財務総合政策研究所

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平成8年7月22日
大   蔵   省

「アジア各国の経済・社会システムの現状比較」について

 

  1. 1.  近年のアジアにおける経済発展は目覚ましく、今後世界の経済、政治に占めるアジアの比重はますます大きくなると考えられる。また、我が国自身、アジアの一員として、各国との関係は多方面にわたり従来以上に緊密になっている。このような状況の下で、アジア各国の政治、経済、社会について正確に理解しておくことが、一層重要になってきている。
     翻って我が国をみると、現在、政治、行政、経済等様々な面で従来のシステムの改革が進められようとしている。そのような改革を進める上で、欧米のみならず、アジアの国々を含めた経済・社会システムを十分把握し、世界の経済・社会システムの今後の展開について認識を深めておくことは極めて重要であろう。
     以上のような問題意識に基づいて、財政金融研究所は昨年9月「アジア各国の経済・社会システムの現状比較研究会」を発足させた。学識経験者(別紙1)の指導を仰ぎつつアジア5カ国(中国、韓国、タイ、インドネシア、インド)の経済・社会システムの現状について、経済構造、政治・行政、教育及び人的ネットワークの観点より実証的な比較を行ってきたが、この程その成果を報告書にまとめた。


  2. 2.  報告書の要旨は、別紙2のとおり

 


<アジア各国の経済・社会システムの現状比較>

(別紙1)

学識経験者リスト

 

(敬称略、五十音順)

 

浅見 靖仁 一橋大学社会学部助教授
井上 恭子 アジア経済研究所動向分析部研究員
馬越  徹 名古屋大学教育学部教授
大塚  豊 広島大学大学教育研究センター教授
木崎  翠 横浜国立大学経済学部助教授
倉田 秀也 常葉学園富士短期大学助教授
小島  眞 千葉商科大学教授
佐藤  宏 アジア経済研究所地域研究部長
佐藤 百合 アジア経済研究所国際交流室在ジャカルタ海外調査員
渋谷 英章 東京学芸大学教育学部助教授
首藤もと子 駒澤大学法学部教授
末廣  昭 東京大学社会科学研究所教授
高原 明生 立教大学法学部助教授
西野 節男 名古屋大学教育学部助教授
西村 重夫 京都大学東南アジア研究センター助教授
服部 民夫 同志社大学文学部教授
弘中 和彦 九州共立大学経済学部教授
深川由起子 長銀総合研究所国際調査部主任研究員
村嶋 英治 成蹊大学文学部教授
村田 翼夫 筑波大学教育学系教授
毛里 和子 横浜市立大学文理学部教授

以 上



(別紙2)

アジア各国の経済・社会システムの現状比較報告書要旨

 

