財務総合政策研究所

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報道発表

平成20年7月16日

財務省

「グローバル化と我が国経済の構造変化に関する研究会」(財務総合政策研究所)が、報告書を取りまとめました。

「グローバル化と我が国経済の構造変化に関する研究会」(財務総合政策研究所)では、グローバル化が社会、文化、技術、組織や企業、法律制度などの幅広い分野に影響をもたらしている一方で、この広範な動きが経済的活動に及ぼす影響も強まっている現状、及び成長する東アジア・インドを中心とする世界経済との関係が、我が国経済にとってますます重要なものとなっている現状を踏まえ、グローバル化を切り口とする幅広い視点から、我が国経済の直面する課題について分析、検討することを目的として、浦田秀次郎・早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授を座長に、平成19年11月から20年5月にかけて8回にわたり議論・検討を進めてきました。

今般、これまでの研究会の成果を踏まえ、各メンバーの分担執筆により報告書を取りまとめましたので、発表します。

別紙に、1各章の標題と執筆者、2各章の主なポイント、3政策対応についての示唆、をまとめております。

なお、本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

〔連絡先〕

財務省財務総合政策研究所 研究部

総括主任研究官 平川伸一

研  究  員 大森真人

電話 03-3581-4111

(内線)5223、5315


(別 紙)

