財務総合政策研究所

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新聞発表

平成13年6月25日

「地方経済の自立と公共投資に関する研究会」報告書について



I.目的・経緯


 公共投資は、これまで日本経済の発展や国民生活の向上に大きな役割を果たしてきたと考えられるが、近年は、公共投資の効率性が全体として低下しているのではないかとの指摘も多くなされている。その一方で、国や地方公共団体の財政が悪化している。公共投資の投資効果を高め、効率化を図ることが必要である。しかし、公共投資が削減されたのでは地方経済は立ち行かないとの指摘もあり、地方経済自立の方策が求められている。
 このような問題意識に基づき、財務総合政策研究所では、貝塚啓明座長(当研究所名誉所長、中央大学法学部教授)の下で、「地方経済の自立と公共投資に関する研究会」において、公共投資の役割やその効率性、地方経済の自立等についての議論・検討を行ってきた。

II.報告書について

 本報告書は、当研究会における議論・検討の結果を踏まえ、メンバーである学識経験者の分担責任執筆により作成されたものである。

(1)報告書の要点

公共投資の問題点

 日本は対GDP比で主要欧米諸国よりも高い水準の公共投資(公的固定資本形成)を行ってきている。戦後各国とも公共投資の水準を上昇させたが、アメリカは1958年(3.21%)、ドイツ1964年(4.76%)、フランス1968年(4.38%)、イギリス1974年(5.33%)、をピークとしてその後水準を低下させてきている。一方、日本は依然として6%以上の公共投資を続けている(図表(1))。戦後の社会資本は壊滅状態であったため、公共投資の効率性は高かったが、効率の大きい事業から進めていけば、効率性は低下していくことになる。例えば、高速道路の平均交通量を見ると、開通の新しい高速道路ほど交通量が少なくなっている(図表(2))。

図表(1) 公的固定資本形成(一般政府)の対GDP比率の推移

図表(2) 全国高速道路と平均交通量(一日・1km当たり)の関係(98年)

 社会資本の整備が進むにつれて、より効率性の高い公共投資を選んで行う必要があるにもかかわらず、そのように行なわれていない理由としては、(1)公共投資の役割として所得再分配、景気対策が重視され、この場合は効率性よりも投資量を確保することに関心が強いこと(第1章第2節)、(2)公共投資の分野別配分の硬直化(第2章第1節)、(3)実状にあわなくなった開発制度の長期化(第3章第1節)、(4)国の補助により地方の自己負担が小さいこと(第2章第5節)、(5)地方経済の公共投資依存(補論)、が指摘されている。
 (5)についてはデータから、地方がその経済、雇用を公共投資に依存するようになってきたことがわかる。すなわち、まず1995年では都道府県民一人当たり所得の低い都道府県ほど、都道府県民一人当たり公的固定資本形成(公共投資)額が多い。しかし1955年では、逆に一人当たり所得の高い都道府県のほうが一人当たり公共投資が多くなっている(図表(3))。次に、公共投資が多い都道府県ほど就業人口に占める建設業就業者の割合が高く、公共投資を多く行うことによって雇用を維持していることが1997年のデータからわかる。1959年にはこのような関係はみられなかった(図表(4))。

公共投資の効率化

 公共投資を効率化する方策として次のような意見が示された。(1)景気対策、所得再分配機能の見直し(第1章第1節)、(2)個別の公共投資の事前と事後の費用便益分析を着実に行うとともにその分析結果・手法を広く公表すること(第2章第3節)、(3)開発計画を見直し、地域が主体となって作成する計画を重視すること(第3章第3節)、(4)公共投資の受益と負担のメカニズムがより働くようにすること(第1章第5節ほか)、である。

地方経済の自立に向けて

 受益と負担のメカニズムが今よりも働くようになると、公共投資が大幅に減少する地方も出てくると考えられる。公共投資が減少すると、地方経済も公共投資に支えられているところは、自立に向けた取り組みが必要となる。
自立のために必要な視点は、「マチづくり」、「モノづくり」、「ひとづくり」があるが、その中でも、地域の発展戦略の立案・実施を担う「ひとづくり」が重要である。「ひとづくり」には地域との連携や、マチづくりがひとづくりにつながることも指摘がなされている(第6章第2、5節)。
また、人的資本よりも実物投資に必要以上に財源が配分されがちであるが、過疎地域でも人的資本への投資のほうが、長期的には地域の活性化に役立つとの指摘もある(第1章第4節)。

図表(3)-1 所得と公的固定資本形成(公共投資)の関係(1995年)

図表(3)-2 (1955年)

図表(4)-1 建設業における就業人口と公的固定資本形成(公共投資)の関係(1997年)

図表(4)-2 (1959年)

(2)報告書の概要

第1章:社会資本整備(公共投資)の役割
井堀利宏(東京大学大学院経済学研究科教授)
 近年の我が国の財政政策は、公共投資による景気刺激策を重視する傾向がみられ、その結果、公共投資への関心がその中身よりも量に移っていった。しかし、最近では公共投資はこれまでほど民間消費を誘発しておらず、便益効果も悪くなっている。また、地域間の所得再分配政策により、公共投資の既得権益化もみられる。非効率な公共投資をなくすためには、受益と負担を分離している地方交付税制度を、まずスリム化することが必要である。
 実物投資と同様に、教育投資は労働の質を高めて人的資本を蓄積し、研究開発は新技術の開発を通じて将来の生産性を上昇させることで、ともに経済成長に貢献する。

