平成19年8月10日
今日まで地方分権へ向けた作業が進められ、国と地方の行財政改革についての具体的な検討がなされる中で、地方財政に関する議論も盛んに行われている。しかし、そうした議論には地方交付税制度や地方債制度のあり方をはじめ十分収束を見ていないものがあり、各々の提案が経済学的に厳密な理論と実証的な裏付けを有していないものもあると考えられる。
このため、地方分権・地方財政に関する経済理論について改めて整理する必要があり、また、現行の地方財政制度が抱える問題点についての理論的・実証的な分析が必要となっている。さらには、地方分権を進めるにあたって基本となる地方自治体の財政規律のあり方など、国・地方を通じた財政再建等に資するための各種の検討がますます重要になっていると考えられる。
財務総合政策研究所では、こうした問題意識に基づき、地方分権・地方財政に関する経済理論について整理分析し、現行の地方財政制度の問題点をより明らかにするとともに、今後の改革に向けての有用なインプリケーションを提供することを目的として、平成18年10月に「地方財政のあり方等に関する研究会」を立ちあげた。その後は、平成19年3月まで5回にわたって研究会を開催してきた。そして、このたび、研究会の成果を踏まえ、各メンバーの分担執筆により報告書を取りまとめた。
(注)本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。
本報告書の構成は、地方分権・地方財政に関する理論分析(第1章〜第6章)と実証分析(第7章、第8章)とからなっている。
まず、第1章(林宜嗣論文)は、地方分権化において議論すべき事務事業の対象範囲・意思決定主体・費用負担配分などを中心とする論考である。次に、第2章(林正義論文)・第3章(西川論文)では、分権的意思決定が経済効率を向上させるという議論の前提について論じられている。また、第4章(井堀論文)は、地方財政制度の仕組みと役割等について問題点を指摘しながら概説し、各論として、第5章(佐藤論文)では地方交付税などの政府間財政移転制度の諸問題、第6章(持田論文)では地方債制度をめぐる諸問題について論じている。さらに、第7章(赤井・竹本論文)は行政区分と事務配分に関する実証分析、第8章(土居論文)は地方交付税制度に伴う資源配分の非効率性に関する実証分析である。
これらの論文のポイントを事項ごとに整理すると、以下のとおりである。
(1) 地方分権に関する理論分析
[1] 地方分権的システムのメリット
イ. 分権化定理・足による投票
地方公共財に対する地域住民の選好が、職業、所得水準、地域特性等の多様な条件によって異なる場合には、中央集権的な供給に比べ、地方分権的に供給することで、より効率的な資源配分が達成できるとする議論がある。例えば、公共財に関する政策手段の制約や「情報の非対称性」から生じる問題を緩和するために、政策単位を空間的に分割(地方分権化)することに着眼した議論が、「分権化定理」と「足による投票」である。
「分権化定理」は、中央政府が画一的な政策を行う場合に比べ、地方政府が地域の実情に合わせた独自の政策を行った方が、厚生ロスが少ないというものである。林宜嗣論文は、「分権化定理」の議論が妥当する前提条件として、地方政府は、公共財の受益と負担を連動させることによって住民に選好を正しく表明させ、行政の立場から正確に情報化して供給を行うことが重要だとしている。
一方、「足による投票」は、地方公共財の便益と負担の組合せが地方政府によって異なっており、個人の多様性に対応できるほど多くの地方政府が存在する分権化された世界において、自由な居住地選択が行われると、そうした選択自体が地方公共財に対する正直な選好の表明として機能し、結果として最適な公共財供給が行われる、というものである。井堀論文では、こうした自己選択のメカニズムを活用することによって、住民と政府との間で生じる公共財の評価に関する「情報の非対称性」の問題が解決可能となることは、地方分権の重要なメリットの1つだ、と指摘している。
ロ. ヤードスティック競争
上記の理論に対して、地方政府間の競争がもたらす効用を別の視点から説明しようとした理論に「ヤードスティック(尺度)競争」がある。
「ヤードスティック競争」は、有権者が近隣自治体の政策と自らの住む自治体の政策とを比較してその良否を判断し、次の選挙で為政者への評価を下すため、選挙を通じて為政者を規律づけるというものである。為政者にとっては近隣自治体の善政を模倣することが有力な戦略の1つとなるが、西川論文は、わが国の自治体における横並び志向の実情からは「ヤードスティック競争」の議論は説得力を持っている、と指摘している。
[2] 地方分権的システムの問題点
上記[1]のようないわゆる効率的分権化論に対して、いくつかの問題点に関する議論がある。
イ.外部性の問題
「分権化定理」は経済的な外部性が生じる場合には成立せず、むしろ非効率性の原因となる可能性があるとする議論がある。例えば、林正義論文では、ある地方の政策の変化が他の地域に影響を与えると、地方間の相互依存関係(外部性)が生じ、資源配分に非効率性が生じる可能性があると指摘する。なお、このような外部性が存在する限り、地方分権だけでは効率的な政策展開は望めず、むしろ、地方分権化が進むにつれて、地方行財政ルールや政府間財政移転の整備など、中央政府にも重要な役割が期待されるとしている。