1.経済構造
 

 アジア各国の経済・社会を考える上で、まず経済活動において重要な要素であり、かつ様々な面において経済構造を規定していると思われる、人口について考察しておくことが必要である。
 第二次世界大戦後、アジア諸国は、欧米諸国にはかつてなかったような急増な人口増加を経験した。これは、欧米諸国や日本からの医療及び公衆衛生技術の導入により、乳児死亡率の低下が極めて早いペースで達成された一方で、出生率が高止まったためにもたらされたものであった。その後、アジア諸国でも出生率低下がみられるようになるが、アジア諸国の出生率の低下は、政府による人口抑制政策を中心に進行したことが特徴である。中国は、厳格な「一人っ子政策」により人口増加抑制に成功し、韓国、タイ、インドネシアでも政府主導の人口政策が効を奏した。これに対しインドでは、5カ国の中で最も早くから人口政策が採られたが、依然として高い出生率が続いている。
 都市と農村の人口構造をみると、各国とも農村人口の割合が低下し、都市人口の割合が増加するという傾向にあり、韓国を除く4カ国では都市人口に比べ農村人口の割合が高いのに対し、韓国では際立って都市人口の割合が高い。韓国、タイ、インドネシアでは極端な人口の一極集中が進んでいるのに対し、中国、インドでは、数字の上では一極集中の度合は比較的小さい。しかし、巨大都市をいくつも抱えており都市の絶対人口は非常に多い。人口が集中した都市では、交通渋滞、衛生状態の悪化、所得格差など種々の問題が発生している。
 各国の産業別GDP構成をみると、5カ国とも第二次産業、第三次産業の割合が第一次産業の割合を上回っているが、産業別就業者構成をみると、韓国を除き第一次産業の割合が最も高く、雇用面では農業が引き続き重要な位置を占めている。農村人口が都市へと移動していく傾向の中で、韓国を除く4カ国の都市には流入してきた労働人口を吸収するだけの産業の発展が不十分であったといえよう。その結果、農村から都市へ移動した者の一部は、インフォーマル部門と呼ばれる低所得者層を形成した。なお、労働移動に関しては、アジア各国における連鎖的な工業化の進展の中で、アジア全体に労働需要のインバランスが生じ、このためアジア域内での労働者移動の急増という新しい流れが起こっていることも注目すべき点である。
 アジア各国の企業をみると、企業規模に関しては統計資料の関係上単純な比較は困難であるが、大まかにいえば、一般に雇用面で中小企業が、生産面で大企業が中心である。
 しかし、各国によりその程度にかなり差があるといえよう。すなわち中国及びインドでは、生産面でも中小企業が一定の役割を果たしている。これに対し、インドネシアでは雇用面においては極めて多数の小規模企業が大きな役割を果たしているものの、生産面では大企業の役割が大きい。一方、韓国では従来、雇用面は中小企業中心、生産面は大企業中心の形態であったが、生産面でも中小企業のシェアが伸びている。各国(除く中国)の主要大企業に着目すると、国内民間資本の大企業の多くは企業グループに属し、その結果、総じて国営企業、外資系企業、企業グループの3者による「鼎」構造が出来上がっている。しかしながら、その構成は各国において異なっている。インドネシア、インドでは国営企業が大きな地位を占めているが、韓国、タイでは国営企業の役割は限られている。また、韓国では外資系企業の占める割合が限られているのに対し、タイでは外資系企業の果たす役割は大きい。一方、中国では国有企業を中心とした公有的企業の役割が圧倒的に大きい。
 国営企業が大きな地位を占めているインドネシア、インドでは、公企業を中心に据える政策が採られ、また、国営銀行からの資金供給が中心となってきた。韓国では政策金融の役割が大きかったのに対し、タイでは政策金融は殆ど行われず、その結果、両国における企業の発展過程は異なっている。
 企業の内部組織を民間大企業を中心にみると、経営者については中国を除く4カ国では創業者一族の影響力が大きい。タイでは、創業者一族が大株主かつトップ経営陣となっている例が多く、所有と経営が未分離である。インドネシアでも同様であるが、インドネシアの場合は、創業者一族に加えて、共同経営者が存在することが特徴である。インドでは、株式所有に制限があるため、大株主は政府系機関であるケースが多いが、経営には創業者一族が参画している。韓国では、近年、トップ経営陣は創業者一族で継承されているものの、創業者一族の株式所有シェアは低下傾向にあり、経営者層の多くがいわゆる「はえぬき」になる例が増えている。一方、中国の国有企業の経営者層をみると、その長たる「工場長」は企業内部からの「はえぬき」が大企業を中心に多くみられるものの、経営者人事に関しては地方政府や共産党が影響力を持っている。また、郷鎮企業は、工場長につくものは内部昇進であることが多いが、やはり経営者人事は郷村政府の影響力下にある。従業員の採用をみると、各国とも学歴によって規定される面が大きく、高学歴層は管理職層へ就職し、低学歴層は労働者層に就職する傾向が強い。この結果、各国の企業組織をみると、総じて経営者層、管理職層、労働者層の三層構造が出来上がっている。
 

