財務総研TOP > 研究活動> 報告書等> 「日本型経済システム:再訪」研究会報告書
| |
| 平成14年6月25日 |
「日本型経済システム:再訪」研究会報告書 |
|
| 1 | .研究会の目的等 日本型経済システムについては、90年代の初期までは、それまでの経済成果の高さを反映して、国際的にも高く評価されていた。しかし、90年代以降、日本経済の停滞とともにその問題点が強調されるようになっている。それでは、そもそも日本型経済システムとは何だったのだろうか。また、優れたシステムであったのであれば、なぜ、現在では機能しなくなったのだろうか。これらの問題について考察するために、日本型経済システムに関し、どのようなことが論じられていたかについてレビューを行い、これまで日本型経済システムの果たしてきた役割やその利点、限界を明らかにするとともに、具体的事例を踏まえてシステムのあり方についても検討を行った。 このような問題意識に基づき、財務総合政策研究所では、貝塚啓明座長(当研究所名誉所長、中央大学法学部教授)の下で、「日本型経済システム:再訪」研究会において、6つの論点(下記2.参照)から議論、検討を行った。また、5月14日には、これまでの研究会の成果を発表するコンファレンスを開催した。本報告書は、これらの成果を踏まえ、研究会メンバーを中心とした分担執筆によりとりまとめたものである。 |
| 2 | .報告書の概要 各章の報告のポイントは以下のとおり。 |
| ( | 1) 日本型企業経営、企業行動 第1章では、企業行動に影響を与える日本型企業における株式の所有構造、取締役会の構成、負債による規律などについて取り扱う。 日本型企業の特徴である株式持合いによる株主安定化、内部昇進者からなる取締役会、企業・銀行間の長期的関係などのシステムは、70年代までは経営の自由度や安定性を高め、長期的な視野に立つ経営を可能にすることで成長促進的に機能した。しかし80年代以降、事業機会の縮小、企業内の余剰資金の形成、R&D投資の必要性などの外部環境の変化に直面し、負債による規律の後退、金融自由化によるメインバンクの経営規律機能の低下、年功ルールに依存した経営者選任の仕組みによる問題点が発生するなど、システムの負の側面が顕在化し、過剰投資や効率性の低下、必要な事業再組織化の遅れをもたらした。 外部環境が大きく変化し、資本市場圧力が上昇した90年代に入って日本企業は、かつての同質的な構造から急速な分化を示し始めた。その中でもとくに注目されるのは、長期雇用の慣行と両立的な形でさまざまな自発的な改革を進める企業群が存在することであり、しかもその企業群のパフォーマンスが相対的に高いことが確認できる。 本報告に対して、[1]米国では社外取締役を導入した企業のパフォーマンスは低下したという実証研究があるのは有名な話である、[2]そもそもガバナンスが企業のパフォーマンスに影響を与えるのかどうかという点については必ずしも答えは出ていない等のコメントが出されている。 |
| ( | 2) 生産系列、流通系列 第2章では、日本の企業間関係のうち、自動車及び家電分野の生産系列、流通系列などについて取り扱う。 自動車分野の生産系列は、メーカーと系列部品メーカーが、長期継続的取引関係により製品の開発や生産工程の協力まで一体で行う仕組みであり、効率的な多品種少量生産、高い品質・性能と低価格を実現した。また、そのビジネスモデルは世界に「輸出」されるなど高い普遍性を持っており、今後とも優位性を保ち続けていくとしている。 家電分野の生産系列では、効率的な生産に寄与しているものの、自動車のような複雑な工程を必要としないことから、近年では外注化や海外への生産拠点の移転などが行われ、統合の弱まりが見られる。 流通系列では、家電、自動車分野とも、系列販売店を通じてメーカーの販売拡大に寄与してきたが、家電分野では70年代以降は量販店が新たな販売チャネルとして市場シェアを拡大しており、自動車分野では人件費の上昇による販売効率の低下などが見られる。 本報告に対して、[1]自動車、家電分野における系列関係が日本型経済システムにおいてどの程度の代表性を有するものであるのか、[2]GDPの40%を占めるサービス産業の企業間関係についても考察すべき等のコメントが出されている。 |