「グローバル化と我が国経済の構造変化に関する研究会」報告書

1.各章の標題と執筆者

    • 序章 「グローバル化が提示する課題」

      早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 浦田秀次郎

      財務総合政策研究所総括主任研究官 平川 伸一

      財務総合政策研究所研究員 大森 真人

      前財務総合政策研究所研究員 永田久美子

  • T グローバル化概観

    • 第1章「グローバリゼーション−その経済的ベネフィットとコスト・リスク−」

      東京大学大学院総合文化研究科教授 荒巻健二

    • 〔特別講演要旨〕「国際的な資本の流れの変化」

      財団法人国際金融情報センター顧問 渡辺博史

  • U グローバル化と日本経済

    • 第2章「グローバル化と日本経済」

      早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 浦田秀次郎

    • 第3章「中小企業のグローバル展開における課題と方向」

      財団法人大田区産業振興協会専務理事 山田伸顯

  • V グローバル化とアジア経済

    • 第4章「戦後世界システムの変容と東アジア−歴史的展望−」

      京都大学東南アジア研究所教授 杉原 薫

    • 第5章「東アジアの高齢化はグローバル化で対応できるか−高齢化・グローバル化の成長、貯蓄、金融市場への影響と政策対応−」

      九州大学大学院経済学研究院教授 木原隆司

    • 第6章「動き出した外国人政策の改革と東アジアの経済統合への貢献−製造業の『国内回帰』に関する分析に基づく考察−」

      関西学院大学経済学部教授 井口 泰

    • 第7章「インドの躍進と日本への影響」

      国際基督教大学教養学部上級准教授 近藤正規

    • 〔特別講演〕「東アジア経済統合と新たな開発戦略論」

      慶応義塾大学経済学部教授 木村福成

  • W グローバル化を支える部門やインフラ的要素

    • 第8章「グローバル化と国際経済法(WTO、FTA等)を通じた国際取引環境整備の課題」

      東京大学社会科学研究所教授 中川淳司

    • 第9章「金融・商品市場が示唆するグローバル化の加速」

      株式会社大和総研代表取締役専務取締役 東 英治

    • 第10章「ICTとグローバル化経済社会」

      国際大学グローバルコミュニケーションセンター主任研究員/准教授 砂田 薫

    • 第11章「グローバル・ロジスティクスの現状と課題」

      株式会社日通総合研究所常務取締役 長谷川雅行

    • 第12章「高等教育のグローバル化の動向と我が国の課題」

      東京大学大学総合教育研究センター教授 小林雅之

2.各章の主なポイント

  • ※ 本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。

  • 報告書は研究会における議論の概要を取りまとめた序章(浦田・平川・大森・永田)に続き、以下の各論から構成されている。

  • (1) グローバル化概観

    荒巻論文、グローバル化の推進力とそのベネフィット及びコスト・リスクを分析するものである。推進力については、個々の経済主体のベネフィット確保行動が重要な要素となっていると思われることから、経済のグローバル化は今後とも基本的には進展していくと予想する。グローバル化は効率性・生産性を基準とした競争の激化をもたらし、ベネフィットと同時に、コスト・リスクを生むものであるととらえ、まずベネフィットについては貿易面のグローバル化はおそらく技術進歩、生産性向上等を促し、経済成長を促進する効果があると考えられるが、金融面のグローバル化については直接的な成長促進効果が確認されていないとする。他方、コスト・リスクについては、グローバル化、特に金融グローバル化の進展とともに先進国・途上国を問わず国内所得格差の拡大が進展しており、更に労働市場を含め経済面の不安定性の増大がもたらされるか否かにも留意が必要であるとする。グローバル化による世界規模での競争の激化に対しては、人的資源の強化が重要な課題であることを指摘している。

    渡辺講演は、国際的な資本の流れが変化しており、金融市場だけでなく原油などの資源市場を一体化して考える必要があることを強調している。こうした状況で技術協力や金融協力等の可能な施策としては、日本の先進的な技術を積極的に使用した消費効率の向上、エネルギーの多様化、原油の戦略的備蓄、新興国の貯蓄からの資金還流を減らすこと、貯蓄を長期の投資に結びつけること、通貨スワップ取極のネットワーク構築を進展させることなどが挙げられている。

  • (2) グローバル化と日本経済

    • 1 グローバル化がもたらす機会

      浦田論文では、バブル崩壊以降長い間低成長に陥っていた日本では、多くの人々の考え方が内向的かつ保守的になってしまったことを背景に、グローバル化によるメリットを享受できず低成長を余儀なくされたとしている。日本経済・日本企業がグローバル化によりもたらされる機会を活用して成長を実現するには、現状を大きく変える政策への抵抗に適切に対応して、対外開放や構造改革などの必要な政策を実施することが不可欠であると論じている。

    • 2 中小企業のグローバル展開

      山田論文では、大企業だけでなく、生産財の主たる製造者である日本の中小企業は、アジアへの生産移転など、グローバル展開を拡大し競争力を維持してきているとしている。その結果、中小生産財メーカーにとっても、進出先にとってもメリットのあるウィンウィン関係が生まれてきており、これからの日本は輸出立国ではなく、イノベーション型成熟債権国として発展すべきであると論じている。

  • (3) グローバル化とアジア経済

    • 1 歴史的展望

      杉原論文は、日本の成長と「東アジアの奇跡」について、アメリカの覇権と自由貿易体制というメタ・レジームの下で、労働節約的・資源節約的技術への転換によって達成されたものと分析している。これにより資源・エネルギー問題が顕在化する中で、欧米先進諸国に対する貿易黒字によって対中東赤字を埋め合わせ、成長を持続してきた。この歴史的文脈からみた日本の課題は、自由貿易体制の尊重、資源・エネルギー節約的技術の世界的普及への貢献、地球全体の資源・エネルギー管理に関わる制度設計への積極的関与であると主張している。

    • 2 東アジアの高齢化

      木原論文は、東アジアの高齢化によるマクロ経済、財政、金融への悪影響について、グローバル化に伴う財・資本・労働の国際間異動の増大により緩和されるが、相殺されることはないだろうと論じている。このため、各国の人口転換段階が多様であることを活用した知的支援や地域協力を実施するとともに、金融制度・市場を深化させ高齢化に対応していくことが、地域の成長モメンタムを持続させる意味で重要であろうと強調している。

    • 3 外国人政策と東アジア経済統合

      井口論文は、製造業の国内回帰現象の下で労働市場のミスマッチが拡大し、これを埋め合わせる形で外国人雇用が増加しており、外国人政策の緊急性が高い地域が存在していることを明らかにしている。こうした中で在留管理の改善を中心とする外国人政策の改革が動き始めており、自治体レベルの外国人政策(多文化共生施策等)の強化が重要な柱になっている。今後、日本とアジア諸国との間で、循環移民の促進などを含めた世代を超えた長期の経済連携を実現していく視点が重要であることを強調している。

