財務総合政策研究所

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フィナンシャル・レビュー
平成27年(2015年)第1号(通巻第121号)

平成27年3月発行

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<特集>コーポレート・ガバナンスV

神田 秀樹 東京大学大学院法学政治学研究科教授
宮島 英昭 早稲田大学商学学術院教授

 責任編集

序文[148kb,PDF]

神田 秀樹

(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

 株式所有構造と企業統治―機関投資家の増加は企業パフォーマンスを改善したのか―

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.9mb,PDF]

  1. はじめに
  2. わが国企業の株式所有構造の変化およびその背景:事実の様式化
  3. 機関投資家および銀行・保険会社の銘柄選択
  4. 機関投資家と株価収益率
  5. 機関投資家の株式保有によるモニタリング効果
  6. 結論と展望

宮島 英昭

(早稲田大学商学学術院教授)

保田 隆明

(昭和女子大学グローバルビジネス学部准教授)

取締役会構成と監査役会構成の決定要因

要約(日本語) 要約(英語) 本文[469kb,PDF]

  1. はじめに
  2. 取締役と監査役の機能
  3. データ
  4. 実証分析
  5. まとめ

齋藤 卓爾

(慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授)

日本の株式公開買付(TOB)前後の株価変動を用いた買収に伴う私的便益の推定

要約(日本語) 要約(英語) 本文[544kb,PDF]

  1. はじめに
  2. コントロール・プレミアムの分析に関する先行研究
  3. 実証分析の概要
  4. 詳細な実証分析結果
  5. 実証分析のまとめと今後の課題

鈴木 一功

(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)

多角化ディスカウントと企業ガバナンス

要約(日本語) 要約(英語) 本文[869kb,PDF]

  1. はじめに
  2. 企業多角化とガバナンス
  3. サンプルとデータ
  4. 企業価値の分析
  5. 企業ガバナンスと多角化行動
  6. おわりに

牛島 辰男

(青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授)

株主総会と企業統治―株主総会資料の電子提供の問題を中心に―

要約(日本語) 要約(英語) 本文[467kb,PDF]

  1. はじめに:問題の所在
  2. 現行法制の内容および課題
  3. 株主総会資料の電子提供に関する米国法制と実務
  4. 制度改正の検討
  5. おわりに

田中 亘

(東京大学社会科学研究所准教授)

欧州における企業グループ法制の動向と日本の法制のあり方

要約(日本語) 要約(英語) 本文[561kb,PDF]

  1. はじめに
  2. ドイツ法の規律枠組み
  3. EUレベルでの新たな動き〜ローゼンブルーム原則
  4. 加盟国の新たな立法動向〜イタリア法を例に
  5. 欧州の議論の考察
  6. わが国の法制に対する示唆
  7. おわりに

舩津 浩司

(同志社大学法学部准教授)

企業買収における対象会社の取締役の義務―買収対価の適切性について―

要約(日本語) 要約(英語) 本文[478kb,PDF]

  1. 序論
  2. レブロン基準についてのアメリカの学説
  3. 日本法との比較
  4. むすび

飯田 秀総

(神戸大学大学院法学研究科准教授)

 

<特別寄稿>

世代会計の手法を用いた政府支出の長期推計と長期計画に基づいた財政再建規模の分析

要約(日本語) 要約(英語) 本文[2.2mb,PDF]

  1. はじめに
  2. 政府支出の将来推計と財政再建規模に関する先行研究
  3. 分析のフレームワークと推計の前提
  4. 推計結果
  5. おわりに

北浦 修敏

(世界平和研究所主任研究員/財務省財務総合政策研究所客員研究員)


 

株式所有構造と企業統治
―機関投資家の増加は企業パフォーマンスを改善したのか―

宮島 英昭 (早稲田大学商学学術院教授)
保田 隆明 (昭和女子大学グローバルビジネス学部准教授)

(要約)

