財務総合政策研究所

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医療・介護に関する研究会
第5回会合
2016年1月15日(金) 14:00〜17:30
於: 財務省4階 西456「第1会議室」

第5回会合

報告 『地域医療構想について』

報告者

松田 晋哉 産業医科大学医学部教授
報告資料[3.90mb,PDF]
報告 『日本の保健医療統計・外来支払制度』

報告者

井伊 雅子 一橋大学国際公共政策大学院教授
報告資料[1.42mb,PDF]

議事要旨

(1) 報告『地域医療構想について』

松田 晋哉 産業医科大学医学部教授

地域医療構想とは、住民を交えた幅広い関係者が、地域の実情に応じた課題を抽出し、実現に向けた施策を検討することで、将来の地域の医療のあり方を考え合意していく取組みである。二次医療圏等単位の協議の場である「地域医療構想調整会議(以下、調整会議という。)」では、NDB(National Data Base)、DPC(Diagnosis Procedure Combination、診断群分類)、急搬送等の基本データを用いて自地域の医療の現状を把握し、地域ごとに高度急性期・急性期・回復期・慢性期といった機能別の病床数を推計するツールを使って、2025(平成37)年までにどのような医療提供体制が必要かを検討することになっている。
地域医療構想策定に当たっては、関係者に機能別病床数を推計するロジックを正しく理解してもらい、その限界を知ってもらうことが前提として非常に重要である。地域医療構想は、2018年(平成30年)の第7次医療計画や地域包括ケア計画に繋がっていくものである。
調整会議の議論で用いられる基本データは次の通りである。

@DPCデータ:高度急性期病院や急性期病院で取られているデータで、各医療圏の診療科に相当するMDC(Major Diagnostic Category)ごとの症例数を見ることができ、地域において不足している診療機能がないか、各病院の診療機能は年度間で安定しているか、地域において病院の機能分化ができているかなどを確認することができる。

ANDB:各医療機関のレセプトを全て集めたものであり、大部分が電子化されている。約170の医療指標に対してそれぞれの医療圏が自己完結できているかをデータベース化している。

B救急搬送データ:消防庁のデータで、年齢階級別、時間別に電話受信時間、現場到着時間、収容時間をデータベース化しており、救急の現状把握に活用されている。

C年齢調整標準化レセプト出現比(SCR):あるレセプトが全国の性年齢階級別の出現率と同じ割合でその地域で出現するとしたら、どの程度のレセプトまで出現していくのかをその期待数を計算し、期待数に対して実際の数がどの程度あったのかの比をとる指標である。100を全国平均とし、100より大きい場合その地域でその医療行為が多くなされており、100より小さい場合少なくなされていることを意味する。

