平成20年6月24日
財務省
「人口動態の変化と財政・社会保障制度のあり方に関する研究会」(財務総合政策研究所)では、
わが国における人口動態の変化と、経済、財政制度、公的年金・医療保険等の社会保障制度との関連などについて、理論的に整理分析し問題点を明らかにすること、
それらの問題点の政策対応についての示唆を提供することを目的として、貝塚啓明・京都産業大学客員教授(財務総合政策研究所名誉所長)を座長に、平成19年10月から20年3月にかけて5回にわたり議論・検討を進めてきました。
今般、これまでの研究会の成果を踏まえ、各メンバーの分担執筆により報告書を取りまとめましたので、発表します。
別紙に、
各章の標題と執筆者、
各章の主なポイント、
政策対応についての示唆、をまとめております。
なお、本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。
〔連絡先〕
財務省財務総合政策研究所 研究部
総括主任研究官 寺井順一
研 究 員 西田健太
電話 03-3581-4111
(内線)2251、2253
(別 紙)
第1章「将来推計人口が描くこれからの日本」
社会保障・人口問題研究所人口動向研究部長 金子隆一
第2章「少子高齢化と人口減少がマクロ経済・財政に与える影響の全体像」
東京大学大学院経済学研究科教授 井堀利宏
一橋大学大学院経済学研究科講師 別所俊一郎
第3章「人口減少の罠は脱出できるか?−人口転換論(Demographic Transition Theory)を中心に」
財務総合研究所主任研究官 小黒一正
前財務総合政策研究所研究員 森下昌浩
第4章「人口減少下の経済成長とイノベーション−情報技術革新からみた日本経済の基礎力と将来展望」
九州大学大学院経済学研究院教授 篠ア彰彦
第5章「公的年金による世代内再分配効果」
神戸大学大学院経済学研究科教授 小塩隆士
第6章「少子高齢化・人口減少における財政負担―「投資としての子育て支援」の観点から」
一橋大学大学院経済学研究科准教授 山重慎二
第7章「世代会計による世代間不均衡の測定と政策評価」
東北大学経済学研究科教授 吉田 浩
第8章「公的年金純債務から考える年金制度改革の方向性」
慶應義塾大学法学部教授 麻生良文
第9章「医療保険制度への事前積立導入と、不確実性を考慮した評価」
学習院大学経済学部准教授 鈴木 亘
※ 本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。
(1) 少子高齢化・人口減少社会の展望
わが国の将来推計人口に関する分析
では、将来の日本人女性の結婚・出生の姿をみると、例えば、1990年生まれ世代の女性では、生涯未婚率の上昇などから生涯無子割合(50歳時点での無子割合)は4割弱に達する、という推計結果が示された。そして、このことは、家族を持たない高齢者が増大し、これまで家族が果たしてきた社会保障機能の維持が困難になることを意味するものであり、今後は、どのような人生選択を公共の福祉と共存させ得るかについての国民的なコンセンサス作りが重要だ、と結論づけている。
人口動態の変化と経済・財政に関する分析
では、公債残高の対GDP比を150%で定常化させるという仮定の下で、公的年金給付を現行水準で維持し、年齢別の医療費が一定であるとき、技術進歩を年率1%と仮定しても、国民負担率は2020年頃には50%に達し、また、経済成長率は2030年代後半以降マイナスになる、という推計結果が示された。他方、2004年の公的年金制度改革のような所得代替率(夫婦の公的年金給付額のその時点での現役被保険者の可処分所得に対する比率)引下げの改革を行った場合は、国民負担率は2040年頃に50%に達し、経済成長率は2040年代後半にマイナスになる、との推計結果が示された。
このほか、「将来推計人口」の異なるパターンを用いて試算したところ、一人当たりの経済成長率や貯蓄率の動きにそれほど大きな変化は認められず、このことは将来の少子高齢化の動きが予期可能な範囲内で大きく変動したとしても、マクロ経済の動きは劇的には変化しないことを示唆している、との見方が示された。
次に、では、今後とも長寿化が進展する限り、人口減少が継続する可能性が高いとする分析結果が示された。即ち、死亡率が出生率に及ぼす影響については、技術進歩による死亡率の低下は親の寿命を伸長させる結果、老齢期の消費のウェイトが高まって、逆に子供に対する需要が減少し、出生率は低下する、と指摘している。また、人口減少の緩和政策の効果について、児童手当の拡充は子供のコストを低下させ出生数を増加させる効果をもつものの、その財源の一部を公債発行で賄って負担を将来世代に先送りすると、子供のコストを上昇させることになり効果は希薄化する、と指摘している。
