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「持続可能な介護に関する研究会」報告書

平成27年5月発表

目次
(役職は平成27年3月現在)

序章 介護の持続性の確保に向けて

全文

  1. 今後大きく伸びる見通しの介護費用
  2. 介護の持続性を検討する上での基礎的事項
  3. 介護は医療と一体として改革
  4. 研究会における議論
  5. 改革の着実な実行の重要性

前島 優子

(財務総研研究部総括主任研究官)

第1章 介護保険制度の現状と課題

要旨

  1. 介護保険制度を巡る論点
  2. 介護保険制度の概要と財政
  3. 高齢化と介護保険への影響
  4. 介護保険の保険料とその地域差
  5. 介護保険制度の課題と改革の方向性

加藤 久和

(明治大学政治経済学部教授)

第2章 高齢者ケアのあり方に係る国内外の取り組み

要旨

  1. 高齢者ケアのあり方は世界共通の課題
  2. 日本の医療の特性
  3. 社会的入院からの転換とその後−スウェーデンの例
  4. 24時間在宅ケア体制の実現―デンマークの例
  5. 医療の情報の非対称性に対する取り組み―Choosing Wisely キャンペーン
  6. ケアの質の向上とコスト抑制の両立―アメリカでの実験
  7. WHOのICF(生活機能分類)−医療介護の共通言語
  8. 介護の質の評価
  9. 人生の最終段階に関する議論
  10. 認知症に関する議論
  11. 課題解決のためのテクノロジーへの期待
  12. 知識と意識の重要性

前島 優子

(財務総研研究部総括主任研究官)

第3章 介護総費用の長期推計

要旨

  1. はじめに
  2. 介護保険制度の現状と先行研究の概要及び本研究の特色
  3. 介護総費用の構成要素の推移に係る検証
  4. 介護総費用シナリオ別将来推計方法と結果
  5. まとめと今後の課題

酒井 才介

(財務総研研究部主任研究官)

佐藤 潤一

(財務総研研究部研究員)

中澤 正彦

(京都大学経済研究所教授、財務総研コンサルティング・フェロー)

第4章 介護保険の利用者負担のあり方

要旨

  1. 利用者負担の必要性
  2. 2015年度からの利用者負担の制度変更
  3. 利用者負担の増加の影響
  4. 高齢者世帯の所得・資産状況と利用者負担
  5. まとめ

土居 丈朗

(慶應義塾大学経済学部教授、財務総研特別研究官)

第5章 超高齢社会での金融の果たす役割
―リバースモーゲージを含む金融商品の活用―

要旨

  1. 高齢化の進展と介護保険財政
  2. 高齢者世帯の経済状況
  3. 公的保険を補完する民間保険の役割
  4. 介護・老後生活資金へのリバースモーゲージの活用
  5. 金融に期待される役割(方向性)

並木 司

(明治安田生活福祉研究所福祉社会研究部長)

第6章 医療・介護のあり方
  −高齢期の医療・介護サービス利用の実態−

要旨

  1. 介護ニーズに対する医療資源投入
  2. 高齢者の介護ニーズと医療サービス利用−A自治体の事例−
  3. 死亡前における高齢者の医療・介護サービス利用の実態−B自治体の事例−
  4. 医療から介護への代替を通じた費用効率化

菊池 潤

(国立社会保障・人口問題研究所室長)

第7章 地域包括ケアの担い手を考える

要旨

  1. 地域包括ケアシステムの構築と担い手確保
  2. 介護労働市場の現状と介護人材確保対策の展開
  3. 地域包括ケアをめぐる国際的な潮流
  4. 諸外国におけるケア従事者をめぐる動向
  5. 人間中心の持続可能な地域ケアに向けて

堀田 聰子

(労働政策研究・研修機構研究員)

第8章 訪問介護事業所の経営主体による差異に関する一考察
―「介護サービス施設・事業所調査」の個票を用いた定量分析結果から―

要旨

  1. はじめに
  2. 分析の方法
  3. データ、及び、基本統計量
  4. 結果
  5. 考察

野口 晴子

(早稲田大学政治経済学術院大学院政治学研究科教授)

