平成22年6月4日
財務省
「変化する世界経済と日本経済・財政の課題に関する研究会」(財務総合政策研究所)では、世界各国の経済関係の高まり、少子化・高齢化の進展、新興国の急成長など、変化する世界経済と日本経済・財政との関わりについて整理し、今後の日本の持続可能な経済成長と健全な財政運営をどのように考えていくかについて、貝塚啓明・東京大学特任教授・金融教育研究センター長、財務総合政策研究所顧問を座長に、平成21年10月から本年4月にかけ6回にわたり検討をしてきました。
今般、これまでの研究会の検討を踏まえ、研究会の成果として、研究会メンバーの執筆により報告書を取りまとめましたので公表します。
別紙に、1. 報告書の各章の標題と執筆者名、2. 報告書の主なポイントをまとめています。
なお、本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。
〔連絡先〕
財務省財務総合政策研究所 研究部
主任研究官 加藤
研 究 員 片岡
研 究 員 叶
電話 03-3581-4111(財務省代表)
(内線)5229, 2254, 5974
(別 紙)
はじめに
| 貝塚啓明 | 研究会座長(東京大学特任教授・金融教育研究センター長,財務省財務総合政策研究所顧問) |
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序 章 日本経済、財政を巡る諸問題
| 貝塚啓明 | 東京大学特任教授・金融教育研究センター長,財務省財務総合政策研究所顧問(研究会座長) |
|---|---|
| 加藤千鶴 | 財務省財務総合政策研究所主任研究官 |
| 片岡拓也 | 財務省財務総合政策研究所研究員 |
| 叶武史 | 財務省財務総合政策研究所研究員 |
1. 内外の経済変化に対応した日本の財政面での取り組み
第1章 日本における財政政策とその課題
| 杉本和行 | 東京大学公共政策大学院教授, 財務省顧問(前財務事務次官) |
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2. 世界経済、日本経済の短期的な変化
(1) 世界金融危機と世界経済、日本経済・財政との関わり
第2章 世界金融危機の世界経済への影響
| 原田泰 | 株式会社大和総研専務理事チーフエコノミスト |
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第3章 世界金融危機が日本経済・財政に与えた影響
| 永濱利廣 | 株式会社第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト |
|---|---|
| 近江澤猛 | 株式会社第一生命経済研究所経済調査部副主任エコノミスト |
| 鈴木将之 | 株式会社第一生命経済研究所経済調査部副主任エコノミスト |
(2) 国際的な資本の流れと日本経済・財政との関わり
第4章 グローバル・インバランスと日本の経済・財政への影響
| 小川英治 | 一橋大学大学院商学研究科長・商学部長 |
|---|---|
| 中村周史 | 一橋大学大学院商学研究科 |
第5章 欧州の動向
| 嘉治佐保子 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
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3. 世界経済、日本経済の中長期的な構造変化
(1) 人口高齢化など社会保障に関連する問題と日本経済・財政
第6章 諸外国の金融危機下の社会保障政策―短期的景気変動と長期的人口構造変化−
| 勝又幸子 | 国立社会保障・人口問題研究所情報調査分析部長 |
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第7章 日本における財政・社会保障の課題
| 林正義 | 一橋大学大学院経済学研究科/国際・公共政策大学院准教授 |
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(2) 急成長するアジアと日本経済・財政との関わり
第8章 アジア諸国の成長と日本との相互連関性:FTA/EPAとの関係
