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| 研究報告書「進展するコーポレート・ガバナンス改革と日本企業の再生」の概要 |
| 企業統治構造改革が日本経済再生の鍵として注目を集めている。この可能性と方向性を探るために、本報告書では、上場・店頭企業(非金融事業法人)を対象としたアンケート調査(回答876社、回収率34.0%)結果と企業の財務データを結合し、包括的な分析を試みた。 | | 1.近年における企業統治の変化 | | (1) | 市場重視に転換する日本企業:重要なステークホルダーとして、一般顧客(重視する企業の割合:50.0%)や株主(同:31.3%)を重視するという企業の比率は顕著に上昇し、取引先銀行(同:16.6%)を重視する企業の比率を上回った。 | | (2) | 加速する取締役会改革:執行役員制度を導入している企業は33.0%で、3年前と比較して20%ポイント増加し、大企業(資本金300億円以上)ではその採用は50%を超えた。社外取締役の導入、ストックオプション、情報公開活動に積極的な企業も増加している。 | | 2.企業統治構造改革はパフォーマンスの上昇に寄与する | | 経営者と株主の間のエイジェンシー問題の解決を可能とする統治構造改革、とくに情報公開活動への積極的な取組みは、企業パフォーマンスを引き上げる。急速に市場化する外部環境下にある日本企業にとって、情報の公開は、エイジェンシーコストの引き下げや、経営者の緊張感の上昇を介して、企業パフォーマンスに好影響を与える。 | | 3. 米国型が改革の唯一のモデルではない | | 執行役員制度や社外取締役の導入は、それ自体では企業パフォーマンスを向上させない。米国型をモデルとした改革が提唱されているが、それが日本企業の改革モデルとして普遍的に妥当するわけではない。また、執行役員制、社外取締役などの制度の導入にあたっては、企業の事業・組織構造と整合的な選択が不可欠である。 | | 4. なにが企業統治改革を決定するか:日本企業再生のモデル | | (1) | 外国人株主比率が高く、資本市場への依存度が高い企業では、統治構造改革に積極的である。また分権的な組織構造をもつ企業は、取締役会改革や情報公開に積極的である。 | | (2) | 一般に統治構造改革は、従業員重視の経営と対立すると理解されている。しかし、従業員の経営への関与の強さは、エイジェンシー問題の解決を目的とする統治構造改革に制約的ではない。また、長期・年功賃金型企業は企業統治改革に消極的であるが、長期雇用を維持しながら能力業績給の導入を試みる企業は、興味深いことに、むしろ改革に積極的であり、かつパフォーマンスも高い。この長期雇用の維持、成果主義的賃金の導入、積極的な情報公開という組み合わせに日本企業再生の一つのモデルがある。 | | 5.日本企業再生の焦点 | | 以上の企業の対極に、持合を維持し、銀行借入に依存し、旧来の雇用慣行を維持する企業群が存在する。これらの企業は、統治構造改革に消極的であり、そのパフォーマンスは有意に低い。日本企業の再生にあたって、主要な改革の対象となるべきは、この劣位の均衡にある企業群である。しかも、留意されるべきは、これらの企業が、各ステークホルダ−の合理的な選択の結果として劣位の均衡に陥っていることである。それだけに、脱出には外生的な圧力が不可欠である。強力な政策促進措置や、銀行の監視能力の涵養、新たな外部モニター(国内機関投資家)の育成を通じて、こうした企業の劣位な均衡からの脱却を促すことが日本企業再生のために急務である。 |
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1.はじめに 日本企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)は、いま大きな転換期を迎えている。それは、第2次世界大戦から戦後改革期にかけて、株主権限が強かった戦前の企業統治構造が、従業員と金融機関のコントロール権が強い日本型と呼ばれる構造に大きく転換したのに続く、第2の転換期にあるといってもよい。 当研究所では、このように大転換期を迎えた日本企業の企業統治に焦点をあてた研究活動を実施しており、その研究の一環として、1999年末には、上場・店頭企業2486社を対象としたアンケート調査(以下「前回調査」と呼ぶ)を実施し、1219社(回収率49.0%)から回答を得た。このアンケート調査からおよそ3年が経過し、その間に日本企業を取り巻く外部環境は大きく変化している。例えば、金庫株の解禁や委員会等設置会社の採用を可能にした商法改正や、時価会計導入等の会計制度の変更が次々に行われている。