財務総合政策研究所

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企業の投資戦略に関する研究会−イノベーションに向けて−
第2回会合
2016年9月26日(月) 15:00〜17:00
於: 財務省4階 中412「第3特別会議室」

第2回会合

議事要旨

  

報告:『人工知能は人間を超えるか‐ディープラーニングの先にあるもの』

  報告者:松尾  豊  東京大学大学院工学系研究科特任准教授
  報告資料[7.4mb,PDF]

報告:『インバウンド需要の取り込みに向けた積極投資』

  報告者:宮崎  俊哉  株式会社三菱総合研究所社会公共マネジメント研究本部主席研究員
  報告資料[3.8mb,PDF]


議事要旨

(1) 報告『人工知能は人間を超えるか‐ディープラーニングの先にあるもの』

       松尾  豊  東京大学大学院工学系研究科特任准教授  報告資料[7.4mb,PDF]

1.人工知能をめぐる動向
人工知能は今、3回目のブームを迎えているが、期待感が先行していると感じている。一方で、ディープラーニングは、技術的なブレークスルーが起きており、期待感を上回るくらい潜在的に大きな可能性を秘めており、投資する価値が十分にある。この2つを切り分けることが重要である。
ディープラーニングで出来ることを大雑把に言えば3つあり、@写真や映像などの「画像認識」ができること、Aロボット・機械が練習して上達するといった「運動の習熟」ができること、B「言語の意味理解」ができることである。
現実世界の対象物を抽象化してモデルを構築する際、どこに注目するかという特徴量を見抜くのは人間が行うしかなかったことが、60年間の人工知能の研究の中で最大の問題であった。しかし、この問題を解きつつあるのが、データを基に特徴量が自動的に獲得されるディープラーニングであり、人工知能の研究における50年来のブレークスルーであると考える。
2.画像認識
コンピュータに画像認識をさせ精度を競う大会では、2012年にディープラーニングを利用したチームがエラー率約16%という衝撃的な結果を出した。それ以降、急速な勢いで精度が向上し、2015年2月にはコンピュータが画像認識で人間の精度を超えた。これは今まで60年間研究してきた中で一回も実現されていなかったことである。
3.運動の習熟
人間は報酬が与えられると、その前にやった行動を強化するという仕組みで上達する。今までの人工知能では、行動をとる際の「状態」を人間が定義した変数を使って記述していた。しかし、ディープラーニングと組み合わせる方法では、ディープラーニングで出てきた特徴量を使って状態の定義を行う。実世界への適用でも、例えばロボットの作業でも画像を撮って入力することで動作を学習させている。
人間は赤ちゃんの時から色々なものを持つ練習をしているので大人になると意識せずに持つことができる。同様に、コンピュータも同じプロセスを経て上手に持てるようになる。長年、「子供のできることほど難しい。」(モラベックのパラドックス)と言われていたが、この3年くらいで一気にできるようになった。
4.ディープラーニングの今後の発展と言語の意味理解
ディープラーニングは、認識→運動→言語の順番で発展していくと考えられる。これまで認識が非常に大きな壁であったが、今は峠を越えて、運動の習熟の次の言語の意味理解にまで進んでいる。
言語の意味理解では、例えばまず日本語で説明したものを画像化して何を表しているのかを予測し、それを英語で説明するという意訳ともいえる翻訳技術が進みつつある。
