財務総合政策研究所

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企業の投資戦略に関する研究会−イノベーションに向けて−
第3回会合
2016年10月26日(水) 14:00〜16:00
於: 中央合同庁舎第4号館11階1112 「共用第1特別会議室」

第3回会合

議事要旨

  

特別講演:『データの民主化による第四次産業革命』

  報告者:石山  洸  リクルート Recruit Institute of Technology 推進室室長

報告:『研究開発型新規開業企業の公的支援』

  報告者:岡室  博之  一橋大学大学院経済学研究科教授
  報告資料[1.1mb,PDF]


議事要旨

(1) 特別講演:『データの民主化による第四次産業革命』

       石山  洸  リクルート Recruit Institute of Technology 推進室室長  

1.第四次産業革命
昨年のダボス会議から「第四次産業革命」という言葉が定着してきた。世界中でこれまで取得できなかったリアルな世界のデータも含めて取得できるようになり、どのようなイノベーションが引き起こせるのかに注目している。
IoTのテクノロジーを用いてあらゆるデータが取得でき、ディープラーニングを搭載したカメラ技術で様々なことが計測できるようになった。しかしながら、集めたデータを具体的に用いて、社会にどのような価値を提示するかは、まだ議論の段階にある。
これまで世の中のデータは、インターネットで提供されているものだけだったが、これは氷山の一角に過ぎない。残りの部分がすべてデジタル化され、ソフトウェアで表現できるようになると、そこにビジネスチャンスが生まれる。
従来オフラインであったデータがデジタル化されれば、人間が行っていたことを全部、人工知能(AI)が行うことができるようになる。これが、AIが注目されるポイントの1つである。
AIの実用化への機運が高まれば、重厚長大型のインダストリー側からAIを活用しようとするプレーヤーと、インターネット系の会社側から開発するプレーヤーの競争になる。インダストリー側は早めにAIを導入して、希少なデータを武器に、インターネット系のプレーヤーとの差別化を図り、参入障壁を築くことが採り得る戦略となる。
また、各産業セクターがそれぞれAIを用いることで、国全体の付加価値が高まる。
2.データの民主化とAIの可能性
現場にAIを浸透させていくことが非常に重要なポイントになる。企業で、一部の社員のみがディープラーニングや機械学習を扱えるのではなく、全社員がAIの活用又は研究開発に携わっているような状態にいち早く移行することが重要である。Googleはすでにそのような状態になっており、リクルートもそれを実現すべく取り組んでいる。
企業は、必要なデータをいかに早く取得し、いかに早くPDCAサイクルを回すことができるかがポイントになる。
こうしたビックデータが使える社内インフラを整備すること自体が、設備投資の考え方になる。
AIが使えるビジネス領域は広がっているが、ビジネスの中にある課題に一つ一つ研究者が対応することは困難である。そこで、リクルートがインフラを用意し、企業がそのインフラを使って現場でデータを用いながら実装できるようにすることで、現場にAIの活用が浸透するための支援を行っている。

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(2) 報告:『研究開発型新規開業企業の公的支援』

       報告者:岡室  博之  一橋大学大学院経済学研究科教授  報告資料[1.1mb,PDF]