このような外部環境の変化に対応して、日本企業のガバナンスへの取組みにも、新たな変化が見られる。このような日本企業の企業統治における変化の実態はいかなるものか、なぜ取締役会改革などの統治構造改革の取組みがなされなければならないのか、どのような企業で改革は実施されているのか、そして、統治構造改革は企業パフォーマンスとはいかなる関係にあるのか、といった問題の検討は、日本経済再生のための新しい企業システムを考える上で、重要かつ緊急の課題である。2.本報告書の目的 企業統治構造と企業パフォーマンスの関係に関する分析には、これまで2種類のアプローチがあった。その1つは、株式所有構造や負債比率などの外部統治構造と企業パフォーマンスに関する分析で、例えば、機関投資家や大株主の存在が、経営者の規律づけを通じて企業のパフォーマンスの上昇をもたらす経路、あるいは一定以上の負債の存在が、倒産リスクの脅威・利払いの圧力を通じて、経営者の努力水準を高め、企業の規律付けとして機能する経路が実証的に分析されてきた。いま1つのアプローチは、取締役会の規模、社外取締役の導入、成果連動的な報酬システムの導入などの内部統治構造と企業パフォーマンスに関する分析であり、こうした措置の導入が経営陣の努力水準を引き上げてパフォーマンスを改善するか否かが注目されてきた。 これに対して、本報告書の研究の新しさは、図表1で示したように、これらの伝統的な分析を統合し、より包括的な分析を試みた点にある。我々は、焦点である内部統治構造の実態を解明するために、前回調査との比較分析も念頭に置きながら、2002年12月に、上場・店頭企業(金融部門を除く)2577社を対象とした第2回目となるコーポレート・ガバナンスアンケート(以下「今回調査」と呼ぶ)を実施し、876社(回収率34.0%)から回答を得た。本報告書では、この大量サンプルを利用して、具体的には下記の問題の解明を試みた。 | (1) | 近年の日本企業の統治構造(外部・内部統治構造)には、どのような変化が生じているか。 | | (2) | 企業統治改革は、本当にパフォーマンスに影響を与えるのか。本報告書では、アンケート結果から、これら企業統治改革への取組みの積極性を指数化した指標(Corporate Governance Score、以下CGSと呼ぶ)を作成し、この問いに答える。 | | (3) | 一連の企業統治改革のうち、パフォーマンスに影響を与える要因は具体的に何であるのか。少数株主の権利保護か、取締役会改革か、執行役員制や社外取締役の導入か、情報公開なのか。 | | (4) | 企業統治が、パフォーマンスに有意な影響を与えるとすれば、企業統治改革自体は、何によって決定されるのか。 | | (5) | 従業員の企業経営に対する関与の度合いや、近年変化の著しい雇用システムは、企業統治構造の選択とどのような関係にあるか。一般に、株主を重視した企業統治改革と従業員重視の企業統治は、対立的に理解されているが、それは正しいか。 |
図表1:本報告書の分析フレームワーク |  |
2.近年におけるコーポレート・ガバナンスの変化 近年の日本企業のコーポレート・ガバナンスにおける変化に関して、前回調査と今回調査を比較分析した結果、明らかになった諸点は以下の通りである。 (1) 取引先重視から市場重視へ 重要なステークホルダーとして、一般顧客(前回調査:37.9%→今回調査:50.0%)や株主(同:25.5%→同:31.3%)を重視する企業の増加が著しく、これらを重視する企業の比率は、従来の日本企業で重要なステークホルダーと考えられていた従業員や取引先銀行を重視すると回答した企業を上回る結果となった。とりわけ、取引先銀行を重視する企業が大きく減少(同:27.9%→同:16.6%)している。このことは、金融機関との持合い解消、企業の借入削減への取組み、金融機関の体力低下に伴い、企業と取引金融機関との関係が希薄化した近年の変化を反映していると見られる。 また、株主重視の中でも、機関投資家を重視するとの回答は前回調査と同水準であったが、個人投資家を重視するという回答が大幅に増加した。個人投資家を重視する理由とし | 図表2:重視するステークホルダーは誰か |  |
て半数以上の企業が、「個人投資家を、株主と同時に、企業の重要な顧客(消費者・ユーザー等)として捉えているので」をあげており、ここでも企業が顧客重視の姿勢を強めていることが確認できる。他方、従業員を重視する企業の比率について、この3年間で変化がない点は、市場重視と従業員重視とが、必ずしも対立しないことを示唆するものとして注目される(図表2)。 |