財務総合政策研究所

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フィナンシャル・レビュー
平成26年(2014年)第2号(通巻第118号)

平成26年3月発行

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<特集>家計の消費・貯蓄行動と税制のあり方

森信茂樹中央大学法科大学院教授 責任編集

序文(PDF:901KB)PDF

森信 茂樹

(中央大学法科大学院教授)

所得税に関する議論のサーベイ

要約(日本語) 要約(英語) 本文(PDF:1227KB)PDF

  1. はじめに
  2. 所得課税と消費課税
  3. 勤労所得税の論点
  4. 資本所得税の論点
  5. 二元的所得税
  6. おわりに

鈴木 将覚

(京都大学経済研究所准教授)

所得税の課税ベースの日・米・欧国際比較

要約(日本語) 要約(英語) 本文(PDF:1285KB)PDF

  1. はじめに
  2. 日本の所得税課税ベースの推移
  3. 日米所得税課税ベースの比較
  4. 所得税改革による税収増加効果の試算
  5. おわりに

中本 淳

(兵庫大学経済情報学部講師)

日本の所得税負担の実態―高額所得者を中心に―

要約(日本語) 要約(英語) 本文(PDF:1539KB)PDF

  1. はじめに(本稿の趣旨)
  2. 個人所得税負担の分布(所得税は誰が納税しているか)
  3. 高額所得者の申告の状況
  4. 日米TOP400の申告実績
  5. おわりに

補論

岡 直樹

(国税庁長官官房国際課税分析官)

家計の税・保険料負担:『全国消費実態調査』を用いた計測

要約(日本語) 要約(英語) 本文(PDF:1234KB)PDF

  1. はじめに
  2. データと計算方法
  3. 1時点ベースから見た家計の税・保険料負担
  4. 生涯ベースから見た家計の税・保険料負担
  5. 結論

大野 太郎

(尾道市立大学経済情報学部講師)

中澤 正彦

(京都大学経済研究所准教授)

松田 和也

(財務省財務総合政策研究所客員研究員)

菊田 和晃

(財務省財務総合政策研究所研究員)

増田 知子

(財務省財務総合政策研究所研究員)

人口構造の変化に伴う社会保険料増加が将来の所得税の課税ベースに与える影響

―マイクロ・シミュレーションの手法を用いた将来推計―

要約(日本語) 要約(英語) 本文(PDF:1261KB)PDF

  1. 目的
  2. 先行研究および本稿の分析手法
  3. 使用データ
  4. 社会保険料控除及び所得税額のシミュレーション
  5. 代替シナリオによる計算
  6. まとめ

補論

松田 和也

(財務省財務総合政策研究所客員研究員)

大関由美子

(財務省財務総合政策研究所財政経済計量分析室長)

菊田 和晃

(財務省財務総合政策研究所研究員)

上田 淳二

(前財務省財務総合政策研究所財政経済計量分析室長)

高齢化が所得税の課税ベースに与える影響について

―個票による年金課税のシミュレーション分析―

要約(日本語) 要約(英語) 本文(PDF:1397KB)PDF

  1. はじめに
  2. 勤労所得から年金給付への所得代替の実態と年金課税について
  3. 分析のモデルとデータについて
  4. 分析
  5. 高齢化の進展と年金課税強化に関するシミュレーション分析
  6. おわりに

補論

八塩 裕之

(京都産業大学経済学部准教授)

蜂須賀圭史

(前財務省財務総合政策研究所研究員)

所得控除から税額控除への変更による効果

―海外事例研究 オランダ所得税改正の影響―

要約(日本語) 要約(英語) 本文(PDF:1414KB)PDF

  1. はじめに
  2. 所得税率のフラット化
  3. 所得税率のフラット化による消費課税への影響
  4. 所得税率のフラット化に伴う課税ベースの拡大
  5. 2001年税制改正の影響
  6. まとめ オランダからの示唆〜所得控除を税額控除に移行すべきか

柴 由花

(常葉大学法学部准教授)


《家計の消費・貯蓄行動と税制のあり方》

所得税に関する議論のサーベイ

鈴木 将覚(京都大学経済研究所准教授)

(要約)

本稿は,個人所得税に関する議論のサーベイを通じて,所得税の考え方及びその論点を明らかにするものである。勤労所得税の基本的な役割は,累進性の維持や消費税に伴う逆進性の緩和などによる公平性の確保,女性・高齢者等に対する勤労インセンティブの付与と考えられる。そのためには,各種控除を整理・統合して課税ベースを広げ,一方で目的に応じた税制インセンティブを税額控除の形で与えることが適切である。資本所得に対する課税については,一度きりの課税をまず法人段階で行うか個人段階で行うかについての判断が必要であるため,法人課税ベースを含めた税制全体の議論が求められる。そうした議論のなかで,開放経済では資本に対する源泉地主義の課税が基本的に難しいことを考えれば,法人税率を大きく引き下げる二元的所得税のようなプラグマティックな対応が税制改革の有力な候補となる。幸い,日本では二元的所得税のプラグマティックな対応を取り入れつつ,現行税制をより効率的かつ公平にする余地があるように思われる。