ロ.地域住民の選好と地方政府の政策との乖離
地方分権の議論では、選挙によって為政者を規律づけるという規範的な考え方(「手による投票」)があるが、他方において、西川論文は、選挙過程をみると有権者である住民と被選挙人である政治家の選好については一致する必然性が無いことを認めざるを得ない、としている。また、地方議会における意志決定に注目すれば、官僚行動について考慮する必要があり、利益集団からの圧力なども政策アウトプットに影響を与えることから、実際の政策は、地域選好を基礎としつつも、地方議会の審議過程においてそれまで予想できなかったようなバイアスを持つこととなるとしている。
[3] 地方分権的なシステムのあり方
イ. 国と地方の役割分担と費用負担配分
地方分権が国・地方の財政の効率化等に資するためには、国と地方の役割分担や財政関係のあり方が問題となってくる。
林宜嗣論文は、現行の地方行財政制度の特徴として、法令によって実施を義務づけられた事務事業が多く、また、国からの財政移転への依存度が高いことを指摘したうえで、国と地方の役割分担については、(地方が「資源配分」、即ち便益が一部の地域にしか及ばない地方公共財を住民負担によって供給すること、は当然として)「所得再分配」は、基本的には費用負担を含めて国が担うべきだとしている。さらに、今後は、地方の事務事業のうち真のナショナル・ミニマム事業を選別し、結果として国による義務づけを縮減することが重要であり、また、このように義務づけを存続すべきものは国の責任(地方への委託)であることを明確にし、そうでないものについては意思決定を含め地方の裁量に委ねるべきだ、と指摘している。
井堀論文は、中央政府による規制・義務づけと財政面での補助とは必ずしも連動すべきではなく、受益が当該地方に限定されるサービスであれば、それが中央政府から義務づけられたものであっても、中央政府が費用負担する必要はないとしている。
また、佐藤論文は、地方交付税のような政府間補助金が財源保障をするのは、ナショナル・ミニマムな公共財を最小コストで提供するのに必要な費用であり、それを超過した部分については、地方政府の財政責任とすべきだと議論している。
ロ.地方分権と再分配政策
上記イとも関連するが、林正義論文では、効率的分権化論についての検討を踏まえ、地方分権化は再分配政策にはなじまないと指摘している。まず、利他主義にもとづいて再分配の地方分権化を支持する議論が存在するが、その議論は、例えば低所得者が地域間を自由に移動できる場合や利他主義が地域外の低所得者に及ぶ場合には外部性が発生し、資源配分が非効率的になるおそれがある。また、社会保険の観点からは、地方レベルで再分配政策が行われると、リスクを効果的にプールすることが困難になると予想される。これらの議論から、再分配政策は地方ではなく全国規模で対処するべきであるとしている。
(2) 地方財政に関する理論分析
[1] ソフトな予算制約
地方財政制度の理論的分析においては、「ソフトな予算制約」の概念が代表的論点の1つとされる。「ソフトな予算制約」とは、事前に救済しないと約束しておきながら、財政的に不健全な状態に陥ると、事後的にその約束を覆して救済してしまう現象である。
井堀論文では、地方政府は、事後的に中央政府が補助金を出して救済することを見越して、過大な財政赤字を創出したり歳出を拡大したりする誘因が生じる結果、過大な借入れによって調達した資金で行う投資の効率性にあまり注意を払わないという弊害を指摘し、わが国の政府間財政では、「ソフトな予算制約」は無駄な歳出を誘発するという悪い結果をもたらしている可能性が高いと結論づけている。なお、持田論文は、本来的にこの問題は、中央政府が事後的に補助金を出して救済しないと責任をもって約束(ノン・ベイルアウト)できれば、解決可能だとしている。
[2] フライペーパー効果
地方財政制度の効率性を評価する場合の重要な研究課題の1つである「フライペーパー効果」とは、一般補助金の増加は、減税などで住民に還元されることなく財政支出という形で地方政府(フライペーパー:蝿取り紙)に張り付いてしまうため、そうした個人所得の増加よりも地方政府の支出への拡大効果が大きいとする議論である。
井堀論文では、こうした「フライペーパー効果」が観察されるケースでは、地方政府が住民の利益を考えて行動していないか、あるいは、住民が非合理的な行動をしているか、どちらか(あるいはその両方)の要因があり得るとしている。なお、わが国では、地方交付税制度において、このような非効率な経済効果の実態が研究課題とされている。
[3] 政府間の財政移転に関する理論分析と地方交付税制度等のあり方
佐藤論文は、地方分権化と補助金の縮減・廃止を一体とみなすことは規範的には正しくなく、地域間の財政力格差に起因する不公平や、資源配分の非効率化などの「地方分権の失敗」がある可能性がある場合には、むしろそれを是正する手段として中央から地方への政府間財政移転が活用されるべきだとしている。また、財政移転の実態がそうした規範的機能に即している訳でもなく、むしろ政治家・官僚・圧力団体・有権者などのステイク・ホルダーを含む政策決定過程の中から政治的帰結として実現したものであるため、「ソフトな予算制約」の問題が生じるなど、財政移転の膨張による非効率性のみならず制度の持続可能性そのものも問われかねない、としている。
