財務総合政策研究所

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日米欧の経済・社会システムの現状比較に関する研究会報告書要旨


序章


現在の日本、あるいは世界は大きな変革期にあるが、その変革の性質や規模については必ずしも見解は一致していない。この点に関し、我が国で一般的な見方は、戦後体制、あるいは明治維新以来の官主導のキャッチ・アップ体制の終焉というものである。これに対し、文明論的視点や環境問題などを背景として、変革はより根深いものであり、大衆消費社会・大衆民主主義の構造そのものを変えていかなければならないという主張も少数派ながら次第に強くなりつつある。

我が国における多数派の考え方は、世界の思想の流れの中では新古典派的普遍主義に基づく考え方である。これは西欧(あるいは米国)中心主義的傾向を強く有しており、その意味で日本異質論と位置付けられよう。これに対し、少数派は歴史相対主義的な考え方と位置付けることができる。これら二つの基本的な考え方が、今、我が国を始めとするアジアを主な舞台としてぶつかり合い、そこから歴史が大きく動こうとしている。これは、我が国について言えば、今後の「改革」の方向性と規模をいかにするかという政策論にもかかわる重要な問題である。以上が、今回の比較研究を行うことになった背景にある考え方であり、ここでは従来あまり行われていなかった主要国の経済・社会システムの基本を把握・比較することにより、今後、我々が上述のいずれの考え方により「改革」に取り組んでいくべきかを考える材料を提供しようとするものである。本研究では、主として、

  1. 1.日本が欧米と比較して、果たして「異質」なのかどうか。
  2. 2.主として米国で普遍化された新古典派モデルが、本当に「普遍性」を持って欧米各国 で実現されているのか、あるいは実現されつつあるのか。


という問題意識を持って、各国の制度を実証的に整理した。

経済・社会システムの主要部分という意味で、1.政治・行政、2.教育、3.産業組織、4.雇用システム、5.社会保障の各分野について、日本、米国、英国、ドイツ、フランスの5ケ国における現状比較を行った。この中で欧米4ケ国は、明らかに西欧文明圏、あるいはキリスト教文化圏に属し、日本のみが東アジア文明圏に属しており、その意味で、日本が「異質」であることは自明のことである。しかしながら、日本が異なった文明圏に属しつつも、その制度の「近代性」という意味では「異質」でないということは充分可能であり、日本型あるいはアジア型資本主義が、米国型あるいは西欧型資本主義に対して併存可能と言えるはずである。欧米諸国内部でも英・米的普遍主義と、ドイツ・フランス的個別主義が相互に影響を与え、かつ競合しあっていることは衆知のとおりである。これらを十分念頭に置いて、今後の我が国の進路を議論すべきであろう。



1.政治・行政


政治・行政の比較に当たっては、政策立案・立法過程を見ることが重要である。その際制度上中心的な役割を果たすのは議員であるが、議員の議会活動に大きな影響を与える枠組み的要因として政党の仕組みと議会の制度がある。日欧4ケ国では、一般的に議員行動に対する政党の規律が強く、政党単位の活動が議会活動の中心をなしている。これに対して米国では、政党単位として一枚岩的に議会活動を行うということはむしろ例外的であり、クロス・ヴォーティング(cross voting)と呼ばれる投票形式に見られるように、各議員が個人の主体的判断に基づいて行動する傾向が強い。また米国では、政党が政策遂行機関というよりも選挙活動中心になっており、組織的にも極めて地方分権的である。

議会制度上、議員の立法活動を補佐するものとして公設スタッフ制度が存在する。米国では、各議員が政党から独立して行動する傾向が強いため、議員及び委員会の活動においてスタッフの果たす役割が極めて大きく、特に立法担当スタッフは、議員の分身的存在として立法活動を左右するほどの影響力を有している。日欧4ケ国においては、議員スタッフ、委員会スタッフともに米国議会におけるほどの役割は果たしておらず、規模も限定的である。なお、ドイツでは議会における会派が重要であり、会派補助制度も充実している。

