財務総合政策研究所

サイトマップ


公  表  資  料



「ASEANの経済発展と今後の課題に関する研究会」報告書
 


I.


研究会の目的等
 ASEAN諸国は、1980年代に入り、日本をはじめとする先進国との多角的な相互依存関係の強化により、高い経済成長を遂げた。具体的には、日本など先進国からの直接投資の増加を背景に、外資系企業を中心とした部品輸入や製品輸出が増加、先進国との貿易関係が拡大した。さらに、先進国はASEAN諸国に対して多面的な支援を行い、特に日本からの多額な援助はASEAN諸国の貧困削減や経済発展に大きく役立ってきた。
 しかし、ASEAN諸国をめぐる状況は90年代末以降、アジア通貨危機や中国の台頭により大きく変化することとなった。事実、アジア通貨危機以降、中国がめざましい経済発展を続ける一方、ASEAN諸国の経済は、直接投資の流入低迷などから力強さを欠いている。直接投資の流入鈍化を受け、ASEAN自身もAFTA構想の進展や、域外国とのFTA締結に向けた取り組みを強化など状況の改善に努めているものの、未だ顕著な効果をあげているとは言い難い。また、新規加盟国を加えて10ヶ国に拡大したASEANは、域内の経済発展格差という新たな問題を抱え込んだ。もとより歴史的、社会的に相当な多様性を有するASEANが、これら経済格差を克服し、全体として安定的な経済発展を実現することができるのか、まさにASEANとしての対応が問われている。
 このような状況のもと、日本企業は他の先進諸国と比べても中国に対する傾斜を強めている。しかし、SARS禍の経験からも明らかなように、日本企業にとって中国一極集中のリスクは少なくない。ASEAN諸国が再活性化することは、新たなビジネス機会を提供するとともに、リスク分散の観点からも、日本および日本企業に対して好影響を与えるものと考えられる。
 本研究会は、以上の問題意識に基づき、ASEAN諸国が今後競争力を維持し、一層の経済発展を実現していくため、ASEAN諸国自身がどのような努力を行い、また先進国(とりわけ日本)がいかにそれを支援していくべきかについて検討を行ったものである。さらに、ASEAN自身の視点を取り入れるべく、著名な研究家3氏を招いて意見交換も行った。
 このたび、研究会の成果を踏まえ、研究会メンバーの分担執筆により報告書を取りまとめたのでここに発表する。


II.


報告書の主なメッセージ
   ASEANが経済成長を実現する上で、海外からの直接投資は非常に重要である。中国シフトを強める海外直接投資を、いかにASEANに呼び込むかが今後の成長の鍵を握る。
 直接投資の流入を促すためには、ASEAN各国が、[1]製造拠点としての魅力を高めるとともに、[2]中国に対抗しうる巨大な消費市場を形成すべく経済統合を一段と推し進めることが重要となる。製造拠点としての魅力を高めるためには、税制上の優遇措置や人材育成はもちろんのこと、保護主義の色合いが強い輸入代替産業の再編や事業コストのさらなる引き下げ、ガバナンス環境の改善といった取り組みが欠かせない。もう一方の経済統合の推進については、AFTAの深化に向けた各国の取り組みが一つの試金石となる。関税撤廃を目指す(現行は0-5%への引き下げ)とともに、相互認証制度の確立や規格の統一化、非関税障壁の撤廃、密輸の取り締まりなど制度面・運用面で改善に向けた努力が今後求められることになる。
 これらASEAN各国の自助努力に加え、先進国、とりわけASEANと密接な関わりを有する日本の役割も重要性を増している。日本の援助政策に関しては一部で批判的な見方があるものの、新規加盟国を中心に援助ニーズは今なお高く、その存在意義は些かも低下していない。日本は、援助国の国際競争力向上に資するよう、知的支援や人材育成など支援メニュー充実を図りながら、当該国の援助ニーズにきめ細かく対応していくことが求められる。
 また、ASEAN諸国とのFTAを早期に実現することも日本にとって重要な政策課題である。日本とASEANのFTA提携は、日本の市場開放を通じてASEANの経済発展に寄与するとともに、ASEAN域内の経済統合を促す誘因になる。ASEANには日系企業が多く進出しており、日本にとってもそのメリットは大きいはずだ。
 さらに、東アジア地域の為替安定に向けた取り組みも重要となる。アジア通貨危機がASEAN諸国の経済に甚大な悪影響をもたらしたことは記憶に新しい。このような悲劇を二度と繰り返さないためにも、東アジア地域における金融協力の深化が望まれる。日本は東アジア唯一の先進国として、その課題に積極的に関与していくことが求められている。


III.