一方、地方交付税制度等のあり方について、佐藤論文は、現行の地方交付税・補助金制度への批判から財政移転自体を否定するのも、規範的観点から現行制度を擁護するのも共にミスリーディングだと指摘し、地方政府に財政規律を課し、歳出の抑制と効率化を誘因づけるような制度設計が必要だとしている。具体的には、財源保障機能と財政調整機能を「交付金」と「交付税」によって機能分離(政策目的と手段との対応関係を明確化)することなどを提案している。
[4] 地方債制度等に関する理論分析と地方債制度のあり方
持田論文は、いわゆる「夕張ショック」以降、地方債の信用力の基盤となっている「暗黙の政府保証」を廃止・縮小し、「市場の規律」によって地方財政を監視すべきとする意見が強まっていることについて、わが国の地方債制度が個別条件交渉方式へ移行したばかりであることや、地方債が金融商品取引法の開示免除証券であることを考慮するならば、「市場の規律」への一元的依存が有効に機能するインフラは、現時点では十分に整っていないと指摘している。
一方、地方債制度のあり方について、持田論文は、i地方の予算制約をソフト化する元利償還についての交付税措置は廃止・縮小すべきである、ii現在のわが国の地方債制度の最も重要な課題は、地方自治体の財政状況についての情報開示を徹底しながら、オープンな地方債市場を育成しつつ、透明性の高いルールにもとづいて地方自治体をモニタリングすることである、としている。また、今後は、地方自治体間の債務償還能力の格差が現在よりも若干開いていくであろうし、地方債の信用力は、都道府県・政令都市と、信用力の乏しい小規模市町村とに二極分化していくとみられることから、前者には市場メカニズムを活用した地方債発行による資金調達の促進を、後者については共同発行機関を通じた融資を目標にすべきだとしている。
(3) 地方分権・地方財政に関する実証分析
[1] 行政区域と事務配分に関する分析
効率的な行政規模を判断する指標の一つに、地方政府による公共サービスの供給量を所与として単位当たり費用が最小となる地域人口規模があるが、この観点から 現行の行政体の統合・事務再編をどのように行うべきかが議論されている。赤井・竹本論文は、地方政府においてどのレベルの行政区域で運営を行うことが費用効率性の面から望ましいかという問題に関し、(事務ごとの区分のあり方に関する分析は従来行われていなかったことを受け)事務ごとのコスト構造を人口や面積、地域要因などから推定している。さらに、その結果を元に、異なる行政レベルに事務を移譲した場合にコストがどのように変化するかを考察し、いくつかの事務分野で市町村から都道府県への事務移譲、都道府県から道州への移譲が費用効率性の面において効果的であることが分かったとしている。なお、この分析の推定方法は単純なものに限定しているため、今後は事務ごとの地域性を考慮した詳細な推定が必要だとしている。
[2] 地方交付税制度とフライペーパー効果に関する分析
土居論文は、本稿の(2)の[2]で述べた「フライペーパー効果」を検証する観点から、地方交付税制度に伴う資源配分の非効率性を理論的、実証的に分析し、地方交付税総額の削減が、非効率な地方歳出の削減を通じて、国と地方の財政赤字の改善に資することを示している。なお、その分析結果を近年の地方財政の状況に当てはめ、例えば、2007年度当初予算額の10%に相当する1兆5200億円の地方交付税を削減できれば、都道府県と市町村を合わせて交付団体の地方歳出は1兆5960億円削減される効果を持ち、国と地方を合わせた財政赤字は760億円縮減できるとしている。ただし、このように単純に地方交付税総額を抑制すればそれでよいという訳ではなく、中長期的に見れば、地方交付税制度は算定方法から抜本的に改革すべきものであり、地方行政への国の過度な関与を排するとともに、地方自治体の過度な財政移転依存を払拭してこそ真の地方分権が実現できる、と指摘している。
(4) 地方分権改革への評価
[1] 三位一体改革の評価
国と地方の税財政改革である「三位一体改革」では、地方政府の自主的な自助努力を重視して、地方政府が財政面でも自立した運営が行えるように、補助金削減、地方交付税改革、国税・地方税の配分問題が、一体として改革されることとなった。
井堀論文では、地方交付税の抜本的改革なしの税源委譲だけでは、「三位一体改革」は実質的に望ましい効果をもたらさないとしている。即ち、税源委譲という改革の目標が、単に国税を減税して地方税を増税するという政府間税収の調整に終わるのでは、地方自治体の行動や住民の経済厚生に実質的な効果はない、との評価がなされている。さらに、依然として地方交付税で最終的な財源が保障されるとすれば、地方自治体は中央政府の財源にただ乗りしようとする誘因があるとも指摘する。財源の地域間格差を是正する地方財政調整制度は、公平性の観点からでなく、効率性の観点から論じられるべきであり、有益な地方分権を実現するには、交付税を通じた「ソフトな予算制約」を改革する必要があるというものである。
[2] 新型交付税への評価