 内外機関投資家の株式保有の劇的な増加は,メインバンク制の後退と並んで,日本企業の統治構造における近年の最大の変化の一つであった。本稿の課題は,こうした株式所有構造の急速な変化が企業統治に与える影響を解明する点にある。1990-2008年度について大株主名簿に遡及して,可能な限り株主の属性を特定した包括的なデータベースに基づき,本稿は次の点を示した。第1に,銘柄選択において内外の機関投資家には,規模・流動性のみでなく,収益性,安定性,財務健全性などの点で質の高い企業(high quality stock)の株式を選択するという共通の選好がある。それと対照的に,銀行・保険会社は質の低い企業への投資を継続している。また,海外機関投資家は国内機関投資家に比べて外形的なガバナンス特性(取締役会の規模・社外取締役)を重視する傾向が強く,いわゆるホームバイアスも一貫して強い。第2に,内外機関投資家による株式保有の増加は実質的な規模で投資収益率にプラスの影響を及ぼす。その要因としては内外機関投資家ともに自身の投資によって株価が上がるという需要ショックの側面が強いが,海外機関投資家の場合はモニタリングの側面も確認できる。最後に,銀行・保険会社の株式保有は企業価値や企業業績にマイナスの影響を与えるのに対して,内外の機関投資家による株式保有は,企業価値や企業業績に対してプラスの効果を及ぼす。この結果は,たとえ保有比率の上昇が機関投資家バイアスやホームバイスに基づき,また,株価へのインパクトが需要ショックによるとしても,いったん内外機関投資家の保有比率が上昇すれば,退出(持分の売却可能生)や発言を通じて実質的なモニタリング効果を持つことを示唆する。

キーワード:株式所有構造、銘柄選択基準、企業統治、企業パフォーマンス、機関投資家

JEL Classification: G11, G32, G34

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取締役会構成と監査役会構成の決定要因

齋藤 卓爾 (慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授)

(要約)

 本研究は日本企業の取締役会構成ならびに監査役会構成の決定要因を分析した。監査役会はその重要性が指摘されながらもこれまで実証研究という形では研究されてこなかった。取締役会構成に関してはこれまでの研究を2つの点で拡張することを目指した。一つ目は監査役会が取締役会構成にどのような影響を与えているのか,二つ目は誰を社外取締役にするかにどのような要因が影響しているかである。このために2005 年から2010 年の東証1部上場企業をサンプルとした実証分析を行い,以下の結果を得た。先行研究において社外比率に大きな影響を与えるとされている情報獲得コストなどは取締役会構成に対しては有意な影響を与えている一方で監査役会構成に対しては有意な影響を与えていなかった。取締役会と監査役会の関係は直近の社外監査役が多い企業ほど,社外取締役を選任しているという傾向は見られなかったが,2001 年時点の社外監査役が多かった企業ほど,社外取締役を選任している傾向が見られた。この結果は,社外取締役を導入しない理由として頻繁にあげられる「社外監査役が機能しているから」とは合致しないものと考えられる。海外売上高比率の高い企業が元官僚を社外取締役に迎えるなど,社外取締役はおおむね各企業の求める助言に応じて選任されていた。

キーワード:コーポレート・ガバナンス、取締役会、監査役会

JEL Classification: G34, G38, K22

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日本の株式公開買付(TOB)前後の株価変動を用いた買収に伴う私的便益の推定

鈴木 一功 (早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)

(要約)

 本研究では,1990 年から2011 年までに実施された株式公開買付(TOB)による企業買収の中で,TOB終了後も上場が維持されると予想される取引262 件について分析し,事後株価対比プレミアムから,日本のTOBにおいて買付者が私的便益の水準をどのように見積もっているかを検証する。

 その結果,日本のTOBにおける私的便益の推定値は,1990 年から2011 年の全期間平均では有意でないが,2006年12月の全部買付義務導入以降は,プラス(平均と中央値が,それぞれ12.7%,7.7%,どちらも1 %の水準で有意)に転じていることがわかった。

 TOBにおける私的便益の推定値に影響を与える要素としては,(1)事前持株比率が高い場合には,プラス,(2)TOBの結果,事後保有比率が高い場合には,マイナス,(3)まとまった比率の株式を保有する株主が存在する,もしくは,(4)対象企業が赤字の場合には,マイナスの影響があるという傾向が判明した。また,(5)買付者(新経営権者)の下でのキャッシュフロー改善効果と,私的便益の推定値との間には,負の相関があることもわかった。加えて,(6)TOB発表前の株価が,1年以内につけた株価の高値よりも割安な場合,私的便益の推定値は増加する傾向があること,(7)2006年12月の全部買付義務の導入以降,私的便益が高めになったこと,が確認された。

キーワード:株式公開買付, コントロール・プレミアム, 私的便益

JEL Classification: G34, G38

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多角化ディスカウントと企業ガバナンス

牛島 辰男 (青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授)

(要約)