報告書の概要
 本報告書は、ASEANをベースにしつつ、アジアが域内外との経済関係をいかに発展させていくべきか、について広く論じた内容となっている。各章の要約は以下の通り。

第1章 ASEANと日本の経済連携の推進について
伊藤 隆敏(東京大学先端科学技術研究センター教授)

 過去15年間で、日本を取り巻く貿易・投資・金融・資本に関する環境は大きく変化した。貿易・投資面では、世界的な貿易体制の整備とともに地域主義が台頭し、金融・資本面では通貨危機をきっかけにアジア域内国の金融協力の進展が図られた。さらに、中国の躍進は、日本とASEAN双方に経済連携のあり方について変革を迫っている。
 アジアの安定的な経済発展を考える上で、ASEANの果たすべき役割は大きい。また、バブル崩壊以降長期的な停滞に陥った日本が、経済再生を果たすためにもASEANとの連携強化は不可欠である。世界がFTAの拡散や地域主義に傾斜していく中で、これまで取り残されてきたアジアでもようやくFTAの大きなうねりが起きている。日本は、特定セクターが負う不利益にばかり目を奪われるのではなく、FTAの大きな流れに乗り遅れることの不利益に十分留意し、FTAを推進することが必要だ。その第一歩としてASEAN先発国とのFTAは今後の展開を占う試金石となる。
 ASEANとの金融協力は、ASEAN+3の枠組みで、チェンマイ・イニシアティブからアジア・ボンド・マーケット・イニシアティブへと順調に進展している。その先には、ASEAN+3の枠組みでのFTAと為替協調が見えてくる。今後数年が、アジア地域での経済統合に向けての重要な時期となる。日本もASEANも長期的な利益を考えて迅速な政策決定を実施すべきである。


第2章 ASEANの経済発展に日本や先進国が与えた影響
2-1 ASEANの経済発展に日本や先進国が与えた影響
浦田 秀次郎(早稲田大学社会科学部教授)

 日本をはじめとした先進諸国の貿易や直接投資が、ASEAN諸国の経済発展に多大な貢献をしてきたことは論を待たない。その一方で、近年、ASEAN域内の貿易が急増し、輸出に占める先進諸国のシェアは低下傾向にある。また、先進諸国からの直接投資も足元で低迷しており、これをみる限り、貿易・投資の双方で先進諸国の量的な貢献度は低下しているようにみえる。
 しかし、ASEAN諸国にとって技術や経営ノウハウの移転といった質的な面における先進諸国の役割は依然として重要だ。先進諸国は、ASEANなどの発展途上国が経済発展を実現することで、自国の経済成長や世界レベルでの政治および社会の安定といった大きなメリットを享受できる。先進諸国はこの点を強く認識しつつ、引き続き市場開放や資金供給、知的貢献などさまざまな支援メニューの実施に注力すべきである。


2-2 日本の援助がASEANの経済発展に及ぼした影響
下村 恭民(法政大学人間環境学部教授)

 ASEAN諸国、とりわけインドネシア、マレーシア、タイは1960年代から持続的な経済発展を遂げた。その背景には、日本の援助政策が深く関与している。インフラ編重との批判はあるものの、これらの国々で工業化の礎となる経済インフラの整備を進めたのはまさに日本の援助政策である。また、援助政策において農村開発や地方開発に注力したことが富の公平な分配を促し、それが政治的・社会的安定を通じて経済成長を促したという側面も無視できない。
 もちろん日本の援助政策には、正と負双方の側面があり、客観的かつ総合的な評価をすることは難しい。ただし、近年ASEANにおける反日感情の著しい後退は、日本の援助政策の効果が当該国の一般国民に広く認知されてきた証左とみることができるのではないだろうか。日本の援助政策は、現地のニーズを検知して対応しようとする愚直な姿勢を守ってきた。ODAを取り巻く環境は年々厳しくなっているが、今後もその原点を忘れることなく、援助政策を推進することが重要だ。