| 浦田秀次郎 | 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 |
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第9章 いかにして東アジアの活力を取り込むか:日本経済再生に向けての課題
| 木村福成 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
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4. 総括:日本の課題
第10章 国際経済危機と財政運営:今後の課題
| 井堀利宏 | 東京大学大学院経済学研究科教授 |
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(注)本報告書の各章の内容は執筆時点の2010年4月末時点のもの。
研究会では、変化する世界経済と日本経済・財政との関わりについて整理するに当たり、世界経済、日本経済の変化を短期的なものと中長期的なものとに分けた。短期的な変化は、世界金融危機・世界同時不況と国際的な資本の流れであり、中長期的な変化は、人口減少・高齢化などの社会保障に関連する問題、急成長するアジアの新興国の台頭という構造変化である。
本報告書は、これらの変化の態様と日本との関わりについて整理し、今後の日本経済と財政について多角的に検討した研究会の成果として、研究会メンバーが執筆した包括的な内容となっている。
以下に、第1章から第10章の内容を要約する。なお、本報告書のではより詳細に紹介している。
1. 内外の経済変化に対応した日本の財政面での取り組み
では、プラザ合意以降の内外の経済変化と日本の財政政策を振り返ることにより、我が国が現下の厳しい財政状況に至った経緯を紹介し、財政面での課題を考察している。
日本経済は、1985年のプラザ合意以降のバブル経済、その後の長期の景気低迷、世界金融危機、世界同時不況を経験する中で幾度となく財政政策が発動されてきたが、仮にこうした財政措置がなければ経済は一層低迷していた可能性があると指摘でき、民間需要が軟調な中での財政支出は短期的にはある程度の景気下支え効果が期待できると論考している。しかしながら、累次の財政出動が後の財政悪化を招き、将来に不安定要因を惹起する可能性には十分に留意すべきで、財政が経済成長を阻害することは厳然と避けられねばならないと言及している。公債残高増加額の多くの要因を社会保障費が占める現状に鑑みても、少子化、高齢化の進展が見込まれる中で中長期的構造変化を加味した社会保障制度の枠組みを明確化することが急務であり、また、実態を的確に反映した財政構造改革をデザインすることが求められると述べ、政策判断に際しては、短期的課題と中長期的課題を包括的に捉え、短期的措置による負担と中長期的措置による負担のバランスを十分に考慮することが重要であると結んでいる。
2. 世界経済、日本経済の短期的な変化
(1) 世界金融危機と世界経済、日本経済・財政との関わり
では、世界経済の短期的な変化である世界金融危機やその後の世界同時不況について、その原因と影響について論述している。
危機前の世界経済のバブル的な状態の誘因は、アメリカにおける過度な金融緩和と金融市場における過大なリスク指向であったとしつつ、危機発生後はバブルの反動もあり支出が減少し、その影響は、例えば世界の貿易量が減退する中でアメリカのシェアが縮小し経常赤字も減少したように、金融面のみならず実物面を通じて世界に波及したと考察している。但し、日本を中心とする東アジアの部品・中間加工品貿易に見られる生産ネットワークを通じた最終製品のアメリカへの輸出という構図は今後も維持されると述べている。
危機はアメリカが震源でその負の影響は各国に及んだが、日本が受けた負の影響はアメリカ以上に大きなものとなったと言及しつつ、要因は、日本の消極的な金融政策が円高をもたらしたために海外の外需の縮小をより多く負担することとなり、経済の停滞がより深刻となった可能性があると論考している。
では、危機が日本の経済面、金融面、財政面にどのような影響を与えたかについて分析している。
