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| 平成14年9月5日 | ||
「我が国の予算・財政システムの透明性〜諸外国との比較の観点から〜」について | ||
財務総合政策研究所においては、我が国の予算・財政システムの透明性について、諸外国との比較の観点から分析を試み、今般その成果を報告書としてとりまとめた。 | ||
財政構造改革と透明性 1980年代以降OECD主要国で財政構造改革が進められているが、その過程で予算・財政の透明性(Transparency)の重要性が改めて認識されるようになってきた。その内容については、ニュージーランド(以下「NZ」)の「財政責任法」1(1994年)に代表されるように、各国においてイノベーションが進んでいる。 財政構造改革を進めるためには、財政の実態を明らかにし、国民の理解を得ることが必要である。公共サービスを供給する場合、一般にその受益者と負担者が乖離する。そのため支出の便益が強調され、過大な支出を招き、財政赤字が拡大することなる。近年の研究によれば、透明性が財政のパフォーマンスに影響を与える1つの要因であることがわかってきた。例えば、欧州各国の予算文書の内容、統計や会計の基準等を調べ、予算の透明性を比較した研究では、透明性の高い国(英国等)ほど財政赤字が相対的に小さく、逆に低い国(イタリア等)ほど財政赤字が大きいことが実証的に明らかにされている2。 予算・財政の透明性について、IMFは、「国民へ政府の組織・機能、財政政策の意図、公的部門の会計、財政見通しが公開されていること」と定義し、その意義として、良好な統治(Good Governance)、経済の安定と成長、健全な財政への寄与を挙げる。そして、IMFは、透明性の向上を促進するため、1998年、「財政の透明性に関する優良慣行規定」(以下「IMFコード」)を発表した。これは、加盟国で実施されている優良慣行を基に作成されたものであり、透明性を測る1つの基準を提供する3。 また、OECDも、1999年、「予算の透明性についての最優良慣行」(以下「OECDガイドライン」)を発表している。OECDガイドラインは、財政全般をカバーするIMFコードと異なり、その対象は予算に限定されている。 | ||
IMFの優良慣行(コード)及び基本要件 IMFコードを詳説したものに「IMFマニュアル」があり、マニュアルには、優良慣行(グッド・プラクティス)であるコードに加え、主として途上国を想定して最低限遵守すべき事項を規定する「基本要件」と優良慣行を上回るものとしてOECD諸国で実践されている「最優良慣行」(ベスト・プラクティス)が盛り込まれている。 まず、優良慣行(コード)及び基本要件に沿って4、米、英、仏、スウェーデン、豪州、NZ、韓国及び日本の予算・財政の透明性の概況をまとめた5。 我が国の現状としては、一部を除き優良慣行及び基本要件をほぼ遵守しており、欧米諸国と比べてもそれほど差はないと考えられる。具体的には、次のとおり。 | ||
(1 | ) 予算・財政の透明性の最も基本的な要件は、予算の議会統制と租税法定主義であるが、我が国では、予算年度以降の債務負担についても議会の承認が必要とされていること、予算外資金は基本的に存在しないこと等、財政民主主義の観点からは諸外国と比べより強固な基盤を有していると考えられる。具体的には、財政法、会計法、租税法等により、支出の管理、租税の賦課徴収、公的金融機関の予算の議決、特殊法人の財務統制、調達と雇用(公務員の採用)、決算、独立監査、公務員の倫理遵守等が明確な手続きにより行われている。 | |
(2 | ) ただし、財政政策の目的と持続可能性に関する分析、財政運営上のポジションを示す指標、プログラム(施策)の成果の分析、マクロ経済見通しの質を保証する仕組み等については、優良慣行及び基本要件に必ずしも沿ったものとはなっていない(具体的な状況は次を参照)。 | |
IMF及びOECDの最優良慣行 一方、最優良慣行については、そのほとんどを実践する豪州、NZ等と比べると差がある。また、OECDガイドラインの最優良慣行についても同様である。 以下では、IMFコードの項目を、(1)予算・財政情報(マクロ)、(2)予算・財政情報(ミクロ)、(3)報告書体系、に分けて再整理し6、最優良慣行に焦点を当てながら、各国を比較し、我が国の現状を分析する。 なお、各国の財政会計制度は、それぞれの歴史的経緯や行政と議会との関係等を反映してつくられているものであり、その評価に当たっては、各国の事情を勘案して最終的な判断をすべきである。例えば、諸外国では見られない我が国の特徴として、予算編成過程7の公開が挙げられる。また、透明性向上には多様なアプローチがあり、 IMFやOECDの基準も絶対的な尺度ではないことに留意する必要がある。 | ||
(1) 予算・財政情報(マクロ) | |||||||||||||||