1.日本の新規開業の現状
新規開業企業(ベンチャー)は、経済成長、新規雇用、イノベーション、地域活性化の要因として期待を集めている。
日本の状況をみると、長期的に新規開業率が低迷している。高度成長期までは開業率が6%を超えていたが、2000年代前半で約4%にまで減少する一方、廃業率が約6%と開業を上回り、企業数は純減を続けている。こうした傾向が見られるのは日本だけである。起業希望者も1997年(約167万人)から2012年(約84万人)までに半減している。新規開業率を国際比較すると、日本は4%台で低迷が続いているが、欧米諸国は日本の2〜3倍以上もある。また、起業の準備をしている人及び起業してから42カ月以内の人の割合をみても、日本は国際的にも最低レベルとなっている。
2.新規開業企業を促進する要因
新規開業を促進するためのマクロ経済要因としては、実質GDP成長率とその年の開業率の相関は非常に高いと言われている。
業種別に見ると、情報通信業は開業も廃業も多く、次に医療・福祉、教育分野が続く。イノベーションが最も重要と言われている製造業は、開業は非常に少なく廃業が非常に多い状況である。最近の経済センサスでは、製造業の開業率は1%台まで下がっている。
地域別に見ると、都市部である東京、神奈川、宮城(仙台)、京阪地域、北九州で高く、それ以外の地方圏は北海道、沖縄を除き非常に低い。新規開業が都市部に多い理由は、人口、所得、人的資本や産業集積等、さまざまな要因の影響が考えられる。
3.新規開業企業による研究開発に関する分析結果
日本では、全体の研究開発支出の8割以上を民間企業が支出しているが、そのうち中小企業が占める割合は5%未満であり非常に低い。中小企業は、製造業でも7%しか自社で研究開発を行っていない。また、売上高に占める研究開発投資の割合も、大企業と比べて中小企業はやや低い。中小企業全体で見ると、研究開発に取り組む企業が非常に少ない。これは他の先進国にも共通することであるが、日本で特に顕著である。
2007年〜2008年8月までに新規設立された製造業・ソフトウェア企業に対する4年間のフォローアップ調査(対象企業約1万4千社への調査;回答企業約1,500社(回答率約11%))では、創業者(経営者)が直接研究開発に従事する企業は55%と比較的多い。また、開業時に公的支援を受けた企業は35%だが、開業資金における公的補助の割合は平均0.6%と非常に低く、ほとんどの会社は開業時に何も公的補助金を受けていないといえる。
新規開業企業の経年変化をみると、経営者が研究開発に従事する企業は減っていく。これは資金が継続できないことや研究成果がでないため業態を変える企業が多いことが考えられる。他方で、公的補助金や公的支援を利用する企業は増えていく。
4.新規開業企業の研究開発とイノベーションの要因
研究開発投資の要因としては、創業者の人的資本が最も重要であり、創業者が大学院を修了した高学歴者であることが、新規開業企業の研究開発に大きな影響を与えている。また、創業者の人的資本が高いほど研究開発への資金供給が増える一方で資金需要も増えるため、資金の需給ギャップは解消されない。公的支援のニーズが示唆される。
また、開業時に何らかの公的支援(特に公的補助金)を受けた企業は、研究開発投資を増やすことから、研究開発投資を増やすためには、公的補助金を増やすことが重要である。ただし、公的補助金の効果は、新規開業企業の方が既存企業よりも弱い。
創業者が創業前に自分でイノベーションを生み出した経験や特許出願経験の有無が、その後のイノベーション活動に重要な影響を与える。また、取引先企業又は大学や公的研究機関と共同研究をしている企業の方が、その後のイノベーションを起こす確率が高い。共同研究開発の効果は、既存企業よりも新規開業企業の方が高い。よって、特に新規開業企業が研究開発の成果を出すためには連携が重要で、できれば公的に連携を促進すると効果が高い。
新規開業企業が他の企業や大学等と連携する要因としては、創業者の人的資本が重要である。例えば、創業者のイノベーションや特許出願の経験は、民間企業又は大学との連携の両方にプラスの効果がある。また、創業者が大学院修了者又は理系学会に所属している場合は、日頃のネットワークを通じて産学官連携に取り組みやすいことがわかっている。
5.産学官連携の政策支援の効果
イノベーションへの公的資金援助の利用割合は、会社の規模に関わらず20%前後だが、産学官連携に取り組んでいる小企業では10%と、大企業の30%に比べるとごく一部である。小企業からは、産学官連携をやろうとしても取り組み方がわからない、ハードルが高い、情報が少ないといった回答が多い。
連携方法としては、地理的に遠くとも自分にとってベストな研究者、その分野のトップの研究者と連携すると効果が高い。しかし、企業にとっては適切な相手を見つけるためのサーチコスト(探索費用)が生じるため、これを公的に支援すれば、企業の研究開発が促進され、投資の成果も非常に高いと予想される。
「産業クラスター計画」を対象とする分析では、ビジネスマッチング等のネットワーク支援といったソフトの支援の方が、補助金といったハードの支援よりも、ネットワーク形成のみならず、イノベーション成果により大きな効果を持つ。ネットワーク支援の方が補助金による支援よりも低コストでも効果が大きい。
「地域新生コンソーシアム支援事業」に参加して産学官連携を行った企業を、同じ条件(参加確率)の非参加企業と比較すると、特に中小企業の売上げや生産性が上昇している。また、その効果は取引先の大企業にも波及する。地域コンソーシアムに参加している中小企業と取引する大企業は、同じ条件を持ちながら地域コンソーシアム参加中小企業と取引していない大企業よりも売上げや生産性を高めている。
6.むすび
新規開業企業への期待は大きいが、日本では新規開業が長期的に低迷しており、研究開発やイノベーションへの相対的な貢献も少ない。
新規開業企業が研究開発を行い、イノベーションを生み出すには、特に創業者の人的資本が重要である。
公的支援に関し、特に創業補助金は、開業初期の企業の研究開発や成長を促進する。ただし、開業初期に公的支援を受けた研究開発型企業は、現状では一部にとどまっている。
研究開発をイノベーションにつなげるためには、特に産学官連携を含む共同研究開発の役割が重要である。新規開業企業には、補助金といったハードな公的支援よりも、ネットワーク支援を主体とするソフトな公的支援のほうが効果的である。
新規開業企業に関する統計的把握と分析、データに基づく定量的な政策設計や評価が必要である。

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