経済面では、日本の実質GDPはアメリカ、ドイツ等に比べ減少幅が大きなものとなったが、これは主に輸出の減少が下押し圧力となったもので、背景として、輸出に占める自動車、機械類の割合が高水準であり、また輸入に占める原材料の割合が相対的に高いという日本特有の貿易構造を指摘している。地域経済への影響についても分析し、影響を大きく受けた地域としては、加工型製造業の割合が高い九州地域等が生産活動に影響を受け、また、輸送機械工業の割合が高い東海地域等が自動車生産の動向の影響を受けやすい雇用構造を有していることもあり有効求人倍率がトレンドから大きく乖離したなどの分析を示した。このように、地域経済は地域毎の産業構造の違いにより影響の程度が異なったが、特に、製造業における危機前の輸出増に伴う設備投資の拡大とその反動減に拠るところが大きいと述べている。また、2000年代後半には、企業がコスト削減を企図して非正規雇用を拡大したことや定期給与を一時金へシフトしたことから、企業業績の変動が短期間で賃金に波及し易くなり、危機の影響が増幅したと考察している。
金融面では、円キャリー取引等の影響から円の為替相場の変動幅がドル、ユーロに比べ最も大きなものとなったと示しつつ、これは、輸出取引における日本の相対的なドル建て割合の高さにより、ドル変動の影響を受けたものであると論考している。また、資源価格の急変動も交易条件に影響を及ぼしたとして資源価格とGDPの関係も分析し、2000年代の交易条件の変動は4四半期程度のラグをもって成長率に波及するという推計をしている。また、我が国の交易利得が2008年第3四半期に最もマイナス幅が拡大し、2009年第1四半期に最もマイナス幅が縮小したことから、2008年度前半までに起こった資源価格の高騰は、リーマン・ショック以降の経済成長率の落ち込みを増幅したことを意味するものであると分析している。
財政面では、2008年度に潜在GDPとのギャップが拡大したとして、危機による需給ギャップ拡大に伴う財政悪化と景気対応が財政赤字を拡大させたとしつつ、我が国財政は循環要因と構造要因のいずれによっても赤字拡大が助長されたが、今後の社会保障費の需要の増加に鑑みても、財政状況の改善のためには歳出削減に向けた不断の努力が必要であると結んでいる。
(2) 国際的な資本の流れと日本経済・財政との関わり
では、危機で問題とされた国際的資金の流れを取り上げ、特にアメリカの経常赤字や日本経済、財政の関係について実証的に分析されている。
近年の世界的な資金の流れは、アメリカの貯蓄不足を中国を中心とするアジアの貯蓄超過が欧州金融機関の金融仲介機能によりファイナンスしたものであったと論考している。また、日本経済と財政との関係についての分析により、財政収支の悪化が実質GDPを縮小させるとの結果から、財政収支は実質GDPの増大に寄与しなかったと指摘している。但し、財政収支を政府支出と税収とに分けて更に分析した結果、政府支出の拡大は、1996年第1四半期から2009年第2四半期に、実質GDPと税収を増加させる傾向が強まったとし、一方、税収は実質GDPに影響を及ぼさなかったという。政府支出の拡大が実質GDP押し上げに寄与したという分析結果については、この時期、政府消費の現物社会給付が急増しており、これが家計現実最終消費を拡大させたこと、そして、実質GDPに占める政府消費のシェアが上昇するという構造的な変化が起こったことが、実質GDPの押し上げに寄与したと考えられると考察している。
では、短期的に危機の影響を多分に受け、また、日本同様に財政が悪化する国を抱える欧州を取り上げ、ギリシャの財政問題との関係を踏まえつつ、日本について考察している。
共通通貨ユーロを採用しているユーロエリアでは、各国の景気が異なる局面でも金融政策は均一である一方で財政政策は各国判断に委ねられており、この点に政策運営の困難性が存在すると指摘する。今次の危機のような事象に直面すると、一政府が国内地域間で行うよりも困難な国家間所得移転の必要性が表面化するが、ギリシャの財政問題は、政策運営の困難性の下、ギリシャの拙劣な財政出動に対し、緊縮的財政運営に腐心してきた各国が自身の財源による支援の適否を問われるという難題に対峙する事態であったと批評している。現下のユーロエリアの財政状況は、危機への対応としての各国の財政出動に加え、財政悪化国救済による赤字の一層の拡大であると論考している。また、ギリシャの対ユーロエリアの経常赤字縮小は、ユーロエリアの経常黒字部分の多くを占めるドイツの経常黒字の縮小を意味するが、ドイツにおける民間支出主導の内需拡大を誘発するためには財政支出の拡大が要請されるとしている。