第9章 超高齢社会におけるまちづくりの一考察

要旨

  1. 超高齢社会に向かう現在のいくつかの課題
  2. 超高齢社会に向けての基本的考え方
  3. 解決策としてのまちづくり
  4. 結論

山崎 敏

(立教大学コミュニティ福祉学部兼任講師)

第10章 人口減少・超高齢化を乗り切るための地域包括ケア・コンパクトシティ構想− 財政の視点から −

要旨

  1. 地域包括ケアシステムが抱える3つの問題
  2. 特別養護老人ホームの入所待機者数に対する簡易予測
  3. 「地域包括ケア・コンパクトシティ」の財源をどう捻出するか
  4. カギを握る都市部と地方の連携
  5. 人口集約によるコスト節減効果
  6. いま日本に求められる叡智と課題

小黒 一正

(法政大学経済学部准教授、財務総研上席客員研究員)

第11章 デンマーク・オランダ・ドイツの在宅・施設介護と日本への示唆

要旨

  1. 介護を受ける場所について
  2. 各国の在宅介護
  3. 各国の施設介護
  4. ディスカッション・インプリケーション

宇南山 卓

(財務総研研究部総括主任研究官)

坂本 智章

(財務総研研究部主任研究官)

富永 健司

(財務総研研究部研究員)

特別講演録1 超高齢社会を支える在宅医療・介護の取り組み

議事要旨ページ

武藤 真祐

(医療法人社団鉄祐会理事長)

特別講演録2 保健・医療・介護ビッグデータの構築・活用の可能性と課題 −地域差要因と介護予防の視点から−

要旨

  1. 介護保険における地域差の実態と要因
  2. 保健・医療・介護におけるビッグデータの活用の可能性と課題
  3. 健康の地域間格差と社会参加による介護予防の可能性
  4. まとめ

近藤 克則

(千葉大学予防医学センター教授)

補論1 介護保険の地域格差分析−地域格差の背景にある自治体の取り組み−

議事要旨ページ

  1. 介護保険の地域格差について
  2. A市とB市の特徴
  3. 認定率の地域間格差が生じる背景
  4. 今後進むべき方向性

奥  愛

(財務総研研究部主任研究官)

越前 智亜紀

(財務総研研究部研究員)

補論2 医療・介護の透明性への期待―医療法人監査、介護の質の評価の動向―

議事要旨ページ

  1. 医療法人の経営透明性について
  2. 介護サービスの質の評価について
  3. 透明性の高い医療・介護サービスの提供に向けて

和田 誠子

(財務総研研究部研究員)

長谷川 克征

(財務総研研究部研究官)

補論3 海外各国の介護制度に関する基礎的情報

議事要旨ページ

  1. 各国の基礎的情報
  2. 国によって様々な介護制度と給付の考え方

石本  尚

(財務総研研究部研究員)

(研究成果をまとめた出版物が、2015年秋頃出版予定となっております)

 

第1章
介護保険制度の現状と課題

加藤 久和 (明治大学政治経済学部教授)

【要旨】

介護保険制度は、高齢化の進展とともにそのニーズを急速に拡大していった。介護総費用は団塊の世代が75歳を迎える2025年度には現在の2倍以上に増加すると推計されている。

要介護(要支援)認定者数の推移をみると2000年度から2012年度までの12年間で年平均6.8%の高い率で増加しており、また、2012年度では要介護・要支援認定者の85.0%が75歳以上であるなど後期高齢者のウエイトが大きい。

第1号被保険者に対する要介護(要支援)認定者の出現率を計算すると、2000年度の11.4%から2012年度では18.1%まで上昇している。要介護(要支援)の認定者数は都道府県別にも差があり、75歳以上の認定者数は東京圏だけで2040年度までにおよそ74万人増加すると試算された。

