| 新聞発表 |
| 平成15年2月6日 |
研究報告書「日本企業の多様化と企業統治」の概要
−事業戦略・グループ経営・分権化組織の分析−
【要旨】 |
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| (1 | ) 日本の大企業製造業は、バブル期から1990年代前半にかけて、それまで本業集中の傾向が強いとされてきた事業構造を転換し、多角化の傾向を強めた。一方、この時期に米国企業では、それまでのコングロマリット的な事業構造の非効率性が問題化し、事業の集約化が進展した。この結果、現在の日米企業間における事業ポートフォリオの差異は相対的に縮小したと見られる。 |
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| (2 | ) 日本企業にとって、90年代は事業の選択と集中が主要な経営課題とされた時期であったが、実際に大企業製造業の事業構造が変化し始めたのは90年代中頃からである。しかし、90年代中頃以降、全ての産業で集中化が進展したわけではなく、鉄鋼業や医薬品業等のように多角化から集中化へ戦略を明確に転換した企業群がある一方で、いぜん繊維業や食品業等のように多角化を継続している企業群が存在するなど、90年代後半における産業間の事業ポートフォリオは多様化した(図表1、付表)。 |
図表1:1990年代の製造業における多角化戦略の実態(連結ベース)
| (3 | ) 事業構造の決定要因に関する分析では、事業の選択と集中が重要な経営課題とされた90年代においても、本業の成長が鈍化した企業にとって、多角化はいぜん必要不可欠な戦略であることが示された。 |
| (4 | ) しかし、このような成熟企業(注1)では、少なくとも90年代前半には、事業の採算性を十分検討することなく、正味現在価値がゼロ以下の多角化事業に投資が実施された可能性が高いことが実証的に明らかになった。すなわち、成熟企業におけるガバナンス体制が欠如していた可能性が指摘できる。一方、成長企業では、豊富な内部資金を自社の得意分野に集中投資し、競争優位を確保するという、まさに選択と集中が行われていたことが明らかになった。また、これらの成長企業では、90年代を通じて、外国人株主の存在が事業戦略の決定に有意な影響を与えていたことが示唆された。 |
| (注1):ここではトービンのQが1未満の企業を「成熟企業」、1より大きい企業を「成長企業」と定義した | |
| (5 | ) アンケート結果を利用して、多角化戦略とパフォーマンスの関係を分析したところ、非関連多角化企業は、専業企業及び関連多角化企業と比べてパフォーマンスが低いことが明らかになった。もっとも、ROAの標準偏差で測定した利益変動リスクは専業企業、関連多角化企業、非関連多角化企業の順で高く、多角化にはリスク分散効果があることが確認された。 |
図表2:多角化戦略のパフォーマンスとリスク分散
| 3 | .グループ化戦略 | |
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| (1 | ) 連単倍率という会計制度の変更に影響を受けやすい指標による分析ではあるが、バブル期以降、日本企業は一貫してグループ展開を進めた(図表3)。もっとも、子会社の利益率は、バブル崩壊後の90年前半に大幅低下し、親会社の利益率を大きく下回る状況となった(図表4)。これが90年代後半にグループ企業の再編をもたらした。 |
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| (2 | ) グループ化を促進する要因は90年代に多様化した。かつての主因であった、[1]多角化に伴う事業の異質性に対する対応、[2]長期雇用の維持を目的とする弾力的な賃金制度の利用に加え、[3]海外進出に伴う現地法人の設立、[4]共同投資会社の設立による事業再構築という要因が加わった。さらに、弾力的な賃金制度の利用に関しては、事業部門の利益と賃金をより感応させることを目的とした分社や、社内やグループに共通のインフラ整備を目的とした管理部門の分社に利用されているという点に近年の特徴がある。 |
| (3 | ) グループ化の効果については、なお検討の余地が残るものの、グループ化を積極的に行っている企業ほど、[1]従業員1人当りの賃金コストを抑制していること、[2]子会社への権限委譲が進んでいることが確認された。一方、グループ化が進展している企業ほど、連結ベースで見た販管比率が有意に高く、グループ企業間で間接部門の重複が発生している可能性が示唆された。 | |