キーワード:所得税,最適課税,法人税,二元的所得税

JEL Classification: H21, H24, H25

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《家計の消費・貯蓄行動と税制のあり方》

所得税の課税ベースの日・米・欧国際比較

中本 淳(兵庫大学経済情報学部講師)

(要約)

本稿では,日本の所得税課税ベースの侵食の主要因が,主として給与所得控除と社会保障関連控除にあることを,諸外国との比較を通して確認し,給与所得控除による財源調達機能の低下の深刻さを,簡便な給与所得控除の改革試算によって,定量的に示すものである。

はじめに,国民経済計算の基準年改定および遡及改定を受け,森信・中本(2012)での推計を再計算した。課税ベースの分母として使用している「家計の受取」が下方修正されたことを受け,課税ベースは2〜3%の下方修正となっている(2011年度において26.9%)。もっとも,課税ベース侵食の内訳を見ると,給与所得控除と少子高齢化に伴う社会保障関連控除の増大が主要因であることには変わりない。日本の所得税のこのような特徴は,マクロの課税ベースにおける日米比較でも,OECDの統計を使った海外比較でも確認できる。そもそも給与所得控除による給与所得者の負担軽減の意義自体が低下しつつあり,今後の所得税改革においては,給与所得控除の性格を整理しながら,不必要なものについては見直しをしていくことが必要である。本稿では,給与所得控除の「勤務費用の概算控除」としての性格を残しつつ改革を行った場合の,所得階級別の増収効果を試算した。全体として,給与所得控除の縮小により4割程度,社会保険料控除の縮小も加えれば,さらに1割程度の増収効果があるとの結論となり,財政再建に資する改革の方向性として特に所得分布の厚い中低所得者層における給与所得控除の見直しが有用であることが示された。

キーワード:所得課税,所得控除,課税ベース,税制改革

JEL Classification: E62, H24

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《家計の消費・貯蓄行動と税制のあり方》

日本の所得税負担の実態―高額所得者を中心に―

岡 直樹(国税庁長官官房国際課税分析官)

(要約)

所得税は,税目としての税収が最大級であり,また,申告書を提出する者の数が最大であるなど,国民にとって身近な税である。本稿は,所得税の課税ベースの実態に,高額所得者(高額所得申告者) に着目し,統計データ等を用いることで実証的なアプローチを試みたものである。

  • 米国では,上位1%などごく一握りの人数の“超”高額所得者に所得額や税額が集中していることが報告されている。わが国でも米国よりゆるやかだが同様の傾向が観察された 。
  • わが国の高額所得者の所得構成においては,給与所得,分離譲渡所得,株式等譲渡所得の割合が大きいことが観察された。
  • 日本と米国の申告所得上位400人の申告を比較すると,わが国では利子所得・配当所得を有する者や寄付金控除・外国税額控除の利用者が少ないことが観察された。

所得税収の大きな部分は少数の高額所得者により支えられていることや,高額所得者とそれ以外では,所得構成等が大きく異なっているという事実は,所得税制の課税ベースを考える上で高額所得者の納税行動に注目することの有益性を示唆している。

キーワード:所得税,高額所得者,分配,申告実績,税率構造,富裕層

JEL Classification: D31, H24, K34

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《家計の消費・貯蓄行動と税制のあり方》

家計の税・保険料負担:『全国消費実態調査』を用いた計測

大野 太郎(尾道市立大学経済情報学部講師)
中澤 正彦(京都大学経済研究所准教授)
松田 和也(財務省財務総合政策研究所客員研究員)
菊田 和晃(財務省財務総合政策研究所研究員)
増田 知子(財務省財務総合政策研究所研究員)

(要約)

本稿では家計の税・保険料負担に関する実態把握を目的に,総務省『全国消費実態調査』の家計マイクロ・データを用いた計測を行う。負担構造を生涯ベースで捉えるためには生涯所得階層別の作成が必要となるが,ライフサイクル仮説に基づくとき消費は生涯所得の代理変数となり,近年この点を利用して生涯ベースの負担を試算する取り組みがある。但し,特定の消費支出については一時的に大きな支出をせざるを得ず,ライフサイクルの中で平準化できないものもある。そこで本稿では生涯所得をより適切に反映する消費指標に検討を加えつつ,同様のアプローチを採用して試算を行った。

考察の結果,生涯ベースで捉えるとき,(1)所得税・住民税・消費税は累進的であること,(2)年金保険料・健康保険料・介護保険料は概ね比例的であること,(3)所得税・住民税の累進性は1 時点ベースよりも小さいこと,などが確認された。

キーワード:家計,マイクロ・データ,税負担,社会保険料負担

JEL Classification: H24, H55

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《家計の消費・貯蓄行動と税制のあり方》

人口構造の変化に伴う社会保険料増加が将来の所得税の課税ベースに与える影響
―マイクロ・シミュレーションの手法を用いた将来推計―

松田 和也(財務省財務総合政策研究所客員研究員)
大関 由美子(財務省財務総合政策研究所財政経済計量分析室長)
菊田 和晃(財務省財務総合政策研究所研究員)
上田 淳二(前財務省財務総合政策研究所財政経済計量分析室長)

