平成19年6月25日
京都議定書の第一約束期間(2008年〜2012年)が迫る中、持続可能な経済成長を目指して環境政策を推進する上で、日本が約束している温室効果ガス1990年比マイナス6%の削減戦略が問われているところである。また、約束期間の終了する2013年以降のポスト京都議定書に向けた新たな地球温暖化防止の枠組み作りのための議論も、ハイリゲンダム・サミットを始め活発に行われているところであり、我が国でも「美しい星へのいざない―Invitation to Cool Earth 50」や「21世紀環境立国戦略」で「世界全体の温室効果ガス排出量を現状に比して2050年までに半減する」という長期戦略が提案されている。
このように環境問題に対する国際的意識が高まってきており、ますます環境保全と経済成長との両立が重要になってきている。財務総合政策研究所では、環境問題に対する経済・財政政策のあるべき姿を検討するため、環境経済学の潮流、経済・財政との関係、諸外国の状況、排出権取引や環境税といった環境対策手法等につき、2006年10月以来5回にわたり「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」(座長:横山彰・中央大学総合政策学部教授)を開催し、理論的及び実務的な視点から議論を行ってきたところであり、今般、研究会における議論の成果を踏まえ、研究会メンバーによる分担執筆により報告書をとりまとめた。
本稿では、報告書の概要について紹介することとしたい。
(注)本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。
報告書は、研究会における報告及びそれらに関する議論を踏まえ研究会メンバーが分担執筆した論文から構成されている。
報告書の内容を整理すると、以下のとおりとなる。
(1) 環境経済学の潮流と経済・財政との関係
イ.環境制約の中での経済成長
これまで経済発展は環境への負荷なくしては成立し得なかった。このことから、自然環境を悪化させないためには、もはや経済活動が拡大することは不可能ではないかとの疑問も生じる。この疑問について第1章大沼論文では、経済活動から排出される廃棄量が過大になり、その蓄積が負の外部性として深刻な影響を与え始めていることから、廃棄量を制御する制約が経済に課せられるようになったとされており、このような経済活動による環境への影響を弱いものとしていくことができれば、深刻な環境悪化をもたらさずに経済を拡大していくことは可能であるとしている。中でも、経済成長と環境保全の両立にとって重要なことは、省エネ技術が進歩し続け、化石燃料への依存率が下がり続けることが重要であるとしている。つまり、それらの絶対的な水準ではなく、時間を通じてそれらが改善され続けることが、環境制約の中での持続的な経済発展にとって肝要であると主張している。
日本における炭素原単位とその変化率の推移
炭素原単位(炭素トン/実質国内総生産)が下がり続けること(炭素原単位変化率がマイナスであること)が、経済成長と環境保全の両立にとって重要
(出典:第1章大沼論文)
また、第2章倉阪論文では、エコロジカル経済学の立場から、環境対策が経済にも望ましい影響を及ぼす共益状態(win-winsituation)について述べられている。その中では、利潤を最大にする生産者の行動や効用を最大にする消費者の行動の帰結として、より少ない資源エネルギーでより多くのサービスを生み出す方向での競争が起こることになり、経済発展の方向と環境対策が向かう方向が一致しているとされ、共益状態の可能性が正面から把握できるようになったと述べられている。
また、より環境負荷の少ない方向の経済活動が促進されるように、インセンティブ構造を変えていく必要性が指摘されている。
ロ.環境政策の経済的評価
環境政策を実施するためには多額の費用が必要なことがある。その一方で環境政策の経済的効果を示すことは容易ではないが、環境政策を経済的な観点から評価するためには、環境政策の費用と便益の両者を金額で評価する必要がある。地球温暖化問題では、日本は1990年比で温室効果ガスを6%削減することが義務づけられており、この目標を達成するために環境税、排出量取引、森林植林、風力発電などのグリーンエネルギーの導入など、様々な環境政策が検討されているが、いずれにしても、温暖化対策には多額の費用が必要である。
