財務総合政策研究所

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新聞発表

平成12年6月30日
大蔵省

 

「21世紀初頭の財政政策のあり方に関する研究会」報告書

 

 財政金融研究所では昨年10月以降、貝塚座長(中央大学法学部教授、当研究所名誉所長)の下で学識経験者にお集まり頂き、今後の中長期的な財政運営を考える上で、主として財政支出を中心に公共部門が抱えている問題とその克服策について、理論面を中心に多角的な視点から議論・検討してきました。
 財政金融研究所は、今回、こうした成果を踏まえて、メンバーである学識経験者の分担執筆により報告書を取りまとめました。

 

 

報告書の概要

 

 

第1部 総論
 第1章 公共部門の役割  (奥野 信宏)
 これまで、公共部門は我が国の目覚しい経済発展を支えた重要な柱であったが、特に、バブル崩壊後は、雇用と所得維持を目的とする財政依存を高めた経済運営に問題が生じている。しかし、21世紀の国民生活と産業の活力を維持するには依然として社会資本整備が重要な役割を果たす。今後の社会資本整備のあり方としては、地域の要求が多様化しているため、基本理念を「地域の厚生の最大化」に転換し、信頼性の高い政策評価に基づき整備を図る必要があるほか、整備手法にもPFI方式(民間業者が建設・運営し、自治体が使用料を払ってサービスを購入)を積極的に検討すべきである。

 

第2部 裁量的財政政策の有効性・効率性と財政運営
 第2章 日本経済の構造変化と裁量的財政政策の有効性  (足立 英之)
 公共投資の乗数効果や生産誘発効果は低下しているとはいえないが、低下した印象を与えるのは公共投資に続く民間経済の自律回復力が低下していることによる。公共投資の有効性はそれが民間の自律的な回復に結びつくか否かによる。
 また、公共投資の効果はこうした乗数効果などの短期的な需要創出効果の側面からのみ評価するのではなく、中長期的な生産力効果及び需要創出効果の観点からも評価されるべきであり、将来のリーディング・セクターになるとみられる情報通信産業、教育研究などの分野に重点的に振り向けられることが望ましい。

 第3章  裁量的財政政策の非効率性と財政赤字  (土居 丈朗)
 特に、90年代央以降、硬直的な補正予算編成・変化しない公共投資の地域間配分・政治的影響を受ける年金制度改正など、現実の政治プロセスによっていくつかの配分ミス(資源配分上の非効率)が生じている。こうした裁量的財政政策の財源の大部分は安易な公債発行によって賄われており、公債発行の持続可能性に疑問が生じている。
 こうした非効率を抑制するには、[1]対GDP公債残高比が高まった場合に、対GDP基礎的財政収支比を引き上げるような財政運営、[2]税収増の使途を「補助金支出」と「財政赤字削減」とに区分、[3]より信頼できる政策評価制度の構築、などの具体策を導入する必要がある。

 

第3部 財政支出の効率化
 第4章  社会資本の地域間・分野別配分について  (三井 清)
 財政支出の大きなウェイトを占める社会資本整備については、高度成長期以降の地域間・分野別の産業基盤型公共投資の配分が大都市圏と地方圏の生活水準の格差是正にどの程度役立ったかについて、その他の政策手段(地域間の所得移転や生活基盤型社会資本整備)との政策効果の比較を行うことが重要である。シュミレーションの結果を踏まえると、集積メリットのある都市部に生産基盤型社会資本整備を充実させることが経済効率上望ましいといえる。

 第5章  社会資本の計画的整備  (松谷 明彦)
 我が国の景気対策は政府投資に大幅に偏っており、近年では補正予算を通じて政府投資が益々大規模化する傾向にある。こうした社会資本整備の混乱を是正するには、社会厚生全般の視点から、中長期的な計画に基づいて公共投資を行う必要があるとともに、実施主体を意思決定の主体である家計に近い地方へ移管する方が望ましい。