さらに、では、経済成長の基礎力である労働生産性上昇率を長期に遡及推計した結果は年率2%台半ばとなり、この基礎力が十分に発揮されるならば、2025年まで年率1%程度と見込まれている人口減少があっても日本経済が縮小する事態は回避できる、と指摘している。具体的には、コンピューターや通信ネットワークなどの情報資本を明示した計量モデルを基に2025年までの経済成長率を試算した結果、新技術の導入と様々な創意工夫によるイノベーションのダイナミズムが生まれなければ、日本の中期的な経済成長率は1%台半ばに留まるものの、1990年代以降の日本ではIT投資が停滞し、成長力加速の機会を逸した経緯があることから、情報資本の蓄積が増加しその利活用が高まれば、経済成長率が2%台後半にまで加速する可能性がある、と指摘している。
(2) 世代間の利害調整と世代内扶助に関する分析
は、公的年金制度では若年層から高齢層への大規模な所得移転が問題となるが、生涯所得ベースで見た公的年金は、現役時における保険料の拠出と高齢時における年金の受給とがかなり相殺されるため、その再分配効果は、年間所得ベースでの再分配効果と比べてかなり小さめとなる、と指摘している。
さらに、公的年金制度の改革案としては、厚生年金の支給総額を現行制度の想定する値で固定したままで支給の仕方を工夫することにより、高齢者層内部の再分配効果を高めることも可能である、と指摘している。具体的には、イ. 基礎年金部分の生活保護基準額程度への引上げと報酬比例部分を圧縮、ロ. 高額所得者ほど報酬比例部分を抑制するベンド・ポイント制度の導入、ハ. 最低保障年金を導入するが一定の所得以上の受給者はその額を引き下げるクローバック制度の導入、といった改革案はいずれも生涯所得の格差是正にある程度貢献する、と指摘している。
(3) 人口動態の変化に適合した財政・社会保障制度
財政負担のあり方、世代間均衡の方策等に関する分析
は、公的年金制度を始めとする賦課方式の財政制度を効率的に維持するためには、子育てを行う人々の財政負担を軽減すること(子育て支援策)が望ましい、と指摘している。また、子育て支援策としては、子育て世帯が育児サービスを購入し労働供給を増加させるような補助政策は税及び社会保険料の増加をもたらすので支援の効果が高い、としている。また、子育て支援策は、その財源を増税によって賄うことができるならば短期的にも財政を悪化させる(将来世代の財政負担を上昇させる)ことはなく、一方、財源を増税によって賄うことができない場合には、短期的に財政を悪化させるが、一定の条件の下で、労働参加および将来の生産年齢人口の増加を通じて、長期的に財政負担を行う人の数を増加させることで財政改善効果を持つ、と指摘している。
一方、では、世代会計の手法を用いて世代ごとの受益と負担を計測し、世代間不均衡(ここでは、将来世代の追加負担額を現在の0歳世代の生涯純負担額で除したもの)を縮小するための方策等について議論している。即ち、2000年基準の世代会計の推計結果では、政府の教育費支出は政府消費であると仮定したケースAの世代間不均衡は約600%、教育費支出は個人に対する移転であると仮定したケースBでは1700%となっており、非常に大きな世代間不均衡が存在することが示された。そして、世代間均衡を回復させるためのシナリオとして、負担増加と受益削減の2つの政策を比較検討し、負担増加による場合は、現行制度に比べて1.5倍程度の負担増加が必要であり、受益削減による場合は、現行制度に比べて受益が半分以下になるまで削減しなければならない(いずれもケースAによる例示)、とする推計結果を提示している。
公的年金・医療保険制度に関する分析
i 公的年金制度
は、仮に出生率・出生数が増加に転じても、高齢者人口と労働力人口の比率を変えるまでにはさらに時間がかかることなどから、むしろその間に将来の人口推計を所与とした公的年金制度改革を検討すべきだと指摘している。また、公的年金制度について、現行の賦課方式の特徴は、年金制度が未成熟だった時期に十分な負担をせず受給した世代が存在し、その負担を後の世代が行っている点にあるとし、このようにある時点の「年金純債務」をその後の世代が支えているという点が、公的年金制度における世代間格差の最も重要な原因だと指摘している。そして、年金財政が破綻しないためには現時点の「年金純債務」と等しい額の将来の資産超過(将来世代の負担超過)が必要であること、などを指摘している。
ii 医療保険制度
では、わが国の医療保険財政を将来にわたって維持可能にするためには、医療保険制度への積立方式の導入が重要である、と指摘している。また、具体的に積立式医療保険制度の下で必要となる保険料率を推計した結果、現在8.03%の保険料率(公費分を含む、全制度を統合したベース)を直ちに11.79%に引き上げることによって、2105年まで同じ保険料率で財政を維持できる、という推計結果が示された。