平成19年度予算から導入された新型交付税の評価について、佐藤論文は、配分基準は人口・面積そのものではなく、人口規模のコスト差や土地利用形態のコスト差を反映した新たな指標に基づくものとなっており、配分上不利になる地域に配慮した地域振興費を創設するなど簡素化を図ることを建前としているが、地方自治体の財政運営に支障のないような財源保障に引きずられた感がある、と指摘している。また、林宜嗣論文は、どちらかと言えば現行地方交付税制度の抜本改革というより、むしろ算定の簡素化など、技術的側面に焦点を当てたものとなっている、としている。
[3] 自治体破綻法制の導入に向けての意見
自治体破綻法制をめぐる議論が活発化している。持田論文では、破綻法制では債務調整が行われるが、わが国がこれから地方債市場を充実しなければならないことや株主代表訴訟の可能性等を考慮すると、債務調整の申請要件はできるかぎり厳しくすべきだとしている。また、既に財政危機に陥っている地方自治体に破産制度が「信用ある脅し」として機能し、財政運営に規律を与え、破綻を未然に防ぐことができるかは必ずしも自明ではない、との見方を示している。一方、佐藤論文では、財政破綻処理を予めルール化しておくことは、アドホックな救済や国が何とかしてくれるという期待を避け、財政再建を迫られたときの国の関与や自身の財政負担についての「予見可能性」を高めるために有用、と指摘している。
連絡先:財務省 財務総合政策研究所 研究部
総括主任研究官 寺井 順一
研究員 高間 茂治
電話 03-3581-4111(内線) 2251、2253
(敬称略、肩書きは平成19年8月現在)
| 座 長 | |
|---|---|
| 貝塚啓明 | 京都産業大学客員教授・財務総合政策研究所名誉所長 |
| 執筆メンバー(50音順) | |
| 赤井伸郎 | 大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授・財務総合政策研究所特別研究官 |
| 井堀利宏 | 東京大学大学院経済学研究科教授 |
| 佐藤主光 | 一橋大学大学院経済学研究科准教授 |
| 竹本 亨 | 明海大学経済学部非常勤講師 |
| 土居丈朗 | 慶應義塾大学経済学部准教授・財務総合政策研究所特別研究官 |
| 西川雅史 | 埼玉大学経済学部准教授 |
| 林 正義 | 一橋大学大学院経済学研究科准教授・財務総合政策研究所特別研究官 |
| 林 宜嗣 | 関西学院大学経済学部教授 |
| 持田信樹 | 東京大学大学院経済学研究科教授 |
| 非執筆メンバー(同) | |
| 麻生良文 | 財務総合政策研究所総括主任研究官 |
| 冨永朋義 | 「構想日本」政策担当ディレクター |
| 財務総合政策研究所 | |
| 牧野治郎 | 前財務総合政策研究所長 |
| 荒巻健二 | 前財務総合政策研究所次長 |
| 鵜瀞由己 | 前財務総合政策研究所次長 |
| 高木 隆 | 前財務総合政策研究所研究部長 |
| 星屋和彦 | 前財務総合政策研究所大臣官房企画官 |
| 寺井順一 | 財務総合政策研究所総括主任研究官 |
| 近藤春生 | 財務総合政策研究所研究官 |
| 高間茂治 | 財務総合政策研究所研究員 |
(参考)
関西学院大学経済学部教授 林 宜嗣
国、地方ともに巨額の債務を抱えている今日、財政の効率化という視点から、国と地方の財政関係、地方税財政制度を再構築しなくてはならない。Oatesの「分権化定理」は住民に身近な自治体が公共サービスを供給することで「配分の効率性」が実現すると考えているが、地方分権が財政効率化に資するためには一定の条件が必要である。
地方財政を効率化するには、公共サービスの受益と負担を連動させることによって、住民選好を可能な限り正しく表明させ、行政がそれを正しくキャッチし、予算化していくというシステムが不可欠である。それは、自治体をこれまでのように、収支バランスを確保するという「消費主体」ではなく、公共サービスを効率よく供給する「生産主体」としてとらえることである。そのために必要なシステムを整備しないままに地方の自由度を高めても、財政改革に結びつかない。
現在の地方行政においては、法律による義務づけ、細部にわたっての法令による関与などによって地方の自由度が小さくなっているばかりか、補助金交付の条件として、必置規制や基準の義務づけなどが存在する。こうした地方行政への高い規律密度は、地方公共サービスにおける「配分の効率性」と「生産の効率性」を損なう可能性がある。
財政支出は(インプット価格)×(インプットの量)である。現行の補助金や地方交付税は、補助条件や基準財政需要額の算定においてインプットの価格および量を定めている。地域住民の厚生水準を決定するのはアウトカム(成果)なのであり、財源保障を通じたインプットの規制は、生産の効率性を損なうことになりかねない。
地方財政の効率化の前提は「受益と負担の連動」であり、そのためにも、地方税改革については、簡素な税体系の構築、安定性の向上、応益性の強化が必要である。次に、地方交付税改革については、地方交付税を国の政策手段として利用しないこと、効率的な行政運営を前提としたミニマム・コストをベースに基準財政需要額を算定することが必要である。さらに、補助金改革については、地方財政法の「国と地方公共団体相互の利害関係にある事務」というあいまいな規定ではなく、責任の所在を国と地方に明確に配分し費用負担を決定することが前提となる。