 第6章  国と地方の財政関係  (齊藤 愼)
 地方交付税の地域的配分については極端な格差が生じているほか、特に社会保障費の配分に関して実態との乖離がみられるなど問題が多い。地域間の「受益」・「負担」比率の格差是正のために、全体の制度の基本的再設計が必要な時期に来ているといえ、国は大規模な財政調整を抜本的に見直すとともに、地方においても行政の手がける分野を極力限定する必要がある。また、地域住民にも応分のコスト負担を求めることが歳出の膨張を防ぐ重要なインセンティブになる。

 第7章 財政支出の政策評価について  (井堀 利宏)
 政策評価はそれぞれのプロジェクト案件ごとに分析の手法が異なるため、費用・便益比を単純比較することには限界がある。しかし、評価の推計方法を公表するほか事業完成後にも事後的に検証を加えることで推計精度をより高めるような工夫を行うべきである。
 また、マクロ的便益評価について民間消費を例にとった実証分析をしてみると、公共投資の高度成長期後のパフォーマンスが悪くなっており、支出目的別では農林漁業関連支出の民間消費に与える効果はほとんど認められなかった。

 第8章 財政支出と政治、利益団体、マスメディアとの関係について
 ―社会保障関連支出を例にあげて―  (横山 彰)
 財政政策をとりまく環境についてみると、これまで、財政政策は政治、利益集団及びマスメディアなどの影響を受ける。これらの関係を見るために、都道府県別に社会保障関連支出を実証分析したところ、高齢人口比率が高いほど投票率が高くなっている点が特に注目され、これに伴う政治的効果が高齢者福祉関連の財政支出増大と密接に関連していることが明らかになった。

 

第4部 財政金融政策とマクロ経済
 第9章 財政赤字と実体経済  (浅子 和美・竹田 陽介)
 財政政策は潜在的には有効であるが、政策発動のタイミングによってその効果は大きく左右される。的確な政策運営を行うにはその前提として政策判断と独立した客観的な景気判断を行うことが必要である。
 財政赤字の将来については金融的には問題は少なく、財政的には増税によって財政赤字が縮小する可能性まで考慮すれば強い意味での持続可能性があるといえる。

 第10章 財政赤字と金融市場
 ―オープンマクロ経済における財政政策の効果―  (福田 慎一)
 仮に、短期金利が実質ゼロとなった現在の日本経済においては、IS曲線とLM曲線が第I象限において交わらないとすれば、GDPがIS曲線と横軸の交点で決定されるという「現代版の流動性の罠」が生じていることになる。そのような状況では、マンデル・フレミング・モデルのメカニズムが働かない(財政政策は経常収支、および為替レートには大きな影響を与えない)。
 なお、中長期的な観点からは、高齢化に伴う貯蓄の減少のもとで財政赤字が続く場合は経常収支が赤字に転化するとともに、長期金利の大幅上昇、過大なインフレが発生する可能性があり、財政赤字累積は極めて深刻な要素を含んでいる。

 第11章 財政政策と金融政策の新たな役割分担について  (齊藤 誠)
 このところ、先進資本主義諸国では、従来型のポリシーミックスの考え方が後退し、金融政策が経済安定化の主たる役割を担うことが期待されるようになり、また、金融政策において、適応的な金融政策から予防的な金融政策へと政策運営が変化しつつあると見られる。この背景には、ブレトンウッズ体制の崩壊に伴う資本市場の自由化の進展があるが、日本においても、財政政策と金融政策の新たな役割分担を明確にすべき時期にある。
 なお、ゼロ金利政策の解除については、新たなマクロ経済政策の枠組みへ転換する格好の契機として捉えることもできるかもしれないが、現在は、細心の配慮を持って慎重に検討していく必要があろう。

 第12章 社会資本の経済効果  (吉野 直行)
 70年代には3程度であったケインズ乗数が、最近、急速に低下し、約1になっている。こうした状況下で、雇用対策に過度にウエイトを置いた財政支出を続ければ、財政が破綻する可能性が高い。具体的には、公共投資の配分を第1次産業の社会資本から、生産力効果の高い第2次・第3次産業向けにシフトさせるほか、地域別では都市部に重点的に配分することが望ましい。また、社会資本整備の財源としてはプロジェクト毎に債券(歳入債)を発行することも経済効率上有用であろう。

 

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 本報告書の内容や意見は、各執筆担当者個人に属し、大蔵省あるいは財政金融研究所のものではありません。


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