| 平成9年7月3日
I.経緯
大蔵省財政金融研究所では、21世紀初頭にも到来する本格的な高齢社会において、高齢者が生活設計を立てる上で重要となる高齢者雇用や年金制度の在り方について検討するため、昨年10月、「高齢社会における雇用と社会保障に関する研究会」(会長 篠沢恭助 財政金融研究所顧問、座長 貝塚啓明 中央大学法学部教授(財政金融研究所名誉所長)、研究会のメンバーは別紙参照)を発足させた。本研究会は、本年6月まで11回にわたり検討を重ねてきたが、今般、その研究成果を『高齢社会における生活設計−雇用と年金との関わりを中心として−』と題する報告書に取りまとめた。 1.高齢者の暮らしを取り巻く状況の変化 高齢者の暮らしを取り巻く状況は、以下のように変化しており、今後、高齢者自身による主体的な生活設計の一環として、個々人の引退の自由を確保しつつ、就業意欲の高い高齢者の就業を促進することが一層重要になると考えられる。 |
(1) | 公的年金の給付水準等の見直し |
| 従来の予想を上回る少子・高齢化の進展に伴い、将来世代の社会保障の負担が過大となり経済力が損なわれることとならないよう、公的年金の給付水準の引下げなど社会保障全体の見直しが不可欠となっている。 | |
(2) | 企業による所得保障の低下 |
| 企業が経営の効率化の観点から、退職金・企業年金を含む総人件費の抑制に取り組んでいることを背景として、被用者の老後の所得保障に占める企業の役割は低下傾向にある。 | |
(3) | 家族等による高齢者の扶養機能の低下 |
| 核家族化の進行や単身者世帯の増勢が強まる中で、伝統的な家族等による高齢者の扶養機能は低下している。
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| 2.高齢者雇用の現状と今後の在り方 |
(1) | 高齢者雇用の現状 | |
| 当研究所が委託したアンケート調査等によれば、大企業のホワイトカラーを中心に年功的な賃金制度、一律的な管理職処遇等の日本的雇用慣行等を要因として、中高年層の企業内での雇用は十分な進展をみていない。なお、中小企業においては中高年層の雇用を弾力的に行っているという見方もあるが、その実態は必ずしも明らかではない。 | ||
(2) | 日本的雇用慣行の変容が及ぼす、高齢者雇用へのプラスの影響 | |
| 近年の経済社会環境の変化に伴い、日本的雇用慣行については、成果主義的な賃金制度への移行・専門職制度の拡充等による年功制の見直し、雇用の流動化に伴う終身雇用制の見直し等、漸次変容していくものと見込まれる。このような日本的雇用慣行の変容により、企業は高齢者を含む被用者の能力と意欲に応じた柔軟な処遇が可能となり、高齢者雇用が経済合理性に見合うものとなることとあいまって、高齢者の就業機会の拡充につながる可能性がある。 | ||
(3) | 高齢者雇用の拡充に向けた主な対応 | |
<個人> | 日本的雇用慣行の変容に伴い働き方の選択肢が拡充される中で、高齢者になっても能動的に働けるよう、若壮年時からのキャリアプランに沿った主体的な専門能力の開発、等 | |
<企業> | [1]キャリアパスの多様化を含む年功制の修正等を通じた継続雇用の推進 | |
| [2]フレックスタイム制等、多様な就業形態による雇用機会の提供、等 | ||
<政府> | [1]高齢者の継続雇用の推進 | |
| [2]雇用の流動化に対応した労働者派遣事業制度の見直し等、労働需給のミスマッチ軽減を図る施策の拡充、等
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| 3.公的年金・企業年金等の現状と今後の在り方 |
(1) | 年金制度の在り方を展望する際の基本的な考え方 | |
| [1] | 年金制度については、その時々の高齢者に対する年金給付の財源をその時点の勤労世代が負担する賦課方式と、高齢者自身が現役の間に積み立てた保険料で賄う積立方式があるが、人口構成の変化や経済変動の影響が異なることから、それぞれ一長一短がある。 | |