(要約)

本稿では,今後の人口構造の変化がもたらす財政への影響を定量的に把握する一環として,社会保障給付の増加に連動する社会保険料の増加が,社会保険料控除の増加を通じて所得税の課税ベースを縮小させる影響について分析する。

分析は,統計の個票データを用いたマイクロ・シミュレーションの手法により行う。本稿では,厚生労働省「国民生活基礎調査」の平成22年調査の個票データを使用し,基準年である2009年から2060年までの期間にわたり,5年毎に,各個人の所得税の理論値と,その総和としてのマクロの所得税の理論値の計算を行い,基準年の所得税との比較を行う。その際,社会保険料については,現行の社会保障制度に基づく一定の推計値を用いて,将来の各時点における理論値を計算する。

本稿の主な結果は以下のとおりである。

1 人口構造変化の下,将来の社会保険料の所要増加額について,同一の社会保険制度に加入する各個人で均等に負担する方法をとった場合,2060年の所得税総額は,2009年対比で約3.7兆円減少する。この場合,所得税総額の対GDP比は,2009年の1.842%から,2060年にかけて1.780%まで徐々に低下する。このうち,人口減少等の人口構造変化による税収への影響を取り除き,社会保険料の増加の影響のみをみると,2060年の所得税総額は2009年対比で約0.8兆円減少することが見込まれる。

2 社会保険料の所要増加額について,個人の負担能力に配慮して負担させる方法をとった場合には,2060年の所得税総額は,2009年対比で約4.0兆円減少する。この場合,所得税総額の対GDP比は,2060年にかけて1.674%まで徐々に低下する。また,社会保険料の増加の影響のみをみると,2060年の所得税総額は2009年対比で約1.4兆円減少することが見込まれる。

キーワード:所得税,課税ベース,社会保険料控除,マイクロ・シミュレーション,人口動態

JEL Classification: D31, D33, H24

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《家計の消費・貯蓄行動と税制のあり方》

高齢化が所得税の課税ベースに与える影響について
―個票による年金課税のシミュレーション分析―

八塩 裕之(京都産業大学経済学部准教授)
蜂須賀 圭史(前財務省財務総合政策研究所研究員)

(要約)

日本では高齢化で,国民全体の個人所得(勤労所得+年金給付)に占める公的年金給付の比率が高まっている。賦課方式の年金制度は現役世代から引退世代への所得移転であり,マクロで見れば本来,それが課税所得を減少させるわけではない。しかし年金給付に適用される公的年金等控除の影響で,所得税の課税ベース侵食が大きく進むと考えられる。以上の問題意識のもと,本稿では個票データの集計を通じて,日本全体における近年の所得税課税ベース変動を定量的に評価する。また,今後の高齢化による課税ベース侵食を年金課税強化がどの程度抑制しうるか,という観点からシミュレーション分析を行う。

分析によると2005,06年の税制改革の影響で表面的には近年,課税ベース侵食は進まなかったが,高齢化は,経済低迷の影響とともに課税ベースを縮小させ続けた。そして今後,さらに課税ベース侵食は進む可能性が高い。例えば,社会保障国民会議(2013)は高所得者の年金課税強化を打ち出した。しかし,分析によるとそうした一部の個人の課税強化が全体の課税ベースにもたらす効果は極めて小さく,やはり年金給付に広く認められた優遇措置を見直すことが必要と考えられる。

キーワード:所得税,年金課税,課税ベース,シミュレーション

JEL Classification: H24, H55, J18

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《家計の消費・貯蓄行動と税制のあり方》

所得控除から税額控除への変更による効果
―海外事例研究 オランダ所得税改正の影響―

柴 由花(常葉大学法学部准教授)

(要約)

オランダは,社会保障給付の増大や失業率の問題を抱えていたことから,社会保障改革や税制改正を通じて,社会保険料と税の一元化に取り組む一方で,所得税の税率をフラット化し,課税ベースを拡大してきた。課税ベースの拡大にあたり,2001年の税制改正で所得控除から税額控除へと移行し,所得税だけでなく,国民老齢年金(AOW),遺族年金(ANW),特別医療費(AWBZ)といった社会保険料にも還付を認めた。税額控除の導入によって,女性の就労率や雇用の改善等一定の効果を挙げることができたが,リーマン・ショックを機に財政状況が悪化する中,課税ベース拡大の点から税額控除が見直され,就労促進の意義が強化されている。また,高所得者に対する税額控除が縮減される傾向にある。わが国の社会保障と税の一体化改革における消費課税に内在する逆進性の問題を解決する方策として,また,税制を通じた就労を促進する仕組みとして,給付のないオランダの税額控除が参考となりえよう。

キーワード:所得税,税額控除,税制改正,オランダ

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