    • 4 インド経済

      近藤論文、インフラの未整備、深刻な財政赤字、農業部門の停滞、製造業の競争力、貧困と人間開発の遅れ、エネルギー・環境問題などの課題を抱えつつも、経済規模と安定した成長、巨大な中間層に支えられた内需、人材大国などの特色を有するインド経済が躍進する姿を描き出している。インドの人材は、高等教育を受けた人材の活用という側面と、移民ではなくオフショアという形で労働サービスを受けることが多い側面があり、移民という難しい国内問題をともなうことが少ないことから、「人材大国」としての頭脳を日本も活用すべきであると論じている。

    • 5 東アジア経済統合と開発戦略

      木村講演では、東アジアの現状として、「事実上」の経済統合の先行と「政策上」の経済統合の加速がみられることを指摘している。現時点の生産・流通ネットワークは、重要性、広域性、複雑性という3点において世界で最も進んだものであり、生産過程の分散立地と産業集積の形成が同時に進行している。他方、政策上の経済統合も急速に進行しているが、日中韓のFTA締結の遅れから、ASEANがハブになり地域内外とさみだれ式にFTAが結ばれている状況にあるとしている。

  • (4) グローバル化を支える部門やインフラ的要素

    • 1 国際経済法

      中川論文では、本邦企業は急速に発達しつつある国際取引の複雑かつ重層的な法環境を適切に把握し、迅速かつ的確な対応を講じていくことが求められているとする。同時に、日本政府は、グローバル化にふさわしい国際経済法の活用と発展に向けて明確な方針を打ち出し、本邦企業の国際取引の活発化と法環境の整備を積極的に推進する必要があることを論じている。

    • 2 金融商品市場

      東論文では、21世紀に入ってから一次産品価格の急騰と先進国企業の資金余剰という大きな変化が起きていることを指摘している。こうした中で新興国と先進国の双方で資本フローが拡大しているが、日本は取り残されている。このため、日本の課題は、資本市場への参加者を増やし、金融資産運用能力を向上させることによって、リスクマネーの供給能力を高めることであると論じている。

    • 3 ICT(情報通信技術)

      砂田論文、国家や企業よりも個人がICT革命を先導する時代に入っていること、個人が主役のグローバル化と情報化は、全世界のプログラマーが参加し、既存のソフトウェア産業に大きな影響を与えるオープンソース・ソフトウェア活動を成長させていることなどを論じている。これに対しモジュール化とオープン化に対応できない日本は、サプライサイドからディマンドサイドに視点を移して、ICT利用先進国を目指す戦略が必要であることを強調している。

    • 4 グローバル・ロジスティクス

      長谷川論文では、グローバル・ロジスティクスが、荷主のニーズを満たすため、海上輸送も航空輸送も計り知れないほど巨大化・スピード化していることを明らかにしている。巨大な世界的ロジスティクス企業が割拠する一方で、新興国の企業が急速にシェアを拡大している現状があり、環境問題や国別の発展の格差につながる問題も指摘される中で、日本は、ハード面、ソフト面の整備や、企業の戦略的対応が求められているとする。

    • 5 高等教育

      小林論文は、高等教育の質保証と評価の問題について、EUやアメリカを中心に各国共通の枠組み作りが行なわれていることを明らかにしている。これは高等教育のブロック化、標準化の試みであり、日本はこのような急激なグローバル化に対応することを求められている。文化的・経済的多様性が前提であることを主張して制度設計の当初から積極的にコミットすること、個別大学、学部学科の目標を明確にして国際化に対応することが必要と主張している。

3.政策対応についての示唆

最後に、本報告書全体としての政策対応への示唆をまとめると、次のとおりである。

今後とも基本的にはグローバル化が進展していくと予想される(荒巻論文)が、その速度やあり方は、政治環境、安全保障環境や、経済の制度、技術、経済動向などによって大きく左右されることになる(同旨多数)。