| ( | 3) 日本型金融システム(メインバンク) 第3章では、日本特有とされている特定の銀行と特定の企業との長期にわたる融資取引関係(メインバンク関係)について取り扱う。 日本のメインバンクは、取引関係を通じて融資先企業の経営をモニターし、経営者を規律づけることにより企業の経営効率を高めたとされていたが、実証分析の結果からは有意な証拠は発見できない(図表1参照)。また、企業経営の効率化に貢献したのは、高い負債比率によるものであり、「メインバンクによる規律」は、70年代においても確認できないまた、メインバンクにはドイツなどでもみられ、日本固有のものでもない。 このようなメインバンクの機能不全は、競争制限的な規制によりすでに高度成長期に存在し、さらに、その脆弱性は、銀行の主要な融資対象が、厳しい国際競争にさらされている製造業(貿易財産業)から不動産、金融、サービスなど非製造企業(非貿易財産業)へシフトする過程で露呈した。 今後はメインバンクの金融仲介機能の役割はますます低下するが、中小・零細企業では伝統的なメインバンク関係が機能し続けるとし、また、メインバンクには創業過程のベンチャービジネスの資金供給を支える役割も期待されている。 本報告に対して、[1]メインバンクに対する指摘は不動産の右肩上がり神話同様、高度成長時代が終わりを告げたと同時に消えゆくただの神話にすぎない、[2]高度成長期にはメインバンクは企業の資金制約を緩和することに貢献したのではないか等のコメントが出されている。 |
| |
| ( | 4) 日本型雇用慣行 第4章では、日本型雇用慣行のうち長期雇用・年功賃金を取り扱う。 終身雇用、年功賃金、企業別労働組合の3種の神器として特徴づけられる日本型雇用慣行は、80年代には、高い生産性を達成可能にするための効率的な生産システムして賞賛され、90年代初めにはその評価がピークに達した。ただし、非正規労働者の増加した現在、長期雇用・年功賃金が対象としている大企業の男子正社員の労働市場でのシェアはますます低下している。また、労働者の平均勤続年数や賃金カーブを国際比較した結果では、長期雇用、年功賃金は日本固有のシステムとはいえない(図表2、図表3参照)。 長期雇用・年功賃金は、教育訓練のインセンティブの増加、企業特殊的な人的資本の形成や人的投資の回収、信頼関係を軸としたインフォーマルなネットワークによる効率的な意思決定や実行等のメリットを有すると同時に、人件費の固定費化、転職コストの上昇という労使双方のデメリットを持つ。90年代以降、日本経済が低成長へと移行し、少子高齢化の進展や産業構造や技術の変化が進展する中で、システムのデメリットが顕在化している。 |
| |
 |
| 本報告に対して、[1]給与体系の短期業績主義への急激な移行の結果、人材開発面に悪影響を及ぼしている、[2]現在の雇用の流動化は企業の合理的な行動の結果でありむしろ長期雇用慣行を無形文化財のように保護する労働市場規制に問題が多い等のコメントが出されている。 |
| ( | 5) 経済産業省(旧通産省)の産業政策 第5章では、経済産業省(旧通産省)に代表される産業政策の有効性について取り扱う。 戦後、典型的な産業政策とされている大規模な補助金、参入規制、生産能力調整・カルテル等の産業政策は、経済的な戦略重要性の高い産業における企業の投資を刺激し、急速な産業成長を促進するなどし、戦後における日本経済の成功の源泉とされていた。 この事実を成功産業と失敗産業に当てて検証したところ、成功産業では、政府による大規模な補助金制度は存在せず、競争への介入もほとんど存在せず、むしろ、政府の関与は、新規製品に対する初期需要の喚起、償却期間の短期化、厳格な基準設定によるイノベーションの誘発などの形で行われていた。また、多くの失敗産業では、価格統制、優遇税制や政府金融、新規参入の制限、不況カルテルの承認、輸入数量制限、高率関税の賦課、等の政府の介入が見られた(図表4参照)。 |
| |
| 日本の産業政策は、戦後復興期から20年程度は有効に機能したが、それ以降は、日本の奇跡的な成功の源泉ではなくむしろ失敗の原因であり、今後、政府はビジネスの競争を促進するための環境整備等の間接的な関与にとどめるべきである。 本報告に対して、1970年代初めまでは全ての国が政府規制による産業統制を行っており、また、全ての資本主義諸国では経済発展の時期には政府が国内産業保護・産業振興の役割を担っており、中央集権的な産業政策は必ずしも日本固有のものではない等のコメントが出されている。 |