第3章 ASEANと中国の分業体制
3-1 ASEANと中国の産業競争力と産業地帯の多様化
平塚 大祐(アジア経済研究所地域統合研究グループ長)

 ASEANと中国の国際競争力を比較すると、農業や金属加工など一部の分野で補完関係がみられるものの、アパレルや家電、情報通信機器、精密機器など主要な輸出産業において両者は競合的な存在であることがわかった。近年、日系企業の中国シフトが加速する中、これら生産拠点としてのASEANの役割低下を指摘する声が多い。
 しかし、ASEANに進出している日系企業は、中国に進出している日系企業に比べて付加価値の高い製品・部品を製造しており、低価格品中心の中国とは一定の棲み分け(産業内水平分業、産業内垂直分業)を行っている。また、中国への一極集中のリスク(貿易摩擦など)が顕在化する中で、生産拠点としてのASEANを見直そうとの動きもみられる。サポートインダストリーの育成や教育・職業訓練の充実など、ASEANが今後も生産基盤の強化を図ることができれば、中国とASEANがお互いに補完関係を保ちながら発展することは十分に可能である。


3-2  ASEANと中国のエレクトロニクス産業の国際分業
五味 紀男(立教大学ビジネスデザイン研究科教授)

 中国におけるエレクトロニクス産業の技術力は近年急速に向上している。日本をはじめ、欧米や韓国の多国籍企業は、中国市場への対応だけでなく輸出基地としての中国の魅力に着目し、中国事業の抜本的な強化を進めている。
 しかし、中国特有のビジネスリスク(元の切り上げリスクや法体系の不確実性など)が顕在化しつつある状況に鑑みると、東南アジアとの分業を探るいわゆる「拡大アジア」戦略が今後極めて重要となる。多国籍企業は、中国を事業戦略の中核に据えながらも、グローバルな観点からバランスのとれたアジア事業の展開が求められる。また、ASEAN諸国も、個別の産業政策強化をはじめ、各国間の政策協調を図るなど活性化に向けた相応の自助努力が必要だ。


第4章 ASEAN10カ国の内部関係
4-1 ASEANの政治、東南アジアの政治
白石 隆(京都大学東南アジア研究センター教授)


 我々は、ASEANを制度としての体裁を整えた地域的「協力機構」ではなく、もっと緩やかな地域的「レジーム」として理解すべきである。したがって、日本とASEANの経済連携を考えるにあたっては、「ASEANの政治」に着目しても意味はない。各国の政治経済構造に十分留意した「東南アジアの政治」という視点でその課題を捉えるべきである。
 このような視点に立てば、経済発展の政治的条件として、東南アジア各国におけるテクノクラシーの構築と、国家社会における取り決め(state-society bargain)の問題が浮かび上がる。日本には、単に経済的な協力だけでなく、これら政治的課題の克服に向けた貢献が期待されているのである。


4-2 AFTAの現状とASEANの域外とのFTA
石川 幸一(日本貿易振興機構経済分析部上席主任調査研究員)


 ASEANは2002年中に域内関税の引き下げ(0-5%)をほぼ終え、ASEAN自由貿易地域(AFTA)が実質的に完成した。AFTAは「形成」の段階から、「活用」の段階に入ったといえる。
 域内特恵関税(CEPT)を活用した域内貿易のシェアは、EUやNAFTAと比べ依然として見劣りするものの、AFTA創設以降、増加傾向を維持しており、一定の貿易創出効果が認められる。また自動車や電気機械を中心にCEPTを活用する日系企業の事例が増えていることから、今後CEPTの利用価値はさらに増大すると見込まれる。
 一方、外国投資の誘致競争では中国に大きな差をつけられており、投資創出効果という面では狙い通りの効果を発揮したとは言い難い。域内国の相互認証や規格の統一化、物流インフラの整備といった制度面の課題をはじめ、非関税障壁の存在や密輸の横行など運用面において改善すべき問題が多く、AFTAの効用を最大限発揮できないことがその背景にある。