議会における政府提出法案と議員提出法案の成立件数の割合に関しては、各国とも政府提出法案が成立法案数全体の80%前後を占め、議員提出法案の可決率は低い。特に米国においては、年間約1万件の議員法案が議会に提出されているが、実態としては、議員としての活動を自分の選挙区民に対しアピールする目的で提出されることが多く、5ケ国の中でも議員提出法案が可決される率は極めて低い。法案作成の過程で、日本の場合、関係省庁、与党及びその他の利害関係者との間において徹底した事前調整が行われる。特に最終的に与党との事前協議、了承を得た上で政府法案として国会に提出されるなど政党の関与が大きいことが特徴的である。英国では基本的に与党との事前調整はなく、場合によっては議会に提出される法案内容を首相と関係大臣ほか一部の限られた関係者しか知らないことすらある。英国では伝統的に、公務員は「国王に対する奉仕者」であるという位置付けで、大臣職以外の与野党議員と公務に関する接触をしないことが慣行となっている。これは、大臣職にある議員が政党の方針を代弁しつつ政府案を取りまとめるという議院内閣制の仕組みをよく表しているといえよう。ドイツでも政府提出法案に関する与党との事前協議は存在しないが、連邦議会への提出後、与党会派の作業部会が法案審議を行う。フランスでは、法案作成に関し、閣僚と上級職公務員が一体となって強力なリーダーシップを発揮する傾向が強く、またアメリカでは議員個人が主体となるため、政府・与党間における事前調整は極めて限定的である。

実質的な議会審議がどの段階で行われるかについては、英国の本会議中心主義と、米国の委員会中心主義が極めて対照的な類型をなしている。米国では、委員会審議の一環として開催される公聴会が、法案に関する多様な利害関係者に意見陳述の機会を提供するなど、非常に重要な役割を果たしている。日本の場合も議会審議の中心は委員会にあり、本会議は実態として演説と採決の場となっている。ドイツは類型的には、本会議中心主義と委員会中心主義の中間型であるが、本会議で論戦が行われる一方、委員会で法案の実務的審議が行われる役割分担型である。フランスも、ドイツと同様、類型的には本会議中心と委員会中心主義の中間型であるが、議会審議過程上政府法案が優先されるなど、政府権限が極めて強いのが特色である。立法過程に対する外部からの働きかけについては、米国、英国ではロビイストが活発であり、特に米国では立法過程全体を通して常に外部からの働きかけが存在する。日本、ドイツでは事業者団体が大きい役割を果たす。なお、この両国では事業者団体がロビイングのみならず法運用に関し、行政的役割も担っている。

行政制度については、米国では原則として、連邦法の執行は連邦所属行政機関により、また州法の執行は州所属行政機関によって行われる「直接連邦行政システム」を採用しているが、ドイツでは原則として、連邦法の執行を州所属行政機関にゆだねる「間接連邦行政システム」を採用している。これに対し、日本、英国、フランスのような単一主権国家においては、より中央集権的傾向が強く、そのため中央行政組織の規模は相対的に大きい。

国家公務員の採用に関しては、日米欧5ケ国とも一般公開試験によるものと、それ以外の方式による選考がある。競争試験による採用については、日米欧各国とも、一般職と上級職の採用方式を区別している。特にフランスでは、上級職に主としてENA(国立行政学院)、ポリテクニク(理工科学校)等グランゼコール出身者が採用される。非競争試験による採用については、主としていわゆるポリティカル・アポインティーと呼ばれる形で、米国、ドイツ、フランスにおいて行われているが、特に米国では大統領交替時等に数千人単位の政治任命が行われる。公職選挙への立候補及び政党への加入等の国家公務員の政治的行為については、日本、米国及び英国は厳しく制限している。これら3ケ国に対し、ドイツ、フランスでは、政党活動及び公職への立候補等の政治的行為は原則自由である。また国家公務員が公職に立候補し当選した場合、公務員としての地位を維持しながら、地方自治体の議員を兼職でき、次の選挙で落選した場合には、また元の職場に復職することができる。



2.教育


教育は社会構造の基盤を形成するという意味で、経済・社会システムに対して大きい影響を及ぼしている。

初等・中等教育において、日本及びフランスでは、中央集権的な教育行政により学校体系、教育内容は基本的に全国一律である。これに対し、米国、英国、ドイツでは、教育行政は地方分権化され学校体系、教育内容に地域差がある。特に米国では著しく、その結果基礎教育が行き渡りにくくなっている状況すら見られる。また、義務教育の学校体系は、日本、米国に比べ欧州では、英国のパブリック・スクール、ドイツの職業教育学校等に代表されるように、各国の伝統を背景に多様な種類が存在する。

