財務総合政策研究所

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報道発表

平成21年8月7日

財務省

  「我が国の経済・地域の構造変化に関する研究会」(財務総合政策研究所)が報告書を取りまとめました。

「我が国の経済・地域の構造変化に関する研究会」(財務総合政策研究所)では、我が国の構造変化とここで起こっている問題について整理し、今後、グローバル化、人口の減少、少子高齢化の進展のなかで、構造変化に対応する国、地域の戦略とは何かについて探り、これを着実な景気回復へどのようにつなげていくかについて、樋口美雄・慶應義塾大学商学部教授を座長に、平成20年10月から翌年1月にかけ5回にわたり議論・検討してきました。

今般、これまでの研究会の成果を踏まえ、研究会メンバー及び特別講演者の執筆により報告書を取りまとめましたので、公表します。


別紙に、1. 報告書の各章及び特別講演要旨の標題と執筆者名、2. 報告書の主なポイントをまとめています。


なお、本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

〔連絡先〕

財務省財務総合政策研究所研究部

主任研究官 加藤

上席研究員 龍岡

研 究 員 大森

研 究 員 菅 

電話 03-3581-4111(財務省代表)

(内線)5229, 2240, 5315


(別 紙)

「我が国の経済・地域の構造変化に関する研究会」報告書

1. 報告書の各章及び特別講演要旨の標題と執筆者名

      
  • はじめに     樋口美雄 研究会座長(慶應義塾大学商学部教授)

  • 第1章 論点【産業】 「生産性の回復と日本経済−世界同時不況を克服する途―」

    宮川努    学習院大学経済学部教授            

    比佐章一 一橋大学経済研究所科学研究費技術員

  • 特別講演要旨 論点【産業】 「ものづくりと日本の産業競争力  

    −組織能力の進化とアーキテクチャの比較優位−」

    藤本隆宏 東京大学大学院経済学研究科教授

  • 第2章 論点【雇用】 「日本の雇用構造の変化」

    樋口美雄 慶應義塾大学商学部教授(研究会座長)

  • 第3章 論点【貯蓄・投資】 「わが国の設備投資の動向と構造変化」

    小川一夫 大阪大学社会経済研究所教授

  • 第4章 論点【貯蓄・投資】 「日本の貯蓄率:高齢化の影響」

    チャールズ・ユウジ・ホリオカ 大阪大学社会経済研究所教授

  • 第5章 論点【消費】 「消費者行動の変化」

    櫨浩一 株式会社ニッセイ基礎研究所経済調査部長

  • 第6章 論点【貿易・海外投資】 「変化するアジアと日本の貿易・直接投資関係」

    浦田秀次郎 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授

  • 第7章 論点【地域経済】 「地域の構造変化と地域再生へのパラダイム転換」

    小峰隆夫 法政大学教授(大学院政策創造研究科)

  • 第8章 補論       「世界的経済危機下のマクロ経済動向」

    後藤正之 財務省財務総合政策研究所次長

2. 報告書の主なポイント


研究会では、近年の日本の構造変化と諸問題に関する論点を@産業、A雇用、B貯蓄・投資、C消費、D貿易と海外投資、E地域経済の6つに分類し、それぞれにおける構造変化と諸問題を検討した。

報告書における6論点と各章及び特別講演要旨との関係は次のとおりである。

第1章: 産業(産業構造と生産性に見る構造変化)

特別講演要旨: 産業(企業の組織能力に関係する構造変化)

第2章: 雇用

第3章: 貯蓄・投資(企業設備投資に関連する構造変化)

第4章: 貯蓄・投資(家計における貯蓄と高齢化の影響に関連する構造変化)

第5章: 消費

第6章: 貿易と海外投資

第7章: 地域経済

第8章: 2008年秋以降の世界同時不況の経済への影響

(研究会での議論を踏まえた7章及び特別講演を補足する内容)


各章及び特別講演要旨の主なポイントは次のとおりである。



第1章の「生産性の回復と日本経済−世界同時不況を克服する途−」(宮川努学習院大学経済学部教授, 比佐章一一橋大学経済研究所科学研究費技術員)では、製造業、非製造業別に生産性を分析し、その結果、製造業はこれまで好調な世界経済の恩恵を受けた生産増と効率的生産方式により生産性向上を維持したが、一方、サービス業は、リストラを通じて生産性向上を図ったことを示している。

そのうえで、サービス業には未だ生産性向上の余地があるので、人材育成、組織変革などの無形資産に対する投資が可能であるとしている。

但し、間接金融中心の日本では物的担保が要求されることが多く、無形資産投資は低水準であることから、無形資産の価値を評価し得る枠組みの構築と促進体制の整備が必要であると述べている。


特別講演要旨の「ものづくりと日本の産業競争力 −組織能力の進化とアーキテクチャの比較優位−」(藤本隆宏東京大学大学院経済学研究科教授)では、日本企業は統合型の組織能力を持つので、これを次世代へ伝達していく必要があると述べている。また、こうした組織能力を持たない企業に対しても浸透させることにより、産業全体の組織能力の嵩上げが重要であるとしている。


第2章の「日本の雇用構造の変化」(樋口美雄慶應義塾大学商学部教授)では、これまで、労働者により生産性が異なるなど雇用構造が二極化し、各国共通の要因としては、グローバル化の進展、急速な技術進歩を挙げ、日本固有の要因としては、資金調達方法の変化、バブル崩壊後の長期の経済低迷、雇用の場における均等化の問題を挙げている。そして、低生産性労働者の能力開発が必要であるとともに、現下の緊急避難型のワーク・シェアリングを就業多様型へつなげていくための企業の意識改革、家計における性別による役割意識の変革が必要であるとされている。また積極的な対策として、失業の未然防止、NPOやソーシャル・エンタープライズの活用も有効であると示唆されている。