4-3 ASEANの経済格差と日本の対応
三浦 有史(日本総合研究所環太平洋研究センター主任研究員)


 ASEANはEUと比べて加盟国間の所得格差が大きい。とりわけ90年代後半に、ベトナムやラオス、ミャンマー、カンボジアを加えたことで格差はさらに拡大した。これら所得格差を縮小するためには、新規加盟国が投資を起点とする高い経済成長を実現することが不可欠である。しかし、新規加盟国の投資率は総じて低く、また投資の大部分を周辺国からの援助で賄っているのが現状だ。
 海外直接投資を巡っては、中国だけでなくASEAN原加盟国をも巻き込んだ誘致競争が繰り広げられており、新規加盟国が割ってはいる余地は少ない。これらの国々では、海外直接投資よりもむしろ、国内民間投資主導の自己循環型経済発展モデルを目指すべきである。日本には、これら国内民間投資を促すような支援が求められているのである。


第5章 ASEANの金融・マクロ的相互依存と為替制度
5-1 ASEANのマクロ的相互依存と為替レート制度
河合 正弘(東京大学社会科学研究所教授)
本西 泰三(長崎大学経済学部助教授)


 ASEAN10カ国の経済構造は必ずしも収斂しておらず、先発ASEANと後発ASEANの間に異質性が存在する。その一方で、先発ASEAN内部では経済的な同調化・収斂化が進んでおり、貿易上の比較優位構造もかなり同質化してきている。ASEAN域外とのマクロ的依存関係をみると、ASEAN先発諸国は貿易面で日本と補完関係にあり、かつ経済的な連動性も高い。そのことは、経済連携(EPA)の締結が日本とASEAN双方にとって有益であることを示唆するものだ。今後は、経済連携の実現に向け、貿易制度をはじめとした諸ルールの共通化がますます重要となる。
 さらに、ASEAN先発諸国の間では為替レートの安定化が望ましく、長期的には共通通貨を視野においた政策運営を行っていくべきである。そのための助走期間として、当面は共通の通貨バスケット制度を公式に採用していくことが望ましい。ASEAN後発諸国については、マクロ経済政策の改善や貿易の自由化、経常勘定における為替制限の撤廃など、様々な形でのインスティテューション・ビルディングを積み上げていく必要がある。


5-2 ASEAN後発国におけるドル化現象
高安 健一(日本総合研究所環太平洋研究センター上席主任研究員)


 「ドル化」には、公式的なものと非公式的なものが存在する。前者は、政府がドルを法定通貨として認めるものであり、後者は政府が法定通貨として認めていないにもかかわらず、自然発生的にドルが流通・保有される状態を指す。カンボジア・ラオス・ベトナムはいずれも後者に該当し、90年代に行われた新経済システムへの移行過程でドル化が進展した。
 現在のところ、これらの国々で政策当局が脱ドル化を積極的に進めようとの動きは見られない。しかし、部分的とはいえ「ドル化」を容認することで、金融政策の自由度が低下するなどデメリットがあるのも事実であり、将来的には脱ドル化を推進することが望ましい。脱ドル化に向けては、当該国の自助努力(インフレ抑制や金融システムの強化)に加えて、それを促すための国際的な支援が欠かせない。


第6章 ASEAN諸国の戦略と日本への期待
6-1 ASEANの国際競争力
モハメド・アリフ(マレーシア経済研究所エグゼクティブディレクター)


 ASEAN諸国にとって中国の台頭は確かに脅威である。しかし、ASEANの国際競争力が中国と比べて著しく劣っていると判断するのは正しくない。中国の労働コストは低いものの、その他の事業コスト(輸送や通信、その他の取引費用など)は相対的に高く、ASEANも今後の取り組み次第で十分に太刀打ちできる。ASEAN各国は、国際競争力を維持するため、産業の高度化もさることながら、さらなる事業コスト削減に向けた取り組みが求められている。
 また、中国における投資拡大の背景に巨大な国内市場の存在があるように、海外からの直接投資を呼び込むためには、中国に対抗しうるASEAN単一市場の創設が欠かせない。ASEANとして、AFTA(ASEAN自由貿易圏)やAIA(ASEAN投資地域)の進行を加速し、より一層の域内統合を深めることが重要となる。