欧州では高等教育機関は中世以来の歴史を持っており、伝統的に社会の指導者層養成を使命としてきた。フランスでは、大学とは別に経済、学術文化、政官界等のいわば指導者養成機関としてグランゼコールと呼ばれる教育機関が存在し、その出身者が社会・経済・政治の指導層を形成している。英国では、いわゆるオックス・ブリッジにおいては伝統的に文学、歴史、語学、哲学等の古典的教養科目が重視されているのに対し、他の大学においては実学中心の教育が行われている。また、フランス程顕著ではないが、オックス・ブリッジ出身者が教育、金融及び政治・行政の分野で多数活躍している。ドイツでは、学位自体社会において重要な資格として認められており、学位取得者、特に博士学位取得者が様々な分野でリーダーとして活躍している。なお近年、欧州において高等教育の大衆化が進展しており、その社会的位置付けも変化しつつある。他国に先駆けて大衆化が進んだ米国では、大学院が高等教育の主要な部分を担っており、修士・博士学位取得者が教育・研究に限らず、政治、行政、経済等の各分野で指導者として多数活躍している。日本では、高等教育の大衆化と、企業による卒業者の新規一括採用という枠組みの中で、大学の専門教育機関としての位置付けが薄れ、企業も大学には専らスクリーニング(審査・選考)機能を期待しているということが現状であると言えよう。



3.産業組織


各国の企業概念を比較すると、日本では、従業員をはじめとする利害関係者の共同体的側面を重視する傾向が伝統的に強く、ドイツ及びフランスもこれに近い傾向を示している。

一方、米国及び英国では、企業を利益の追求のための手段としてみる傾向が強い。このような企業概念は、企業の株主構成(所有構造)や様々な利害関係者の企業への影響力の状態(ガバナンス構造)と密接に関連し、現実の企業行動にも現れている。

所有割合や株主の対人口比率等を総合的にみると、米国、英国及びフランスで個人所有の傾向が強く、日本及びドイツでは弱い。企業概念の面で日本及びドイツと類似しているフランスで個人所有の傾向が相対的に強い背景には、近年、国営企業の民営化により個人株主が増加しているという事情があると考えられる。また、日本とドイツは法人所有が多いという点では共通するが、日本が分散的な所有であるのに対し、ドイツでは集中的な所有となっている。ドイツ及びフランスの大企業では同族による株式保有が多いのも特徴である。日本では、大企業の同族保有はあまりないが、この違いの背景には制度的な枠組みの違いがあると考えられる。外国人株主については、英国、ドイツ、フランスで高いが、その背景にはEU統合があるといえる。

日本及びドイツでは、平時においては、従業員の中から昇進、選抜されてきた経営陣(日本では取締役会、ドイツでは執行役会)により運営されるという企業内部関係者によるガバナンス構造が基本である。しかし、日本では経営状況の悪化時にはガバナンスの権限が、銀行等の金融機関に移っていく「状態依存的コーポレート・ガバナンス」が特色と言える。また、この点ではドイツが類似している。このようなガバナンス構造が形成された背景には、日本では突出した大株主が存在しなかったものの、主要な株主であり、また債権者であるメインバンクが存在し、ドイツでは3大銀行が株主又は株式受託者として存在し、これらの金融機関に企業の適切な経営に対するモニタリング機能が期待されてきたことが指摘できる。

この両国は、企業行動の面でも、雇用の安定を図り、企業体制全体を組織として継続的かつ安定的に発展させていくことを重視している点、M&Aが少なく、特に敵対的なM&Aが少ない点などにおいて似た傾向を示している。

一方、米国及び英国では、企業のガバナンス権限が株主と社外出身者の占める割合が高い取締役会に存在するという「株主・経営者依存型ガバナンス」に特徴がある。米国は企業行動の面では、雇用の安定よりも株主利益をより優先させる傾向が最も強く、M&Aが非常に多い点に特徴が出ている。英国では、株主利益を雇用の安定よりも重視する点では米国に似ているが、M&Aの状況があまり多くない点ではドイツと似ている。また、フランスでは、ガバナンスの面では、取締役会が社外出身者を中心に構成される点で米国及び英国に類似しているが、企業行動の面では、雇用の安定を重視する点及びM&Aが米国に比べてあまり多くない点で日本及びドイツと似た傾向を示している。

なお、近年、以上のような状況に変化も見られる。日本及びドイツでは、経営者の意識としては、メインバンクや監査役会に大きな影響力を与えてきた主力銀行の役割が低下してきており、経営者による支配強化の傾向が見られる。また、経営者支配の強化の傾向はフランスでもみられる。一方、米国及び英国でも、CEOの支配が強まると同時に、企業の持つ共同体的側面の重要性が企業経営者に認識され始めている。