図表3:(売上)連単倍率の推移(東証1部(除く電力ガス・金融))
図表4:売上高当期利益率の推移(東証1部(除く電力ガス・金融))
| 4 | .内部組織構造の革新 | |
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| (1 | ) アンケート調査によれば、社内カンパニー制の採用が近年急増しており、調査時点(2002年2月)における採用企業は17.1%(東証1部除く電力・ガス、金融)であり、今後も増加が予想される(図表5)。 |
図表5:90年代の組織変遷
| (2 | ) 社内カンパニー制に代表される90年代後半の企業内部の組織変化は、これまでの日本企業の事業部制と比べて、[1]事業部門に生産・販売・開発などの一連の機能を委譲する点で分権度が上昇したこと、[2]厳密なパフォーマンス指標として、社内資本金制度、社内剰余金制度、EVAを導入するなど、ファイナンス指標を通じた厳格なモニタリングの制度を利用していること、[3]事業部門との業績連動が強まっている点に特徴がある(図表6、7)。 |
| (3 | ) 組織選択と企業内部における権限配分の分析によれば、社内カンパニー制が採用された場合でも、必ずしも実質的な権限委譲が進んでおらず、単なる名称変更だけの場合もあり、社内カンパニー制の導入とパフォーマンスとの間には有意な相関は確認できなかった。パフォーマンスに有意な影響を与えていると見られるのは、高い権限委譲であり、この高い権限委譲にEVAといったファイナンス指標による厳格なモニタリング(業績評価基準)及び部門間の実質的な報酬差を認めるインセンティブ制度(部門利益に感応的な報酬制度)を対応させた整合的な組織設計が、パフォーマンスに有意な効果を発揮することが実証分析で明らかになった(図表8)。 |
| (4 | ) 純粋持株会社は、今後採用が増加すると予想される組織形態である(図表5)。もっとも、現在の採用事例を見る限り、[1]合併の代替型として活用する、[2]高度に多角化が進展した企業が利用するケースが多く、中核事業の比率が依然高く、関連分野への多角化が中心である企業の採用事例は少ない。このような企業では、事業運営の統制が比較的容易な事業部や社内カンパニー制の採用比率が高い。 |
図表6:組織別の権限委譲度
図表7:組織別の重視する部門管理指標
図表8:パフォーマンスが高い組合せ
| 5 | .企業統治構造の変化と改革 | |
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| (1 | ) 現在の日本企業における株主構造と負債構造に注目すると、一方で資本市場に強く依存し、外国人投資家を含む機関投資家による保有比率が高い企業群と、他方でいぜん銀行借入に依存し、相互持ち合いを維持する企業群への分化が進展している。 |
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| (2 | ) 執行役員制度は、取締役会改革として注目されているが、現状では、採用の効果は限定的である。採用企業では、取締役数が削減され、取締役会の軽量化が図られている。しかし、実態面では、同制度の目的として「監督と執行の分離」を掲げながら、事業単位(執行役員)への権限委譲は十分に進展していないことに加え、株主と経営者のエイジェンシー問題の解決や戦略的意思決定能力の強化に寄与していない可能性が高い。 |
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| (3 | ) ストック・オプション制度に関しては、株主と経営者のエイジェンシー問題を解決する手段として、また業績と報酬の感応度を高めるインセンティブ機能として採用されている。しかし、それが機能する前提としては、採用企業の期待収益が高いこと、部門間の異質性が低いこと、さらに複数の事業部門を抱えている場合には分権度が高いことが重要な条件である。 |
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| □ | 中核事業とシナジーが薄い非関連多角化事業が、収益の低下をもたらしていることはほぼ疑いがなく、中核事業と関連のある範囲に事業を集約することが重要な選択肢である。ただし、画一的な議論は避けなければならない。多角化にはリスク分散効果が存在することも事実であり、事業の選択にあたっては、収益性と安定性のバランスを十分に検討する必要がある。 |