6-2 ASEAN経済共同体、CLMV諸国とASEAN+3
エリック・テオ・チュウ・チャオ
(シンガポール国際問題研究所マネージングディレクター)


 経済の低迷や民族主義の台頭をきっかけに、ASEAN内で国家主義的な考え方が勢力を増しており、これまでのASEANスピリットは急速に失われつつある。国際社会の信頼を回復するとともに、ASEANの結束力を再び高めるためには、新たなビジョンとそれを実現する強力なリーダーシップが必要となる。この意味から、シンガポールのゴー・チャク・トン首相は2020年までに「ASEAN経済共同体(AEC)」を創設するというビジョンを提起した。その実現には紆余曲折が予想されるものの、当面はAEC創設に向けた取り組みがASEAN経済発展の鍵を握ることに間違いない。また、「ASEAN+3」の枠組みを通じて東アジア地域主義という考え方が芽生えている現状に鑑みると、将来的には東アジア全体の経済統合を目指すべきであり、「東アジア共同ハウス」が究極のゴールとなる。


6-3 ASEANと日本の経済関係及びASEANの活性化
チャロンポップ・スサンカーン(タイ開発研究所所長)


 通貨危機と中国の台頭により、ASEAN加盟国の経済は低調に推移している。ASEANの再生には、各国の構造改革とともに、AFTAを超える経済統合の深化が不可欠である。現在、2020年を目標に経済共同体の創設が議論されているが、ASEANを取り巻く環境は厳しさを増しており、我々に残された時間は少ない。各国指導者には、速やかな統合に向けさらなる努力が求められよう。
 またその際、各国の自助努力もさることながら、ASEANに多数の生産拠点を有する日本の対応が重要となる。日本には、「日本・ASEAN包括的経済連携」の枠組みを通じて、ASEAN統合のインセンティブを高めるような施策の実施を期待したい。


第7章 ASEAN諸国の持続的な経済成長の実現への課題
7-1 ASEAN諸国の持続的な経済成長の実現への課題
-実物面の経済統合を巡る議論-
木村 福成(慶応義塾大学経済学部教授)


 東アジア諸国は、輸入代替産業を育成すると同時に、輸出志向型産業の集積を図るため、外資系企業の誘致に注力してきた。その結果、今日では、世界でも有数の国際的な生産・流通ネットワークを構築、ASEANの高い国際競争力の源泉となっている。
 今後のASEANを考えたときも、この国際的な生産・流通ネットワークをさらに活性化していくことが重要となる。そのためには、貿易保護で守られている輸入代替的な産業の効率的な再編やサービス・リンク・コストの更なる軽減など残された課題も多い。日本としては、各国の自助努力を促すとともに、東アジア経済の特質を活かした経済統合の将来デザインについて積極的にコミットしていくことが望ましい。


7-2 ASEAN諸国の持続的な経済成長の実現への課題
-自助努力・直接投資を中心に-
本西 泰三(長崎大学経済学部助教授)


 発展途上国が経済成長を実現していく上で、海外からの直接投資が非常に重要な役割を担う。直接投資の流入を決定づける要因は多数存在するが、実証分析の結果、国内のガバナンスの影響がとりわけ大きいことが判明した。法人税率の低減や教育水準の改善を通じた努力も重要であるが、ガバナンス環境の改善はそれらの効果を大きく上回る。さらに、6つのガバナンス指標の影響を検討した結果、「制度の質の高さ」(Regulatory Quality)、つまり反市場的な制度や制約がないかどうかが特に重要であることが示唆された。


7-3 ASEAN諸国の持続的な経済成長の実現への課題
-新規加盟国の現状と課題-
成田 康郎(財務省大臣官房企画官)