このような各国における最近の変化の背景には、EUの統合も含めた世界経済の相互依存の高まりがあると思われるが、個別企業のダイナミズムが強調され、その流れの中で経営者支配が強まる一方、英米型、ドイツ・日本型いずれのケースでも企業行動及びその背景にあるガバナンスに対する適切な監視機能がむしろ低下する等問題点も少なくない。今後、産業組織あるいは企業行動がその多様性を維持しながらお互いに影響を与え合うプロセスでどのようなシステムが作り出されていくか注目される。



4.雇用システム


従業員の勤続年数別割合及び平均勤続年数を比較すると、日本が長期勤続の割合が最も高く、平均勤続年数が一番長いが、ドイツ、フランスも日本に近い数値となっている。対極を示すのが米国であり、長期勤続の割合が最も低く、また平均勤続年数が最も短く労働市場は最も流動的である。英国はその中間に位置している。

雇用調整の方法を比較すると、日本、ドイツ、フランスは極力、正規従業員の解雇を避ける努力をしており、雇用の安定性は高い。これに対し、米国では、業績悪化の際には頻繁に、ブルーカラーを勤続年数の短い順に解雇(レイオフ)しており、雇用の安定性は低い。英国では、以前は米国同様、レイオフが頻繁に行われていたが、近年は希望退職者の募集を中心に多様な手段がとられるようになっている。

賃金カーブの比較を行うと、ホワイトカラーについては、5ケ国とも年齢とともに賃金が上昇するカーブを描く。ブルーカラーについては、日本はホワイトカラーと同様であるのに対し、他の4ケ国は30歳位から賃金はほぼ横ばいとなる。これは、日本では、ブルーカラーにもホワイトカラー同様、査定を行う「職能給」を基礎としているのに対し、他国では、ブルーカラーには伝統的に査定のない「職務給」を基礎としてきたためであると考えられる。ただし、近年、米国、英国などで、ブルーカラーにも査定や「職能給」を導入する傾向が出てきている。

労働組合の構造を見ると、日本では企業別組合が賃金等の交渉の中心であり、米国ではローカル・ユニオンと呼ばれる職種別又は産業別に組織される全国組合の支部との間で交渉が行われることが多い。英国は複数の組合形態が共存する複雑な構造であるが、近年は企業内の一組合を指定して交渉するシングル・ユニオン協定を結ぶ企業が増加している。ドイツ・フランスでは、産業別組合が賃金等の交渉の中心であるが、企業内の組織(ドイツでは従業員代表組織、フランスでは企業内組合支部)も企業内任意加給やその他の労働条件等について交渉する権限を持つ。



 

5.社会保障制度


19世紀後半にドイツで初めて導入された社会保険制度を基盤とする社会保障制度は、英国、日本、フランス、米国においても20世紀前半に導入された。

日本において、社会保障は国の政策の中で積極的に展開されたのに対し、伝統的に生活において個人責任を重んじる米国においては社会保障の政策の位置付けが異なるなど、各国の社会保障の考え方は国により差異が生じていると言うことが出来よう。

各国の社会保障制度は第二次世界大戦後に拡充が図られた。各国の社会保障給付費の対GDP比と老齢人口比率から社会保障給付水準の相対的比較を行うと、フランスは相対的に他国より高く、日本、ドイツは5ケ国の平均に近いのに対して、米国、英国は、相対的に給付が低い。

公的年金制度については、財源調達方法として各国とも社会保険方式を採用している。制度運用対象者は、米国、英国は所得層により任意加入、ドイツは一部を除く自営業者が任意加入であるが、日本、フランスは全国民が強制加入の対象となっている。単身者ベースの給付水準の比較を平均賃金に対する代替率という点から行うと日本が41%程度と最も高く、ドイツ、フランスが35%程度で、米国、英国は30%程度とやや低い。

医療保障制度については、財源調達方法として、英国以外の4ケ国は社会保険方式を採用しているが、英国は租税を主な財源とする保健サービス方式を採用している。制度運用対象者は、米国以外の4ケ国は全国民を対象としているが、米国は65歳以上の高齢者や一部の低所得者に限られており、全国民を対象とした制度はない。

社会福祉サービスについては、日本は中央政府の役割が大きくサービスの内容は全国的に均質化しているが、他の4ケ国ではサービスの内容の地域差が大きい。米国は企業の役割が民間非営利団体や地方政府に比べて大きく、英国及びフランスでは地方政府と民間非営利団体が中心的役割を果たしている。ただし、近年英国では米国に見られるような民営化が積極的に推進されている。ドイツでは国家の役割は補完的なものにとどまり、民間非営利団体が大きな役割を果たしている。