[1] | 中期的な財政運営のフレームワーク 英、スウェーデン、豪州、NZでは、財政運営の中核的な基盤として、3〜4年(予算年度含む)の中期的な財政計画を作成している。その目的は、予算の単年度主義を克服し、中期的な視野にたって安定的な経済財政運営を行うことにある。その基本的な仕組みは、中期的なマクロ経済の予測を前提としていること、歳出については正式な後年度負担額推計として翌年度の予算交渉のベースとなること(予算制約として省庁を拘束するため、事実上の複数年度予算)、財政政策の目標や財政規律を担保するルールが政府の最高レベルで決定され、それらの遵守が明確に位置付けられていることである。米、仏も中期的なフレームを有しており、単なる見通しではないが、毎年の予算とのリンクは英等と比べると強くない。 我が国でも、これまで「財政の中期展望」(財務省)8が作成されており、また2002年1月には「内閣府試算」(「構造改革と経済財政の中期展望」(以下「改革と展望」)の審議の際の参考資料)が公表されている。これらは、翌年度の予算交渉の前提となって各省庁の歳出を計数的に制約するという性格のものではないが、中期的な財政運営の検討の手掛りを示すことを目的として作成・公表されている。 | ||||||||||||||
[2] | 財政の長期的な持続可能性分析 米、英、NZでは、毎年、予算文書において、人口構造の変化を踏まえ、30年超にわたる歳入・歳出、財政収支、債務残高等を推計している。持続可能性分析の目的は、年金、医療等の社会保障費の増加が財政に与える影響を分析することであり、推計のリスクも勘案して、人口推計の前提等によって複数のシナリオを示している。 我が国においては、社会保障の分野9を除いて、30年超の財政全体の長期的な見通しを定期的に(予算時)明らかにすることは行われていないが、10年程度のものについては、「改革と展望」の参考資料として、プライマリー・バランスや債務残高の推移の試算を行っている。 | ||||||||||||||
[3] | 財政ルール・目標 英、スウェーデン、豪州、NZはいずれも、景気循環を通じて財政収支を均衡させる、あるいは債務残高を一定水準(GDP比30〜40%程度)に維持する、という財政運営の目標を掲げている。英、豪州、NZでは、財政運営のフレームを規定する法律等(例:NZの財政責任法)があり、これらに基づき、政府は具体的な目標(債務残高のGDP比等)を設定することとされている。米国では、裁量的支出についてのキャップ、義務的支出についてのpay-as-you-go原則、景気後退期における弾力条項等が予算編成ルールとして定められている。 我が国では、財政法第4条により、均衡予算原則、建設公債の例外的な発行ルールが規定されているが、近年、継続的に特例公債・建設公債が発行されている。また、中期的な財政運営目標としては、「改革と展望」において、改革期間中の一般政府(国・地方)の支出規模の対GDP比を現在の水準を上回らない程度とすることを目指す、また、2010年代初頭にはプライマリーバランスを黒字化することが望まれる、との財政運営のあり方が示されている。 | ||||||||||||||
[4] | マクロ経済見通しとその質を保証する仕組み 中期的な財政運営のフレームワークを有している国は、いずれも、予算文書の最初において、中期的な経済見通しについての分析が示されている。英、NZでは、中期見通しが複数あるいは一定の幅をもって示されているが、予算の前提となる数値はそのうち低位のものが採用されている。また、マクロ経済見通しについては、その妥当性を評価したり、吟味できる仕組みが作られており、具体的には、会計検査院等の第3者による評価(英、仏、NZ)、経済・予算担当部局以外による別の見通しの作成(米、スウェーデン)、民間との比較(米、英)、議会における集中的な審査(スウェーデン、NZ)などがある。中期的な財政運営のフレームワークにより歳出をコントロールしていくためには、適切な経済見通しを前提とすることが極めて重要であり、各国はそのために様々な工夫を行っている。 我が国では、経済見通しは、これまで予算年度のみ示されていたが、「改革と展望」により、マクロ経済の中期的な姿についての一定の試算が示された。これは、毎年度改訂されることになっている 。10 | ||||||||||||||
[5] | 財政運営上のポジションを示す指標 政府の活動は、中央及び地方、公企業・特殊法人・エージェンシーなど広範囲に及んでいる。しかし、議決される中央政府の予算がこうした政府活動を全て網羅しているわけではなく、予算上の収支だけでは政府活動全体を捉えることができない。そこで、各国は、広範な政府活動を連結で捉えて財政ポジションを明らかにするとともに、財政運営の指標とするため、予算文書において次のようなデータを明らかにしている。
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[6] | 結果(決算)と予測(予算)、新規施策の明確化、財政上のリスク 米、英、豪州、NZでは、前年の予算時に見積もった将来の歳入・歳出・収支尻の見通し(中期フレーム)が、翌年の予算時においてどのように改訂されたのかを分析する調整表を作成している11。また、予算時における新規施策の導入や制度改正が将来の財政に与える影響を中期フレームの枠組みの中で分析している。特に、豪州は、予算時及び年央において、歳入・歳出・収支尻の見通しが直近のものと比べてどう変わったのかについて、政策変更によるものか、経済成長率や金利等の外的要因によるものか、等の理由に分けて詳細に分析している。 更に、諸外国は、マクロ経済の前提(成長率、金利等)の変動が財政に与える影響の分析(代替シナリオや感応度分析)、偶発債務の明示等、財政上のリスクを予め明らかにしており、中でも豪州、NZはこれらを網羅的に分析している。 我が国では、こうした取組みは、予算全体について体系的な分析が行われているわけではないが、税制改正が予算年度の歳入に与える効果の分析等一部において行われている。 | ||||||||||||||