DPC等のデータに加え、人口動態や傷病別入院患者数の推移などについても検討している。今後、要介護状態にある高齢者の肺炎や認知症高齢者の骨折などが増加すると見込まれており、予防対策が課題である。また今後予想される分娩の減少を止めるため、地域における分娩施設の確保をどうするかという問題も、地域医療構想の中で考えていくことになる。
私の研究班で機能別病床数を推計するツールの構築に取組むことになり、2013年度(平成25年度)の1年分のDPC、NDBのデータを活用して作成した。疾病別に高度急性期・急性期・回復期・慢性期といった機能ごとに分け、さらに性年齢階級別の推計を地域ごとに行うこととなった。機能分化について、例えば、急性期と回復期については医療資源の投入量が変化する時期に基づいて区分点を見出すとか、病状が落ち着いて退院するまでが回復期であるといった考え方により、データを分析しフェーズの区分を行った。また、慢性期について考える際に、点数をみても現在の療養病床の実態がよく分からないため、@入院以外で対応できる慢性期は70%程度(日本慢性期医療協会がまとめているアンケート結果による)、A都道府県の療養病床入院受療率の格差を縮小させる、という2つの仮定を置いて療養病床数の推計を行っている。但し、実際には慢性期の療養入院率は、介護施設の充実や在宅での看護の状況に依存するため、今後精査が必要である。
具体的な機能別病床数の推計方法について、胃癌の全摘出術を例にとると、1年分のDPCデータを集めて、入院期間中の日数(1日目、2日目・・)ごとの点数分布を求め、これを高度急性期、急性期、回復期、慢性期部分に分解して、それぞれ1年間に病床にいたと思われる患者数を求める。それに年末年始の補正を施し365日で割ると1日当たりの人数が求められ、これを病床稼働率で割戻して必要な病床数を推計している。これによりDPCごと(疾病別)に機能別の病床数を求めることができるが、この取組みによりDPCの一般化を行ったともいえる。
将来推計のプロセスは以下の通りである。@DPC別・病床機能別・性年齢階級別・患者住所地別・医療機関住所地別の患者数を求める、A患者住所地別・性年齢階級別の人口で割り現在の受療率を求める、B受療率に推計年度の患者住所地別・性年齢階級の人口を掛け、推計年度のDPC別・病床機能別・性年齢階級別・患者住所地別・医療機関住所地別の患者数を求める、C1日当たりの計数であるBを病床稼働率で割り戻し推計年度のDPC別、病床機能別、性年齢階級別、患者住所地別、医療機関住所地別の病床数とする。つまり、病床機能別、性年齢階級別に患者さんの移動を考えた上で、1日当たりの病床数が何床必要なのか計算できる。また、都道府県格差については、地域差を縮小していく観点から、多くの県では全国最大レベルの入院受療率を全国中央値レベルにまで低下させる割合を用いて、二次医療圏ごとに療養病床の推計を行っている。

※推計結果は、「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会 第1次報告 〜医療機能別病床数の推計及び地域医療構想の策定に当たって〜」(2015年6月15日)(外部リンク)を参照

機能分化等をしないまま高齢化を織り込んだ場合、2025年の必要病床数は152万病床であり、目指すべき姿である115〜119万病床程度まで削減できたとしても、将来在宅医療等で追加的に対応する患者数は30万人程度見込まれる。特に慢性期にあたる高齢患者を地域包括ケア体制でしっかり対応していけるかが一番の課題である。
地域の例として福岡県粕屋医療圏を取上げ紹介する。粕屋医療圏では4割が隣の福岡医療圏に入院やリハビリで流れているが、療養の約8割は自医療圏内で行っている。急性期医療を提供できている範囲や安定性で見ると問題ないところである。救急患者も全領域で提供できており、年度間でも安定している。医療機関への平均搬送時間をみると粕屋医療圏では現場到着が8分、現場からの収容時間が22分と問題ない。他方で、二次救急や脳梗塞患者は4割ほどが福岡医療圏へ流出している。
医療体制面について、特に高度急性期や急性期の病床は専門医の養成課程によって医師の配置が決まってしまうため、大学医学部との調整も必要となる。また、回復期病床は典型的には地域包括ケア病床であり、急性期からの受け入れ、在宅支援、在宅復帰の誘導が必要となるため、診療所や介護施設との連携のしやすさを考慮する観点から、診療所の先生や介護関係者の意見聴取が必要となる。また、若い世代の医師で女性比率が高まっており、今後ワークライフバランスや働き方を見直さないと、フルタイム換算で見た医師数が不足する可能性がある。看護師については地方で高齢化が進んでおり、それらの地域では今後看護師不足が懸念される。これらは全国的な課題として考えられるが、現状は地域による配置差が大きい。今後、今回の推計結果をベースとして医療職の適正配置についても検討する予定である。