2.政治・行政
 

 各国の政治体制をみると、タイが立憲君主制を採っている以外、その他4カ国は共和制を採っている。このような体制のもとで、インドでは社会的、宗教的、民族的に多様な国民の民主的統一が、また、インドネシアでは国家の一体性などを掲げるパンチャシラが、国家の重要な理念となっている。韓国では、民主的な改革と平和的統一による世界平和への貢献と人類の繁栄を重視することが憲法上うたわれ、タイでは「民族・宗教・国王」が国家観の中心となる考え方として認識されている。社会主義体制を採る中国では、「1つの中心と2つの基本点」が国家理念である。1つの中心とは「経済建設」であり、2つの基本点とは「改革・開放」及び「4つの基本原則(社会主義の道、人民民主主義独裁、共産党の指揮、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想)」である。
 議会制度をみると、インド(下院)、韓国(一院制)及びタイ(下院)は国民の直接選挙で選出されるが、中国の議会にあたる全国人民代表大会(以下「全人代」)は省レベルの人民代表大会(以下「人代」)により選出される。インドネシアでは、立法権を行使する国民議会及び大統領の選出や憲法改正、国の基本方針である国策大綱の制定を行う国民協議会(5年に1回開催)が存在する。国民議会は大統領任命議員(軍部代表)と国民の直接選挙で選出される議員で構成され、国民協議会は国民議会議員及びこれと同数の追加議員(政党や軍部などが決定する議員や大統領任命議員など)で構成される。インド、韓国及びタイでは選挙に関する制限は特にないが、インドネシアでは選挙に参加できる組織が法律により定められ、立候補者に対する軍部や政府機関による事前審査や、憲法を選挙の争点とすることを禁じるなどの制限もある。中国では、省レベルの人代を選出する県レベルの人代は、人民の直接選挙により選出されるが、この選挙の際に中国共産党の指揮を受けた選挙委員会を中心に、候補者の調整が行われるなど中国共産党の影響力が大きい。
 このような選挙制度のもと、インドネシアでは大統領が長を勤めるゴルカル(職能団体)が、軍部の公務員団体などの支持をもとに、国民議会及び国民協議会で安定的に多数派を占め、中国では中国共産党が全人代の約3分の2の議席を占めている。韓国及びタイでは、他の3カ国に比較して、政党が頻繁に合同・分裂を繰り返し、近年の第1党の議席獲得状況をみると韓国では50%を切ることもあり、タイでは20%台前半となっている。特にタイでは、1980年代以降4〜5つの政党による連立政権が続いている。インドでは独立を主導した国民会議派が、1951年の第1次総選挙以来、多数派を維持してきたが、1996年の第11次総選挙では第1党の地位を失い、幾つかの主要な政党が議席を分け合う状況となった。
 行政府の長が国民の直接選挙に選出されるのは、韓国の大統領だけである。インドの大統領は、国会の公選議員及び州議会の公選議員で構成される選挙人団による間接選挙で選出され、首相は大統領が任命する。インドネシアの大統領は国民協議会で選出され、タイでは下院議長が国会の総意や有力者の意見を聞きながら、下院議員の中から首相候補者を決めて国王に上奏し、これに基づき国王が任命する。中国の国務院総理は全人代において選出される。これらの国では、いずれも政治・行政全般に対する行政府のイニシアティブが強い。韓国及びインドネシアでは、制度的に広範な権限を有する大統領の影響力、指導力が大きい。インドでは制度上は、大統領に広範な権限が与えられているが、大統領の権限行使にあたっては、首相を中心とする大臣会議の助言に拘束されるため、首相のイニシアティブが大統領のそれに優越する。タイでも政治・行政全般に対する首相の権限が大きいが、国民との対話を重視する国王も広く国民の信望を集めており、国王も大きい影響力を有する。中国では国務院総理が、中央行政のすべての責任を負う総理責任制が実施され、国務院総理の権限が強い。なお、中国では憲法前文において、中国共産党が国家を指導する立場にあると規定されており、国務院を始めとする行政機関に、党組や党委員会という党組織を張り巡らせて、党の政策や方針の実現の徹底を図るとともに、重要な行政分野については領導小組という党内組織を設置し、この組織を通じて行政機関を指導するなど、政治・行政全般に対してより大きな影響力を与えている。