最後に、本報告書全体としての政策対応への示唆をまとめると、次のとおりである。
わが国の人口動態は、少子高齢化・人口減少の現状が示すとおり歴史的な転換の最中にあり、今後は世界のどの国も経験したことのない高齢化がもたらされる、とする推計結果が示されている(金子論文)。
それらの人口推計の下、経済・財政・社会保障の今後約50年間については、経済成長率の低下やマイナス成長、国民負担率の上昇などを予測する推計結果が示されている(井堀・別所論文)。ただし、このような人口動態が予測可能な範囲で大きく変動したとしても、マクロ経済に劇的な影響を及ぼすことはないと指摘している(同)。さらに、情報資本の増加とその利用と活用が高まれば、経済成長率が上昇する可能性もあるとの指摘もなされている(篠ア論文)。
次に、人口動態の変化に適合した財政・社会保障制度のあり方等として、
公的年金を始めとする現行の賦課方式の財政制度を維持する場合は、子育てを行う人々の財政負担の軽減、また、そうした子育て支援策としては労働供給を増加させるような補助政策が望ましい(山重論文)、
公的年金制度における高齢者内部層の再分配効果を高める方法として、基礎年金部分を生活保護基準額程度へ引き上げると同時に報酬比例部分を圧縮する等の改革が、生涯所得の格差是正にある程度貢献する(小塩論文)、という指摘がなされた。さらに、
医療保険制度を維持するためには積立方式の導入が必要であり、積立方式の下での保険料率の引上げによって100年先まで同じ保険料率で財政を維持することができる(鈴木論文)、との推計結果も示された。
以上のとおり、本研究会では、人口動態の変化にともなう諸問題に関し、経済、財政、社会保障、さらには労働需給等を総合的に検討しており、本報告書に収録した個別の論文においては、それらの検討結果を踏まえ、自由な立場から政策対応について示唆がなされている。
(敬称略、肩書きは平成20年6月24日現在)
| 座 長 | |
|---|---|
| 貝塚啓明 | 京都産業大学客員教授・財務総合政策研究所名誉所長 |
| メンバー(50音順) | |
| 麻生良文 | 慶應義塾大学法学部教授 |
| 井堀利宏 | 東京大学大学院経済学研究科教授 |
| 小塩隆士 | 神戸大学大学院経済学研究科教授 |
| 金子隆一 | 国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部長 |
| 篠ア彰彦 | 九州大学大学院経済学研究院教授 |
| 鈴木 亘 | 学習院大学経済学部准教授 |
| 別所俊一郎 | 一橋大学大学院経済学研究科専任講師 |
| 山重愼二 | 一橋大学大学院経済学研究科准教授 |
| 吉田 浩 | 東北大学経済学研究科教授 |
| 特別講演者 | |
| 高橋重郷 | 国立社会保障・人口問題研究所副所長 |
| 非執筆メンバー | |
| 松本和幸 | 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授 |
| 財務総合政策研究所 | |
| 石井道遠 | 財務総合政策研究所長 |
| 金森俊樹 | 財務総合政策研究所次長 |
| 後藤正之 | 財務総合政策研究所次長 |
| 田中 修 | 財務総合政策研究所研究部長 |
| 高野寿也 | 財務総合政策研究所総括主任研究官 |
| 寺井順一 | 財務総合政策研究所総括主任研究官 |
| 小黒一正 | 財務総合政策研究所主任研究官 |
| 龍岡資隆 | 財務総合政策研究所上席研究員 |
| 西田健太 | 財務総合政策研究所研究員 |
| 森下昌浩 | 前財務総合政策研究所研究員 |
これまで、人口動態の変化にともなう諸問題は、経済成長、労働需給など個別の問題として取り上げられてきたものの、総合的観点からの研究は少なかったことから、これらを総合的に検討することの意義は大きいと考えられる。
財務総合政策研究所では、上記の観点から、人口動態の変化と経済、財政・社会保障との関連等について理論的に分析し、各種の問題点を明らかにするとともに、それらへの政策対応についてのインプリケーションを提供することを目的として「人口動態の変化と財政・社会保障制度のあり方に関する研究会」(座長:貝塚啓明京都産業大学客員教授・財務総合政策研究所名誉所長)を、平成19年10月から20年3月にかけて5回にわたり開催してきた。
このたび、研究会の成果を踏まえ、各メンバーの分担執筆により報告書を取りまとめた。
〔連絡先〕 財務省 財務総合政策研究所 研究部
総括主任研究官 寺井 順一
研 究 員 西田 健太
電話 03-3581-4111 (内線)2251、2253