| ( | 6) 社会的サービス分野の産業政策 第6章では、旧通産省による産業政策以外の分野である、医療、福祉、教育等の社会的サービス分野における産業政策を取り扱う。 これらの分野は、政府が主体となって事業者を保護・育成し、それを通じて間接的に「弱者」であるサービス利用者の利益を擁護するという、旧通産省による産業政策よりさらに強い政府介入が行われている。 例えば、医療分野における諸外国より安価なコストによる国民皆保険の達成と平均寿命の伸展、教育分野における外部経済性の高い若年者対象の基礎的・画一的な教育サービスの提供等、70年代までのキャッチアップ期のような段階では機能した面もあったが、競争の思想の欠如、社会環境の変化によるサービス利用者の範囲の拡大、ニーズが多様化し、財政制約が強まるなかで、特に90年代以降、量と質の面での制約がますます強まり、改革の必要性が高まっているとする。 これまでのように、社会的サービス分野での「市場の失敗」を政府の市場への介入で補うのではなく、政府を通じた資源配分から利用者の自由な選択肢に基づく市場を活用したものへと転換するとともに、所得面の制約の大きな人々への直接的な所得移転を組み合わせる方向への産業政策の転換が求められている。 本報告に対して、[1]本分野は外圧が働きにくく市場を活用した制度へ転換するのは困難であるが、統合をきっかけに規制改革の進んだEUから参考にできる部分も多いのではないか、[2]詳細な情報の開示とそれに基づく外部評価の仕組みを早急に整備すべきである等のコメントが出されている。 |
| ( | 7) 総括報告 日本型経済システムとは、ヒト、モノ、カネのすべてにおいて長期的関係を重視する一体のシステムであるといえる。ヒトについては日本型雇用が、モノについては日本型企業関係が、カネについてはメインバンク関係が、システムを支えてきた。90年代の停滞を通じ、長期的関係は必ずしも望ましいものではないことが明らかになった。しかし、90年代の停滞の原因としての日本型経済システムを考える上で、本報告の中では、変質仮説と不存在仮説が存在する。変質仮説とは、日本型経済システムは、経済効率を向上させる上である程度評価されるものであったが変質したという仮説である。不存在仮説とは、そもそも経済効率を向上させるような日本型経済システムはなかったという仮説である。変質仮説には、日本型企業経営、日本型雇用システム、一部の企業間関係が、不存在仮説には、一般産業における産業政策、日本型金融システム、社会的サービス分野における産業政策が位置付けられる。ただし、これらは個々の分野における評価であり、日本型経済システム全体における評価ではない。 現在でも、自動車における生産系列や企業と労働者が協力して行う人的投資など経済効率を向上させる日本型システムは存在するが、その役割を終えたシステムも存在する。特に、社会的サービス分野における過剰な規制は国民ニーズの多様化する現在では最も機能していない。 |
| 連絡先 | | 財務省 財務総合政策研究所 研究部 | | TEL 03-3581-4111 | | 主任研究官 | 原村健二 | (内線)5331 | | 研究員 | 江南喜成 | (内線)5315 | <>< mce_serialized="5"><>< mce_serialized="3"><>< mce_serialized="1"><>< mce_serialized="1"><>< mce_serialized="3"><>< mce_serialized="1"> > | | |
| ※ | 本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。 |
| (参考) 執筆者等一覧 |
| 論点 | 執筆者 | コメント | | 1 | .日本型企業経営、企業行動 | <>< mce_serialized="5"><>< mce_serialized="3"><>< mce_serialized="1"><>< mce_serialized="1"><>< mce_serialized="3"><>< mce_serialized="1"> > | | | 加護野忠男 | (神戸大学教授) | | 神田秀樹 | (東京大学教授) | | 金子勝 | (慶応大学教授) | | | | | 菊谷達弥 | (京都大学助教授) | | 塩地洋 | (京都大学教授) | | | 有賀健 | (京都大学教授) | | 吉田和男 | (京都大学教授) | | | | | | D・アトキンソン | (ゴールドマン・サックス証券マネージングダイレクター) | | 宮島英昭 | (早稲田大学教授) | | | | | | 小池和男 | (東海学園大学教授) | | 八代尚宏 | (日本経済研究センター理事長) | | | | | | 小野五郎 | (埼玉大学教授) | | 中条潮 | (慶応大学教授) | | | | | | 堀内昭義 | (東京大学教授) | | 樋口美雄 | (慶応大学教授) | | 中条潮 | (慶応大学教授) | | | | | 貝塚啓明 | (財務総合政策研究所名誉所長・中央大学教授) | | 原田泰 | (財務総合政策研究所次長) | | | −全論文への横断的コメント− | | 常盤文克 | (花王株式会社特別顧問) | | 高木剛 | (ゼンセン同盟会長) | | 青木昌彦 | (独立行政法人経済産業研究所所長) | | |