 経済発展初期のタイ・マレーシアとの比較ならびに日本や現地での聞き取り調査の結果、ベトナムは少なくとも輸出拠点としての成長が期待される一方、カンボジア・ラオスは工業化を促す起爆剤が見当たらず、当面は穏やかな経済成長が現実的であることが示唆された。
 新規加盟国に共通する課題は多岐にわたるが、とりわけ、教育の向上、キャパシティービルディング、財政・徴税力の向上、財政の安定の4点に注目すべきである。新規加盟国では、徴税力が伴わないために財政事情が逼迫し、将来を担うべき人材教育がなおざりにされ、結果としてキャパシティービルディングが進まず、政府の能力も向上しないという悪循環が生じている。この悪循環を好循環に切り替えることが重要であることを強調したい。


7-4 ASEAN諸国の持続的な経済成長の実現への課題
-先進国の対応等-
木下 俊彦(早稲田大学商学部教授)


 中国と比べてASEAN経済の低調ぶりが目立つものの、ASEANが東アジアの重要な柱であり、日本にとって重要なパートナーであることに些かも変わりはない。通貨危機などASEAN域内のみならず、東アジア全体が抱えるリスクを最小化するとともに、中国とのバランスのとれた経済発展を実現することが今後重要となる。
 そのためには、健全なマクロ経済運営と国際競争力の確保というASEAN諸国のマインドセットはもちろんのこと、ASEANと密接な関わりを有する日本の支援が欠かせない。日本は、市場開放を進めるとともに、ASEAN諸国に対する知的支援などを強化して、ASEANの求心力回復と競争力強化に貢献することが求められている。

連絡先: 財務省財務総合政策研究所
  国際交流室
  研究員 太田 智之
電話 03-3581-4111(内線)5268


 本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

▲ このページのトップへ ▲

 

(参考)
「ASEANの経済発展と今後の課題に関する研究会」メンバー

(敬称略、メンバーの肩書きは平成16年3月現在)

 

座長

 

伊藤 隆敏

 

東京大学 先端科学技術研究センター教授


■執筆メンバー(50音順)
  石川 幸一 日本貿易振興機構 海外調査部長
  浦田 秀次郎 早稲田大学 社会科学部教授
  河合 正弘 東京大学 社会科学研究所教授
  木下 俊彦 早稲田大学 商学部教授
  木村 福成 慶應義塾大学 経済学部教授
  五味 紀男 立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科教授
  下村 恭民 法政大学 人間環境学部教授
  白石 隆 京都大学 東南アジア研究センター教授
  高安 健一 日本総合研究所 環太平洋研究センター上席主任研究員
  平塚 大祐 日本貿易振興機構アジア経済研究所 地域統合研究グループ長
  三浦 有史 日本総合研究所 環太平洋研究センター主任研究員
  本西 泰三 長崎大学 経済学部助教授

■非執筆メンバー(50音順)
  石井 菜穂子 財務省 国際局開発機関課長・財務総合政策研究所客員研究員
  奥田 英信 一橋大学 経済学部教授
  小松 正昭 広島大学大学院 国際協力研究科教授
  末廣 昭 東京大学 社会科学研究所教授
  首藤 恵 中央大学 経済学部教授
  三重野文晴 神戸大学大学院 国際協力研究科助教授
  山上 秀文 東京三菱銀行 調査室室長
  吉村 幸雄 世界銀行 副総裁兼駐日特別代表

財務総合政策研究所
  福田 進 財務省財務総合政策研究所所長
  淺見 康弘 財務省財務総合政策研究所次長
  本田 悦朗 財務省財務総合政策研究所研究部長
  成田 康郎 財務省財務総合政策研究所大臣官房企画官
  佐藤 雅之 財務省財務総合政策研究所国際交流室長
  太田 智之 財務省財務総合政策研究所国際交流室研究員
  岩本 薫 財務省財務総合政策研究所国際交流室研究員
  藤本 淳 財務省財務総合政策研究所国際交流室調査主任
 

柏木 茂雄


前・財務省財務総合政策研究所次長(平成16年5月退任)
  法專 充男 前・財務省財務総合政策研究所次長(平成16年3月退任)


▲ このページのトップへ ▲