 議会と行政の関係をみると、インド及びタイでは、国会に大統領や内閣に対する弾劾訴追権限、内閣不信任決議権が与えられ、一方、行政府にも国会の解散権限が与えられるなど、制度的に国会と行政府の権限が相互に牢制するような形になっている。韓国では、国会には大統領に対する弾劾訴追権が与えられているが、大統領には国会の解散権が認められないなど、国会の大統領に対するチェック機能が担保される仕組みになっている。インドネシアでは、大統領と国民議会及び国民協議会の両者の関係が、憲法上は規定されておらず、憲法解説で大統領は国民協議会に対して責任を負い、国民協議会には大統領の弾劾訴追権があると述べられている。また、人民民主独裁の社会主義国家である中国では、三権分立主義は採らず、民主集中制の原則に従い、制度的には全人代にすべての国家機関が従属すると規定される。ただし、現実には前述のとおり、全人代の構成員の約3分の2が中国共産党員であり、全人代にも党の組織が設置されるなど、中国共産党は全人代に対しても大きな影響力を与えている。
 政策立案過程についてみると、中国以外の4カ国では行政府が大きな役割を果たしており、行政機構内部で作成された政策原案が、大統領や首相の承認を得た段階で実質的に決まる傾向が強い。インドとタイでは、首相を中心とする行政機構の果たす役割が大きいが、与党は政治職である大臣を通じてその意向を政策に反映させることができる。韓国では、大統領及び大統領秘書室が中心となっている。インドネシアでは、政策立案は大統領主導で行われ、多くの政策は法律としてではなく、大統領決定あるいは大統領指令の形で実施される。これらの国々では、行政府から議会に提出された政策案(法案)の内容が議会審議などで大幅に変更されることはない。ただし、インドでは強い反対意見が存在する場合には、行政機構における政策立案段階や閣議決定の段階で、野党との事前調整が行われたり、場合によっては、法案の国会提出後でも法案の撤回が行われることもある。中国では、国務院や各部・委員会(省庁に該当する)などの行政機構が、前述の領導小組と協議をしながら政策立案を進めるなど、中国共産党が政策立案に大きな影響力を与えている。
 一方で、経済発展、社会の安定に伴い近年、政治行政をとりまく状況にも変化がみられる。インドネシア、韓国及びタイでは、これまで軍部の政治・行政に対する影響力が大きかったが、各国とも閣僚に占める軍人の比率が低下するなど、軍部の影響力が低下してきている。インドネシアでは、次期国民議会(1997年〜)からは、大統領に任命する国軍代表の議席数が削減されることが決まっており、韓国では、第6共和国第2期(1993〜)政権において文民政権が成立した。タイでも、1970年代後半から政党政治の定着が図られ、現在は軍部が直接的に政治に関与することができない仕組みになっている。インドでは、産業界や労働界などの利益団体、地域社会などの国民各階層の個別利益が多様になり、各州レベルでは非国民会議派政権が多く成立するなど、多元的な社会の動向が政治にも反映されている。インドネシアでは、所得格差の拡大や都市中間層の台頭、国民の政治意識の高まりといった社会の変化の結果、現在の政治・行政制度の変革を求める声も大きくなりつつある。タイでも、財界などの発言力が強まり、国民が積極的に政治に参加するようになっている。その結果、王室や軍部とともに政党が重要な政治勢力になり、現在は地方分権についての議論も盛んである。中国でも、地方への経済的特権の付与や市場経済化の進展に伴い、地方の経済力が上昇し、省や直轄市などに一部立法権が認められたり、省長選挙において中央の推薦した候補者が落選するなど、特に省レベルの自立性が増大している。このような経済発展の結果、多様化しつつある経済・社会の現実と、これまでの中央集権的な体制との軋轢の調整が各国とも重要な課題となっている。
 