5.産業への影響
ディープラーニングによって、農業、建設、食品加工分野は、非常に大きなチャンスがある。
農業分野では、トマトを収穫するロボットは存在しなかったが、収穫、間引き、選果等は自動化できるはずであり、巨大産業になると思われる。
建設分野について、建築現場は人の認識能力が必要なので作業員が大勢いるが、自動化されれば、産業として非常に大きな変化が生じる。さらに自動化された施工技術を世界輸出すれば、非常に大きな輸出産業になる。
食品加工分野では、調理は認識と運動の習熟を必要とするため、人間しかできなかった。しかし、自動化されれば、日本の食の文化をそのままの形で海外に輸出できるため、非常に大きな産業になる。
こうした変化が数多くの分野で生じると考えられる。
6.新たな産業競争力を実現するには
今後の産業の方向性としては、情報の世界(情報路線)で戦うのは、ほぼ無理である。一方で、実際の現場に近いところで、ものを動かす・加工するといった運動路線は相当有望である。有利な産業は、例えば、自動車、産業ロボット、農業機械、建設機械だが、日本企業のシェアが高い。よって、ディープラーニングの認識や運動の習熟の技術を用いて新製品を投入し、運動路線を取っていくことは決して不可能ではなく、その上で、情報路線の企業と戦うのがよいのではないかと考える。
「目をもった機械」ともいえる認識系技術分野で、今すぐ取り組めることとしては、警備・防犯、見守り、防犯・交通違反、顔による認証・ログイン・広告技術、わいせつ画像の判定、表情の読み取り、国家の安全保障、入国管理、輸出入管理業務、実世界の最適化(店舗内行動、街づくり等)、防災画像、医療画像といった分野である。人間が目でみて分かることは機械でもできるはずである。
運動系分野では、建築現場の掘削や揚重、セメント固めや溶接、農業での収穫、選果、自動運転、産業用ロボット、調理、ペットロボット、医療・介護ロボット、廃炉作業といった分野は、相当チャンスがある。
海外は非常に動きが速く、こうした分野でベンチャーが数多く出てきている。日本はこうしたベンチャーに対しても勝っていかなければならない。
7.日本に必要なこと
日本がやらなければならないことは、製造業に「学習工場」を入れていくことである。つまり、ディープラーニングの世界は人に投資をするしかないため、例えば1人年間1億円(すべての環境こみで)といった国際的に競争力のある人件費を用意し、開発環境、模擬機、サーバー等を全部含めた「学習工場」に投資することである。日本が海外並みに戦って勝っていくには、設備投資をするのと同じような感覚で、人に投資をすることが必要である。
ITの世界では20代が最強で、30代は円熟で、40代は引退のような、今までの年功序列と全く違う力関係になっている。シリコンバレーでは、投資の力で最強の20代の人に社会的に大きなインパクトのあることをやってもらうことが全体として行われている。一方、日本では、年功序列、平等感、スタートアップの社会的な評価の低さ、大学の教育の変化の遅れ等が非常に大きな阻害要因となっている。
先ほどの「学習工場」という概念は、若手のITや、AIの技術者に社会的に意味あることに集中的に時間を使ってもらい、企業はそれを付加価値に変えていくということである。
日本は、人材がいないと言われるがそうではない。若い優秀な人材が異なる分野にいる、あるいは能力を発揮できる環境にないというところが問題であり、そこを新しい投資の概念で変えていく必要があると考える。