国と地方の役割分担については、生活保護などの所得再分配機能は国が担うべきであり、必要な費用は原則的に国が負担すべきである。したがって、国庫負担金の対象となり、財源不足額が地方交付税で保障されるとしても何ら問題はない。国に責任があり、地方が国に代わって執行する事務事業ついては、国庫負担金を縮減し、縮減分を地方交付税や地方税のような一般財源に振り替えたとしても、地方の自由度が大きくなるわけではないし、国と地方を合わせた財政の効率化に資するものではない。それは単なる負担の付け替えなのである。重要なことは、真のナショナル・ミニマム事業を選別し、結果として地方への事務事業の義務づけを縮減(裁量を拡大)することである。義務づけを存続すべきものは明確に国の責任とし、地方への委託であることを明確にする。そうでないものについては意思決定を含め地方の裁量に委ねるべきであろう。つまり、下の図のように、現行の「責任分担型」役割分担から、「責任完結型」役割分担への移行が必要である。
一橋大学大学院経済学研究科准教授 林 正義
効率的分権化論を構成する「足による投票(voting with the feet)」と「分権化定理(decentralization theorem)」は、効率的な資源配分のために政策単位の空間的分割=地方分権化に着眼する。情報の非対称性(もしくは顕示選好の問題)に対処する足による投票と政策手段の制約に対処する分権化定理は、人口移動を通じた地域社会の同質化(ティブー分住Tiebout sorting)を通じて結びつく。しかしこの人口移動は同時に外部性を発生させ非効率性の原因となる。この外部性に対処するために、[1]政府間財政移転や規制、[2]外部経済が波及する空間内全地方の合併(実質的な中央集権化)、もしくは、[3]外部経済の及ぶ当事者間での交渉が必要となる。[3]について中央政府が取引費用抑制の為の環境整備等を担うならば、いずれにせよ中央政府の役割が重要となる。
効率的分権化論では、地方政府の行動原理と数(規模)が重要である。「足による投票」や「分権化定理」では、住民厚生を最大化する「慈善的」な地方政府が暗黙的に想定されているが、既述のように政府行動が慈善的ならば、人口移動による外部性によって効率性は達成されない。当該外部性を有益な方向に作用させるためには、地方政府が財政余剰の最大化など住民厚生に反する目的を有する必要がある。しかし、今度は財政余剰の存在が効率性を含意しない。ここで地方政府の数が重要となり、競争市場のように、供給者(公共サービスを提供する政府数)が増加すると余剰(財政余剰)が減少するならば、地方政府数の増大は効率的な資源配分をもたらすことになる。また域内住民の監視や選挙を通じた意思表明も同様の機能を有すると考えられ、地域人口が小さくなると地方政府の行動が規律づけられると考えられる。
日本の地方財政への効率的分権化論の適用に関しては次の点に留意する必要がある。第1に、日本の地方歳出の大部分は再分配的であり、効率的分権化論が前提としている北米などの基礎自治体とは大きく異なる。したがって、少なくとも経済分析の観点からは、我が国においては効率的分権化論を直接適用することは不適切であり、分権の失敗を招く虞がある。第2に「単一国家」と「連邦国家」の区別が重要である。我が国は単一の憲法の下に生成された政治体であり、全国民に社会権が等しく認められ、国法を通じて政策展開上の水平的公平性を保つことが可能である。一方、連邦国家はいわば「くに=州」の集まりであり、再分配政策の大部分は州政府の権限をもっている。これらの国における分権化された再分配の状況はむしろ望ましい政策への障害と捉えられていることに留意すべきである。第3に、政策の「アウトプット」や税源の分権と「インプット」の分権は区別すべきである。我が国における地方分権化は、効率的分権化論が想定するアウトプットと税源の分権化ではなく、所与のアウトプットを達成するためのインプットの分権化であるべきであろう。中央政府が政策アウトプットを統制しながら地方政府が政策インプットを自由に選択することは可能であり、それはむしろ我が国においては望ましい結果をもたらすであろう。
埼玉大学経済学部准教授 西川雅史
教科書的な議論によれば、地方政府は「足による投票」の圧力によって自律的な行動を阻止されており、何らかの住民厚生を最大化するように振る舞うものと仮定されている。しかし、情報の非対称性や制度的な制約(例えば、全国で統一的な水準の財供給を義務づけられた場合など)によって、地域選好と乖離した財供給が実施されてしまうことがある。「分権化定理」は、地方政府が財を供給することによって、情報の不完全性を小さくするとともに、財供給の多様性を認めることによって厚生ロスを小さくできるというものである。
しかし、現実の財供給が代議制民主主義を経ている点に留意すると、有権者は自らが望ましいと考える政策を実施してくれるであろう政治家を選出するために1票を投じることができるに過ぎないし、誰が当選するのかは他の有権者の投票に大きく依存する。また、当選した政治家同士の戦略的行動の帰結としての政策が、自分の望む政策とどの程度まで乖離するのかを予測することは困難である。これらの不確実性によって有権者の投票インセンティブは非常に低くなり、議会における政治家の意志決定は、むしろ、利益収集団によるレントシーキング活動や、官僚による誘導などが意外に大きな影響力を有する蓋然性が高まる。また、代議制民主主義では必然的に、政治家と有権者との間にプリシンパル・エージェント問題が発生し、議会での決定が地域選好(=中位投票者の選好)から離れる可能性を惹起する。
