 「オランダにおける人材活用」
発表者 権丈英子   亜細亜大学大学院経済学研究科教授
発表資料[513kb,PDF]
     
◆特別講演 「サムスンのグローバル時代に適応したものづくりと人づくりについて」
特別講演者 吉川良三   前サムスン電子株式会社常務
               現東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員
特別講演資料[1.10mb,PDF]
     

議事要旨

(1) 発表 「イギリスから見た日本の人材育成の課題」

苅谷剛彦 オックスフォード大学社会学科教授/同大学ニッサン日本問題研究所教授

他の先進国と同様、イギリスにおいても若年層の雇用環境は他の年齢層に比較し厳しい状況にある。その背景には、学校から就業への移行時の問題や、自立までの期間の長期化や精神面での未成熟の問題、就労形態の多様化の存在が考えられる。
一方、グローバル化した知識基盤経済のもとで競争力を維持するために高等教育機会の拡大が推進されている。しかしながら、ここでは、高等教育の機会の拡大を目指す一方で教育の質を維持し、且つ財政面でも均衡を図るという@教育の質、A教育機会の均等(量的拡大)、B財政負担のバランスを同時に達成することが困難なトリレンマの問題が生じる。これに対し、イギリスは、高等教育の機会の拡大のために在学期間中の授業料を国が拠出し、卒業後に一定の所得水準を超えた時点でそれを返済する仕組みを採っている。一方、財政負担の削減のため授業料の上限額の引き上げも実施した。授業料は学生本人が就職後に給与から返済するという受益者負担の仕組みである。このことは学習意欲を高める可能性がある。また、返済する授業料は、所得水準に応じ累進制が採られており、所得は教育を享受したことによる受益と見做され、所得水準に影響を与える教育も受益と見做されている。一方大学側も、上限額までの範囲で自由に設定が可能である授業料の一定割合を国庫に返納する義務が課されており、その割合は累進制が採られ、授業料を安価に抑制するインセンティブが成立する仕組みが採られている。
また、修士課程において、大学間競争と人材育成競争がグローバル化していることも特筆すべき事象である。即ち、オックスフォード大学もしかり、大学は、国際的に認められる大学として、大学教育や修士課程等の大学院教育の付加価値をより高め、これを学生に付与することを目指し、学生も、グローバルな市場で自身の付加価値を高めるために国際的に認められる大学の学位を獲得しようとする。
翻って日本の状況を見ると、若年層の学力不足も指摘されるところであり、若年層の雇用問題を放置しておけば問題の一層の深刻化は否めない。特に大卒者においては、高等教育の付加価値を企業は評価せず、国内の閉鎖的な人材市場の中で相対的に人材の採用を争うという人材競争が行われている。しかも就職活動のため大学教育は実質的に3年間に短縮されており大学教育の付加価値自体を減じている。

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(2) 発表 「オランダにおける人材活用」

権丈英子 亜細亜大学大学院経済学研究科教授

現在、オランダの労働市場は、低水準の失業率と高水準の就業率により高い評価を得ている。しかしながら、1970年代後半から1980年代にかけては苦しい時代を経験しており、その後の劇的な変化で改善を遂げた経緯がある。
改善の起因のひとつは、オランダが、経済のグローバル化、急速な技術進歩、少子高齢化の中で競争力の維持・向上を目指し、労働市場における労働力の柔軟性(flexibility)と保障(security)を同時に達成する「フレキシキュリティ」という考え方を重視した点にある。これはEUの雇用戦略と同様であるが、オランダはEUに先行し、1996年に「フレキシキュリティ」の概念を明記した世界初の公式文書を示し、1999年には「柔軟性と保障法(フレキシキュリティ法)」を成文化した。オランダにおける「フレキシキュリティ」の特徴は、@「非典型労働」(パートタイム労働や非正規雇用)の積極的な活用、A失業給付、障害給付の充実である。ただし、近年では給付水準の見直し等、要件の厳格化に取り組んでいる。
労働市場における柔軟性向上のために非典型労働者を活用するとともに、非典型労働者の雇用保障のために典型労働者との待遇差を均等化することも明文化した。1982年の労使双方による合意(「ワッセナー合意」)以降、パートタイム雇用に関しては、1996年「労働時間の長短による差別の禁止」や2000年「労働時間調整法」等、非正規雇用に関しては1998年「労働者派遣法」、1999年「柔軟性と保障法」等を通じて、非典型労働者の待遇改善が進められている。
更に、2007年には政府、労働者団体、使用者団体間で、主に高齢雇用者(55歳以上)や女性雇用者等の活用の在り方を構造的に見直し、労働供給の拡大に取り組むことが合意された(「参加サミット」)。高齢雇用者については、1990年頃までは早期退職が促進されていたが、1990年代半ば以降は就労促進へと方針が転換され、退職年齢の引き上げや、若年段階からのキャリア支援を通じた就業能力向上、経験による資格認定制度の整備等、多岐にわたる取り組みを実施している。女性雇用者については、1990年以降、それまでの保守的な考えから仕事と家庭の両立へと政策転換し、育児休業制度の創設や保育サービスへの公的補助、テレワークの推奨等を実施し、例えばパートタイム労働の促進を図っている。
上述のような取り組みが奏効し、この20年間でオランダの就業率は上昇してきた。中でも高齢雇用者や女性雇用者の就業率は目覚ましい上昇を遂げている。オランダでは、「フレキシキュリティ」という雇用戦略のもと、ワークフェア的な社会保障制度改革を行う一方で、典型労働者と非典型労働者との待遇差を解消しつつ、非典型労働者を積極的に活用することで働き方の自由度を高め、より多くの者にとり長期間の就業を可能とするなど労働力の有効な活用を実現しているといえる。