一方、温暖化対策の便益には、温暖化による農作物被害の防止、洪水や渇水などの被害の防止、そして野生動物の絶滅や生態系破壊の防止などが含まれる。温暖化対策の便益を金額で評価することは容易ではないが、温暖化対策の便益を評価しなければ温暖化対策に多額の費用を投下することが妥当かどうかを判断することができない。このため、環境政策の経済的評価について、その手法を我が国の制度の枠組みの中でどのように用いるべきか検討することが課題であるとされている。(第3章栗山論文)
(2) 環境対策の具体的手法
具体的な環境対策の手法としては様々なものがあるが、主な手法の特徴は以下の通りである。
環境税 | ・二酸化炭素の排出量又は化石燃料の消費量に応じて課税するものであり、価格インセンティブを通じ幅広い主体に対して対策を促す効果や、税収が得られることからそれを利用できる効果がある。 ・排出主体は、温室効果ガスの削減に係る費用が炭素税よりも安ければ削減を選び、削減する費用が炭素税よりも高くなれば炭素税を払う。 ・どの程度の炭素税率を用いればどの程度削減できるのかを事前に知ることは困難。この点で、環境税は価格を固定し、それにあわせて排出量の調整がなされる仕組みとされる。 |
|---|---|
排出権取引 | ・排出量の枠を売買するもので、枠を経済主体間で移転するもの。理論上、削減コストの高い経済主体単独で削減を行うよりも費用対効果が高まり、また、削減コストの低い経済主体にも削減割当以上の削減に取り組むインセンティブが与えられることから、全体として効率的な温室効果ガス削減が可能とされている。 |
自主行動計画 | ・各主体がその創意工夫により優れた対策を選択できる、高い目標へ取り組む誘引があり得る、政府と実施主体双方にとって手続コストがかからないといったメリットがあるとされている。 ・あくまで努力目標に留まっており、明確な削減義務を負った内容とはなっていないとの指摘がある。 |
直接規制 | ・排出基準を汚染物質の排出者に守らせ、遵守が不十分な場合には罰則を与える。環境問題を解決する上で最も即効性のある政策手段とされる。 ・行政は、通常、対象施設が規制を順守しているかどうかを監査・指導することとなるが、そのために必要となる施行費用を考えると、全ての工場・事業所を規制対象施設とすることは困難であり、一定規模以上の排出源対策の対象施設とせざるを得ないとの指摘がある。 |
(3) 諸外国の状況
イ.環境税
第4章諸富論文では、欧州の取組みの日本へのインプリケーションとして、イギリスとドイツの環境税制改革とポリシー・ミックスの経済的評価が紹介されている。ここでは、環境税を税収中立的な環境税制改革の枠組みの下で導入すれば、環境保全を経済成長や雇用の拡大と両立させることが可能になるという事例を紹介し、日本が環境税を導入する場合には、日本にとっての経済政策上の重要課題が何かを勘案し、環境保全とその重要な経済政策上の目標が両立するような制度設計を行うべきとされている。更に、世界の現実の気候変動政策はほとんど、複数政策手段のポリシー・ミックスとなっている点を直視する必要性を指摘している。これは、環境政策において、産業の国際競争力や分配問題に対する配慮を組み込むことが必要不可欠になってきているからであり、問題は、「単一の政策手段かポリシー・ミックスか」という点にあるのではなく、どのようなポリシー・ミックスなのかという点にある。日本にとって望ましいポリシー・ミックスを設計するには、諸外国のポリシー・ミックスの利点と欠点に学びながら、これまでの日本の温暖化対策の成果を踏まえて制度設計を行う必要があると指摘されている。
また、欧州諸国の温暖化対策関連税の活用から得られる示唆として、第5章林論文では、温暖化対策のための税制の活用は、既存エネルギー関連税との関連性を最大限生かしつつ、既存エネルギー関連税の役割の見直しとセットで環境税の制度設計を行うべきであり、これにより租税構造の大きな改変を伴わず、また徴税コストの低減が可能となる。また、既存エネルギー関連税と環境税を含めた温暖化対策関連税制の活用は、その他の温暖化対策手法とポリシー・ミックスで考えるべきであり、すなわち、税制を活用した対策のターゲットを明確にし、他の政策手法との役割分担を明確にした上で制度設計を行うことが重要であると指摘されている。