3.教育及び人的ネットワーク


 (1)

 教育制度
 国民教育制度の基礎をなす初等教育の充実は、アジア各国に共通する極めて重要な課題であった。第二時世界大戦以降、継続的努力により、各国とも就学率は著しく向上し、現在統計上では初等教育の義務教育化をほぼ達成した形となっている。しかし、韓国以外の4カ国では、入学した児童が中途退学するなどの問題があり、現実には依然として義務教育の完全実施には至っていない。教育内容に関しては、韓国を除いた4カ国で、労働体験学習が重視されているところに特徴がある。また、特にインドネシアや韓国においては、教育が国民統合の手段として大きな役割を果たしてきた。
 中等教育については、5カ国とも14〜15歳ぐらいまでが義務教育期間である。しかし、実態面をみた場合、初等教育と同様、韓国を除く4カ国においては、義務教育の完全実施に至っていない。なお、この義務教育期間においては、各国とも無償を原則としているが、中国やインドネシアのように教材費等様々な名目での徴収が継続している国もある。在学率(当該教育段階に在学するすべての生徒数を当該教育段階に相当する年齢層の人口で割ったもの)については、各国とも1960年代以降、急速な伸びをを示している。また、このような中等教育の発展において、中国を除く4カ国では、公立とならび私立学校が重要な役割を果たしてきた。
 大学入試の受験資格に関しては、多少国により認定方法は異なるが、各国とも中等教育終了程度の学力を要求している。試験制度については、中国、インドネシア、タイでは、全国統一の大学入試試験が行われる。韓国では、それに加えて、各大学が独自に本考査を行う。なお、タイでは、全国共通試験に先立ち、地方出身学生を優先的に入学させるクォータ制が導入されている。一方、インドでは、他の4カ国と異なり、全国統一試験は行われず、中等学校卒業試験がそれに代わるものとなるが、「指定カースト」及び「指定部族」に対しては、特別枠を設けている。合否判定にあたっては、5カ国とも試験成績を最も重視するが、中国や韓国においては、試験成績と並び内申書も大変重要な判定材料とされる。
 高等教育に関しては、タイ、韓国、インドネシアにおいて学生数の伸び率が高い。特にタイの場合、1970年(55,315人)から1992年(1,156,174人)に20.9倍伸びている。在学率については、韓国が突出しており、1992年は41.6%と、今や世界最高水準にある。中国,インドについては、学生の絶対数は大幅に伸びているものの、他の3カ国と比べると高等教育人口の伸びは限定的である。このように各国それぞれに、高等教育が普及しつつあり、そのことが、各国の指導者養成にも重要な役割を果たしている。
 アジア各国の高等教育制度を考えるにあたっては、外国の影響を見逃すことができない。中国の場合、1950年代半ばまでソ連型高等教育制度の影響を強く受けたが、1950年代半ば以降、中ソ関係の悪化に伴い「ソ連型一辺倒」に対する反省が起こり、中国独自の高等教育制度構築を指向するようになる。しかし、このような動きは文革終了とともに終止符が打たれ、それ以降、「四つの近代化」(農業、工業、国防、科学技術)路線が採択されるのに伴い、米国、日本、英国、ドイツ、フランス等の西側主要国の影響が大きくなった。韓国の場合は、米国の影響が顕著である。特に1953年の朝鮮戦争終結以降、韓国の大学と米国の大学との間で締結された大学間協定が、韓国の高等教育制度を「米国モデル」に基づいて再編する基礎になった。インドネシア、タイ、インドについては、第二次世界大戦以前は、欧州諸国の影響(インドネシアはオランダの影響、タイ、インドは英国の影響)が比較的強かったが、第二次世界大戦後は、米国の影響がより強くなった。
 高等教育の一環としての海外留学も、各国の歴史的・社会的状況を色濃く反映している。中国からの留学先は、1960年代初頭まで、ソ連及び東欧諸国が圧倒的であったが、「四つの近代化」路線の始まる1978年以降は、米国を始めとする西側諸国が中心になった。しかしその一方で、こうした留学生が所定の留学期間を過ぎても帰国しないという「頭脳流出」の問題が深刻となっている。韓国でも米国への留学生が多数を占める。なお、韓国は、歴史的には人文系重視の「文科国家」的色彩が強いが、留学生の専攻分野としては自然科学系が約半数を占める。インドネシアについては、西ドイツや旧宗主国であるオランダへの留学が多かったが、1960年代以降米国への留学が急増した。また、イスラム学の勉学を主目的としたサウジアラビアへの留学も継続している。タイについては、1950年代後半まで、英国への留学が多かったが、1960年代に入ると他のアジア諸国と同様、米国への留学が主流となった。また、タイからの留学先としては、毎年フィリピン、インドの両国が上位にランクされる。タイでも英語能力が就職に有利に働くため、欧米の英語圏に留学できない場合、英語が一般化している両国が選ばれるのであろう。インドの場合、20世紀初頭までは、英国への留学が主流であったが、それ以降、その他の欧州諸国、米国、日本などに留学先が広がった。また、主要留学先には、常に、バチカンとサウジアラビアが入っており、インド社会の多用な宗教構造を反映している。

(2)

