財務総合政策研究所

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新聞発表

平成12年11月16日
大    蔵    省

「少子高齢化の進展と今後のわが国経済社会の展望」研究報告書について


 
21世紀に入り、わが国は本格的な少子高齢社会を迎えます。そして、労働力人口の減少による経済成長へのマイナスの影響、勤労世代の社会保障負担の増加に対する懸念などが強く指摘され、将来への不安を生み、少子高齢化する未来を暗いものととらえられることとなっています。
 しかし人口減少は悪いことばかりではないはずです。1900年には4,300万人であった日本の人口が、100年後の今日、3倍近い1億2,700万人になりました。その間、日本の経済力は格段に向上しましたが、過密、環境破壊、土地問題等狭い国土に人がひしめき合う弊害を経験することになりました。その人口増加のベクトルが初めて逆転しようとしているのです。それなのにどうして未来が暗いのでしょうか。人口減少によって住宅が取得しやすくなる、通勤地獄、道路混雑の緩和など良くなるところもあります。また、本当に経済的豊かさが損なわれるのでしょうか。この疑問がこの研究の発端となりました。
 このため、財務総合政策研究所では、昨年夏以降、内部研究としてこの研究を行い、有識者の方々にアドバイザーとなって頂き、研究の成果に対するコメントを伺いながら進め、今回研究報告書としてとりまとめました。


報告書の概要

第1章 生産性の上昇で日本経済は発展

 少子高齢社会は「人口減少、経済縮小、負担増」というイメージが先行しているが、労働生産性が上昇すれば、社会保障負担が増加しても労働力人口一人当たりの可処分所得は増加し、豊かさを損なうことはない。


[1]少子高齢化と経済成長
 先進諸国の労働力人口増加率と、労働生産性伸び率の関係を見ると、1990年以降既に労働力人口が減少している7か国すべての国で労働生産性は上昇しており、その平均伸び率は2%である(図1−2)。これは、労働力人口の減少が誘因になって、労働力の一層の有効活用が図られ、労働節約的な技術革新が促進されるためと考えられる。
 また、内外価格差を考慮した購買力平価で日米の労働生産性を比較すると、日本はまだ米国に追い付いておらず、キャッチアップの余地が残されている。日本より労働生産性の高い米国で90年代平均1.9%、直近5年平均2.5%、労働生産性が伸びていることから、日本もその程度の伸びを達成する可能性がある。日本はこれまで、
90年代の0.5%を例外とすれば、70年代3.5%、80年代2.8%、労働生産性を伸ばしてきた。
 以上より、今後2025年度まで2%、それ以降2050年度まで1.5%の労働生産性伸び率であれば、実現可能と考えられる。この労働生産性伸び率が達成できれば、2025年まで1.57%、それ以降2050年度まで0.56%の実質経済成長となる

図1−2 労働力人口増加率の低い国ほど労働生産性は伸びている

労働力人口増加率の低い国ほど労働生産性は伸びている
  (注、出所)報告書本編参照

[2]勤労世代の負担と可処分所得
 前述の労働生産性伸び率と現在の労働力率を前提にして、今後の勤労世代の可処分所得を実質ベースで試算すると(社会保障負担のうち、年金は厚生省の推計方法により試算、医療は2025年度は厚生省の推計値より試算、2050年度はその延長、介護は厚生省の2010年度の推計値を延長)、少子高齢化の進展に伴って勤労世代の負担は確かに増加するものの、労働力人口一人当たりの可処分所得は2025年度まで年平均1.3%、それ以降2050年度までは1.2%で伸びていく(表1−6)。