ロ.排出権取引
米国では1990年に改正された大気浄化法に基づき、1995年からSO2の排出権取引が開始され、この結果、SO2の排出が大きく削減されている。第7章山本論文では、米国内での排出権取引制度が成功した理由として、適正な上限値(Cap)が設定され、排出権市場の予測が可能になったこと、正確な計測と報告がなされ、データの透明性が確保されたこと、平易な制度設計と単純な規則であったことにより政府の管理コストと排出権の取引コストも低くなったこと、の3点を米国政府が挙げていると紹介している。また、これ以外の理由として、SO2の場合には削減コストの把握が極めて容易であるという点を挙げ、排出権取引で最大の経済的な効果をあげるためには適正な上限値の設定が重要であると指摘している。
EUでは、2005年から京都議定書の目標を達成するために域内で排出権取引制度を導入している。EU25カ国の場合、そのエネルギー効率をみると、総じて東欧諸国の効率が悪く、西欧諸国の効率が良いが、削減を効果的に進められると思われるエネルギー効率が相対的に悪い国に対しては、比較的大きな排出量が割り当てられており、排出権取引が実質的な削減に結びついているか疑問があるとされている。このように、温暖化ガスの排出権取引制度が、SO2の排出権取引制度のように機能しない大きな理由として、温暖化ガスの削減コストと削減に伴う便益を正確に把握することが困難であることから、温暖化ガスの排出について適切な上限値を設定することが極めて難しいことが原因ではないかと指摘されている。(第7章山本論文)
(4) 現状と展望
イ.排出権取引と削減義務
京都議定書では地球規模での温暖化防止のため、また費用効果的な対策のため、他国における温室効果ガスの排出削減量および吸収量等の一部を利用できる京都メカニズム(CDM、JI、排出権取引)の活用が認められている。
この京都メカニズムの一つである排出権取引について、温室効果ガスの排出に価格を付けることで温室効果ガス排出の多い財の価格が上がることにより、意識しようがしまいが、全ての人々がその財の消費を控えることとなる。これで削減しようというのが京都議定書の精神であるとされている。(第6章西條論文)
発電所Aでは、排出権価格と削減コストが同じになるところまで削減を行う。
発電所Bは規制値以上の削減分を発電所Aに排出権として移転する。
発電所Aは、自社の削減コスト以下で削減可能になる。
(出典:第7章山本論文)
第7章山本論文では、排出権取引制度が機能するための前提条件として、削減による便益と削減費用を割り出すことが重要となるとともに、適正な割り当てを行うためには、排出量の割り当てを行う当局が各排出者の排出量と限界削減コストに関する十分な情報を持っていることが必要になるため、排出源の限界削減コストの把握が欠かせないとされている。この点で、上述の通り、温暖化ガスの場合は削減コストと削減に伴う便益を正確に把握することが困難であることから、排出の適切な上限値を設定することは極めて難しいとされている。
さらに、一部の国、地域だけが排出量について義務を負う場合には、排出量に義務を負う国の産業が排出量について制限を受けることになるが、これらの産業が制限を避けるために排出量の義務を負わない国への設備の移転を行えば、世界レベルでの排出削減は実施されない。また、排出量に義務を負う国が排出権を購入し目標を達成する場合に、排出権購入費用の一部を何らかの形で負担することになる可能性のある産業は、削減義務を負わない近隣諸国との産業の競争力という視点では不利な立場に立たされることになり、結果として、排出義務を負わない国への産業の移転が促進される可能性がある。このことから、実効性のある世界的な削減を進めるためには、世界の主要排出国全てが排出量に関し何らかの責任を持ち取り組むことが必須であろうと指摘している。(第7章山本論文)
一方、第6章西條論文では、京都議定書遵守のためには、誰がどれだけの排出権を確保せねばならないのかというインセンティブが制度設計の重要なポイントの一つとされており、同時に、日本国全体を俯瞰する枠組の必要性を主張している。また京都議定書が温室効果ガスの排出量に上限を設けている点と、排出権取引が総排出量を固定し取引する排出枠価格の調整がなされる仕組みである点が整合的であると指摘しており、「上流比例還元型排出権取引制度」を提案している。