ユーロエリアではこうした種々の問題を抱えるものの、金融面、財政面に対する外的圧力としてのルールが存在し、これが各国財政政策、経済政策運営における規律の役割を果たしているが、翻って日本を顧みる時、こうした外的圧力が存在しない我が国の財政状況の悪化は一段と深刻な問題であろうと結んでいる。
3. 世界経済、日本経済の中長期的な構造変化
(1) 人口高齢化など社会保障に関連する問題と日本経済・財政
では、中長期的な変化として人口減少や高齢化等の人口構造の変化という構造問題を取り上げ、短期的対応と中長期的対応とのバランスについて考察している。
危機による景況悪化の影響がもたらした失業率の上昇は、雇用保険拠出額の拡大、保険料負担者数の減少、年金受給額の減少等を惹起し、補完的役割のセーフティ・ネットの財源も税収減により潤沢ではないと指摘する。危機は一過性であるが、その影響は景気回復により即座に解消されるものではなく、世代を超えて影響は長期に及ぶと主張している。OECD当局も各国の今後一層の失業率上昇や財政支出拡大に伴う年金制度の深刻化を指摘していると紹介している。
日本も人口減少、高齢化により年少人口や生産年齢人口の減少が現出しているが、中長期的な労働力需給不均衡の解消に対し、非正規雇用の拡大や外国人労働者の導入による短期的な解決は課題の先送りに過ぎず、長期的視点に立脚する場合、生産年齢世代のさらなる活用が要請されるとし、具体的には、若年層の失業・無業の削減と性別賃金差等の解消による女性の一層の活用が有用であると論考している。
では、我が国の財政面での課題とは社会保障に関わる問題と同義であり、サービス提供の多くを地方政府が担っているとして、中長期的な構造変化である社会保障に関する問題とその財政的側面について国と地方の関係を考察している。
我が国では社会保障制度上、国から地方へ補助金等の財政的拠出があるが、地方政府も雇用・介護保険、厚生年金の対象外保険の国民年金、国民健康保険、これらの対象外保険の生活保護、高齢者福祉サービス等の提供者として多大な役割を担っていると述べている。しかしながら、例えば就学援助対象者の一部を地方独自に決定可能である点や、高リスク被保険者の多い地方の重い保険料負担の事例から、地方により社会保障の質に差異が存在するとして、単独事業の支出パターンは、地方毎の財源余裕度に依拠していると指摘している。
一方、国民健康保険料の収納率低下や滞納世帯の増加、雇用保険受給不適格な非正規雇用割合の上昇、生活保護対象世帯における高齢者世帯割合の上昇に見られるように、非正規雇用者の増加、相対的貧困率の上昇等は、将来の年金財源不足、低年金・無年金者の増加を招くと考察している。これらの事実を所与として、将来の社会保障費拡大予測の中での財源確保は容易ではないが、財源としては消費税や固定資産税が魅力的であり、地方財政問題も社会保障の課題を考える際の重要な要素であるとする。セーフティ・ネットの必要性と、大きな地方の役割を考えると地方間差異の解消も必要であると論述している。
(2) 急成長するアジアと日本経済・財政との関わり
では、東アジア新興国の急成長により、世界経済における東アジアの位置付けが変化しつつあることに鑑み、高成長の要因を分析した上で、貿易・投資の一層の拡大を経済成長へ波及させる際の課題、関係緊密化に係るFTAの効果、東アジア地域の経済成長に対峙する日本の役割について考察している。
東アジア新興国の高成長は、効果的な政策、旺盛な貯蓄に支えられた活発な投資活動、低賃金ながら高水準の労働力の存在等によりもたらされたが、特筆すべきは、成長に必要な資本財、原材料、技術、経営手法等の獲得を可能にした貿易と直接投資の拡大であるという。また、東アジア新興国は、日本の貿易相手としての重要度が増し、今後も関係は深化していく中で、高成長が日本の東アジア向け輸出や投資機会を提供している事象に鑑みても、経済成長に対する日本の支援が日本自身の成長実現に奏効するものとなるという。これらの地域は未だ貿易・投資障壁が残存しインフラ整備も不完全で人材不足も指摘されるが、高成長を維持する可能性が高いと予測されており、東アジア全体の成長のためには、ASEAN、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを対象とする貿易・投資の自由化・円滑化、経済協力を含む包括的FTAである東アジア包括的経済連携(CEPEA)の実現が有効であるとともに、先進国である日本によるインフラ整備、人材育成等の積極的貢献が期待されると主張している。
