新 聞 発 表
平成13年7月6日
「わが国機関投資家のコーポレートガバナンスに関するアンケート調査」
集計結果と分析の報告
I.調査目的
| (1 | )背景と問題意識 昨年10月に報告した一般事業法人のガバナンスに関するアンケート調査結果1)によれば、わが国企業は、市場からの評価をベースとするガバナンスの形態を望み、相対型ファイナンス、日本的コーポレートシステムから脱却することを志向していた。しかし、実態では、大規模企業を中心に市場型ファイナンスや革新的なコーポレートシステムを採用する動きが見られたものの、相変わらず金融機関からのファイナンスの確保や日本的コーポレートシステムを維持しようとする姿勢が根強く見られた。このように、企業が志向する新たなコーポレートシステムやファイナンス方法と調和するガバナンスが機能していないのはなぜであろうか。バブル崩壊後、大量の不良債権が問題化してからは、企業のガバナンスにおける銀行の影響力が急速に低下している。このような中で、一体、誰が企業の規律付けの担い手となるのであろうか。 米国では、1980年代後半の相場低迷を契機に、機関投資家が株主として企業経営に関与する行動(株主アクティビズム)が積極化し、企業経営の効率化に貢献したといわれている。先のアンケート調査においても、今後、企業が関係・接触を強めていく主体として機関投資家が指摘され、わが国でも、機関投資家が外部者の立場から日本型ガバナンスシステムの変質をもたらしうる存在として注目されている。わが国の機関投資家は、銀行に代わって企業経営を規律付け、コーポレートガバナンスシステムに決定的な役割を果たす存在となりうるのだろうか。 |
(2 | )調査方法等 財務総合政策研究所では、平成11年9月から、「わが国のコーポレートファイナンスとコーポレートガバナンスに関する研究会」2)において、わが国企業を再生させるには、どのようなガバナンス形態が望ましいのか等を議論してきた。昨年12月〜本年3月の期間には、今回、機関投資家として焦点を当てた「厚生年金基金」とその「受託機関」(信託銀行、生命保険会社、投資顧問会社)を対象にアンケートによる実態調査を実施した。回答率は、双方ともに約65%3)にも達した。この高い回答率自体が、わが国機関投資家のコーポレートガバナンスに対する問題意識の大きさを示唆している。今回の報告書は、このアンケート調査の集計結果、および、それに基づいた分析の報告である。 本報告は、日本型ガバナンスシステムの変容を知るために、市場からの規律付けの中心となる機関投資家に焦点を当て、機関投資家の意識、態度、内部組織改革、ガバナンス行動の姿勢、投資先企業への要望等、設問によっては今後の方針までも含めて包括的に調査した。他の統計では得られない豊富な情報を提供しており、わが国ではこれまでにない本格的資料である。 |
II.アンケート調査結果(概略)
アンケートの回答内容を分析した結果、機関投資家のコーポレートガバナンスに対する意識と取り組みについて、以下の内容が明らかとなった。
| (1 | )機関投資家には、株主アクティビズムを実行する意識があるのか? 受託機関は、投資先企業への株主アクティビズムに意欲的である。これは、わが国の受託機関が、米国同様、運用パフォーマンス向上のために、積極的に投資先企業の経営に関与していくことを志向する表れと考えられる。 |
| 年金基金は、運用パフォーマンスを向上させる上で、受託機関への勧奨を通じて株主アクティビズムを機能させるよりも、むしろ、年金基金自身の運用体制等の強化を重視している。 | ||
| ┌ │ └ | 米国では、ERISA法4)で規定されている受託者責任に基づき、年金基金が議決権行使の指図を行うのに対して、わが国では、年金基金は議決権行使の指図をすることができず、受託機関自身の判断で行うこととなっている。 | ┐ │ ┘ |
| (2 | )機関投資家による株主アクティビズムの実行を妨げる障害がある 機関投資家が株主アクティビズムを実行するにあたり、障害になると考えている事項が明らかとなった。第一に、株主権利を行使する重要な機会である株主総会が特定日に集中開催されるなど、そのあり方が問題となっていることである。第二に、機関投資家が企業の実態を把握しようにも、企業の情報開示不足が障害となり、有効な株主アクティビズムが実行しにくい状況になっていることである。 |
さらに、株主アクティビズムを進めるにあたってマイナスの要因となる(日本的な)ステークホルダー5)(銀行、取引先、従業員等)が、相変わらず企業経営に強い影響力を有している。
| (3 | )株主アクティビズムの事例は増加傾向にある これまでに機関投資家が株主アクティビズムを実行した事例を見ると、年金基金が受託機関に勧奨した事例は少ない(31基金、約3%)のに対して、受託機関が株主アクティビズムを実行した事例は、過去に比べて6)増加(28社、回答企業数の30%強)しており、株主アクティビズムに積極的になってきている。 |
株主アクティビズムを受託機関に勧奨した年金基金数(有効回答1,185基金) |
| 関与数 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 議決権行使 | 公開質問 状の送付 | 経営計画 の提出 | 社外取締役 の派遣 | 株主代表 訴訟 | その他 | ||
| 年金基金 | 31基金※4 | 20基金 | 4基金 | 1基金 | 1基金 | 1基金 | 1基金 |