他方、第8章松本・横山論文では、京都議定書が国レベルでの化石燃料の消費量に制約を課している以上、将来的に誰がどれだけ化石燃料を優先的に消費するかという議論を避けて通ることはできないのではないかと指摘している。京都議定書のもとで日本は国レベルで温室効果ガスの削減義務を負うこととなったが、現在国内でとられている温暖化対策、企業や市民の温室効果ガス削減対策はあくまで努力目標に留まっており、明確な削減義務を負った内容とはなっていないことから、部門別・業種別に排出枠を設定し、遵守義務を負わせるという考え方が求められるのではないかと述べている。
ロ.今後の展望
第1章大沼論文では、京都議定書の削減義務は、経済成長の観点からは、日本にとってEUに比べて重いものであり、ポスト京都議定書の枠組みにおいては、この点を考慮した削減義務の決定が、各国の負担を均等化するであろうとされている。地球温暖化対策が効果的であるための条件の一つは、その対策が持続的であるかどうかである。負担の不公平性は、過重な負担をかけた国の取り組みを停止させる圧力をかけることになるであろう。その意味で、経済成長の観点からの負担均等化は重要であると述べている。
(2)諸外国の状況にもあるように、現実の環境政策は、産業政策や雇用政策の影響を受け複雑な制度になっている。京都議定書の目標達成のための残存期間はわずかであるが、現時点では1990年比で温室効果ガスが大きく増加しており、目標達成は厳しい状況にあると言わざるを得ない。仮に国内での削減が目標を大きく下回ることとなれば、京都議定書遵守のためには海外の排出権を想定以上に政府が買い上げざるを得ないという事態も考えられる。こうした状況を踏まえれば、経済的手法等のこれまでとは違った取組みについても真摯に検討を行う必要があるのではないか。
また、当面は採りうる選択肢を有効活用し、非効率ではあるかもしれないが差別的な環境政策の下で温暖化対策を実施していく必要がある(第8章松本・横山論文)。現状の温暖化対策では、諸外国の温暖化対策も普遍性を持った均一な対応を採ってはいないという事実や、削減義務を負わない国があるといった問題があるが、これらの事実を知見として踏まえ、我が国にとって可能な温暖化対策をどのように進めていくか、また、日本にとって望ましいポリシー・ミックスのあり方を考えることが必要である。
環境保全と経済成長は、相反するものなのであろうか。環境クズネッツ曲線は、経済成長がやがて環境保全を実現する、ということを示すものであるが、二酸化炭素排出には、環境クズネッツ曲線が妥当しているという証拠はない。地球温暖化問題の解決には、炭素削減が不可避である。炭素削減政策は、経済成長と両立しないのであろうか。本稿では、炭素原単位(炭素排出量/GDP)に着目し、この考察を行っている。炭素原単位低下率が炭素削減率を上回る限り、経済成長は実現する。本稿では、日本とEUの炭素原単位の推移にもとづく考察を行っている。EUは日本に比較して、経済成長の面で優位な状況にあることを示している。炭素原単位を低下させるためには、炭素税の導入が効果的である。本稿では、炭素税収を経済効率性の向上に用いた場合と、炭素原単位を低下させることに用いた場合で、いずれが経済成長により貢献するのかを考察した。決定的な結果は導かれず、パラメータの差異に依存することがわかった。しかし、いずれの場合も排出権取引よりも効果的である結論が導かれた。
エコロジカル経済学は、生態系と経済システムの相互関係を研究する学問分野である。従来の経済学は、その発展の過程で自然の恵みの無限の供給可能性を前提としてしまった。これは、環境制約が顕在化した現在の経済システムを分析する枠組みとしては不適切である。このため、生態系サービスの持続可能性を確保するため、それに影響する経済システムの要因(とくにストック−フロー資源の使用)を明示的に取り扱う理論的枠組みが必要となった。本稿では、エコロジカル経済学の基本的概念を整理するとともに、新しい経済評価軸と政策の方向性について考察する。
