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| 平成14年6月24日 | |
「アジアの新たな経済展望に関する研究会」報告書 ―追い上げるアジア、立ちすくむ日本― | |
| 1 | .研究会の目的等 日本とアジアの経済関係は、かつては日本を先頭とする雁行形態論で説明されるとされてきました。しかし、中国の急速な経済発展はそのような見方を陳腐なものとしています。「世界の工場」と呼称されるようになった中国の発展は、アジアの貿易・投資に大きな影響を及ぼし、我が国の「産業空洞化」をもたらすとの懸念も生じています。 そこで、財務総合政策研究所ではアジア、特に中国に焦点を当て、中国経済の現状を検証し、中国の発展がアジアや日本の経済にどのような影響を及ぼしているか、また、今後日本はどのように対応したらよいのかについて研究するために「アジアの新たな経済展望に関する研究会」(座長:伊藤元重、東京大学大学院経済学研究科教授)を設けました。 今回、研究会の成果を踏まえて研究会メンバーを中心とした分担執筆により、報告書を取りまとめました。
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| 2 | .報告書の概要 |
| ( | 1) 日本とアジアの貿易関係 世界貿易に占める東アジア諸国間の貿易シェアは90年の3.9%から7.1%に大きく上昇しているが、日本と東アジアの関係をみると、日本から見て東アジアが輸出先だけではなく輸入元としても重要性を増している。他方、東アジアにとって日本は輸出、輸入の両面で地位を低下させており、非対称的な関係になっている(図表1)。 |
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| 日中の貿易関係をみると、90年代に相互の輸出入依存度は高まっており、特に、日本の輸入に占める中国からの輸入の割合は大きく上昇しており、赤字が拡大している。 | |
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| 韓国を例にとり、対中国黒字が拡大した要因をみると、輸出は中国進出韓国企業向け輸出用原材料、インフラ建設用資材を中心に急増したが、他方、中国からの輸入は中国進出韓国企業が第三国への輸出を主目的にしているため、それほど増えていないことによる。このため、これら諸国では中国脅威論は日本ほど大きく台頭していない。
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| ( | 2) 中国の経済発展の日本へのインパクト 中国からの輸入は雑貨やパソコン、テレビ、家電などの一部電気機器で急増しているとはいえ、中国からの輸入総額は日本のGDPの1%程度にとどまっており、中国からの輸入が日本経済に及ぼすマクロ的な影響は一般に思われるほど大きくはない。また、中国への輸出額もGDP比で約0.5%であり、中国のウェイトが特段大きいわけではない(図表3)。 |
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| 中国での日系製造業現地法人の売上高をみても、日系企業の海外売上高総額60兆円強のうち3兆円(約5%)を占めるに過ぎず(日本のNIES諸国やASEAN諸国での売上高はいずれも10兆円弱)、大きなウェイトを占めていない(図表4)。 | |
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| 中国の貿易財の日本との競合関係をみると、中国は雑貨のほか一部電気機器では比較優位を持っているが、機械類全般では比較劣位にあり、補完性が高い。米国やアジアにおける日中の貿易財の競合状況を見ても、日本は高付加価値商品の輸出、中国は低付加価値商品の輸出とほぼ棲み分けができており、中国の輸出が増えると日本がダメージを受けるという関係にはなっていないといえる(図表5)。 | |
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| ( | 3) 「産業空洞化」論への疑問 日本の製造業のGDPに占めるウェイトの低下が懸念されているが、生産性が上昇すれば雇用など必要な経済資源の投入は減少することは必然である。 中国と日本の経済規模を考えると、中国からの輸入額は日本のGDPの1%程度であり、中国からの輸入が日本経済に及ぼす影響は限定的といえる。 繊維など特定産業の不振は中国からの輸入急増が原因であるとの見方があるが、特定産業不振の問題は1973年の石油ショック、1985年のプラザ合意による円高への移行の際など、過去に何度も問題になっており、中国からの輸入の急増がその根本原因であるかどうか疑わしい。 また、規模の経済が働いているとされる産業で生産の縮小が生じれば集積のメリットが失われ、経済全体に大きな損失をもたらすとの議論もあるが、海外との貿易の結果、規模の経済性が国境を超え、地域に広がっている面もある。 たとえ、中国からの安価な製品輸入が増えて日本の競合産業が縮小しても、そこで用いられていた生産要素が生産性のより高い先端産業などの成長産業で吸収されれば、日本経済全体の成長率を高めることができる。 特定産業の衰退、それと関連した地方の製造業の縮小や雇用問題など中国経済の発展が原因となって生じたと考えられることがある日本経済の問題は、原因の多くが日本国内にあることの方が多い。中国の発展はこうした日本の国内問題をより見えやすくしたに過ぎない。また、教育制度、起業、産学連携など日本が中国のダイナミズムに学ぶ点も少なくない。こうした意味で、中国の発展は日本の問題を映し出す「優れた鏡」である。
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| ( | 4) 今後の日中経済関係 これまでのところ、中国の発展が日本に及ぼす影響は誇張されすぎている。 中国の発展が産業の空洞化をもたらすとの議論があるが、中国が成長することで日本にも貿易拡大のメリットも生じる。また、アメリカも日本の挑戦を受けたが、日本の挑戦をバネにアメリカの特定産業は生産調整・転換を行ない、90年代の成長を下支えした。 今後、日中間の競合関係は大きくなることも考えられるが、中国の発展をいかに活用するか、中国の挑戦をバネにどのような構造改革を行なっていくかは日本に課された問題である。日本が抱える有能な人材、潤沢な資金を有効に活用し、産業調整を阻害している規制を積極的に緩和し、変化に対応できるような経済システムの構築へ向けた取組みを積極的に推し進めることが重要である。