保険料に関しては、その決定にあたって地域差、所得差という二重の調整がなされている。保険料の地域差は大きく都道府県別の平均値でみても1.3倍の開きがある。しかし、保険者別に見た保険料のばらつきは過去に比べて縮小している。

介護保険制度の改革にあたっては、介護の担い手不足、医療との連携、介護給付費の増大のなどに関して早急な対応が迫られている。加えて、財政等の負担を軽減するため、給付対象者の見直し、負担額の引上げ、制度の効率化などが必要であると考えられる。

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第2章
高齢者ケアのあり方に係る国内外の取り組み

前島 優子 (財務総研研究部総括主任研究官)

【要旨】

厳しい財政状況と人口減少の中、世界でも稀に見る高齢化が進む日本においては、医療・介護の持続性を確保するために、国内外の優れた知見を活用しながらできる限り効果的に改革が推進される必要がある。本稿では、このような問題意識から、諸外国における高齢者ケアに係るいくつかの取り組みや考え方を示す。医療や介護は個々人の問題であるとともに社会全体の問題でもある。1人1人の納得できる選択と社会における適正な資源配分のために、国内外の質の良い情報が正確かつ十分に分かりやすい形で周知・提供されることが重要である。

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第3章
介護総費用の長期推計

酒井 才介 (財務総研研究部主任研究官)
佐藤 潤一 (財務総研研究部研究員)
中澤 正彦 (京都大学経済研究所先端政策分析研究センター教授、
財務総研コンサルティング・フェロー)

【要旨】

介護保険制度は人々の長期的な行動に影響を与え得る。例えば、介護保険制度の有無は、家庭内の介護に携わる者の就労の選択に影響するであろう。

介護保険制度が人々の行動に影響を与えることを踏まえれば、高齢化が進展し介護需要が急増することが容易に想定される中、持続可能な介護保険制度の設計に取り組む必要があるが、持続可能性の評価を行うツールとして介護総費用の長期推計は不可欠なものと言える。

ここで、多くの先行研究では、介護保険制度が十分に浸透していることを前提として長期推計を行っている。これは例えば、介護が必要との認定を受けた人が人口に占める割合を認定率とすると、これが長期にわたって変化しないことを前提としている。本稿では、まず、介護保険制度が十分に浸透しているのかどうかを分析する。分析の結果、近年においても認定率や利用者一人当たり介護費用が上昇傾向となっており、介護保険制度は浸透途上にあると考えられることがわかる。そこで、今後の介護保険制度の浸透に伴い必要な費用がさらに伸びることを想定した「制度浸透シナリオ」を設定する。その上で、先行研究の一つである上田他(2014)のモデルを用いた「ベースシナリオ」の長期推計と比較する。推計の結果、上田他(2014)を用いたベースシナリオにおいては2060年時点での介護総費用対名目GDP比は6.4%である一方、制度浸透シナリオは7.3%となることが確認された。

本稿の推計結果を踏まえれば、介護保険制度が浸透途上にあるのかどうかを判断した上で、介護総費用の長期推計を行っていく必要があるだろう。

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第4章
介護保険の利用者負担のあり方

土居 丈朗 (慶應義塾大学経済学部教授、
財務省財務総合政策研究所特別研究官)

【要旨】

本稿では、介護費用の財源負担について、利用者負担を中心に考察した。2015年度から始まる第6期では、一定以上所得者の利用者負担が2割に引き上げられることとなっている。本稿では、利用者負担を1割から2割にした場合、生涯利用者負担額の期待値がどの程度増加するかを分析した。その結果、利用者負担割合が1割である現状において、65歳段階からみて、生涯にわたる利用者負担額の期待値の現在価値は、男性で約21.7万円、女性で約55.2万円であることが示された。このことから、1割から2割に引き上げたとしても、全員がその対象とならないことから、生涯にわたる利用者負担額の期待値の現在価値の増加は、最大で男性で約21.7万円、女性で約55.2万円であると見込まれる。

