| 議事要旨 | ||
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| ◆発表 | : | 「EU人的資本計画の動向―基準共有と高度人材育成・獲得のメカニズム―」 |
| 発表者 | : | 松塚 ゆかり 一橋大学大学教育研究開発センター教授 |
| 発表資料[800kb,PDF] | ||
| ◆発表 | : | 「職業教育・専門教育の国際比較の視点からみた日本の人材育成の現状と課題」 |
| 発表者 | : | 寺田 盛紀 名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授 |
| 発表資料[2.16Mb,PDF] | ||
松塚ゆかり 一橋大学大学教育研究開発センター教授
| ・ | EUでは1976年の「共同学習計画」以降、1987年「エラスムス計画」や1998年「ソルボンヌ宣言」等を経て、2010年までに「欧州高等教育圏」の構築を目指す取組み(「ボローニャ・プロセス」)が実践されてきた。2000年には欧州を世界で最も競争力ある知識基盤経済とすることを目指す「リスボン戦略」に組み込まれ、「ボローニャ・プロセス」を中心とする高等教育改革はEU人的資本計画の主軸として進行している。 |
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| ・ | 一連の計画は、@教育の質保証、A人材の流動性促進、B雇用促進の3つに重点を置いている。質保証については、欧州共通の質保証基準・指針を制定し外部評価を奨励。これに並行して学習や教育の成果を測定する「アウトカム・アセスメント」、学位授与の根拠となり得る学習内容を詳述した「ディプロマ・サプリメント」の発行を奨励している。流動性促進については、「エラスムス計画」を始めとする交流助成を拡充する一方、課程年数や単位制度の域内統一を促進すると同時に、分野別参照基準の開発を通してカリキュラムの比較可能性を高めるチューニング(「Tuning Educational Structures in European」)等により、単位・学位・カリキュラムの互換性、移転性、蓄積性を高めている。雇用促進については、教育課程における到達目標を産業ニーズに対応させ、大学と職場との接続性を強化することにより雇用機会の拡大を目指している。 |
| ・ | これら質保証及び向上、流動性の促進、雇用の促進は相互に連動する。欧州共通の枠組みで学位が定義され、課程の連続性が確保されることにより、地域を越えて転学・編入・復学する「Horizontal」な移動と、学士・修士・博士課程へと進学する「Vertical」な移動が同時に促進され、人材移動の複合的基盤が形成される。これにより学位授与件数は増大し、流動需要は拡大し、高等教育の量・質面での充実と地域を越えた雇用促進が期待される。 |
| ・ | 一方、人材の移動範囲が拡大することにより人材の地域格差が拡大することが懸念される。事実、質保証が進展する国に留学生が偏る傾向、経済力の強い国に学生が流入する傾向、高等教育の付加価値が低い国からは学生が流出する傾向が確認されている。高度人材の移動により技術の集約性が高まり一定の地における生産力は向上する一方、地域経済格差が拡大する傾向が示唆されるが、この問題については、加盟各国独自の産業や特徴を強化し域内の機能分化(「Functional Differentiation」)を図ることによりEU集合体としての充足性を高めることを一つの方策としている。 |
| ・ | 「ボローニャ・プロセス」を中心とするEU人的資本計画の諸活動は過去数年来ロシア、アメリカ、オーストラリア、アジア主要国を含むほぼ世界全域に拡大している。欧米型の質評価基準が先行しその適用範囲が拡大する中、日本の高等教育機関の競争力を再考し、人材移動の経済的影響を検討する必要がある。欧米主導の基準に従うリスクを避けつつ、教育と産業における日本そしてアジアの独自性を認識・強化すると同時に、教育と産業の連携強化、職能養成のための生涯教育の充実、国内・国家間における流動リスクの低下、教育内容と技能の国際的な説明力を備えることが問われるであろう。 |
寺田盛紀 名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授
| ・ | 日本では、産業面ではサービス産業の拡大により産業構造のサービス化が見られ、IT化も進んでいる。教育面では、高等教育の需要が増大し、高等教育のユニバーサル化が進展している。こうした状況下、それらに対応する専門化された職業教育が高等教育段階で提供されるべきであるにも拘らず、その整備は遅れている。 |
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| ・ | 職業教育は、米国では高等教育機関である「コミュニティ・カレッジ」が担っており、法的にも中等教育段階から「コミュニティ・カレッジ」段階にかけ、専門的な能力・技術を形成する教育活動であると定義されている。また、ドイツでは、高等教育段階に実践的で高度な職業教育を提供する専門大学(Fachhochschulen)が存在する。当該大学は他の大学と比べ、より実践的で職業との関連性が強く、教育目標・資格が単なる「学士」・「修士」・「博士」の学位だけでなく、専門大学を卒業したことが明示された学位( Diplom(FH))が授与される。専門大学は国内に他の大学の1.5倍に相当する176校が存在する。 |
| ・ | 日本では、職業能力の高度化が要請される一方で、これを習得させるための教育力は小さく、法的整備も進んでいない。要因の1つには、企業内教育を中心とする人材育成の形態が1960年代から1980年代に形成されて以降、伝統的に続いていることが挙げられる。即ち、教育は座学・教養教育志向であり、職務知識の習得は就業後にOJTやOff-JTにより行われるという特徴があった。ここでは、学校教育における学修内容と就労に必要とされる能力・技術との間に関連はなく、就学から就労への移行は分断されていた。ドイツでは、校内実習や企業内実習が整備され、就学から就労への円滑な移行が可能であり日本とは対照的に見える。 |
| ・ | 職業教育力の低下は学生の職業観にも影響を与えている。「世界青年意識調査」に拠れば、日本は「家族」や「余暇」に比べ「職業」が最も大切とする回答が少ない上、「自己実現志向」や「リーダー志向」も低い。 |
| ・ | 以上を踏まえ、日本の職業教育に関する提言を3つ。@就職する予定の生徒を多く有する高等学校等においても、進学のための受験を中心とする教育課程のみではなく、職業に関する専門的な科目を選択し履修できる教育課程に変えていくべきである。A高等教育においても、職業教育のための教育課程の整備を推進するべきである。B就労に必要とされる資質の醸成を専門的な職業教育の中でどう位置付けるかという作業が不可欠であり、このためには、留学やインターンシップ、特に国外でのインターンシップの推進のための対応が必要である。 |
| ・ | 専門性と職業教育の関係について、欧米型の労働は職種別・職能別労働であるのに対し、日本は技能やジョブの種類や水準が不明瞭なままに配置転換が繰り返されている。労働形態が変わらなければ、専門性ある教育の実施も容易ではない。高等教育を中心とする学校教育と職業教育・専門性教育との関係について如何に見ているか。 |
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| ・ | 日本の企業は、学生を採用する際、出身学部や専門性を重視しない傾向にある。専門的な能力・技術を体得させる教育を行うには、産業界のニーズを把握し、それと整合的な教育を提供することが重要であるが、産業界が要請するこうした人材を育成するには、海外では教育機関と産業界との間でどう調整されているか。 |
(以上)