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(2) 報告『日本の保健医療統計・外来支払制度』

井伊 雅子 一橋大学国際公共政策大学院教授

2014年11月に公表されたOECD「日本の医療:質のレビュー」では、日本は医療の質の管理と提供に全般的に問題があるのではないかと指摘されており、具体的には、@プライマリ・ケア、A病院、B精神医療の分野において評価と提言している。中でもプライマリ・ケアと精神医療の質の管理が弱いのではないかと思う。
各国がSHA(System of Health Account)に基づき推計し、OECDが集計する総保健医療支出(health expenditure)は、予防、公衆衛生、介護費用を含む概念であるが、例えば介護の概念が国によって異なり、推計が統一されていないなどの問題がある。OECDは2006年のガイドラインで「総保健医療支出は10%前後までの誤差を起こす可能性がある」と指摘している。日本の介護費用9兆円をOECD統計の推計値と比較すると、推計値の方が低い値となっている。これは9兆円の介護費用のうち6兆円を占める居宅サービスのほとんどと、3兆円の施設サービスのうち約半分の特別養護老人ホーム部分が計上されていないためと考えられる。その他にも、障害者の介護費用、特養の居住費・食費などの自己負担分、市町村の地域支援事業が含まれていないといった問題点を挙げることができる。

※詳細は、「フィナンシャル・レビュー平成27年(2015年)第3号(通巻第123号), 「総保健医療支出」推計の問題点(西沢和彦日本総合研究所調査部上席主任研究員)」
「JRIレビュー Vol.11, No.30 西沢和彦, 「総保健医療支出」におけるLong-term care推計の現状と課題 ─医療費推計精度の一段の改善を─」(外部リンク)を参照

日本における医療関係の統計は、厚労省だけでなく、大学病院であれば文科省、地方自治体であれば総務省、総保健医療支出(health expenditure)の推計は医療経済研究機構など、様々な省庁や外郭団体が作成しているが、組織的な統制が取れていないことが問題である。例えば英国では統計局が管轄しており、総保健医療支出ガイドラインの変更などにも適確に対応出来る体制になっている。
2015年11月にOECDが発表した「Health at glance」では、日本の急性期医療の質にばらつきがあることや、子宮頸がん・乳がんの検査受診率がOECD全体平均に比べて非常に低いということが指摘された。また、2013年発表の「Health at glance」では、日本は全人口に占める心筋梗塞による死亡率は低いが、一旦心筋梗塞になるとその死亡率が高く、心筋梗塞入院患者の30日以内の急性期死亡率はOECD諸国でメキシコに次いで高いことが示された。日本の場合、高齢患者が多いということがあるのかもしれないが、心臓のリハビリがあまり普及していないなど、医療の質や制度的な問題もあるのではないかと考えられる。
WHOが2008年に出した年次報告書(Primary Health Care: Now More Than Ever)や最近の世界銀行の報告書(長く幸せな人生を:東アジア・大洋州地域の高齢化)では、20世紀は世界中で病院を中心とした医療が中枢を担ってきたが、非効率・不公平であり、プライマリ・ケアを中心とした健康医療制度へ変換することの重要性を指摘している。日本の医療は病院を含めフリーアクセスでどこでも自由に診療を受けられるが、多くの国ではプライマリ・ケアが医療や健康問題の8〜9割をカバーしており、大学病院などの三次医療に行くのは数%以下である。一方、費用面では三次医療に医療費の多くを使っており、プライマリ・ケアはたいへん費用対効果の高い医療を行っている。
日本の医療の大きな問題点の一つは、治療の品質がばらついていて、品質を担保する仕組みがないことである。特にプライマリ・ケアにおいて顕著である。その理由は、これまでプライマリ・ケアの専門医になるための研修が必修でなく、専門医研修を受けずに専門医療に従事できる自由標榜制であったことも大きな理由。2017年(平成29年)からは新たな専門医研修制度が整備され、認定された後期研修を修了した上で、18の基本領域及び新たにできる総合診療専門医(プライマリ・ケアの専門医)からひとつ選び、研修が必修となるため、一応ここで品質が担保されることになる。
プライマリ・ケア医の重要な役割の一つとして、コスト意識を持ち費用対効果を高めることで、地域の人が病気にならないようにあるいは病気が悪化しないようにすることがある。支払い制度が出来高払いだとうまくいかないことが想定される。地域で継続的に医療を提供していく責任をどう担うのかという観点から、日本の実情にあった支払い制度を導入することが重要になる。その点で参考になり得るのが、イギリスのプライマリ・ケア制度で導入されている成果報酬支払制度である。
イギリスのプライマリ・ケア制度は、患者の希望に応じてどの診療所にも自由に登録可能で、受診毎に医師(GP:General Practitioner、家庭医)を選べるが、実際は特定の医師に継続的にかかる傾向がある。外来は予約が一般的だが、予約枠が一杯の場合は当番医がフレキシブルに対応する。QOF(Quality and Outcomes Framework、成果払い)は2004年から導入されたプライマリ・ケアにおける支払制度で、GPの総収入に対するQOFの割合は一時3割くらいまで増えたようだが現在は1割程度になっており、capitation(人頭払い)が7割、残りが出来高払いとなっている。
QOFのもとでは、診療所に登録している住民が健康になるほど診療所の収入が増える仕組みに基本的にはなっている。診療所が提供するサービスによって登録している住民の電子カルテ上の健康データが改善すると診療所の実績として評価され、報酬が支払われる。例えば高血圧患者で数値上の改善が見られなくても、適切な検査、助言、治療を提供しているかも評価の対象となり報酬に反映される。評価項目も年々増加している。
QOF導入による変化として、@医療の質、A患者の意識、Bデータの活用の3つの面が挙げられる。