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(2) 報告:『インバウンド需要の取り込みに向けた積極投資』

       報告者:宮崎  俊哉  株式会社三菱総合研究所 社会公共マネジメント研究本部主席研究員
                                                                                                           報告資料[3.8mb,PDF]

1.最近の日本におけるインバウンドの状況
観光庁の統計(旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究)によれば、内部観光消費額(日本国内の観光の消費額)は2005年頃から減少傾向にあり、2014年時点で22兆円となっている。一方、訪日観光消費(インバウンド)は2005年には1兆円だったが、2015年には3.5兆円にまで拡大している。
各国の観光消費に占めるインバウンドの割合をみると、日本は9.8%しかないが、マレーシアは50%超となっている。そのため、日本のインバウンドの割合が増加すれば、観光消費の純増につながるとの期待感が大きい。
インバウンドの旅行者数は、2015年は対前年比で40%増だったが、2016年は対前年比15%増程度と落ち着いている。消費額は円高の影響もあり、2016年4−6月期は対前年比で▲15%減となっている。
2.市場環境
インバウンド市場は爆発的な伸びをみせており、2015年時点で以前の予測を上回る1,900万人に達している。2020年までに4,000万人という当初の政府目標を凌駕する伸びが考えられる。
訪日観光客数をみると、2013年から2年間で1,000万人増加し、2015年には2,000万人となった。このうち、中国からの観光客は2年間で300万人増加し2015年には500万人となっている。これはGDPや一人あたりの所得の増加に伴う上昇の影響があると考えられる。
タイや韓国においても中国の影響は大きく、インバウンドを取り込む際のポイントになっている。どの国でもインバウンドの旅行者数の7、8割は近隣諸国からの訪問者であり、日本の場合、今後、中国の訪問者数がどうなっていくかが一番の不確定要素である。
3.観光振興に係る政策
2016年3月に政府が出した「明日の日本を支える観光ビジョン」では、観光先進国を目指す上で、3つの視点が挙げられている。1つ目は地方創生、2つ目は観光産業の革新、3つ目はストレスフリーな環境整備である。
また、新たな政府目標として、訪日外国人旅行者数を2020年までに2,000万人だったのを4,000万人、2030年までに6,000万人に引き上げている。また、訪日外国人旅行消費額は、当初目標が2020年までに3.5兆円だったのを8兆円、2030年までに15兆円に引き上げているが、消費額の単価は低下傾向にあるため達成できるかが懸念される。
地方が観光に活発に取り組んでいる背景は、地方創生のおかげであるといっても過言ではない。地方創生交付金の中でも観光分野が一番大きく、活動が活発化していることにつながっている。特に、地方では、世界水準の観光協会とも言えるDMO(Destination Marketing/Management Organization)が組織されつつある。
4.観光産業の実態
観光業の年間の売上は、年末年始、ゴールデンウイーク、お盆の計3週間で2割を占める。また、平日と土日では日当たりの売上も大きく変動する。客の都合に合わせる需要追随型のため、常用雇用をどの程度確保するかが課題となっている。
観光産業の事業所数は104万であり、このうち個人事業主(従業者数0〜4人)の事業所が66万で全体の63%を占めている。この規模の事業所の年間の投資額は30万円ほどであり、看板作成も多言語対応も大変という状態である。よって、外国語の案内表示は全体の2.3%、クレジットカード対応は全体の18.5%しか対応できていない。
観光産業事業所の主な事業の売上高のうち、観光客分である観光売上高は全体の17.5%の15.2兆円となっている。さらに、この観光売上高全体の76%は、売上高に占める観光の割合が50%以上の事業所9.5%が占めている。つまり、観光事務所の約1割が日本全体の観光売上の4分の3を占めているといえるため、観光産業の投資を促すには、この1割に該当する事業者が対象となると考えられる。
5.観光産業における投資、インバウンドの取り込みに向けて
地域におけるインバウンド振興戦略として、国や地方は、地域のブランディングや周遊ルートの構築に力を入れている。やるべきこととしては、観光産業の高付加価値化が必要であり、生産性の向上や雇用環境改善が求められる。また、通年での観光地化につなげていく必要がある。
インバウンドをきっかけに、仲居に英語教育の人材投資をしたことで英文メールを介して外国人観光客が増加し、繁閑期が平準化したり、商店街でのクレジットカード利用や多言語メニュー対応、QRコードによる多言語情報の提供で売上増となり、季節、曜日、時間帯の売上平準化につながった事例もある。インバウンドはきっかけで、そこで雇用が生まれ、投資につながり、日本人の消費拡大にもつながるという話も聞いている。
最近はビッグデータから、外国人観光客がどのルートから来訪しているのかが分かるため、DMOのような組織が必要になってくる。
インバウンドの取り込みに向けた積極投資として4つの観点がある。1点目は人材育成を含めた広い範囲での投資である。2点目は、事業所単独でやるべき投資と基盤的投資の両方を行うことであり、基盤的投資についてはDMOや地方の金融機関が中心となって進めていく必要がある。3点目は、遠方から来る観光客を取り込むために、決済からマーケティングまでの一連の流れ(デジタル・マーケティング・システム)を、DMO等において取り組むことである。4点目は、観光客だけに依存するのではなく、持続性をもたせるためにも、事業所としてどのようにバランスをとっていくかという点である。
観光分野で現状注目されているのは、もっぱらインバウンドであるが、観光経済における規模感では成長を遂げたとしても国内旅行によるものよりも小さい。地域として協力が得やすいインバウンドへの対応をきっかけとして、最終的には国内旅行の振興にも資する“地域としての稼ぐ力”をつくる取り組みへと進化あるいは深化させて行くことが重要である。
また、インバウンドは訪問者による現地での経済効果だけでなく、モノや食のアウトバウンド、つまり輸出の創出につながるものである。このことから、インバウンド振興においては、現地で楽しむ「観光」に加え、特産品などの「モノ」のアピール、「食」のプロモーション、これらを一体のものとして取り組むことが効果の最大化のために必要である。

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