第2章:公共投資の地域間配分とその経済効果
三井 清(明治学院大学経済学部教授)
 公共投資の効率性を向上させるためには、費用・便益分析の手法・データを公開すると共に、実質的な補助割合が過大になっていると考えられる国庫支出金や地方交付税制度の見直しが必要である。
 また、個別の公共投資の費用・便益分析に加えて、地域別・分野別社会資本のデータを用いた生活環境改善効果の推計を補完的に用いることが考えられる。実際に、生活環境改善効果は地価に反映されるとする「資本化仮説」に基づき、各都道府県について実証分析した結果、どの地域においても、産業基盤型(道路、港湾など)より、生活基盤型(下水道、廃棄物処理など)あるいは防災基盤型社会資本(治山、治水など)のほうが限界便益が高く、そして大都市圏では生活基盤型より防災基盤型社会資本の限界便益が高く、地方圏では防災基盤型社会資本より生活基盤型社会資本の限界便益が高いという結果を得た。

第3章:地域活性化に向けた地域計画・政策
大西 隆(東京大学先端科学技術研究センター教授)
 戦後の地域開発は、戦災復興、高度成長の時期を経て継続されてきたが、80年代になると制度の効果が疑問視されはじめ、90年代には本格的な制度見直しが始まり、日本の地域開発は転換期を迎えている。今後の地域計画は、全ての地域が同じような産業発展を目指す国土全体計画の一部ではなく、まず地域が作る地域計画があって、その調整としての広域計画がある、という「下からの計画」策定が重要である。そのためには、策定主体の分権化や地域計画に含まれる土地利用、交通施設整備などについての一層の分権化が必要となる。

第4章:地方財政制度と公共投資
  −地方の自立を支える財政制度に関するジレンマ−
小西砂千夫(関西学院大学大学院経済学研究科教授)
 国および地方も財政は厳しい状況にあるが、地方交付税の縮小、地方税の増税という方向へ向かうとすれば、地方の独自財源を増やす反面、財源が乏しい団体では今の公共サービスの維持ができなくなる。全ての自治体が基本的にワンセットの全国一律の行政サービスを提供する発想から転換し、一律のサービスは最低限として、それ以上は自ら財源調達できる範囲で充実させ、公共投資もその範囲で行う、という原則に戻ることが必要である。

第5章:公共投資の効率化 −PFI成功の鍵:第三セクターからの教訓−
赤井伸郎(神戸商科大学経済研究所助教授)
篠原 哲(財務省財務総合政策研究所研究部研究員)
 公共投資に民間の活力を導入するPFI方式が注目されている。これまでも、同様に民間資金を活用する第三セクター方式が行われてきたが、赤字や破綻の例も多く、全体としては成功とは言えない状況にある。しかしPFI方式で、事業をできる限り民間業者に委ねるとともに、契約を明確化することで、第三セクターの主たる失敗の原因である損失発生時の事後的な責任体制の不明確さ、そのために生まれる事業化の見通しの甘さ、を除去できれば財政資金の効率的な使用を達成する事ができる。しかし一方で、契約の当事者である官側もリスクの見極め等能力向上が必要である点も重要である。

第6章:地域経済の活性化と自立的発展 −地方経済自立のための方策−
大熊 毅(日本政策投資銀行地方開発部部長)
 我が国の、特に地方圏において、経済活動が総じて低調に推移する中で、既に人口の減少と高齢化が同時進行している地域が頻繁に見られる。こうした中で、効率的な財政運営を行いつつ、地域経済を自立的に再活性化させるためには何をなすべきかが、問われている 。
 地域経済自立に向けては、「マチづくり」、「モノづくり」、「ひとづくり」の視点が必要であり、その中でも、地域の発展戦略の立案・実施を担う「ひとづくり」が重要である。その方法として地域と大学の連携などがある。

補論:公共投資の効率性の改善と地方経済の自立についての一考察
初岡道大(財務省財務総合政策研究所研究部主任研究官)
中居良司(財務省財務総合政策研究所研究部研究員)
本田 創(財務省財務総合政策研究所研究部研究員)
篠原 哲(財務省財務総合政策研究所研究部研究員)

 地方経済の公共投資依存とみられる状況については、(1)所得の低い都道府県ほど公共投資に依存している。(2)雇用という観点では、所得の低い都道府県ほど雇用が建設業に支えられている。(3)公共投資が多い都道府県ほど建設業の割合が高いため、公共投資を多く行うことによって雇用が維持されていることがデータからわかる。また、これらの関係は過去には見られなかった。


本報告書の内容や意見は、執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所のものではありません。
 
(問合せ・連絡先)
財務省(Tel 03-3581-4111)
財務総合政策研究所 研究部
 主任研究官 初岡(内線 5223)