@医療の質を向上させる方策として、(1)単一疾病治療でなく包括的な治療の推進や未病段階からの継続したモニタリング(例えば血圧に関して疾患症状が発生する前から高血圧の症状がでている住民を登録すると、50〜90%の登録達成で15点)、(2)慢性疾患の継続的なモニタリングとフォローアップ(例えば認知症に関して、認知症と診断された患者のケアプランを12か月以内に対面で見直すと35〜70%の対面達成で39点)、(3)生活習慣の改善や予防医療にインセンティブの付与(例えば血圧を下げるインセンティブを付与し、達成度・達成率によって診療報酬に反映)、(4)問診事項が曖昧になりがちな疾患診断への評価軸の標準化(例えば喘息に関して標準化された問診項目によって過去12か月に再診を行うと45〜70%の再診達成で20点)などの取組みがなされている。

A患者の意識が治療の「対象」から「主体」に変容している。これはPatient centered careと言われるもので、医師に指導されるのではなく、患者自身の自発的な意思や行動を中心にして、GPが患者や家族の意向を重視して治療を行うスタイルに変わっている。新規患者に対する教育プログラム推進や生活習慣改善(例えば新規糖尿病患者に対して9か月以内に教育プログラムを受講させると40〜90%の受講達成で11点)、家族・保護者を含むケア体制の推進(例えば精神病に関して統合失調症などの精神病患者の中で過去12か月に患者本人・家族・介護者と適切に合意された包括的なケアプランがある割合の達成率40〜90%で6点)などが医師の報酬に反映される。

B地域ごとに登録・集積された医療データが活用されている。GPは予防や健康増進を通して地域全体の健康を支える役割を担っているが、登録データから、例えば65歳以上の住民または65歳未満でも糖尿病や喘息を抱える人や妊婦などからインフルエンザワクチンの未接種者を割り出して、当該者に一人一人手紙を出すといったことが日常的な仕事になっている。また、医師も地域の診療所の診療内容や薬の処方の内容を外部から監査される仕組みになっている。

QOFの問題点としては、毎年の指標見直しのためGPの事務負担が大きいこと、政府見込みより達成率が高くGPがこの指標に固執しすぎている可能性があること、GPにかかる費用が増加していることが挙げられる。但し、指標は開始時点の10領域から増加しているものの最近は減少傾向もみられるため、必ずしもGPの負担が増えている状況ではない。また、GPにかかる費用は、導入前の19億ポンドから導入3年後に69億ポンドに増加したという報告もあるが、GPの給与も増え、制度としては一定の成功を収めていると言われている。

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