 米国企業を対象とした研究では,多角化ディスカウント(複数の産業に多角化した企業が同じ産業の専業企業よりも市場から低く評価される傾向)の存在が広く報告されている。本研究では2004〜2012 年の連結事業セグメントデータに基づき,日本企業にも多角化ディスカウントは存在するか,日本企業の多角化とガバナンスはどう関係しているか検討する。分析の結果,多角化した企業は専業企業に比べ6〜7%ほど市場から低く評価されており,日本企業にも多角化ディスカウントが存在することが分かった。また,ガバナンスの質が企業価値の重要な規定要因であること,多角化がガバナンスの価値向上効果を弱めること,ガバナンスの企業行動への影響が多角化の終了(多角化企業の専業化)の際に強く現れることが示された。これらの結果は,日本企業の多角化にエージェンシー問題が存在しており,それが非効率な事業継続という形をとりやすいことを示唆している。

キーワード:多角化, 企業価値, エージェンシー問題,企業ガバナンス

JEL Classification: G32, G34

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株主総会と企業統治
−株主総会資料の電子提供の問題を中心に−

田中 亘 (東京大学社会科学研究所准教授)

(要約)

 本稿は,企業と投資家(株主)の対話を促進するための法制度改革の一環として,株主総会資料の株主への電子提供に関する制度の改正の可能性を検討する。株主総会資料の株主への電子提供は,紙資源の節約・企業の経費削減につながるだけでなく,株主総会前の情報提供の充実や早期化を通じ,株主の意思決定の質を高めたり,企業と株主の間の対話の促進にも役立ちうる。現行の会社法制下では,会社は株主の個別の承諾を得て,株主総会の招集通知の電子発送および株主総会資料全部の電子提供を行うことができるが,当該制度の利用は乏しく,個別の承諾を要求する制度の限界が指摘されている。本稿では,会社が株主総会資料をウェブサイト上に掲載し,株主に対しては総会の日時・場所や当該ウェブサイトにアクセスする方法などの最低限の情報を通知するという形で電子提供を実現している,米国法制について分析することを通じて,同様の制度をわが国においても採用する可能性とそのための課題を検討する。

キーワード:企業統治、株主総会の電子化、企業と投資家の対話促進

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欧州における企業グループ法制の動向と日本の法制のあり方

舩津 浩司 (同志社大学法学部准教授)

(要約)

 企業グループの運営の局面において,親会社(企業グループ全体)の利益と子会社の利益とのバランスをどのようにとるかは,会社法学における難問の一つである。この問題に関して,従来,わが国でも欧州でも,子会社の利害関係者の保護を最優先課題と認識した立法の提案が繰り返しなされてきた。しかしながら,近時,欧州では,企業活動のグループ化やグローバル化の影響を受けて,むしろ親会社や企業グループ全体としての活動を優先するかのような規律の提案がなされるに至っている。

 本稿では,かかる近時の欧州の議論を注意深く検討し,その背景にある基本思想の変化をもたらした要素を明らかにすることを通じて,わが国における(とりわけ運営の局面に係る)企業グループ法制に関する従来の見解を再定位し,また,今後の議論の進め方に関する留意点を提示する。

キーワード:企業グループ法制、子会社少数株主保護

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企業買収における対象会社の取締役の義務
―買収対価の適切性について―

飯田 秀総 (神戸大学大学院法学研究科准教授)

(要約)

 レブロン義務が株主利益最大化原則とどのような関係として整理されるものか,また,会社法の体系としてどのように位置づけられるのかを検討した上で,日本の議論状況と比較し,日本法・デラウェア州法の特徴を明らかにすることが,本稿の目的である。買収対価の適切性について取締役の義務を観念することに関して,株主利益最大化原則から演繹的に考えるのではなく,企業買収の固有の問題である利益相反問題・最終回問題についてどのように対処すべきかを論じるべきである。また,日本法の特徴としては,買収価格の適切性に関する取締役の義務についての司法審査に際して,株主の意思の尊重と,価格に注目するアプローチという2点がある。その背景には,隣接する制度である,利益相反取引規制や,新株発行規制等との連続性が指摘できる。そのため,企業買収における対象会社の取締役の義務に変更を迫るには,これらの隣接する制度全体についてのパッケージを提出する必要がある。

キーワード:コーポレート・ガバナンス、企業買収、取締役の義務

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《特別寄稿》

世代会計の手法を用いた政府支出の長期推計と
長期計画に基づいた財政再建規模の分析

北浦 修敏 (世界平和研究所主任研究員,財務省財務総合政策研究所客員研究員)

(要約)

 本稿では,まず,財政再建に関する理論と日本の政府支出に関する先行研究について整理を行い,次に,先行研究の問題点や高齢化に伴う政府支出の増加圧力を踏まえて,2110年までの政府支出の長期推計と財政再建規模の分析を行った。その結果の概要は以下の通りである。