このような問題関心にたつ本稿の目的は、地域住民の選好と地方政府の意志決定に関して、これまで政治学や公共選択論に譲ってきた有権者、政治家、官僚、利益集団の行動に注目しつつ、分析視座が地方財政という枠組みから遠ざかり過ぎることがないようにできるだけ注意しながら概説することにある。
本稿では、まず、「足による投票」だけではなく、実際の選挙過程すなわち「手による投票」の役割に着目し、地域選好(=中位投票者の選好)と地方政府の意志決定を考察した。次に、私的選択、集合的選択、公共選択という3つの選択の違いを明確にしてから、多数決の原理、中位投票者の定理、絶対多数決、全員一致、集団行為論について、公共選択論を基礎に素描している。さらに、地方政府の現実的な監視は、「足による投票」ではなく、不完全であっても「手による投票」によるしかないという視点から投票の意義を再検討した。具体的には、ハーシュマンのExitとVoiceの概念や、合理的投票モデルと動員仮説モデル(パルチザン効果)を説明した。その他、単純な中位投票者モデルにおける1次元争点ではなく、2次元争点モデルに分析枠組みを拡張するとともに、制度に起因する均衡(structure-induced equilibrium)の考え方についても触れ、争点のウエートづけや票取引や争点の集約化などに関する議論を整理し、官僚行動モデルと利益集団のレント・シーキング等について解説した。
東京大学大学院経済学研究科教授 井堀利宏
本稿は、地方財政制度の仕組みと役割に関して、経済分析の立場で興味ある分析課題を整理するとともに、わが国地方財政制度の現状、問題点とその改革についても、幅広い視点で議論している。地方財政制度の経済分析対象として、以下の4つが考えられる。第1は、中央政府との政府間財政関係である。第2に、地方政府間の競合・協調も重要な分析課題である。第3に、国際間との比喩も興味ぶかい。最後に、地方政府、連邦政府の形成も地方財政制度の究極のテーマになる。
より具体的には、本稿で取り上げている論点を整理すると、以下のようにまとめられる。まず、意思決定に関する固定費用が大きく、公共財の地域を越えた波及効果の程度が大きいほど、中央集権システムのメリットが大きくなり、逆に、公共サービスに対する住民の選好について情報の不完全性が大きいほど、地方分権システムのメリットが大きくなる。リスク対応としての地方財政制度のあり方は、経済活性化にどう寄与するかという視点でも重要である。
フライペーパー効果の検証は、わが国で地方財政制度の効率性を評価する場合に1つの重要な研究課題である。わが国では「逆フライペーパー効果」と呼べる現象も興味深い。住民への一括補助金が地方政府の同額の歳出増=税収増につながらないとすれば、それは住民が地方政府の財政行動を完全には信頼していないことを意味する。
地方債発行の自由度をどこまで認めるかは、地方財政制度設計のポイントである。財政力のある自治体(大きな地方政府)では、地方債の発行条件は緩やかであり、同時にそうした自治体は地方政府間の移転では移転の出し手になっている。これに対して、財政力のない自治体(小さな地方政府)では、地方債の発行条件は厳しいし、その上限が設定されている。また、そうした自治体は、地方政府間の移転で受け取り手になっている。こうした状況は、地域間再分配政策の1つのやり方として解釈することができる。
地域間格差の問題は公平性ではなく、むしろ効率性の問題として議論する方が有益である。集積のメリットがあるから人々が集まり、その限りで市場が失敗していないとすれば、地方の中核都市における集積のメリットをより生かすように、地方内での行政区域の拡大や見直しが有効であろう。
また、中央政府による規制・義務づけと財政面での補助とはかならずしも連動すべきではない。受益が当該地方に限定されるサービスであれば、それが中央政府から義務づけられるものであっても、中央政府が財源面で面倒をみる必要はない。
地方政府の財政面での自由度を高めるだけでは、地方政府の中央政府の財源へのただ乗り誘因を強める結果にもなりかねない。地方財政制度を有意義に改革するには、中央政府の役割を限定して、地方政府の財政状況に関わらず、中央政府の守備範囲を維持することが重要である。そうした中央政府のコミットメントが確立されてはじめて、地方政府に自助努力を求める地方財政制度が住民にとってメリットのあるものになる。
一橋大学大学院経済学研究科准教授 佐藤主光