さらに、いったん受給者となると継続して受給者となり利用者負担を支払うことになるという性質に着目して、連続して年間継続受給者となる年数の期待値を推計したところ、3.71年前後との結果を得た。全要介護認定区分の平均での受給者1人当たり利用者負担額は年額約16.34万円であることから、1割から2割に引き上げたことで、連続して年間継続受給者となった場合に増加する利用者負担額の期待値は、約60.7万円となると見込まれる。

この利用者負担の増加と、高齢者世帯の負担能力の関係を、全国消費実態調査のデータに基づき考察したところ、世帯主が65〜69歳の世帯では、約8割が金融純資産を300万円以上保有していること、第6期から利用者負担割合が引き上げられることになる対象の高齢夫婦世帯でも高齢単身世帯でも、金融純資産が150万円未満の世帯は1割にも満たないことから、利用者負担割合が2割になる高齢者世帯の大多数で、負担増にはなるものの、生涯利用者負担額の期待値の増加に対応できることが確認された。

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第5章
超高齢社会での金融の果たす役割
―リバースモーゲージを含む金融商品の活用―

並木 司 (明治安田生活福祉研究所福祉社会研究部長)

【要旨】

超高齢社会を迎え社会保障費の増加が続くなか、持続可能な介護に向けて、今後は国民一人一人が自助努力で経済的準備を進めることがより一層必要である。民間金融機関は、高齢者ニーズを満たす金融商品・サービスを開発・提供し、老後の経済的不安を軽減することが求められる。

長生きリスクに備えるためには民間の終身年金への加入も選択肢の一つである。より低額の保険料で備えるには、据置期間を設け受給開始期間を超高齢期に合わせるという方法がある。近年、米国では超高齢期に受給を開始して受給期間を終身とした「長寿年金」の販売が伸びており、日本でも参考となろう。介護のリスクへの対応は貯蓄だけでは十分とは言えず、民間の介護保険の活用が必要である。ドイツの「バール介護」のように、政府が補助金を支給して低廉な民間介護保険への加入を促す制度も検討に値するだろう。

相応の住宅資産を有している高齢者には、リバースモーゲージも有効な資金調達手段となりうる。しかし現段階では、対象となる住宅が限られていることや、担保割れリスクのためほとんど普及していない。普及のためには、中古住宅市場の整備・拡大に加え、米国のような担保割れリスクをカバーする公的保険の創設などが必要となってこよう。

民間金融機関が金融商品・サービスを通じて老後の経済的不安を軽減し、政府が普及促進に向けた制度の創設やPR等でバックアップする官民の連携モデルが望まれる。老後の経済的不安の軽減が、高齢者の経済活動を刺激し、社会全体にポジティブな影響をもたらすという好循環が期待される。

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第6章
医療・介護のあり方
−高齢期の医療・介護サービス利用の実態−

菊池 潤 (国立社会保障・人口問題研究所室長)

【要旨】

高齢化の進展とともに高齢者医療・介護費は年々拡大している。財源の多くを「公費」に依存するわが国では、医療・介護費の増加は政府の財政状況を圧迫し、このことが制度の持続可能性を一層不安視させることとなっている。医療・介護保険制度の持続可能性を高めていくためには、費用の効率化が不可欠であるが、医療と介護は密接に関連するサービスであり、医療・介護全体での費用効率化が求められる。

本章では、個人単位で接続した医療・介護レセプトデータに基づく二つの事例研究をもとに、高齢者の医療・介護サービス利用の実態、とくに介護ニーズに対する医療資源投入の実態について検討を行った。この結果、高齢者医療・介護費の4割程度を入院費用が占めており、その多くが1日当たり費用の低い低密度入院となっており、介護目的による入院が依然として行われていることを示唆する結果が示された。また、これらの低密度入院は死亡前においても存在し、長期にわたる低密度入院が死亡前医療・介護費を押し上げる一因となっていることが示された。

介護保険制度は「社会的入院」の解消を一つの目的として導入されたが、介護ニーズに対する医療資源投入は依然として存在し、医療から介護への代替を通じた医療・介護全体での費用効率化は不可欠と考えられる。今後、医療から介護への代替を進めていく上で、病床再編と地域包括ケアシステムの構築が大きな柱となり、両者を車の両輪として、入院に依存しない看取りを含む高齢者ケアを実現していく必要がある。