 第1に,日本の政府支出に関する先行研究に関して,政府の分析は,人口の中位推計で2070 年代まで高齢化が継続し,政府支出の増加圧力が高まり続けるにも関わらず,推計期間が15 年程度であり,かつ,国・地方と社会保障基金を分けた分析となっていることから,政府支出がどこまで増加し,財政再建をいつまでにどの程度実施しなければならないかを示せていないことを指摘した。また,IMF(2013)については,包括的な枠組みの下,公的債務残高の上昇を反転させるために,2014年度から2020 年度までに対名目GDP比11%の財政再建が必要であるとの分析と具体的な財政再建策を示しているが,高齢化に伴う政府支出の増加圧力を考慮していないことを指摘した。

 第2に,過去の高齢化率と政府支出の対名目GDP比(以下,水準という)には,人口構成の高齢化効果(Aging Effects)を通じて,強い相関関係がみられることを確認した。高齢化率2%ポイントの上昇は,政府支出の水準を1.2%ポイント程度増加させていた。

 第3に,過去のトレンドや各社会保障制度の特色を踏まえて2110年までの政府支出の長期推計を行った。その結果,出生率1.35 のケース(政府の中位人口推計)では,政府支出の水準(対名目GDP比。2012年度38%)は2080年頃まで主にAging Effectsにより増加を続けることを示した(2040年度+ 3.6%ポイント,2060 年度+ 6.2%ポイント,2110年度+ 7.3%ポイント)。一方,出生率が回復するケースでは,政府支出の水準は,2050年代半ばまでは,年金のマクロ経済スライド期間の短縮や教育費等の増加により,出生率1.35のケースの政府支出の水準を上回り,その後は,出生率の改善による高齢化率の低下に伴い,Aging Effectsが逆向きに働くことで,低下していくことを示した(出生率2.07のケースで,2012年度水準から2040年度に+ 5.2%ポイント,2050 年度に+5.8%ポイントまで上昇した後,2110年度には+ 0.7%ポイント増まで低下)。

 第4に,ネットの公的債務残高の水準(対名目GDP比。2012 年度126%)を,30 年後(又は50 年後,100 年後)に126%又は60%(グロスで90%に相当。財政危機の発生確率が低下するとされる上限の水準)にするために直ちに必要となる財政収支の改善幅(サステナビリティ・ギャップ)を計算したところ,他の先行研究と同様に,対名目GDP比11%から15%程度の財政再建が直ちに必要であるとの分析結果が得られた。

 第5に,より現実的な財政再建規模と道筋をみるために,30 年後にネットの公的債務残高の水準を60%にするために,今後10 年から20年間で必要な財政再建規模を計算したところ,対名目GDP比15%ポイントから19%ポイントの財政再建が必要との結果が得られた。これらの財政再建策は,1年当たりの財政再建規模が大きく(対名目GDP比1%ポイントから1.5%ポイント),かつ財政再建期間が長い(10 年から20年)等,財政再建疲れに陥りかねず,実現は困難と考えられる。

 第6に,より実現可能な長期の財政計画に基づく財政再建策として,2020年度までのIMF(2013)の厳しい財政再建策を実施した後,10年間の財政再建停止期間をおいた上で,100年後に公的債務残高の目標(ネット60%)を達成するために,2030年度からの10年間で追加的に必要となる財政再建規模を計算したところ,対名目GDP比5.1%ポイント(出生率1.35 のケース)から2.1%ポイント(出生率2.07のケース)となることが確認された。

 最後に,フランスやスウェーデン並みに追加的な少子化対策(対名目GDP比2%)を手当てした上で,IMFの財政再建策に追加して2030 年度からの10 年間で必要となる財政再建規模を計算したところ,年金の支給開始年齢を65 歳から70 歳に引き上げる措置を講じることで,追加的な再建規模は増加しない(むしろ低下する)ことが確認された。年金支給開始年齢の引上げは,他の先進国で既に法定化されており,また,高齢化が進む2040年代に向けて経済成長率を著しく高める等,望ましい施策と考えられる。

 日本経済は,失われた20年間を通じて,バブル崩壊の後始末,デフレーションの発生,構造問題の顕在化等により潜在能力を十分に発揮することができなかった。財政は既に先進国で最も厳しい状況にあり,今後更に少子高齢化が進展し,中長期的な潜在成長率の低下が見込まれる。こうした厳しい経済社会の状況を克服していくためには,本稿で示したように,長期の明確なビジョンを持って,財政の信認を確保しつつ,出生率の回復や構造改革に取り組むことが重要であると考える。高齢化の進展に伴う国内貯蓄の低下により,海外からの資金に頼らざるを得ない状況が徐々に近づいてきている。速やかに幅広いレベルで国民の議論が深められることを期待したい。

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