「国および地方公共団体が分担すべき役割を明確にする」とともに地方の「自主性及び自立性を高めるべく」地方分権改革推進法(2007年4月)が施行され、第2次地方分権改革の議論が始まった。国と地方の責任・役割分担に応じた地方税財源の充実確保に向けて、交付税を含む政府間財政移転の更なる制度改革が求められているのである。本稿は我が国の現状に即しつつ政府間補助金の規範と実態を概観していく。地方分権と補助金の縮減・廃止を一体とみなすのは規範的には正しくはない。地域間での財政力格差に起因する不公平や資源配分の非効率化など地方分権にも失敗はある。その「地方分権の失敗」を是正する手段として政府間財政移転が活用されるべきなのである。無論、財政移転の実態がこうした規範に即しているわけではない。現実の制度は社会厚生を最大にするよう「最適化」されているわけではなく、中央官庁、交付団体等、様々なステイク・ホルダーを含む政策決定過程から政治「均衡」として帰結したものだからだ。そこで優先されるのは経済合理性ではなく政治的利益に他ならない。政党は選挙対策として補助金をばら撒くだろうし、中央官庁は自身の補助金予算の最大化をはかるだろう。地方政府や関連する利益団体は補助金獲得を目指してロビー活動(陳情合戦)を行っている。また、国は財政難に陥った地方自治体を事後的に救済するかもしれない。あるいは財政危機が顕在化しないよう手厚い財源保障を継続するかもしれない。この場合、地方予算は「ソフト化」される。地方政府は自分たちの財政運営に自らが責任を持つわけではなく、いざとなれば国に責任を転嫁できると考えるため、自ら進んで財政の効率化を進めようとは思わなくなるだろう。有権者たる地域住民も「自分たちのポケットから支払うわけではない」地方支出の使途や効率性には関心を払わないかもしれない。結果として住民による地方政府への規律づけは失われてしまう。我が国の財政移転制度の実態も社会厚生最大化からは程遠い。多元主義的(政府内の権限が分散しているという意味で「中央分権」的)政策決定により包括的、かつ長期的視点からの財政運営は損なわれてきた。交付税等財政移転の膨張に歯止めをかけるメカニズムは存在せず、財政移転制度の持続可能性そのものが問われ始めている。国と地方の責任分担が曖昧なこと、交付税の幅広い財源保障に財政調整と多機能に渡ることが結果に対して弁明と責任転嫁を可能にしていることも早期の財政再建を妨げる要因となってきた。こうした政治ゲームの均衡はゲームのルールに依存する。本稿では政治ゲームの均衡が持続可能性や効率・公平に適うよう「ゲームのルール」の再構築としての新たな財政移転制度を提言する。そこでは地方自治体や中央官庁、政治家が規範的に振舞うことを(否定はしないが)期待しない。代わりに地方に財政規律を課し、歳出の抑制と効率化を誘因づけるような制度設計(ゲームのルール)を考えていく。地域間格差への配慮が必要なことは言うまでもないが、財政移転の財源を支える納税者への説明責任や世代間公平も問われなくてはならない。
財移転制度改革案の特徴と効果
| 特 徴 | 期待される効果 | |
|---|---|---|
| 機能分離 | 財政移転制度の政策目的の明確化と納税者への 「説明責任」の改善 | |
| 特定補助金 | 「交付金化」 | 地方の裁量(自己決定権)の拡充 |
| Pay as you go 原則 | 交付金の膨張・赤字拡大の抑制 | |
| サンセット・ルール | 地方分権の促進と国の関与・規制の継続の回避 | |
| 交付税目的税の創設 | 国民のコスト意識の喚起と膨張・赤字拡大の抑制 | |
| 移行措置 | 元利償還交付金 | 既存の地方債元利償還への交付税措置の履行 |
| 激変緩和交付金 | 改革の政治的実行可能性の改善 | |
東京大学大学院経済学研究科教授 持田信樹
地方債制度は、過去の経済対策への協力から生じた負の遺産を処理しなければならないだけではなく、地方分権や財投改革などの現在の大きな流れの中でも難しい位置におかれている。これまでは、日本の地方財政システムでは地方財政計画がある限りマクロで財源が確保されており、最悪のときには財政再建団体制度があった。このため流通市場における地方債の各銘柄間格差に関しては、デフォルト・リスクは反映していないという考え方が通念であった。しかし、財政投融資改革などによる地方公共団体への資金フローの変化、地方分権の流れに沿った地方債制度の改革、夕張ショック等によって地方債を取り巻く環境は変化しつつある。この変化は、戦後の枠組みの変更する可能性を孕んでおり、筆者は、基本的には望ましい方向にむかっていると考える。日本における地方債制度は、「市場の論理」との折り合いをつけることが避けられない、との認識は広く浸透している。
本稿の目的は、地方債制度改革について、争点が何であるのかを正確かつ幅広に示して、これに対する賛否両論を財政学の立場から整理することである。その主要なメッセージは以下の通りである。1)分権化が進展しても、国による包括的な信用補完(creditenhancement)は維持すべきである。一方、地方の予算制約をソフト化する、元利償還についての交付税措置(ミクロの信用代替)は廃止・縮小すべきである。2)すでに危機に陥っている地方自治体に、自治体破産法制が「信用ある脅し」として機能し、財政運営に規律を与え、破綻を未然に防ぐことができると期待するのはナイーブな見方である。3)現在の日本の地方債制度の最も重要な課題は、地方自治体の財政状況についての情報開示を徹底しながら、オープンな地方債市場を育成しつつ、透明性の高いルールにもとづいて地方自治体をモニタリングすること、4)市場化から取り残される弱小な自治体に融資する「共同発行機関」の創設である。