表1−6 負担が増えても拡大する可処分所得

負担が増えても拡大する可処分所得
(注、推計方法、出所)報告書本編参照

[3]産業毎の効率化の余地と規制緩和
 日米の労働生産性を産業毎に比較すると、機械、一次金属などを除いてほぼすべての産業で日本は米国よりも労働生産性が低く、この労働生産性の低い産業分野に余剰の就業者が存在すると考えると、“余剰就業者数”は全産業で
1,700万人にもなる。規制の強い分野ほど労働生産性は相対的に低い傾向があるので、効率化のためには、規制緩和をはじめとする経済の構造改革を推し進めることが必要である。


[4]人口減少がもたらす生活水準の向上
 人口の減少は悪い面ばかりではない。人口の減少は、生活の豊かさの中でこれまで達成できなかった部分を実現可能にする
 まず、住環境が改善される。例えば、一人当たりの住宅面積をこれまでと同程度の住宅投資が行われると仮定して試算すると、
2018年には現在の英国(40.2m2)、2043年には現在の米国(64.0m2)を追い抜く。
 また、通勤地獄や道路渋滞も緩和される。例えば、最も混雑の激しい東京圏について、15〜64歳人口の減少による通勤電車の混雑率の低下を試算してみると、1998年度の183%から2025年度には152%へ31%ポイント低下する。



第2章 働きたい女性・高齢者の参加で一層日本経済は発展

 第1章の試算は、現在の労働力率を前提としているが、働きたい女性・高齢者を支援し、労働市場に参加する女性・高齢者が増えれば、労働力人口の減少幅は小さくなり、更なる成長を実現できる。
 働きたい女性を保育所の充実などにより支援することにより、仮に、北欧4カ国より実現性が高い米独仏平均までパートタイム労働により女性の労働力率が高まるとすると、2025年128万人、2050年106万人(フルタイムの労働者として換算)労働力人口が増加し(図2−3)、実質GDP、国民一人当たり実質GDPも増加する

図2−3 女性の労働供給余力は大きい

女性の労働供給余力は大きい
(注、出所)報告書本編参照

 日本では、高齢者の労働意欲が高いので、その維持が課題である。終身雇用や年功序列賃金体系など日本的雇用慣行が変化するなかで、短時間雇用など多様な形態による雇用機会の確保、多様な職業情報ネットワークの構築など、高い労働意欲を失わせることがないよう高齢者が働ける環境を整えることが必要である。



第3章 介護の充実と医療の効率化

 介護保険により介護が充実すれば、同じ可処分所得でも、介護不安のために貯蓄していた分を消費に回せるようになる。また、医療が効率化できれば、第1章の試算の負担を減らし、可処分所得を増加させることができる。
 医療については、諸外国に比較して外来受診回数が多い(図3−6)、高額医療機器が多い、平均入院日数が長いなど効率化して医療費の負担を減らす余地が多くある。

図3−6 日本は外来受診回数も費用も高い

日本は外来受診回数も費用も高い
(注、出所)報告書本編参照

 



第4章 これからの高齢者の生活設計

 年金については、給付をスリム化する改正が2000年に行われた。今後のあり方については積立方式への移行や民営化論等まだまだ議論がある。しかし、受給額に着目してみると、今回改正でも、着実に経済が成長して賃金が上昇していけば、若い世代になるほどその成長の恩恵を受け、今の高齢者の受給額と比較してみると、30歳でほぼ同等(▲1.0%)になり、20歳では上回る(+7.0%)こととなる(表4−3)。

表4−3 実質賃金の上昇により年金の減少幅は抑えられる

実質賃金の上昇を考慮した場合 (1999年度価格、万円)
 生涯平均受給額改革による影響[1]と[3]の比較保険料負担
(うち事業
主負担分)

改革後
受給額
と負担
額の差
改革後
年齢(1999
年末時点)
改革前改革後減 少 率減 少 率
70歳 [1] 6,781 6,495 ▲4.2% ▲4.2% 1,242 (573) 5,253
60歳 7,280 [3] 6,760 ▲7.1% ▲0.3%
50歳 6,975 6,412 ▲8.1% ▲5.4% 4,275(2,025) 2,137
40歳 7,423 6,206 ▲16.4% ▲8.5%
30歳 8,187 6,711 ▲18.0% ▲1.0% 8,187(4,027) ▲1,476
20歳 9,031 7,254 ▲19.7% +7.0%
(注、出所)報告書本編参照