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| 3 | .各章の要約 |
| 第1章 中国の産業・貿易構造と直接投資 深尾京司(一橋大学経済研究所教授) 産業構造をみると、一人あたりGDPが同水準の他国と比べて重工業等の資本集約産業の比率が高いが、これは冷戦下の計画経済の下でフルセットの工業化を目指したことのほか、比較優位がない重化学工業や一部の機械産業を保護しつづけていることによる。また、生産要素の国内移動についてみると、労働については85年以降の改革解放後は労働の限界生産性の高いところに労働が集まるようになったが、資本についてはそうなっておらず、金融セクターに代表される資金配分メカニズムに問題がある。
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第2章 中国の経済発展と人的資源 村上直樹(東京都立大学経済学部教授) 中国はもともと基礎教育の向上に熱心であり、回帰分析の結果、これまでの中国の成長には高学歴者が増加したという要因よりも、全体に占める小卒や無学歴者の比率が小さくなったという意味で、基礎的な人的資本の蓄積が貢献したことが確認された。
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第3章 中国・アジアとの経済関係の緊密化が日本経済に及ぼす影響 浦田秀次郎(早稲田大学社会経済学部教授) 東アジアと日本の関係をみると日本から見て東アジアが輸出先だけではなく輸入元としても重要性を増しているが、東アジアから見た日本はこの両面において地位を低下させるという非対称的な関係になっている。
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第4章 中国経済との「競争」と日本産業空洞化の虚実 長岡貞男(一橋大学イノベーション研究センター教授) 日本の製造業のウェイト低下が懸念されているが、生産性が上昇すればそのために必要な経済資源の投入は減少する。また、中国の賃金についても生産性の上昇に応じて賃金水準も変わるため、現在の中国の低い賃金水準を与件として空洞化を論じることも誤っている。このように産業空洞化の議論は基本的な経済メカニズムの理解がないままなされている例が多い。
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第5章 中国と日本、アジアの貿易補完関係 熊谷 聡(日本貿易振興会アジア経済研究所地域研究第I部研究員) 中国の発展を前に、日本では「中国脅威論」が台頭しているが、日本に比べ経済発展段階がより中国に近いASEAN諸国では「中国楽観論」ともいえる論調が多い。このように日本とASEANで中国の発展に対する見方が異なるのは、日中間の貿易関係が競合的であり、日・ASEAN間の関係が補完的であるからではない。
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第6章 アメリカはいかに日本の挑戦に対応したか 原田 泰・葛見雅之・飯島隆介(財務省財務総合政策研究所) アメリカでは70年代以降に日本の挑戦を受けたが、70年代以降90年代を通じた平均成長率は3.2%と一定のテンポで推移しており、その意味では、アメリカ経済は80年代に衰退はしておらず、また、90年代に再生したという言い方も誇張されている。
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第7章 中国の台頭とアジアNIES 谷浦孝雄(新潟大学経済学部教授) 中国の台頭はアジアNIESに次のような影響をもたらした。
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第8章 中国の産業発展と日本経済 伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授) 中国と日本の経済規模を考えると、中国からの輸入額は日本のGDPの1%程度であり、中国からの輸入が日本経済に及ぼす影響は限定的といえる。
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| | 本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。 |
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| 「アジアの新たな経済展望に関する研究会」 メンバー |
| (敬称略、肩書きは平成14年6月現在) |
| 座長 |
伊藤元重 | (東京大学大学院経済学研究科教授) |
執筆メンバー(五十音順) | ||
| 浦田秀次郎 | (早稲田大学社会科学部教授) | |
| 熊谷 聡 | (日本貿易振興会アジア経済研究所地域研究第I部研究員) | |
| 谷浦孝雄 | (新潟大学経済学部教授) | |
| 長岡貞男 | (一橋大学イノベーション研究センター教授) | |
| 深尾京司 | (一橋大学経済研究所教授) | |
| 村上直樹 | (東京都立大学経済学部教授) | |
非執筆メンバー(五十音順) | ||
| 猪口 孝 | (東京大学東洋文化研究所教授) | |
| 加藤隆俊 | (東京三菱銀行顧問、元財務官) | |
| 関 志雄 | (経済産業研究所上席研究員) | |
| 高阪 章 | (大阪大学大学院国際公共政策研究科教授) | |
| 田中 修 | (財務省財務総合政策研究所客員研究員) | |
| 吉野直行 | (慶応大学経済学部教授) | |
財務総合政策研究所 | ||
| 渡辺裕泰 | (財務省財務総合政策研究所長) | |
| 森信茂樹 | (財務省財務総合政策研究所次長) | |
| 原田 泰 | (財務省財務総合政策研究所次長) | |
| 渡辺智之 | (財務省財務総合政策研究所研究部長) | |
| 葛見雅之 | (財務省財務総合政策研究所主任研究官) | |
| 飯島隆介 | (財務省財務総合政策研究所研究員) | |