株主アクティビズムを実行した受託機関数(有効回答89社) |
| 関与数 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 議決権行使 | 日常的コミニュ ケーション | 公開質問 状の送付 | 社外取締役 の派遣 | 株主代表 訴訟 | その他 | ||
| 受託機関 | 28社 | 20社 | 12社 | 1社 | 1社 | 0社 | 0社 |
(4 | )株主アクティビズムへの取り組み姿勢は、年金基金7)については資産規模で、受託機関については金融機関の業態で異なっている |
年金基金では、総じて、小規模基金より大規模基金の方が、運用や株主アクティビズムなどのガバナンス行動への関心が高い。また、株主アクティビズムに影響を及ぼすと考えられる母体企業と基金運営との関係を見ると、小規模基金では、運営を母体企業に依存している基金も多い。一方、大規模基金の場合は、母体企業からの独立運営を目指している基金が多数見られる。 |
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受託機関では、金融機関の業態別に見ると、信託銀行の場合は、受託者責任を遵守する体制整備を優先している。生命保険会社の特別勘定は、積極的なガバナンス行動を優先するグループと、信託銀行に準じて、受託者責任を遵守する体制整備を優先するグループとに区別される。外資系投資顧問会社の場合は、ガバナンス行動に積極的に(消極的に)取り組む姿勢がある会社ほど、受託者責任を遵守する体制整備も積極的に(消極的に)取り組んでいる。
(5 | )急速に導入が検討されている自家(インハウス)8)運用 年金基金のインハウス運用導入について調査したところ、202の基金で導入予定、および、導入を検討する回答となっていた。この結果は、過去の調査に比べて著しく増加9)しており、昨年6月の規制緩和を受けて、インハウス運用への関心が急速に高まっている。 |
III.まとめ
【機関投資家は銀行に代わり、コーポレートガバナンス機能を果たす存在となりうるのか?】
アンケート結果によれば、機関投資家は、受託機関を中心に、総じて、株主アクティビズムに意欲的であり、運用パフォーマンスを高めようとしている。年金基金でも、大規模基金を中心に株主アクティビズムへの関心が高くなっている。また、インハウス運用への関心も高まっており、これが年金基金による株主アクティビズムに繋がる可能性がある。株主アクティビズムの事例は増加傾向にあり、積極的に投資先企業へ関与する姿勢もアンケートからはうかがえた。しかしながら、わが国の機関投資家が、銀行に代わりコーポレートガバナンス機能を果たす存在となるためには、企業の情報開示不足が障害となっているのに加えて、日本的なステークホルダーが影響を及ぼしていることも明らかとなった。
今後は、企業の情報開示レベルの一層の向上に加えて、現在進行している株式持合の解消がさらに進展するならば、効果的な株主アクティビズムが浸透する環境が整ってくると思われる。
◆ ◆ ◆
本報告書の内容や意見は、執筆担当者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所のものではありません。
| 【参考】報告書の構成 | |
| ○ | プロローグ〜アンケート調査の目的 |
| I | .機関投資家とコーポレートガバナンス |
| II | .わが国機関投資家のコーポレートガバナンスに関するアンケート調査 |
| III | .分析の手順と主要な問題意識に対する概観 |
| IV | .年金基金・受託機関の意識や行動〜プロフィール項目とその他項目間のクロス分析を中心に |
| V | .ガバナンス方針の傾向-タイプ別によるグループ分け〜主成分分析から |
| ○ | エピローグ |
| 問合せ先・連絡先 財務省(TEL 03-3581-4111) 財務総合政策研究所・研究部 研究企画課長:小原(内線5229) |
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| 【参考】 「わが国のコーポレートファイナンスとコーポレートガバナンスに関する研究会」メンバー名簿 | |||
| (敬称略・50音順、肩書きは2001年7月6日現在)
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| 【座長】 | 大村敬一 | 早稲田大学大学院商学研究科客員教授 | |
| 【メンバー】 | 蟻川靖浩 | 山形大学人文学部専任講師 | |
| 池尾和人 | 慶應義塾大学経済学部教授 | ||
| 鈴木 誠 | 大和総研(米国)主任研究員 | ||
| 首藤 恵 | 中央大学経済学部教授 | ||
| 広田真一 | 早稲田大学商学部助教授 | ||
| 深尾光洋 | 慶應義塾大学商学部教授 | ||
| 松浦克己 | 横浜市立大学商学部教授 | ||
| 宮島英昭 | 早稲田大学商学部教授 | ||
| 米澤康博 | 横浜国立大学経営学部教授 | ||
| 若杉敬明 | 東京大学大学院経済学研究科教授 | ||
| 【オブザーバー】 | 楠美将彦 | 高千穂大学商学部専任講師 | |
| 【報告書執筆者】 | 大村敬一 | 早稲田大学大学院商学研究科客員教授 | |
| 首藤 恵 | 中央大学経済学部教授 | ||
| 増子 信 | 財務省財務総合政策研究所研究部研究員 | ||