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第7章
地域包括ケアの担い手を考える

堀田 聰子 (労働政策研究・研修機構研究員)

【要旨】

地域包括ケアシステムの担い手に焦点をあて、我が国における介護労働市場の現状及び介護人材確保対策の変遷を整理したうえで、地域包括ケアシステムをめぐる国際的な潮流と諸外国におけるケアの担い手にかかわる動向を概観した。健康概念・支援観が変化するなか、すべての住民を担い手(主体)と位置づけ直し、その養生を支援するとともに、家族・地域のさまざまな主体の力を引き出す方策、専門職の新たなコンピテンスとその養成のあり方についての検討が重要であることを示した。さらに、世界的に注目を集めるオランダの在宅ケア組織の事例を紹介し、人間中心の持続可能な地域ケアに向けた移行について、担い手の観点から示唆をまとめた。

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第8章
訪問介護事業所の経営主体による差異に関する一考察
―「介護サービス施設・事業所調査」の個票を用いた定量分析結果から―

野口 晴子 (早稲田大学政治経済学術院大学院政治学研究科教授)

【要旨】

本稿では、要介護度とサービスの提供状況に関して、事業所の経営主体による差異を定量的に検証するため、「介護サービス施設・事業所調査」の居宅サービス事業所票(平成13年、平成16年、平成21年、平成24年)の個票に対して、kernel matchingによるPS法を応用し、営利事業所と非営利事業所を比較した場合のATT推定を行った。

利用者属性で調整し類似した傾向スコアを有する事業所間を比較すると、営利事業所の方が要介護度の平均が高く、分析を行った4か年の変化を見た場合、各調査年間での事業所ごとの要介護度の平均値は、営利事業所でより高まる傾向にあることがわかった。営利事業所でのこうした一連の傾向は、要介護度が比較的高く、身体介助・家事援助双方のサービス提供を受けている群における要介護度の悪化を反映した結果であることが観察された。要介護度の変化に対し、利用者1人当たりの滞在時間を見ると、要介護度に関わらず、営利事業所の方が非営利事業所よりも滞在時間が長い傾向にあることがわかった。一方、各調査年間での一人あたり滞在時間の差異を見ると、要支援ではより長く、要介護3以上ではより短くなっている。

2000年の公的介護保険制度の導入以降、営利事業所の訪問介護サービス市場への参入が順調に進展しつつある中、本稿が得た結果から、全国一律の介護報酬制度の下、訪問介護サービス市場において、要支援・要介護者のQOLという観点からアウトカムの維持・改善を図るインセンティブが欠けている可能性のあることが明らかとなった。したがって、今後は、増大しつつある営利事業所に対し、高齢者のQOLを改善し、介護保険財政の健全化を促すためのインセンティブを与えるような制度設計が求められる。

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第9章
超高齢社会におけるまちづくりの一考察

山崎 敏 (立教大学コミュニティ福祉学部兼任講師)

【要旨】

現在は、次の団塊世代ジュニアが高齢者となる2042年以降から人口構成比が安定する2060年に向けて、地域で支える様々なシステムと共にコミュニティ規模や広がり、交通システムなどまち全体を作り変える時である。

高齢者ニーズを踏まえれば、まちの中核には医療・福祉、商業、住宅、+αの機能が重要であり、人口規模の集積と関係なく必要な機能である。徒歩でも通ることが可能で、かつ商店街と連動させる等、まちの中心部を再編整備していく事が重要である。

しかし、地域により課題は異なっている。首都圏では新規の介護施設計画や在宅福祉サービスシステムの整備と共に既存介護施設の老朽化に伴う建て替えが必要となる。地方都市では概ね介護施設の整備は終了しているが、経済活性化と連動したさらなる在宅福祉サービスの充実が必要である。