環境政策を実施するためには多額の費用が必要なことがあるが、一方で環境政策の経済的効果を示すことは容易ではない。環境政策では、大気、水、生態系などの自然環境を対象とするが、こうした自然環境には市場価格が存在しないからである。そこで、環境経済学では、環境の持っている価値を金銭単位で評価する「環境評価手法」の開発が進められており、今日では世界各国で多くの環境政策を対象に環境評価手法が適用されている。
本稿では、この環境評価手法を紹介し、国内や海外の環境政策の経済的評価がどのように行われているかを展望することで、環境政策の経済的評価において、環境評価手法がどのような役割を持っているのかを検討する。そして、以上の結果をふまえて、環境政策の経済的評価の今後の課題について考察する。
これまで環境税が導入された国では、それがマクロ経済や雇用、そして産業の国際競争力に与える影響を考慮して、第1に「環境税制改革」、第2に「ポリシー・ミックス」の構築が行われた。「環境税制改革」は、環境税導入によるマクロ経済的なインパクトを緩和するとともに、当時、失業問題が最大の関心事項であった英独では、労働コストの引き下げによって雇用の増大を図ることを意図していた。本稿では第1に、この環境税制改革が果たして以上の政策目的を達成しえたのかを検証する。第2に「ポリシー・ミックスの構築」についても、環境政策上の目標を達成しながら、同時に別の政策目標を達成するために複数の政策手段を組み合わせるという政策意図が本当に成功を収めているのかどうかを検証する。本稿では、イギリスとドイツの気候変動政策を中心に、環境税制改革とポリシー・ミックスの経済評価を試みた。そこから得られる重要な結論は、環境税制改革もポリシー・ミックスの構築も、環境税導入を現実化させるにあたって必ず考慮されるべき重要な制度的工夫だということである。
本稿は英独仏蘭で導入されている温暖化対策としての環境税について既存エネルギー関連税との関係に着目し、各税制間の相互関係を分析した。温暖化対策関連税制の観点から、英独では既存エネルギー関連税と環境税が密接であり、既存エネルギー関連税の環境税的側面が重要な役割を果たしている。一方、仏蘭では環境税と既存エネルギー関連税は関係性が薄く、温暖化対策としては環境税のみに着目すればよい。欧州の経験から得られる示唆は、温暖化対策関連税制の活用に当たり既存エネルギー関連税との相互関係を最大限生かしつつ環境税の制度設計を行うべきであること、また環境税のターゲット設定と他政策手法との役割分担の明確化が重要であることである。
日本政府は、京都議定書を遵守せねばならない責務を負っているが、従来型の方式では議定書の遵守はほぼ不可能であろう。予定されている京都議定書目標達成計画の改訂で、積み上げ型ではなく、日本国全体を俯瞰する枠組みが策定されねば、議定書の目標達成はおぼつかないといってよい。
新たな枠組みをデザインするにあたって様々な評価の軸が必要となる。本稿では、1.議定書を遵守できる制度、2.環境保全性を達成する制度、3.制度執行費用を最小化する制度、4.政府が全排出量を把握できる制度、5.経済主体の自由度をできるだけ高くする制度、6.すべての主体が参加可能な制度、7.政策の自由度が高い制度、8.新たな技術開発・普及ができる制度、9.経済効率性な制度、という九つの条件を満たす制度として、「上流比例還元型排出権取引制度」を提案する。
この「上流比例還元型排出権取引制度」では、まず日本政府が輸入した化石燃料の炭素含有量と同量の排出権の確保を輸入主体及び国内生産主体に義務付け、次に政府が2008年から2012年にかけて1990年の温室効果ガス排出量の94%分に相当する排出枠を化石燃料の輸入主体及び国内生産主体に販売する。最後に政府は排出権の販売収入のうち、新たな技術開発投資等に振り分ける分を除き、一定率を化石燃料の輸入主体に返還する制度である。
世界で初めての大規模な温暖化ガスの排出権取引制度がEU25カ国で2005年の1月から開始された。EUの制度は2005年から2007年を第一段階としており、2008年からは京都議定書の約束期間の開始に合わせ第二段階の取引が開始される。開始から既に2年以上が経過したEUの排出権取引制度だが、制度は温暖化ガスの削減には直接寄与することはなかったように思われ、一部の関係者からは失敗であったとの批判も聞こえてきている。