| □ | 事業の集約化が経営課題とされる現在においても、成熟化企業ではいぜん多角化が必要不可欠な戦略であることに変わりはない。しかし、1990年代前半の推計結果で確認されたように、このような成熟企業では、経営者が過度のリスクテイク(非関連多角化)を行う可能性が高く、その結果、企業パフォーマンスが低下する危険性がある。この90年代の反省に立ち、成熟企業のガバナンス体制を再設計することが急務である。 |
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| □ | 事業が比較的本業に集中しており、事業間の異質性が低く、組織面でもグループ化の程度の低い企業群では、情報公開の改善などの基本的な部分を除けば、組織や企業統治の構造に関して、大きな変更を加える必要はない。こうした企業では、企業の内部組織の効率性に関して外部投資家との間の情報の非対称性が小さく、また、内部非効率に直面する程度が相対的に低いからである。ここでは、負債、株式市場による規律が作用する余地が高く、企業の生産する財が貿易財であれば、生産物市場による規律も期待できる。したがって、これらの企業では、むしろ、他の企業が改革を進める組織・統治構造の改革に過剰反応を起こさないことが重要である。 |
| □ | 事業間の異質性が高い企業群では、組織や企業統治における構造改革の潜在的必要性が高い。なぜなら、第1に、事業分野が多岐に及ぶため、外部からの評価が困難であり、第2に、企業内に事業部門が複数存在し、あるいはグループ企業が多く存在するため、内部非効率の発生する可能性が高いからである。さらに、企業の本業が非貿易財であれば、この必要性がさらに高まる。もっとも、事業間の異質性の程度(中程度な異質と高度な異質化)で異なった対応が必要である。 |
| □ | 本業の成長率が大きく鈍化するか、すでに本業生産比率が大幅に低下し、事業が高度に異質化している事業群、あるいは生産拠点の海外移転が急速進展した企業群では、グループ化(分社化)が重要な選択肢である。この場合、グループ企業の金融面からのモニタリングが不可欠であり、したがって、持株会社化は重要な選択肢となりうる。 |
| □ | 中核事業とのシナジーが高い関連事業の範囲で事業を遂行し、したがって、事業間の異質性が中程度の場合、事業単位間の法的な統一性を維持したまま、分権度を上昇させる社内カンパニー制の採用は適切な選択である。事業の機動的な組換えには、事業単位を企業内に置くことに高い合理性がある。 |
| □ | 現在の日本企業で採用されている社内カンパニー制には、組織の名称変更にとどまるような、名目的な導入も少なくない。社内カンパニー制が有効に機能するためには、事業単位へ強い権限を付与するのと同時に、ファイナンス指標による厳格なモニタリングおよび業績感応的なインセンティブを対応させた整合的な組織設計が求められる。 |
| □ | 取締役会改革の1つである執行役員制度の導入の効果は、現状では限定的である。同制度は取締役数の削減といった形式的な導入にとどまり、株主と経営者のエイジェンシー問題を解決する目的で行われていない可能性が高い。したがって、「監督と執行」の分離、迅速な戦略的意思決定を可能とするよう、執行役員制度の設計・運営を見直すべきである。 |
| □ | 報酬改革の1つであるストック・オプション制度は、期待収益が高い成長企業や事業間の異質性が低い企業では、株主と経営者のエイジェンシー問題を解決する方法として有効に機能している可能性が高い。一方、成熟企業や多角化企業では、採用の有効性は低く、別の報酬制度の設計が必要である。 |
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※ | 本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。 | ||||||||
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| 付表:産業別の多角化度の推移 |
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| [ 英 文 [87kb,PDF]] |