| [2] | 我が国の公的年金制度は、現在、事実上賦課方式に近くなっているが、少子・高齢化の進展の中で制度の安定を図るためには、世代間負担の公平性を確保することが不可欠であり、年金給付水準の見直しが求められている。 | |
| [3] | 年金制度に係る役割分担の問題については、予測できないインフレーション等市場の不確実性への対応など幅広い視点から検討していく必要がある。 | |
(2) | 公的年金・企業年金等の現状と今後の検討課題 | |
<公的年金> | ||
| [1] | 世代間の負担の公平問題に対応して、公的年金制度を通じた世代間の所得再分配の在り方について検討を加えるとともに、各世代が納得するネットの所得代替率(現役の平均可処分所得に対する年金給付額の割合)の設定、年金スライド方式の見直し(物価スライド又はネット所得スライドへの一本化)、支給開始年齢の引上げ等給付水準の見直しが必要となっている。 | |
| [2] | 基礎年金部分の財源等の在り方については、現行の社会保険方式との関係、異なる財政システムの長短等に留意して議論を深めるとともに、今後、給付水準の見直しに伴い役割が限定的になると見込まれる報酬比例部分の給付水準の在り方については、公的年金の果たすべき役割の観点に立ち返った検討が必要である。 | |
| [3] | 以上のほか、公的年金と他の社会保障サービスとの役割分担、また、現役世代と年金受給者との間の課税の衡平など年金課税の在り方等の検討も重要である。 | |
<企業年金等> | ||
| 公的年金の給付水準の見直し等に対応して、企業年金・退職金が重要となるが、退職金の原資保全、年金財政の健全化、年金受給権の保護等が課題となる。また、企業年金等に係る税制面の中立性の確保、厚生年金基金の代行問題等も今後の検討課題である。
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| 4.高齢者雇用と整合的な年金制度の在り方 公的年金や企業年金が制度面で高齢者雇用や雇用の流動化を妨げることのないよう、高齢者雇用に対してより中立的な在職老齢年金の在り方について検討するほか、雇用の流動化に対応した個人勘定の確定拠出型年金について検討することが考えられる。 5.これからの高齢者の暮らしを支える個人・企業・政府の対応 今後、少子・高齢化の一層の進展に手対応するため、公的年金の役割が相対的に限定的になると見込まれる中で、高齢者の暮らしにおいては、就労を含む主体的な生活設計が一層重要となる。これに対応して、個人としては、多様な就業機会を活かすことのできる能力を自発的に開発していくこと等が望まれる。また、企業としては、年功制の是正等を通じた高齢者雇用の拡充等に努める必要がある。さらに、政府としては、個人の就業と引退に中立的な諸制度を整備していくとともに、少子化対策等長期的視点から経済社会の活力を維持するための施策を講じていくことが求められる。 (以上) |
| (会長) | 篠沢 恭助 | 財政金融研究所顧問 |
| (座長) | 貝塚 啓明 | 財政金融研究所名誉所長 中央大学法学部教授 |
| (メンバー) | 井堀 利宏 | 東京大学経済学部教授 |
| 岩村 正彦 | 東京大学法学部教授 | |
| 牛丸 聡 | 早稲田大学政治経済学部教授 | |
| 亀山 直幸 | 日本労働研究機構首席統括研究員 | |
| 小池 和男 | 法政大学経営学部教授 | |
| 清家 篤 | 慶應義塾大学商学部教授 | |
| 高山 憲之 | 一橋大学経済研究所教授 | |
| 竹内佐和子 | 長銀総合研究所主任研究員 | |
| 樋口 美雄 | 慶應義塾大学商学部教授 | |
| 深谷 昌弘 | 慶應義塾大学総合政策学部教授 | |
| 村上 清 | 年金評論家 | |
| 八代 尚宏 | 上智大学国際関係研究所教授 | |
| (顧問) | 尾崎 護 | 財政金融研究所顧問 国民金融公庫総裁 |