では、危機の影響から世界に先んじて回復を遂げた東アジアの活力の源泉である生産ネットワ−クの態様と日本の在り方を考察している。
東アジアでは1990年代に生産ネットワークが形成され、2001年から2007年の域内貿易は成長率を上回る伸びを示したが、これは、貿易・投資の自由化・円滑化、生産拠点の集約化、中間層人口の急増による貿易財需要の高まりによりもたらされたという。特に近年の中間層人口急増による市場拡大は顕著であることから、サプライ・サイドの産業振興に重点が置かれるべきであると考察している。また、生産ネットワークは生産工程毎の国際分業を特徴としており、これは、一定の企業活動の日本国内残置により空洞化を最小限にとどめ、且つ地理的取引コストの削減を企図した産業集積の形成も惹き起こされたと述べている。産業集積は地場企業への技術移転を促進するという先行研究から、地場地域での新規分野の発展の可能性も高まるとして、現下のグローバル下においては、寧ろ一定の活動を日本国内に残置しつつ、適正な分業による国外展開を容易とするような立地の有利性の確保と環境整備が必要であると論考している。
なお、東アジアでの利益送金に伴う日本の成長率への寄与は限定的なことから、日本経済自身の成長を目指すことが肝要であり、そのためには、環境、健康、観光分野等の新産業育成は必要ながら、既に強みのある製造業の一層の強化に向けた戦略構築と、日本での立地有利性を得る研究開発のための環境整備や国際交通網の充実、金融サービスの充実等、立地有利との企業判断を誘引する基盤の拡充が必要であると述べている。更に、日本企業が「失われた20年」の間に喪失した競争市場における弾力的な対応力を回復し、日本経済の持続的、安定的成長を実現するためには、市場参入・退出の柔軟化、産業・企業間の労働力の流動性向上、生産施設更新の加速化のようなモビリティ向上を企図した対応が求められると結んでいる。
4. 総括:日本の課題
では、第1章から第9章を総括し、日本経済、財政の課題について考察している。
経済の持続的な安定成長のためには、内需拡大と外需のいずれへの対応も重要であるという。少子高齢化の進展は否めないながら、成長分野として余暇、環境、需要増加分野として医療、介護を挙げ、これらの分野における付加価値の高い財・サービスを、潤沢な金融資産と旺盛な消費意欲を有する中高年世代を対象に提供することにより内需拡大は可能であるという。また、競争力のある大企業のみならず、きめ細かな付加価値を創出できる中小企業の国際的活動、利益の日本への還元、人材育成による企業の海外進出地域での日本の若年世代の能力発揮などにより、成長の持続が期待されるアジア等途上国、新興国を対象とする関係深化が重要であるという。こうした取り組みは非進出企業や家計にも恩恵をもたらす上、資本、労働、財・サービスの流入により内需拡大にも寄与することに鑑みて、FTA等の環境整備が重要であると論じている。
財政運営については、短期的対応と財政健全化を考慮した中長期的対応とのバランスが重要であるとして、前者は時期を不況時に限ることで不要な支出が削減され、また、対象を悪影響を受けた者に限定することで一人当たり支援額を多額にできるというように、限定的支出により厳しい財政下でも実施可能であるという。また、常に存在する弱者に対する支援など中長期の視点に立った社会保障制度設計の下での中長期的な財政運営も重要であるという。短期的対応が中長期の経済成長の安定と強固な財政基盤の構築に寄与しないのであれば、支出は将来負担となり、世代間公平に照らして望ましくないと指摘する。更に、社会保障負担の拡大に対しては、我が国の人口構成を展望すれば、65歳という高齢者基準を少なくとも75歳に引き上げ、現役人口を拡大することも一案であるし、低所得者による地域活性化、子育て支援等の活躍の場の構築も、世代間で公平な制度構築の布石になるとする。一方、中央政府・地方政府間の財政移転や地方政府間の再分配、歳出額と公共サービスの関係の明確な数量化による便益対費用を見極めた検討が必要であると論じている。