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(3) 特別講演 「サムスンのグローバル時代に適応したものづくりと人づくりについて」

吉川良三 前サムスン電子株式会社常務                                               
現東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員

1998年の通貨危機後、サムスン電子は経営戦略や開発戦略、人材育成の手法等を大きく変えることで危機を克服した。中でもサムスン電子の急速な発展を支えたのは人材育成である。
日本の経営者の多くは、国際化とグローバル化の違いに気付いておらず、ほとんどの企業がグローバル化に対応できていない。国際化とは単純に海外拠点や海外投資を指し、グローバル化とは市場として期待される処に工場や拠点を置き、その国の文化・需要に合う「地域密着型ものづくり」を行うことである。世界各国・地域の専門となる人材を育成する枠組み(「地域専門家制度」)を創設し、部課長クラスを対象に3か月間の研修を実施している。集中した研修により短期間での現地語の習得が可能となり、今や世界90か国に地域専門家として派遣されている。
グローバル時代の人材育成においては「強い個をつくる」という視点が重要であり、サムスン電子では「強い個」を集めて「強い集団」をつくるべく教育を行っている。「強い個」は各々が鳥瞰的視点を有し、全体像を見極める力を持っている必要がある。このため、半年程度の徹底的な研修を実施し、配属は当該研修の後に決定することとしている。更に、世界の「強い個」を1つのデータベースで管理し、速効性のある決断を行っている。
韓国は、今後は強いリーダーシップを有する人材が必要になるとの考えから、2011年秋、そうした人材を育成するため、ソウル大学に融合科学技術大学院を創設した。同大学院において、@変化に対応する創造性を有するリーダーシップの醸成、A科学的に働く方法(Management of Technology)の会得、B円滑な意思疎通を可能とし創造性を生み出せるような文化を持つ組織の構築のための教育を充分に行い、卒業生を企業の幹部クラスに派遣する計画である。
日本企業は、早急にグローバル化に対応した人材の育成に取り組む必要がある。

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(4) 自由討議

高等教育には人的資本形成の機能とシグナリングの機能とがあるが、日本においてグローバル化に対応する人材を育成するには、大学を卒業することよりも入学することの方が困難な日本のシグナリング方式を変更する必要があるのか。

→  日本では、修士号の学位取得が利益となるような付加価値の付く(「修士プレミアム」)、高等教育のシステムにシフトすべきである。日本は大卒以上の人口に占める外国からの流入者が少ないことに鑑みると、日本の大卒者は国際的な人材競争に晒されていないといえる。グローバルに競争している外国の大卒者に比べ、生産性は相当低い可能性がある。 

サムスン電子は新入社員を半年間教育し、配属は徹底した教育の後に行っているがその理由は何か。

→  サムスンはグループ全体で多角経営を行っている。大卒者・大学院卒者は将来の幹部候補であり、彼らにはグループ全体を把握する力が必要である。また、自前の大学を持っているため、大学1年生の段階からサムスングループの企業風土等を教育し、幹部候補として採用している。そのため定着率も高い。また、幹部生だけでなく中間層に対しても、ものづくりにおいては現場力も重要となることから、自前の技能学校を創設し、能力・技術の訓練にも力を入れている。

日本企業が国際化とグローバル化の違いを理解できていない理由、グローバル化への対応が遅れている理由は何か。

→  日本企業は、海外進出に際し、コスト削減を最重要視している。そのため、新興国を低コストの生産拠点と見做す傾向にあり、消費国であるとの認識が遅れたことが1つの要因であろう。グローバル化により海外進出の拡大基調は今後も続くであろうが、中核となる工場や人材育成の拠点は日本に置くことが重要であろう。

サムスンの組織のあり方について、日本企業は国内の同業他社を参考に経営判断をする傾向にあるが、サムスンは何故そのようなくびきを断ち切った経営ができたのか。

→  1998年の韓国通貨危機に直面した際の危機意識が企業の存続についての真剣な議論に繋がったことが要因であろう。当時、グローバル市場においてシェアを獲得するために、日本との競合を避けて進出地域を決定していた。それらの地域がBRICsであり、結果的に新興国の急成長を起因として業績を伸ばすことができていると考える。

(以上)

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