負の外部性を削減する政策として、排出権取引のように市場に基づく手段は有効であるべきだが、温暖化ガスの市場を通した取引では、必ずしも目的を達成するための手段として制度が有効に働かないことがあるように思われる。その原因は限界削減コストと便益の分析が難しいために、排出権の適正な割り当てを行うことが極めて困難なことにある。
温暖化ガスの削減に確実につながる非常に厳しい割り当てを行うことは無論可能だが、その場合には経済活動に大きな影響が生じることとなり、排出源の取引市場外への流出につながり、結果として地球規模での排出削減が実行されない可能性が出てくるとの問題がある。
EUでの取引制度の原型になったと思われる米国の二酸化硫黄(SO2)の排出権取引制度とEUの温暖化ガスの取引制度を比較することにより、温暖化ガス排出権取引制度の有効性を分析した。
先進国間ではCap&Tradeと呼ばれる排出権取引制度は機能しない可能性が高いが、温暖化ガスの限界削減コストが相対的に低い途上国を含めた広義の取引制度が確立されれば、排出削減の促進につながる可能性が高い。
京都議定書が発効し、日本でもいよいよ具体的な温暖化対策が導入されるようになってきている。しかし、現状の温暖化対策は排出源に明確な削減義務を割り当てたものとはなっておらず、エネルギー利用の効率化を目指す努力目標にとどまっている。京都議定書以降の追加的な温暖化対策の必要性を考慮するならば、排出源に対し削減義務を負わせるという議論は避けては通れないと予想される。
さて、現実の環境政策は排出源に一律の削減義務を負わせる内容とはなっておらず、他の産業政策と同様に、規模別や部門別で様々な差別的対応を盛り込んだ内容となっている。本稿では、日本で過去に導入されてきた環境規制や諸外国で既に導入されている温暖化対策がどのような差別的傾向をもつかを整理する。また、日本政府の京都議定書目標達成計画と経団連の環境自主行動計画の温室効果ガス削減の実効性について言及し、差別的な環境対策を採用する場合に発生する問題点について整理を行う。
連絡先:財務省 財務総合政策研究所 研究部
主任研究官 土居 信彦
研 究 員 西田 健太
電話 03-3581-4111(内線)5331、2253
※ 本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。
(敬称略、肩書きは平成19年6月現在)
| (座長) | |
|---|---|
| 横山 彰 | 中央大学総合政策学部教授 |
| (メンバー(50音順)) | |
| 大沼 あゆみ | 慶応義塾大学経済学部教授 |
| 倉阪 秀史 | 千葉大学法経学部准教授 |
| 栗山 浩一 | 早稲田大学政治経済学術院教授 |
| 西條 辰義 | 大阪大学サステイナビリティサイエンス研究機構教授 |
| 林 希一郎 | 名古屋大学エコトピア科学研究所准教授 |
| 松本 茂 | 青山学院大学経済学部准教授 |
| 諸富 徹 | 京都大学公共政策大学院准教授 |
| 山本 隆三 | 住友商事株式会社コーポレートコーディネーションオフィス部長(環境ビジネス) |
| (非執筆メンバー(50音順)) | |
| 植田 和弘 | 京都大学大学院経済学研究科教授 |
| 木原 隆司 | 九州大学大学院経済学研究院教授 財務省財務総合政策研究所コンサルティング・フェロー |
| 本郷 尚 | 国際協力銀行特命審議役環境ビジネス支援室長 |
| (特別講演者(50音順)) | |
| 遠藤 健太郎 | 前.経済産業省産業技術環境局京都メカニズム推進室長 |
| 岸本 浩 | 環境省総合環境政策局総務課調査官 |
| (財務総合政策研究所) | |
| 牧野 治郎 | 財務省財務総合政策研究所長 |
| 荒巻 健二 | 財務省財務総合政策研究所次長 |
| 鵜瀞 由己 | 財務省財務総合政策研究所次長 |
| 高木 隆 | 財務省財務総合政策研究所研究部長 |
| 星屋 和彦 | 財務省財務総合政策研究所大臣官房企画官 |
| 土居 信彦 | 財務省財務総合政策研究所研究部主任研究官 |
| 小林 航 | 財務省財務総合政策研究所研究部主任研究官 |
| 長谷川 裕一 | 前.財務省財務総合政策研究所研究部研究員 |