アジア経済は、高齢化(木原論文)といった課題に直面していくことになるが、資源節約型発展経路(杉原論文)を普及させつつ、東アジアやインド(近藤論文)等を中心に成長を続けていくものと考えられる(同旨多数)。

こうした中で日本経済はグローバル化によるメリットを十分享受できずにおり(浦田論文)、中小生産財製造業のグローバル展開(山田論文)などの事例を見れば、事実を直視した適切な外国人政策を確立(井口)するとともに、アジア諸国などとの「事実上」の経済統合にとどまらず「政策上」の経済統合(木村講演)を加速し、成長の機会を捉えていくことが不可欠である(同旨多数)。

このような政策を支えるインフラ的な要素として、例えば、国際経済法の発展と活用に向けた環境の整備(中川論文)によって、公正な競争条件を確保することがきわめて重要である(同旨多数)。また、資本市場への参加者を増やし金融資産運用能力を向上させること(東論文)、ディマンドサイドに視点を移し情報通信技術利用の先進国を目指すこと(砂田論文)、巨大化・スピード化しているグローバル・ロジスティクスに対応すること(長谷川論文)、文化的・経済的多様性が前提であることを主張して高等教育の質保証と評価の制度設計に積極的にコミットすること(小林論文)など、競争に必要な重要な課題に直面している。

以上のとおり、本研究会では、グローバル化にともなう諸問題に関し、日本経済、アジアを中心とする世界経済、競争条件に関するインフラ的要素について総合的に検討しており、本報告書に収録した個別の論文においては、それらの検討結果を踏まえ、自由な立場から政策対応について示唆がなされている。


「グローバル化と我が国経済の構造変化に関する研究会」メンバー

(敬称略、肩書きは平成20年7月16日現在)

座 長
浦田秀次郎 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
メンバー(50音順)
東英治 株式会社大和総研代表取締役専務取締役
荒巻健二 東京大学大学院総合文化研究科教授
井口泰 関西学院大学経済学部教授
木原隆司 九州大学大学院経済学研究院教授
小林雅之 東京大学大学総合教育研究センター教授
近藤正規 国際基督教大学教養学部上級准教授
杉原薫 京都大学東南アジア研究所教授
砂田薫 国際大学グローバルコミュニケーションセンター主任研究員/准教授
中川淳司 東京大学社会科学研究所教授
長谷川雅行 株式会社日通総合研究所常務取締役
山田伸顯 財団法人大田区産業振興協会専務理事
特別講演者・討論者(50音順)
岡野進 株式会社大和総研執行役員
木村福成 慶応義塾大学経済学部教授
寺嶋隆 株式会社日通総合研究所専務取締役
渡辺博史 財団法人国際金融情報センター顧問
財務総合政策研究所
石井道遠 前財務総合政策研究所長
金森俊樹 前財務総合政策研究所次長
後藤正之 財務総合政策研究所次長
田中 修 財務総合政策研究所研究部長
野寿也 財務総合政策研究所大臣官房企画官
平川伸一 財務総合政策研究所総括主任研究官
樋口秀典 財務総合政策研究所主任研究官
大森真人 財務総合政策研究所研究員
永田久美子 前財務総合政策研究所研究員

(参考)研究会の目的等

グローバル化は自由貿易などの経済的活動にとどまらず、社会、文化、技術、組織、法律などの幅広い分野に及んでいるが、同時に、この広範な動きが経済的活動に及ぼす影響も強まってきている。

財務総合政策研究所では、こうした中で、成長する東アジア・インドを中心とする世界経済との関係が、我が国経済にとってますます重要なものとなっている現状を踏まえ、グローバル化を切り口とする幅広い視点から、我が国経済の直面する課題について分析・検討することを目的として「グローバル化と我が国経済の構造変化に関する研究会」(座長:浦田秀次郎早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)を、平成19年11月から20年5月にかけて8回にわたり開催してきた。

このたび、研究会の成果を踏まえ、各メンバーの分担執筆により報告書を取りまとめた。

〔連絡先〕 財務省 財務総合政策研究所 研究部

総括主任研究官 平川 伸一

研  究  員 大森 真人

電話 03-3581-4111 (内線)5223、5315