1990年代に累増した財政赤字はその多くを構造要因が占めるが、構造的赤字の縮小のためには制度改革の進め方やその速度など、再建プロセスの議論を一層進めることが求められ、公債消化能力に依存する財政再建の緊急性や財政支出の有効性とのバランスが考慮されるべきであるという。これまでは景気対策を優先するあまりに短期的痛みを伴う財政再建が先送りされ、好況期に自然増収が大きな額になった際には財政再建ではなく歳出の増加に充てられたケースが多かったとし、好況期にこそ赤字解消や債務削減が行われ、不況期の備えとすることが求められると主張している。
財政健全化のためには、財政悪化時期において自動的に歳出の削減と増税を予算化するような制度の構築や単年度予算の緩和等の効率的な予算編成、財政再建目標の設定を毎年にするか中期目標とするか、不況期にどの程度緩めるか等の規律の検討、こうした規律の実効性ある仕組みの設計、これらを含む財政制度の抜本的改革の方向転換が必要であると論じている。こうした方向転換ができるか否かが、我が国財政が直面する最大の課題であると言及している。財政健全化は、中長期的には、政府全体の守備範囲を見直し、歳出をより効率化、公平化するとともに消費税増税などとセットで行われるべきであるという。そして、事後的な対応ではなく、財政赤字拡大に応じて何らかの課税ルールを事前に設定するという政策対応が有効であり、財政再建と社会保障制度改革の長期メリットを重視する将来を見据えた財政運営と、世代間のプラス効果、マイナス効果を考慮した短期と長期のバランスのとれた財政運営により財政健全化の道筋を見い出すことができるであろうと結んでいる。
(敬称略, 役職名は2010年4月末現在)
| 研究会座長 | |
|---|---|
| 貝塚 啓明 | 東京大学特任教授・金融教育研究センター長, 財務省財務総合政策研究所顧問 |
| 研究会メンバー(50音順) | |
| 井堀 利宏 | 東京大学大学院経済学研究科教授 |
| 浦田 秀次郎 | 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 |
| 小川 英治 | 一橋大学大学院商学研究科長・商学部長 |
| 嘉治 佐保子 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
| 勝又 幸子 | 国立社会保障・人口問題研究所情報調査分析部長 |
| 木村 福成 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
| 杉本 和行 | 東京大学公共政策大学院教授, 財務省顧問(前財務事務次官) |
| 永濱 利廣 | 株式会社第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト |
| 林 正義 | 一橋大学大学院経済学研究科/国際・公共政策大学院准教授 |
| 原田 泰 | 株式会社大和総研専務理事チーフエコノミスト |
| 財務省財務総合政策研究所 | |
| 梅本 守 | 財務省財務総合政策研究所長 |
| 吉村 宗一 | 財務省財務総合政策研究所次長 |
| 田口 博之 | 財務省財務総合政策研究所次長 |
| 田中 修 | 財務省財務総合政策研究所研究部長 |
| 中澤 正彦 | 財務省財務総合政策研究所研究部財政経済計量分析室長 |
| 加藤 千鶴 | 財務省財務総合政策研究所研究部主任研究官 |
| 御園 一 | 財務省財務総合政策研究所研究部主任研究官 |
| 片岡 拓也 | 財務省財務総合政策研究所研究部研究員 |
| 叶 武史 | 財務省財務総合政策研究所研究部研究員 |
| 佐々木 豊成 | (財務省財務総合政策研究所前所長 2010年1月退任) |
| 論文合評会コメンテーター(50音順) | |
| 飯田 泰之 | 駒澤大学経済学部准教授 |
| 井堀 利宏 | 東京大学大学院経済学研究科教授 (再掲載) |
| 大沢 真知子 | 日本女子大学人間社会学部現代社会学科教授 |
| 小川 英治 | 一橋大学大学院商学研究科長・商学部長 (再掲載) |
| 小塩 隆士 | 一橋大学経済研究所教授 |
| 木村 福成 | 慶應義塾大学経済学部教授 (再掲載) |
| 松林 洋一 | 神戸大学大学院経済学研究科/神戸大学経済学部教授 |
| 山澤 成康 | 跡見学園女子大学大学院マネジメント研究科/跡見学園女子大学マネジメント学部教授 |
| 吉野 直行 | 慶應義塾大学経済学部教授 |