 人的ネットワーク(経済界を中心に)
 韓国では、経済界と他分野との間に人材移動が頻繁である。経済界への転入は、官界(官庁、公社・公団等)からが最も多く、反対に、経済界からの転出は政界が多くなっている。経済界内部(4つの大企業グループ〔三星、現代、ラッキー、大宇〕、中小規模の企業グループ、その他民間企業及び経済団体の4者間)における人材移動は、経済界と他分野との人材移動に比べると、その事例は限られている。ただし、ここで特記すべきは、中小企業グループ、民間企業及び経済団体の3者間には、相当程度の人材移動がみられる一方、大企業グループと上記3者間での人材移動は限られていることである。経済界以外の分野における人材移動については、大統領秘書室を中心とした広義の政界が特徴的である。大統領秘書室は、行政官僚機構のみならず、学界、言論界、軍、法曹界等から人材を集め、彼らを社会の各分野に再配置する機能を果たしている。また、地域的要因に関しては、経済界の一部企業グループにおいて、投資先の決定、社員の採用などの面で、慶尚道系、全羅道系等の地域性が指摘されることがある。政界では、経済界以上に地域的要因が大きな意味を持っており、政党の勢力基盤の地域性は明瞭である。しかしながら、近年、大都市ソウルなどを中心にその影響が減少するなど、新しい動きもみられる。その他、韓国政・官界の人的関係については、いわゆる学縁の重要性が指摘されることがあるが、特定大学出身者間における結び付きよりも、地縁・地域性をより濃く反映した特定高校出身者間の関係について言及されることが多い。なお、最近では政界のみならず、経済界においても高度な専門性を持った人材を確保しようとする傾向が出てきており、従来の地縁、血縁などの枠を越えて、特に留学経験者や博士号取得者に対する需要が増大してきている。
 インドネシアの経済界では、華人系企業が大変重要な存在となっているが、これら華人系企業を取り巻く社会的環境は、必ずしも好条件ではなかった。そのため、華人系企業は、政・官界等のプリブミ(先住のマレー系住民)有力者との友好関係構築に腐心し、経営陣としてこれらプリブミを迎え入れた。ただし、華人は経済界、プリブミは政界、軍、官界等を主たる活躍の場とするという大まかな社会的役割分担があるため、両者間の人的交流は比較的限定的である。しかし、近年では、新興のプリブミ企業家が多数現れるなど、プリブミは、経済界にも積極的に進出している。これに対し、華人の場合、経済界以外への移動は依然として限定的である。なお、華人系企業の中には、創業者一族以外に、血縁関係を持たない共同事業者を経営に参画させるところも多く、必ずしも家族・血縁者以外を排除するという排他的構造にはなっていない。
 タイにおいても、インドネシアと同様、経済界における華人系企業の存在は大きいが、それを取り巻く歴史的環境は、必ずしも平坦なものではなかった。そのため、華人系企業は「軍・政治指導者との結合」を選好し、経営陣にこれら有力者を迎え入れた。その後、華人系企業の経営改革の進展と軍の相対的地盤沈下に伴い、軍・政治指導者との結び付きは希薄化するが、それに代わって、官界出身者の華人系企業への移動がみられるようになる。また逆に、華人系企業家が政界へ進出する例も多い。なお、華人系企業では、その主要経営陣を血縁関係者に求めるところが多いが、一部企業においては、血縁者以外の経営テクノクラートを積極的に登用する動きもある。
 インドの大企業グループでは、創業者一族の属する階層的、地域的コミュニティを中心とした人材確保を行うところが多かったが、近年では、「職業的専門性」の有無がより重要性を増し、経営テクノクラート層が多数採用されるようになってきた。また、経済発展に伴い、都市部では、カースト制度の身分的拘束性も弱体化してきており、カースト間の枠を越えた人材移動が頻繁にみられるようになった。一方、経済界以外の分野との関係では、インドの大企業グループは、多くの場合、その筆頭株主となっている国営金融機関から人材を受け入れることがある。ただし、これら国営機関からの人材は、経営に積極的に参画することはなく、経営人材の確保は、基本的に内部養成によっている。その他にインドでは、中小資本家を中心に一部政界へ進出する例もあるが、全体として、経済界とその他分野との間の人材移動は限定的である。