(2 | ) 予算・財政情報(ミクロ)−プログラムの目的・評価 プログラム(施策)の達成度等の評価を予算における資源配分と関係付ける方法としては、2つのアプローチがある。NZ及び豪州は、予算の単位とプログラムの単位を一致させ、プログラムの評価と資源配分を統一的に分析できるフレームワークを構築している。豪州では、予算法において予算額がアウトカム別に計上されるとともに、その付属書類においてアウトカム及びアウトプット12に関する目標(質・量、効率性・有効性等)が明示され、更に年次報告書においてその結果が分析・評価される仕組みとなっている。他方、米、英、スウェーデンでは、予算の単位とプログラムの単位は異なり、評価と予算は直接的にはリンクしていない。 我が国では、2001年から実施された中央省庁等改革により、省庁は政策評価の実施が義務付けられ、プログラムや組織の目標を示す試みが行われており、また「政策評価法」(2001年6月)等により、政策評価の結果を予算の作成等に当たり活用することとされている。こうした状況で、2001年度予算要求から、各省庁は要求に当って、施策等の意図・目的、必要性等に関する資料を添付することとされ、予算と政策評価のリンクに向けた試みが開始されている。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(3 | ) 報告書体系 各国は広範な財政関係の報告書を作成しており(表参照)、特にOECDガイドラインは次のような報告書の作成を最優良慣行として推奨している。
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今後の課題 我が国では、近年、国のバランスシート(貸借対照表)の作成、財政投融資に関連したコスト分析や政策評価の導入、情報公開法の制定等、透明性向上に向けて努力が続けられているが、我が国の予算・財政システムは、諸外国の最優良慣行と比べると、以下のような課題がある。特に、予算・財政のパフォーマンスを説明する(事後検証)等、より高次の説明責任(アカウンタビリティ)を果たしていくことが重要である 。13
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| 1 | 同法は、財政運営の原則を定めるとともに、政府に広範な報告書の作成を義務付けることにより、透明性と説明責任を向上させ、財政の中長期的な安定を図ることを目的とするものである。▲戻る |
| 2 | 本研究は1990年代前半のEU主要国について分析したものであり、イタリアは、90年代半ば以降、積極的に予算編成プロセスの改革を行っており、その透明性は向上している。▲戻 る |
| 3 | IMFは、IMFコード等を作成するのみならず、第三者として、IMF自ら加盟国の透明性を分析・評価しており、これまで28ヶ国(2001年末)について実施している(ROSCと呼ばれ、日本については、2001年に実施済み)。▲戻る |
| 4 | IMF優良慣行及び基本要件の一部は、OECDガイドラインの内容と重複しているので、同ガイドラインも考慮していることになる。▲戻る |
| 5 | 評価対象国の選定に当たっては、各国がIMFコードに沿って行った自己評価又はIMFによる第3者評価(ROSC)のいずれかが入手できる国を第1の基準としている(従って、G7諸国中、独、伊、加については、これらの情報が入手できないので今回は対象としていない)。更に、比較に際しては、各国の予算文書(予算参考書類を含む)及び各種財政に関する報告書の原典を分析している。▲戻る |
| 6 | 報告書本文では、「政府の範囲と予算」という構造に関するテーマも取り上げており、合計4つのテーマに分けて整理している。▲戻る |
| 7 | 例えば、各省庁の予算要求の内容、要求審査(内示)・折衝過程等が明らかにされている。▲戻る |
| 8 | 2002年度より、「後年度歳出・歳入への影響試算」という名称に変更されている。▲戻る |
| 9 | 例えば、「社会保障の給付と負担の見通し」(厚生労働省2002年5月)である。▲戻る |
| 10 | 2001年7月、経済財政諮問会議に、マーケット関係者や民間エコノミスト等で構成される「経済動向分析チーム」が設置され、景気の現状・見通し等について情報・意見を集約し、これを政策運営の参考とする試みが始まっている。▲戻る |
| 11 | 予算と決算あるいは決算見込みの比較を含む。▲戻る |
| 12 | アウトプットとは、政府活動によって直接生み出された財・サービス(例えば、ホームヘルパーの派遣や道路建設など)であり、アウトカムとは、政府活動が与える社会的な影響であり、最終的な成果(例えば、老人福祉の向上や移動距離の短縮など)である。▲戻る |
| 13 | IMFが我が国の透明性について評価したROSCでも、[1]と[2]が今後の課題として強調されている。▲戻る |
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