財務総合政策研究所

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新聞発表

 

平成11年6月25日
大   蔵   省

「市場の変貌と今後の展望に関する研究会」報告書について

 

 情報・通信の技術革新、経済のグローバル化を背景に進展してきた市場経済のメカニズムは、各方面から近時、強い関心を集めてきました。特に金融資本市場は、一方で、財・サービスの効率的な資源配分を促進することが期待されてきましたが、他方では一国経済の動向、経済政策運営にも大きな影響を及ぼすようになっています。
 このため、財政金融研究所では昨年夏以降、特に金融資本市場を念頭に置き、貝塚座長の下で、「市場」の役割、「市場」に内在する問題などについて多角的に議論・検討を進めてきました。また、本年3月には、研究会の議論を掘り下げるため、アジア、米、欧からこの分野の3名の研究者をゲスト・スピーカーとして招き、三田共用会議所において国際シンポジウムを開催し、「金融資本市場の変貌」、「金融資本市場と情報」、「金融資本市場と規制」の三つの側面について、意見交換を行いました。
 財政金融研究所は、このような成果を踏まえて、各専門分野におけるメンバー等の分担責任執筆により、今回、報告書を取りまとめました。

 

報告書の概要

 

第1章 金融資本市場の変貌

 金融資本市場は、金融機能の多様化・高度化やグローバリゼーションによって、国際レベルで効率的な資源配分を促進することが期待されてきた。特に、リスク分散、リスクキャピタルの供給、価格メカニズムの調整を通じたメリットが重視された。
 しかし、現実には資産価格等の変動性(ボラティリティー)や行き過ぎ(オーバーシューティング)など、実体経済にネガティブな影響を及ぼす事態も生じてきており、最近では、市場機能の実態に関心を払う動きが生じている。
 市場機能に対する懐疑的な見解としては、例えば、金融資本市場が財の市場とは異なり、不均衡を拡大させる傾向が指摘された。これは、[1]破産や有限責任等の制度的な要因により経営の失敗によるリスクが限定されている一方で、成功した際の巨大なリターンを享受できること、また、[2]情報面で、ヘッジファンドを含む大機関投資家に多くの投資家が追従する群集行動を生みやすいこと等に起因している。このような傾向は、情報通信技術の発達や金融のグローバリゼーションによってさらに拡大しており、アジア危機もこうした要因が背景にある。
 多様化・複雑化する金融においては、金融機関自身がリスク管理の強化に努めることが不可欠だが、それだけではなく、金融当局による[1]情報開示インセンティブの付与に関する仕組みの構築、[2]自己資本比率規制などの健全性の規制の適正化、[3]金融機関・市場の動向に関するモニタリング体制の強化、などが重要であるとの見解が示された。

第2章 金融資本市場と情報

 金融資本市場については、情報が十分に価格に反映されているという観点から効率的資本市場仮説が展開されてきているが、これは米国等の市場関係者や学者に大きな影響を与えている。
 しかし、この仮説の妥当性については、理論面のみならず、実証面でも異論が出てきており、政策や法規制のあり方を考える際に、新たな問題を提起している。すなわち、理論面では、金融資産の価格が自己増殖的に変化し、理由のつかない価格変動をもたらすとするカオス理論、誤った情報等によって価格が大きく変動するとするノイズ理論などがその例である。また、実証面では、効率的資本市場仮説を批判する研究が最近になって米国を中心に発表されている。
 次に、情報量と価格、および市場の効率性との関係については、市場における情報量が多いことは価格の伸縮性が高まり、効率的な資源配分に資する価格形成が行われやすいが、他方、価格は不安定となり、市場を撹乱することにもつながる。また、逆に、情報量が少ない場合、価格は安定的でありえても、価格メカニズムは働きにくくなる。
 これに関連して、株式市場中心の米国型金融システムと、ドイツあるいはキャッチアップ期における日本等の銀行中心の金融システムとの比較もなされた。この場合、情報に対する投資家等の反応が適切なものであれば、株式市場型の金融システムの方が効率的となろうが、情報に対する反応が常に適切とは言えないため、一概に、どちらの金融システムの方が優れていると断言できる理論的根拠はないとの指摘も行われた。

第3章 金融資本市場と規制 及び 第4章 市場と国家

 市場の不安定性を抑制し、市場の本来の機能を発揮させるには、政府の関与のあり方が問題となる。
 この観点から、市場経済を維持していく上で、政府に求められる機能は、これまで、「市場の維持」および「市場の補完」とされてきた。この場合、政府関係者の市場に関する情報把握が劣っている状況下では、「政府の失敗」を招きやすい。このような「政府の失敗」を避けるためには、金融当局の市場への関与のあり方として、市場の土俵作り・環境整備を内容とする「市場の維持」機能を重視すべきであるという見解が示された。
 これに関して、金融が変貌する中で、同種の金融サービスを提供する主体の多様化が飛躍的に高まっていることを考慮すれば、政府による規制・監督は、業態別規制ではなく、機能面(決済機能、金融仲介機能、資産運用機能など)に着目する必要があるとの指摘や、BCCI事件にかんがみて、国際的に連携のとれた規制・監督の重要性を強調する見解も示された。
 次に、金融システムのセーフティーネットについては、政府の守備範囲を「決済機能」に限定してはどうか、との議論も提示された。この議論によれば、決済機能に特化したナローバンク・アカウント預金制度のように、預金を決済性預金とその他に分け、決済性預金勘定には国債などの安全資産での運用が義務付けられるが、こうした制度は、膨大な検査・監督コストを省く意味からも検討に値するとの指摘もなされた。
 また、途上国のセーフティーネットに関しては、海外からの撹乱的な短期資本移動をコントロールすることができるような現実的で有効な制度の開発が必要である、との見解も示された。
 さらに、市場と政府との関係については、金融資本市場の本来的な機能は、金融仲介機能を通じて経済的な効果(ネット・ゲイン)をもたらす点にあるが、今日の技術革新の進んだ金融取引においては、マクロ的に見て、どれだけの効果を生み出しているか把握し難い状況となっており、また、金融資本市場が、時としてバブルのような不安定性をもたらすのが現実問題であるとすれば、政府の介入が必要となる。この場合、政府の役割は、広い観点から論議されなければならないが、日本経済における1980年代後半のバブルから得られる教訓は、融資の実態について情報を収集し、開示することによって、市場の行き過ぎに警鐘を与えるという点に求められようとの見解が示された。

 金融資本市場は、中長期的に見て経済にメリットをもたらすことを否定できないが、最近の事例が示しているように、短期的にはネガティブな影響を及ぼすことが十分あり得る。これは現実面の問題であるのみならず、理論的にも議論され、指摘される傾向にある。
 その意味で、本報告書がこの分野での議論をさらに深めることに役立つことを期待する。

(以上)

(問合せ・連絡先)
大蔵省(TEL 03-3581-4111)
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