加齢により障害が発生する前の予防的措置として、まちなかに仕掛け作りをしておく必要がある。高齢者が地域で暮らす上ではデイサービス等の提供でも効果が大きいが、会食(昼食サービス)で人が集まるサロン的な場などがあっても良い。人口減少の続く地方都市のコンパクト化による再編整備は、高齢者ばかりでなく学童にとっての適正な通学圏域という意味でも効果がある。

既に暮らしている地域からの移転に伴うコミュニティの崩壊や人口が移動した後の周辺の農林業の在り方、具体的な都市部の縮小方法等、幅広く検討すべき事がある。検討すべき課題は多いが、空間的にヒューマンスケールでコンパクト化され、地域包括ケアシステムや他の都市計画と重ね合わされたまちを作る事が大切である。

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第10章
人口減少・超高齢化を乗り切るための地域包括ケア・コンパクトシティ構想
− 財政の視点から −

小黒 一正 (法政大学経済学部准教授、
財務総研上席客員研究員)

【要旨】

本稿では、急速な人口減少・超高齢化が進む日本において、「財政問題」「急増する都市部高齢者問題」「消滅の危機に直面する自治体問題」といった3つの問題に対応するため、「地域包括ケアシステム」と人口集約を図る「コンパクトシティ」との融合、すなわち、「地域包括ケア・コンパクトシティ」構想を提唱し、それを推進するための財源スキーム案や推進した場合の財政面の効果(人口集約によるコスト節減効果)を説明している。具体的には、「地域包括ケア・コンパクトシティ」等による人口集約政策の実行によって約2490 億円の財源を節減できる可能性や、「地域包括ケア・コンパクトシティ」を郊外で推進する際のカギを握る都市部と地方の連携の重要性やその他の課題を説明している。

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第11章
デンマーク・オランダ・ドイツの在宅・施設介護と日本への示唆

宇南山 卓 (財務総研研究部総括主任研究官)
坂本 智章 (財務総研研究部主任研究官)
富永 健司 (財務総研研究部研究員)

【要旨】

日本の介護が置かれた環境を各国比較するため、在宅介護や施設介護の制度・状況が日本とは異なるとされるデンマーク、オランダ、ドイツの3か国の現地調査を行った。日本への示唆は以下の通りである。

在宅介護については、日本で現在整備が進められている定期巡回・随時対応型サービス等の新類型は、充実度は異なるが、各国で提供されている在宅介護と方向性に違いはない。その普及率をさらに高めていく事は有効かつ重要な課題である。

施設介護については、日本と訪問国における提供サービスは類似しているが、日本の施設介護における居住費の負担は比較的低い。このため要介護高齢者が、介護サービスの観点からではなく、居住費節約のため施設介護を需要している可能性がある。施設介護と在宅介護の費用負担のアンバランスな状態を解消し、高齢者が介護を受ける場所をより中立的に判断できるよう、日本における特別養護老人ホームの自己負担のあり方を再検討していく事が必要である。

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特別講演録2
保健・医療・介護ビッグデータの構築・活用の可能性と課題
−地域差要因と介護予防の視点から−

近藤 克則 (千葉大学予防医学センター教授)

【要旨】

健康状態の地域差が少なからず見られること、それには社会的な要因が関わっていること、介護保険データを使った実証研究から、社会参加が要支援・介護認定率や鬱病発症率、自殺率にも好影響を与える要介護予防策となることを示し、さらにサロンを開所するなど地域の繋がりを豊かにする取組みで、要介護認定率の低下と介護給付費の抑制に効果があったことを紹介した。地域包括ケアを考える上では、保健・医療・介護のデータを結合し、縦断的に分析する必要があるが、データの保有者が異なっているためにその活用ができていないことを指摘した。国は、情報の「見える化」を進めると共に個票レベルの連結データや縦断データの活用を促して、地域包括ケアを考えるためのシミュレーションや効果検証ができる仕組みを構築すべきであり、事業費の3%を使った評価を義務づけるなど、PDCAサイクルが回る仕組みを創設する必要があるとした。

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