このようなシナリオでは、日本での地方債のデフォルトは依然として、きわめて稀なケースに限られるだろう。ただし、地方債の信用力については、都道府県・政令都市VS許可制が適用された小規模市町村という二極に分化していくので、信用力を一律にみなすことはできない。国による包括的な信用補完を前提にして、前者には市場メカニズムを活用した地方債発行を、後者については共同発行機関を通じた融資というTwo ‐Track‐Approachを日本は目標とすべきである、というのが結論となる。
大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授 赤井伸郎
明海大学経済学部非常勤講師 竹本 亨
現在、道州制などの行政区域再編やそれに伴う事務配分の再構築が議論され、特定の事務再配分に基づく財政歳出の削減効果の試算もされている。しかし、これらでは、どの事務をどの自治体レベルに再配分するかを議論する上で財政的な視点が不十分であり、理念的な再配分やそれに基づく試算の前に、より基礎的な財政面からの分析が必要である。つまり、生産効率性が高くなる行政規模は、事務により異なっていると考えられ、まずはそれぞれの事務(教育や農林水産など)をどの行政規模(市町村や都道府県など)で担っていく方が財政効率性の面からはメリットがあるのかを分析する必要がある。
そこで、本稿では以下の分析を行った。まず、事務ごと(都道府県については民生費、衛生費、労働費、農林水産業費、商工費、土木費、警察費、教育費で、市町村については民生費、衛生費、労働費、農林水産業費、商工費、土木費、消防費、教育費)に、コスト構造を人口や面積、地域要因などから推定した。その結果を元に、事務ごとに、市町村から都道府県、都道府県から市町村、都道府県から道州、市町村から道州への事務を移譲した場合にコストがどのように変化するのかを考察した。
その結果、いくつかの事務で市町村から都道府県への事務移譲、都道府県から道州への移譲が費用効率性の面において効果的であることが分かった。その一方で、都道府県から市町村への事務移譲は、コストの面から見る限り、かなり限定的であることが分かった。また、これらの結果は政令指定都市を推定に含めるのかによって影響を受けるが、移譲すべきか否かにまでの影響は一部の事務に限られた。
勿論、本稿の分析には課題も残されている。本稿は、これまでになされてきていない分析として、事務別の移譲効果を出来る限り同じ視点から比較することを目的としたため、推定に用いる変数についてはすべての事務で共通となるものに限定するなど推定方法には一定の制約を課した。推定結果(すなわち回帰分析結果の推定値としての回帰係数)が、移譲の効果を決める上で重要な働きを示していることからも、今後は事務ごとの地域特性を考慮したより細かな推定を行い、より厳密に費用の変化を分析することが必要となろう。これらは今後の課題としたい。
慶應義塾大学経済学部准教授 土居丈朗
本稿では、フライペーパー効果の観点から、地方交付税制度に伴う資源配分の非効率性を理論的、実証的に分析し、地方交付税総額の削減が、非効率な地方歳出の削減を通じて、国と地方の財政赤字の改善に資することを示している。今後、国と地方が協力して財政健全化を行うには、地方交付税の抑制が、国と地方が協力して歳出削減に取り組む重要な梃子になる。今後の財政健全化の局面において、国の一般会計歳出の中で支出額が大きい社会保障費と地方交付税を何らかの形で抑制しなければ、歳出削減主導の財政健全化は実現できない。その観点から見ても、地方交付税のさらなる抑制は重要な課題である。
我が国は、先進国の中でも国から地方への財政移転が多い国である。2005年度において、SNAベースの基礎的財政収支対GDP比は、国がマイナス3.4%、地方がプラス0.5%である。地方が国から受け取った財政移転(純)の対GDP比は、SNAベースで6.3%(31.5兆円)である。目下の国と地方の基礎的財政収支対GDP比は、地方に黒字が偏っている状況にある。したがって、今後は国の収支改善努力とともに、地方には国からの財政移転に依存しない財政運営が求められる。
地方交付税を抑制できれば、国の一般会計の基礎的財政収支は当然改善する。後は、地方自治体が歳出削減のために自助努力することで、地方交付税が減額されたほどには地方財政の収支は悪化せず、国と地方を合わせた基礎的財政収支も改善する。
近年の地方財政の状況からすれば、例えば、地方交付税総額を2007年度当初予算額の10%に相当する1兆5200億円分総額を削減できれば、都道府県と市町村を合わせて交付団体の地方歳出は1兆5960億円削減される効果を持ち、その結果国と地方を合わせた財政赤字は760億円縮減できることが、本稿で構築した理論モデルに基づいた計量分析により示された。この効果は、地方交付税制度にまつわるフライペーパー効果によるものであることが示唆される。この分析に基づけば、地方交付税の減額を、国から地方への赤字のつけ回しとする見方は不正確な理解であることがわかる。実態は、基礎的財政収支が地方は黒字で、国は赤字となっており、地方交付税を過度に配分しているために、国と地方の財政赤字がアンバランスになっている状態といえる。今後は、地方交付税をさらに削減することで、この状態を改善し、国への依存を断ち真の地方分権を進展することが期待できる。
(本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。)