 その一方で、年金以外の生活を支える新しい状況も生まれている。例えば、大都市圏の高齢者世帯のうち、単身世帯の29.4%、夫婦世帯の45.7%が100m2以上の住宅に居住している(図4−8)。定期借家権によって賃貸が活発になれば、広い自宅を貸して、安くて世帯サイズに合った賃貸住宅に暮らし、その差額分を生活費に充てることができる場合も考えられる。
 年金減額にばかり目を奪われることなく、年金以外でプラスとなる面にも着目して総合的に考えることも必要である。

図4−8 高齢者世帯の半数は100m2以上の住宅に居住

高齢者世帯の半数は100m<sup>2</sup>以上の住宅に居住
※京浜葉大都市圏のみ抜粋、全国の高齢者世帯平均では100m2以上が50.1%
(出所)報告書本編参照

 

第5章 今後の高齢者の生活

 今の日本の高齢者の生活を国際比較してみると、健康で、全体としての生活の満足度は劣らない。しかし、暮らしには困っていないが、生活がなりたたなくなる不安を持ち、住宅に不満を持ち、趣味が少ない結果テレビに偏りがちな生活をしている(図5−7(4))。

図5−7(4) 趣味の数が少なく、テレビに偏りがちな日本

(出所)報告書本編参照

 元気で多様な経験を持つ今後の高齢者が、例えば生涯学習、ボランティア活動で自立して社会的に積極的な生活をするようになれば、高齢者の生活も充実し、現役世代を逆に支えることにもなる。増加する高齢者が積極的に活動することにより、少子高齢社会は、高齢世代にも現役世代にも快適な社会になることができる。

※本報告書の内容や意見は、執筆者個人に属し、大蔵省あるいは財務総合政策研究所のものではありません。

問合せ先・連絡先
大蔵省(TEL 03-3581-4111)
財務総合政策研究所・研究部
 初 岡 (内線5223)


<少子高齢化の進展と今後のわが国経済社会の展望>

研究体制及び執筆担当一覧
原田 泰 大蔵省財務総合政策研究所次長(総括)
初岡道大 大蔵省財務総合政策研究所研究部主任研究官(総括、はじめに、第5章)
鳥生 毅 大蔵省財務総合政策研究所研究部研究員(第2章、第4章1.)
大野 啓 元大蔵省財務総合政策研究所研究部研究員(第3章、第4章2.)
岡橋 準 大蔵省財務総合政策研究所研究部研究員(第1章、補論)

 

アドバイザー一覧
(敬称略、五十音順)
石山嘉英 千葉商科大学政策情報学部教授
大田弘子 政策研究大学院大学助教授
木村陽子 奈良女子大学生活環境学部教授
小村 武 大蔵省財務総合政策研究所顧問
島田晴雄 慶応義塾大学経済学部教授
清家 篤 慶応義塾大学商学部教授
高山憲之 一橋大学経済研究所教授
橘木俊詔 京都大学経済研究所教授
続木文彦 株式会社さくら総合研究所環境・高齢社会研究センター主任研究員
福井秀夫 法政大学社会学部教授
藤井眞理子 東京大学先端科学技術研究センター助教授
丸尾直美 日本大学総合科学研究所教授
八代尚宏 上智大学国際関係研究所教授
矢野眞和 東京工業大学大学院社会理工学研究科教授
山田昌弘 東京学芸大学教育学部助教授
  
アドバイザー会合
第1回 平成11年12月21日 全体の構成
第2回 平成12年3月31日 前半部分の草稿
第3回 平成12年9月28日

後半部分と全体の草稿、及び労働生産性上昇の根拠、
高齢者の労働力率等の個別事項