第3章(論点B貯蓄・投資)の「わが国の設備投資の動向と構造変化」(小川一夫大阪大学社会経済研究所教授)では、資本設備のヴィンテッジの推移を企業の規模別に分析し、生産性向上に寄与するソフトウェア資産について、特に中小企業において、IT資本有効活用のためのソフト投資の拡充と、これを活用できる人材育成が急務であるとしている。そして、生産性格差は今後も業種、企業規模の違いにより拡大する懸念があると述べている。


第4章の「日本の貯蓄率:高齢化の影響」(チャールズ・ユウジ・ホリオカ大阪大学社会経済研究所教授)では、家計貯蓄率について、高齢化の進展など人口の年齢構成が変化することにより貯蓄率がどのように変化してきたかに関して、家計貯蓄率の決定要因を8つ挙げている。決定要因としては、@人口の年齢構成、A社会保障制度、B可処分所得の伸び、C家計資産の水準、D消費者金融制度、E貯蓄に対する税制面の優遇措置、F貯蓄推進運動、G文化・国民性があり、1970年代半ばまでは貯蓄を押し上げる方向に働いたものの、1970年代半ば以降は一転して貯蓄を押し下げる方向に働いたとしている。今後も、高齢化の加速という貯蓄押し下げ要因の影響が大きく、家計貯蓄率は低下基調が継続するとしている。


第5章の「消費者行動の変化」(櫨浩一潟jッセイ基礎研究所経済調査部長)では、消費需要が低迷している一因として、高齢者の貯蓄の多くが消費に充てられず相続されているとしている。高齢者は生涯に使う以上の金融資産を保有しているものの、長生きする可能性という予測不可能な「リスク」に備える必要があると述べている。さらに、高齢者世帯の所得格差、資産格差は他の年齢層に比べ大きいとしている。高齢者の資金面での対応には、公的年金制度や民間保険など集団で備えることが必要であるとし、資産流動化促進のために、不動産取引費用の軽減、高齢者用賃貸住宅の提供等の条件整備が必要であるとしている。

消費については、高齢化及び女性の社会進出の進展によりモビリティーは今後一層低下していくとしている。


第6章の「変化するアジアと日本の貿易・直接投資関係」(浦田秀次郎早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)では、日本を含む東アジア地域 の貿易動向と貿易依存関係、直接投資の変化から、日本の果たすべき役割と実現に向けた方策について考察している。

日本は、東アジア地域*において、貿易依存関係が弱まってきていることを示し、また、投資に占めるシェアも低下傾向にあるとしている。

そのうえで、日本は東アジア地域において、新技術・新商品の開発及び新産業の創出という役割を担っていることから、これらを推進していくために、高度な能力を持つ人材を流入させるための魅力的かつ開かれた環境の構築が必要であり、閉鎖的な制度や新技術開発、新産業創出を妨げる規制の削減、撤廃が重要であるとともに、企業も優れた技術、経営ノウハウといった競争力を有することが不可欠であると述べられている。


*    東アジア地域とはここではASEAN+3(日中韓)を指す。(ASEAN(Association of South East Asian Nations: 東南アジア諸国連合10か国): インドネシア, マレーシア, フィリピン, シンガポール, タイ, ブルネイ, ベトナム, ラオス, ミャンマー, カンボジア)


第7章の「地域の構造変化と地域再生へのパラダイム転換」(小峰隆夫法政大学教授(大学院政策創造研究科))では、地域経済の差異、地域と人口構成の変化の関係について考察している。

2002年以降の日本の景気回復局面において、都道府県別の実質経済成長率と1人当たり県民所得から地域差は拡大したと分析している。地域差拡大の背景としては、成長産業の偏在と地域経済を支えていたメカニズムの崩壊の2点を挙げ、前者は、輸出主導の景気拡大の牽引役であった自動車等の加工型製造業の企業が所在する地域は成長率を高め、所在していない地域は活性化が見られなかったとし、後者は、公共投資の削減幅が大きい地域ほど経済活動が軟化したことを示している。この後、2008年前後以降の景気後退期には、総じて景気が軟化するなかで地域差は縮小したとしている。

また、人口減少と出生率との関係から、地域毎の減少幅の差は出生率ではなく人の移動に起因しているとしている。そして今後も生産年齢人口比率が低下する人口オーナス(重荷)の時期は続き、この時期は貯蓄取り崩し主体の増加により経済軟化をもたらすため、1人当たりの生産性を上昇させ供給力を高めるべきであると述べている。


第8章の「世界的経済危機下のマクロ経済動向」(後藤正之財務総合政策研究所次長)では、本研究会を景気回復期における構造変化に係る包括的な研究という趣旨のもと進めるなかで、2007年夏以降の金融市場の混乱が2008年秋以降は実体経済にも多大な影響を及ぼすこととなり、各国同時に景気後退入りとなった業況の急変を受け、研究会での議論からは独立し第1章から第7章を補足する意味で、世界同時不況が日本経済全体及び地域経済に如何なる影響を与えたかについて考察している。

2002年から2007年末の景気回復は輸出主導によるものであったが、この時期、原油等資源価格上昇に伴う交易条件悪化により所得は流出したと述べている。また、2008年夏以降の世界同時的景気後退の要因は、輸出先の需要減による在庫調整と、これに伴う設備投資の減少も考えられるとしている。

地域経済については、2002年〜2007年末の景気回復期に好調であった地域ほど高成長を遂げ人口も増加したが、その後の後退期には総じて軟化するなかで地域間格差は縮小したという第7章の議論を別データにより確認している。